家入一真さん vol.4 いい人って実はしんどい。いい人でなくても生きていける世の中に

「『お金』と『コミュニティ』の新たな価値を捉え、「小さな経済圏」をつくる。僕らが目指す◯◯の民主化。」と題した公開インタビューの内容を編集してお届けする特集記事。最終回の第4回では、家入さんが思う評価経済についての示唆が話された。いい人でなくても生きていける世の中になるには?  最後に語られた、“そっち側”への自覚とは?

vol.1 『クラウドファンディングは小さき物語の集積。“声を上げられる”ことが大事
vol.2 誰もに居場所をつくりたい」、そのための“人生定額プラン”構想
vol.3 共犯の関係性と、マネージメントしないマネージメント
vol.4 いい人って実はしんどい。いい人でなくても生きていける世の中に

家入一真(いえいり かずま)
1978年生まれ、福岡県出身。株式会社paperboy&co.(現GMOペパボ)を福岡で創業し、「ロリポップ」「カラーミーショップ」「ブクログ」「minne」などを創る。2008年にJASDAQ市場へ上場。退任後、クラウドファンディング「CAMPFIRE」を運営する株式会社CAMPFIREを創業、代表取締役に就任。他にも「BASE」「PAY.JP」を運営するBASE株式会社、数十社のスタートアップ投資‧育成を行う株式会社partyfactory、スタートアップの再生を行う株式会社XIMERAなどの創業、現代の駆け込み寺シェアハウス「リバ邸」の全国展開なども。インターネットが趣味であり居場所で、Twitterのフォロワーは15万人を超える。

“いい人でなきゃいけない時代”、それってしんどい

──マネタイズとお金を介さない価値交換とのバランスに悩みつつ思うのは、お金を介さないやり取りでも、視点ややり方を少し変えれば、次の段階ではお金につながるかもしれないということです。

今はビットコインをはじめとする仮想通貨の概念を支えるブロックチェーンの技術があって、貨幣を使わない価値交換が可能になっています。人から聞いた話によると、例えば電車の中で席を譲ったといったことも数値化できるような世の中になるそうです。「今日この人は○回席を譲ったから10ポイント」と結局お金と同じような価値交換がされうる過渡期なんじゃないか、と。

家入:評価経済という言い方もされますけども、“いい人ポイント”っていう発想は僕も考えます。

シェアリングエコノミーなんてことも言われますが、これって要は「支え合い」ってことだと思うんですね。豊かさだけ実現したがこれからどうなってくかわからない時代の中で、余ったリソースを個人間で提供し合うということ。そう行った中で大事になっていくのが個人の信用。暴言を吐くドライバーはUberで選ばれなくなるし、部屋を荒らす人はAirbnbの利用ができなくなってしまう。シェアリングエコノミーの本質は「個人の信用」だと思います。

ただ、そういう時代になっていくと、今度は常に人が “いい人でなきゃいけない時代”になると思うんですよ。でも実はそれって、結構しんどい。

『PSYCHO-PASS』ってアニメ観られました? 犯罪係数っていうのをピピピーって弾いて、「この人犯罪犯しそうだから逮捕」みたいな。あれ?ちょっと違ったかもしんないですけど(笑)。『ガタカ』っていう映画もね、DNA解析で生まれながらにして仕事や人生があらかじめ決められてしまうとか。

「支え合いの本質は、個人の信用。でも、“いい人”でいるのはしんどい」(家入さん)

──人格やスキルが可視化されてるってことですよね。

家入:現実的にやってきてる話だとも思うんですよ。テクノロジーって究極的には人類を幸せにするためにあると僕は信じているんですけど、過渡期の中でテクノロジーは嫌が応にもどんどん進化し、避けようにも避けられない未来がやってくる。それについて僕らも自覚的であるべきだっていうことをよく考えます。避けられないものを拒否するでも楽観視するでもなく、どういう態度で向き合うか、ということだ大事だと思います。

ところで僕、親鸞がすごい好きで。親鸞がライバルだって思って生きてきたんですけど……。

──親鸞がライバルって、すごいですね(笑)。

とりあえず逃げる。逃げて、そこから考える

家入:いやいやいや、すみません。親鸞に申し訳ない(笑)。その親鸞の好きな言葉で、“悪人正機”って言葉があるんですよね。「いい人が救われるんだから、悪人はなおさら救われるべき」みたいなこと言ってて。普通なら逆に「悪い人が救われるんだったら、いい人はなおさら救われる」って言うじゃないですか。親鸞は逆なんですよ。常に駄目な人間側なんですよね。超かっこよくないですか(笑)。

──駄目だということを自覚するって、逆にすごく強くないとできないですよね。YADOKARIの中でもよく言うんですけど、「僕、何もできないんで、助けてください」と言えるコミュニティだとすごくやりやすいなと思っています。

家入:それは素晴らしいですね。

──YADOKARIもそうやってお手伝いをしてもらうことが多いんです。それは家入さんの影響を結構受けています。

家入:いやいやいやいや。生きるハードルをなるべく下げたいので(笑)。

──僕も次からそう言います(笑)。

家入:株式会社nanapi代表取締役の古川健介君、通称けんすう君の名言で、「高過ぎるハードルはくぐればよい」っていうのがあるんですよ。めっちゃいいこと言うなあと思って。

僕はよく「逃げろ」って言うんですよね、「常に逃げ続けろ」って意味ではなくて。目の前にいるライオンから逃げなきゃ、その場で食われちゃう。世の中にはライオンみたいな圧倒的な暴力があふれています。いじめ、パワハラ、ブラック企業……。「立ち向かえ」って言う人もいるけど、ライオンにウサギが立ち向かうって、正気の沙汰じゃないですよね。とりあえず逃げる。逃げて、そっからどうするか考えればいいじゃないすか。だから、僕が逃げるのも一つの防衛本能……、と、こうやって自分を正当化してます(笑)。

──逃げるときは、家入さん、場所とかコミュニティとか、そういうところに逃げるって感じなんですか。

家入:いや、そういうときは誰にも会えなくなってしまうので、まず布団にこもります。携帯も怖くて見れなくなっちゃうので。怖くないですか、携帯。

──怖いです(笑)。僕らももう十何年インターネットの業界でやってきていますが、昔に比べると「こう思われるからこうつぶやこう」とか息苦しいと思うことが増えているような気がしますね。

家入:僕もつぶやくことは減りましたよね。一時期、若い子に向けてポエムみたいなことを書いたりした時期もありましたけど(笑)。

僕、「マズローの欲求段階説」が、すごい好きなんです。人には、生理的欲求、安全の欲求、社会的欲求、尊厳欲求、自己実現の欲求という5つの欲求があるというやつです。今まで自分がやってきた活動やつくってきたサービスも、この5段階に分けられるところがあるんです。

これを日本全体に広げて考えてみると、今は社会が成熟して欲求レベルが上がって「自己実現」ってところに差し掛かってるんですよね。それで承認欲求の塊みたいな人たちがたくさん出てきている。

自分がいつどうなるかわからないという自覚

──その上にさらに、自己超越した6段階目の「コミュニティ欲求」という段階があるとも言われていますね。

家入:そうなんですね、知らなかった(笑)。

5段階めの自己実現ってことでいえば、僕はそもそもなりたい自分とかないんですけど、あえて言えば、“概念”になりたい。それで、一時期、Twitterでサンフランシスコに住んでるふりをしてたんすよ。

──ふりをしてた?(笑)

家入:サンフランシスコ時間に合わせて「日本の皆さんおはようございます」とかつぶいてたら、みんな信じるんですよ。であれば、例えば僕が死んでもbotか何かでつぶやき続けてたら、「あれ、家入さん、300年ぐらい生きてない?」ってなると思うんですよ、その頃Twitterがあればね。そのときが自己実現が叶ったときかな、と。

一同:(笑)。

家入さんとYADOKARIメンバー。(左から)YADOKARI編集部 副編集長・蜂谷智子、YADOKARI共同代表・ウエスギセイタ、家入さん、YADOKARI共同代表・さわだいっせい、編集長・大井あゆみ

──その流れで家入さん、最後にお聞きします。10年後、ご自身はどうなっていると思いますか。

家入:……孤独死してるイメージ、超ありますね。それが10年後かはわかんないですけどね。駅のホームで酔っ払いに絡まれて打ちどころ悪くて……、昔からそういうふうに思って生きてます。

──そんなこと具体的に考えてる人って、人生で初めて会ったかもしれない。

家入:それと関連して、犯罪者の告白本などを読むと、他人ごとじゃないんですよ。言葉を恐れずに言うと、いつだって”そっち側”に行くな、って思うんですよ。犯罪はもちろん良くないんだけど、誰だって自分がいつどうなるかってわかんないと思うんですよ。だから、怖いですよ、そっち側に行くのが。

……えっと、なんの話でしたっけ(笑)。もうちょっといいこと言えたはずなのに(笑)。

トークの後は懇親会が行われ、参加者同士が語らっていた

SNSが生活のインフラにまで進化したことにより、いわゆる“いい人”や“いいこと”が可視化され評価できる仕組みはどんどん進化している。また、サービスのパーソナライズ化により、個々の行動や価値観が類型化され適合した世界観だけが、あたかも中心世界のように目の前に現れる時代になってきてもいる。

資金集めの民主化、人生定額プラン、マネージメントしないマネージメント、お金を介さない価値交換とマネタイズのジレンマ。「お金」と「コミュニティ」について考えた今回のインタビューの第2回で、家入さんから“優しい人”という言葉が出てきた。

良い・悪いの二分で測らず、自分が見えている世界とは違う世界があることに具体的なイメージを馳せ、カオスともいえる多様なものに面倒でも向き合い、たまに逃げ、相手も逃す。

それを仮に優しさと言ってみるならば、家入さんは、実に優しい言葉を絞り出す人だ。

家入さんの言葉がさらに日本中に届き、「名もなき小さな物語」に自覚的に参加する人や機会が増えれば、日本はきっと、もっと軽やかになる。