【公開インタビュー】佐々木典士さん vol.4 依存を最小限にすることもミニマリズム

「ぼくたちに、もうモノは必要ない。3.11から始まった豊かな暮らしを探す旅、ミニマリストから ◯◯ へ」と題した佐々木さんの公開インタビュー第4回。佐々木さんの考える理想の暮らしから見えた、ミニマリズムのその先とは?

vol.1 『ぼくモノ』出版から約2年、中道ミニマリストの次なる“実験”
vol.2 マッチポンプ的生活をやめて見えた、自分が選んでいるという確信
vol.3 ミニマリストは一度通過すればいい。繋がりから生まれる幸福感
vol.4 依存を最小限にすることも、ミニマリズム

佐々木典士(ささき ふみお)
1979年生まれ。香川県出身。早稲田大学教育学部卒。学研『BOMB』編集部、『STUDIO VOICE』編集部、ワニブックスを経てフリーに。2014年クリエイティブディレクターの沼畑直樹とともに、ミニマリズムについて記すサイト『Minimal&ism』を開設。初の著書『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』(ワニブックス刊)は16万部突破、13カ国語の翻訳が決定。WANI BOOKOUTにて新連載「ぼくは死ぬ前に、やりたいことをする!」がスタート。

モノが多いのも少ないのも、執着で言えば同じ

──モノへの執着とよく言われますが、ミニマリストは逆に、モノがないことに執着しているのではないか、と言われることがあります。これに関しては佐々木さんどう感じですか。

佐々木:モノがないことへの執着、確かに一時期はあったと思います。でも素敵なモノに囲まれることにこだわるのも、モノを持たないことにこだわるのも、執着で言えば同じですよね。僕は、自分のことを常にミニマリストだと意識して生活しているわけではなく、当たり前になってほぼ意識していることも少なくなりました。

──ちょっと意地悪な質問をしてもいいですか。佐々木さんのミニマリズムが貫かれた部屋の画像はものすごいインパクトがありました。『ぼくモノ』を作る時、編集者として世間の反応を意識して計算したところはありましたか。

佐々木:本に関しては著者として書き終わった後は、一人の編集者としてインパクトが出るように考えて作りましたね。でも、もちろんメディアに取り上げられるために自分の生活を犠牲にしていたわけではありません。自分がモノがない生活に心地よさを感じたからこそやっていました。机をなくしてフローリングに正座して食事していたことも今から見るとやり過ぎに見えますが、ぼくにとっては、とても大事な経験です。実際にやってみないとわかりませんからね。

──なるほど。佐々木さんの今の生活と東京生活との差はどんなことですか。

佐々木:今の住まいは東京と違ってコンビニも遠いですし、買い物が何かと不便です。その分、食材や生活用品のストックはあっても良いかなって思ってますし、車も持ってもいいかなと思い始めたりしています。

──東京ではなかった選択肢ですよね。

佐々木:今は電気自動車を月数千円で充電し放題で使えるような時代です。時間さえあればお金をかけずに日本一周なども余裕でできるんですよね。そういうことは興味ありますね。逆に僕から質問していいですか。YADOKARIが考えている、自身の理想の暮らしというのはどういうものですか。

──YADOKARIではタイニーハウスを使って暫定土地を活性化するという実験を東京でやっていますが、今後はこうした活動を地方でやりたいと考えています。都心から数時間で行ける土地を提供してもらい、そこに多拠点居住をする人や商売をする人などを受け入れ、一つのタイニーハウスコミュニティみたいなものを作る。そして、YADOKARIメンバーも家族と一緒にそこに住みながら管理ができればと思っています。佐々木さんは、理想の暮らしについてどうお考えですか。

YADOKARIの開発したINSPIRATIONがクラウドファンディングした際に、実は佐々木さんも出資してくださっている

佐々木:僕はひとりで文章を書くのも好きだし、YADOKARIのようにいろんな方と組んで何かをするのにも魅力を感じています。身軽な身なのでしばらくはいろんな場所に住んでその土地や住まい方を知ろうという時期ではあるんですけど、僕もここだと思える場所が決まったらコミュニティを作るかもしれませんね。広い土地を買って、そこでみんなで小屋を建てて住もうかなんて話もあったりしますしね。

コミュニティや小屋ということで言えば、江戸時代はみんな設備は共有で、狭い長屋暮らしでしたよね。それぞれがまさにスモールハウスに住んでいた。

──YADOKARIが開発・販売した「INSPIRATION」というスモールハウスは長屋の四畳半一間と同じサイズです。ちゃぶ台出してご飯食べて、それが終わればちゃぶ台引っ込めて布団出してっていう暮らしは、小さな空間を十二分に活用していましたよね。

佐々木:井戸やトイレ、お風呂は共有でしたからね。共有だからこそ、井戸端会議をしたり、芋洗い状態の銭湯で「ごめんなすって」って言いながら礼儀を学んだりそこにコミュニテイができていた。

当時はプライベートが少なくて嫌な面もあったと思いますけど、こういうことがあまりに失われすぎた今、逆にコミュニケーションの場が求められているのかなと思っていますね。

──先ほど車の話がでましたけど、動く家、モバイルハウスには興味ありますか。

佐々木:友人のしうんさんって人がめっちゃ面白い試みをしています。ディーゼルの1トントラックで自作のキャンパーを作っていて。今後は天ぷら油などの廃油で動くようにするそうです。海外に行って天ぷら油をもらいながら大陸を一周するみたいな、すごいロマンを持っている人で、わくわくさせられますよね。

自作の良いところは、壊れたら自分で作り直せるし、一回作ると他の人に教えてあげられることですよね。

──アメリカでもバンライフが結構増えてきているんですよ。フォルクスワーゲンのちょっとかわいいバンをカスタマイズして、旅して暮らすという。

佐々木:スロバキアの建築集団Nice Architectsが作った「エコカプセル」も衝撃的ですよね。卵型のマイクロ住宅で牽引もできる。太陽発電と風力発電が可能で、貯水タンクも備わっています。デザインも宇宙船のようでおしゃれですし、こういうのが未来のミニマリストの姿なのかなってすごいワクワクしたのを覚えてますね。

Nice Architectsが作った「エコカプセル」。オフグリッドなのでどこにでも設置が可能だ

幸せは間から生まれる。これだと決めた生き方でなくていい

──佐々木さんは、オフグリッドなどといった自然環境への負荷を減らした暮らし方についてどう感じていますか。

佐々木:ミニマリストの中にももちろんそうじゃない人もいますが、僕は完全にそっちを意識するようになっていますね。モノを減らして、都会的な価値感から離れ、自然の価値なんかに気がついていくと、環境に目が行くようになりました。

自分で何かを作るっていうのもその一環です。お金で何か買ったり、誰かにやってもらうことを減らす。買うことや、依存を最小限にするっていうこともミニマリズムのひとつではないかと思っています。

──YADOKARIも次に開発するスモールハウスは完全オフグリット型でやりたいと思っています。オフグリットにすると上下水道などを繋がなくてよいので、浜辺や山の断崖絶壁といったありえないロケーションに家を建てて住むことが可能になってくる。

佐々木:それさえあれば生きていけるぞ、みたいな。

──家と車の関係性はますます近づくという仮説をYADOKARIは持っています。完全オフグリッドでエネルギーを自給しながら、さらに自動運転のような機能が付いてくるとますます夢は広がりますよね。常に旅しながら暮らしているような、例えば朝起きると車が移動して目的地に着くといったような暮らしがすぐそこにあるような気がしています。自動運転の可能性ってそういうところにありそうですよね。

佐々木:本当にそう思います。かなり実現可能性のあるものだと思いますね。

──モノを持つ・持たないもそうですし、パラレルキャリアや二拠点居住など両極のバランスを取りながら行動する人が増えていると感じています。“豊かさの再編集”と言っているんですけど、居心地の良いバランスをみんな探し始めているのかなと。

佐々木:僕は“幸せは間から生まれる”って言葉が好きなんですけど、たとえば東京だけでも疲れるし、田舎だけでもいつかは飽きたりする。旅と日常の関係もそうですし、複数の仕事を掛け持つこともそうでしょう。幸せはその往復の「間」から生まれたりする。どれかひとつだけだと、息苦しくなる時がありますよね。

──両極の間から幸せを探しているんですね。最後に、佐々木さんはこれからどのように生きていきたいと考えていますか。

佐々木:これだと決めた生き方をするつもりはありませんね。そのときどきによって必要なものは変わっていくし、その調整に終わりはない。これはミニマリズムから学んだことでもあります。

スティーブ・ジョブズは「今日が人生最後の日だとしたら、今日やろうとしていることは本当に自分のやりたいことだろうか?」という言葉を座右の銘にしていましたよね。僕もいつ死んでもいいと思えるように、毎日心からやりたいと思うことをしたいと思っています。

結果が失敗するか成功するかではなく、日々手ごたえを持って、やることはやったと思えるような過ごし方をしていれば、おのずと充実感のある人生を送れるんじゃないかなと思っています。

佐々木さんが提案するミニマリストの生き方は、海外でもインパクトをもたらしている。写真は英語版を出版した際に行なったニューヨークで講演会の風景。写真提供:Japan Society, photos © Daphne Youree

モノを最小限まで手放してみると実感できることがある。それは、周囲の視界が開け、解像度が上がった感覚になり、世界を円で見られるようになる、ということだ。世の中を円で見る、つまり360度いろいろな角度から見えるようになると、人や自然、文化や価値観といった数多の事象に心を寄せることができてくる。

“幸せは間から生まれる”という中道ミニマリスト・佐々木さんは今、広大な場所に一人で住まい、ちょっぴりモノを増やし、DIYをやり、自然環境に目を向けている。既存の価値観を一旦ぐるっと円周して、自分のオリジナルルールを日々発見し、調節バーを上げ下げするようにチューニングも怠らない。

依存からの脱却、それがミニマリズムの真髄なら、佐々木さんは既に、自由な綿毛だ。種子を携えて風に乗り実を成す準備は、もうできている。ミニマリズムのその先へ。これからも佐々木さんの活動から目が離せない。

トークの後は懇親会。会場のBETTARA STAND 日本橋に設置している YADOKARIプロデュースのスモールハウス「INSPIRATION」について、来場者に説明する編集長の大井

 

来場者はトーク主催者と直接コミュニケーションをすることができる。写真は佐々木さんと本記事ライターで整理収納アドバイザー資格も持つ泉