【インタビュー】東野唯史さん vol.1 古材を通してつくり出したい「ReBuild New Culture」という理念


「リビセン」の愛称で親しまれている『ReBuilding Center JAPAN(以下、リビセン)』が2016年9月末、長野県諏訪市にオープンした。
店内に一歩足を踏み入れると、目の前に広がる光景に懐かしさと新しさを同時に感じる。
不思議な感覚だ。でもとても心地よい。

ゆるやかに紡がれる人々の素朴な会話、緻密に計算されたデザイン。

リビセンは、解体現場から救済(レスキュー)してきた古材や古道具を販売する施設だ。住宅や店舗の改装はもちろん、ちょっとした部屋の模様替えやDIYで使える材料が並ぶ。
施工に携わるプロから、日曜大工が好きなお父さん、古道具が好きな若者まで県内外から人が集まる。

併設されているカフェには近所の方が気軽に立ち寄っている様子が見て取れた。
地域の人からも愛されているのだとすぐに分かった。

解体現場からレスキューしてきた椅子。どれも個性があって見ているだけで楽しい。

リビセンを手掛けた東野唯史さんは、世界一住みたい街と言われているアメリカ・ポートランドの『ReBuilding Center 』に惹きつけられた。店内に並ぶ商品は、解体現場から引き取った古材だ。ペンキの付いた蝶番から、どう使うのか想像がつかないような細かい部材までも並んでいる様子から東野さんが感じたのは「どこまでも再利用しよう」とする気概。ポートランドに息づく「ものを大切に使い続ける文化」を『ReBuilding Center』から感じた瞬間だ。

クラウドファンディングで資金の一部を募り、目標金額の300万円を遥かに上回る540万円を集め、ポートランドの『ReBuilding Center(リビルディングセンター)』から正式にロゴと名称を引き継いだ『ReBuilding Center JAPAN』を設立した。
延べ400名以上の人々と協力して完成した施設が目指すのは「ReBuild New Culture(リビルドニューカルチャー)」、すなわち「世の中に見捨てられたものに価値を見出し、もう一度世の中に送りだし、次の世代につないでいく」こと。

東野さんはなぜ『ReBuilding Center』に惹かれたのか。「ReBuild New Culture」にかける思いとは?

「古材」を通じて新たな文化の創造に邁進するリビセンの活動から「文化創造のヒント」が見えてくるはずだ。

インタビュー①:古材を通してつくり出したい「ReBuild New Culture」という理念
インタビュー②:古材屋のハードルを下げるカフェの役割
インタビュー③:守るべき場所に拠点を置くこと
インタビュー④:忘れられていた「ものを大切にする暮らし」

東野唯史(あずのただふみ TADAFUMI AZUNO)
ReBuilding Center JAPAN 代表
1984年生まれ。名古屋市立大学芸術工学部卒。2014年より空間デザインユニットmedicalaとして妻の華南子と活動開始。全国で数ヶ月ごとに仮暮らしをしながら「いい空間」をつくりつづけてきました。2016年秋、建築建材のリサイクルショップReBuilding Center JAPANを長野県諏訪市に設立。ReBuild New Cultureを理念に掲げ、「世の中に見捨てられたものに価値を見出し、もう一度世の中に送りだし、次の世代につないでいく」ことを目的に活動しています。

短期間で全国を飛び回り、数多くの物件を手掛けたmedicalaの活動

2012年、東野さんが初めててがけた「Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE」

ーー東野さんは、リビセン設立前、奥さんの華南子さんと一緒に「medicala(メヂカラ)」というユニットで活動されていましたよね。

東野:はい。メヂカラの活動を始めたのは2014年。華南子と結婚する前、まだメヂカラと名乗る前の2012年に東京・蔵前にあるゲストハウス「Nui. HOSTEL&BAR LOUNGE」を手掛けたのがはじまりですね。

ーーゲストハウスの走りでもあるNui. HOSTEL & BAR LOUNGE(以下、Nui)。Nuiを皮切りに、いろんなプロジェクトを手がけていったメヂカラは、周りの人巻き込んでみんなで施工していくというプロセスを大切にされている印象を受けます。

東野:Nuiを例に挙げると、北海道、宮城、栃木、三重、そして東京と全国から大工さんが集まって、渡部屋という大工チームが指揮を取り施工しました。ツリーハウスをつくる方や、ログハウスがつくれる方などそれぞれの技術やノウハウを持ち寄りました。全国から来た大工さんはNuiの6階に住み込みで作業をしたのですが、施主、職人、デザイナー、手伝いに来てくれた人みんなが昼間は工事をし、夜は毎晩のようにお酒を飲む楽しい空間でしたね。

古材から感じるストーリー

ーーメヂカラの活動を経てリビセンを設立されたのは2016年9月末。

東野:メヂカラでは、全国各地の現場に呼ばれて泊まり込みで改修。改修が終わると次の地へ行くという暮らしを繰り返していました。

ーー古材を使って施工していたのはメヂカラの時からですか?

東野:はい。施工にあたって古材を解体現場でもらっていたことにはいくつか理由があります。コストダウンを図るためだったり、身近に訪れることのできる古材屋がそこまで多くなかったり。ネットで古材を手に入れることもできますが、もっと気軽に買える古材屋もあったらいいなと感じていました。

ーーなるほど。

東野:また、いただいた古材を使うことで、ストーリーや思いを空間の中に納めることができます。
例えばrucoの施工では、余儀なく廃業することになった酒屋から、せめてもの思いでと店舗に使用していた材をあずかって、再利用しました。さらに、オーナーの友人が営む製材所から使わない木材をもらってきて、友人周りの関係性も巻き込んでいきました。
マスヤゲストハウスの時は、建物に詳しかった大家さんに改装後も胸をはって会えるように、中にあった部材をなるべく再利用しました。

ーー施主さんの思いや、建物が完成に至るまでのストーリーを感じ取れますね。

(c)MAKO.pen&paper

東野さんがデザインした隅田川沿いの川床。対岸に軒を連ねる施設を、船で行き来ができる仕組みだ。

東野:リビセンを立ち上げる前には、専門の人向けでなく一般の人も気軽に足を運びやすいお店があればいいなという構想を考えたことがありました。店内にシェア工房の要素があったり、改装をみんなで行っているカフェがあったりするお店です。

ーーリビセンのモデルとなる構想ですね。

東野:はい。時代の流れ的にできるのではないかと思っていたんです。でも2、3年経っても全然誰もつくらなくて(笑)。

ーーなかなか時代が追いついてこなかった(笑)。その頃はメヂカラの活動でデザインをやっていらっしゃいましたよね。

東野:実はメヂカラはデザインを提案するというよりも、店舗の立ち上げに関わることでできることならなんでも行うというスタンスだったので、全国の現場に住み込み、デザインから施工までお手伝いしました。施工は年に3,4件ペースで施主と一緒に。事業計画や収支計画を見せていただきアドバイスをさせていただいたりもしましたね。

メヂカラの現場では施工に携わったメンバーで「現場めし!」を食べるのが定番だ。

ーー結構踏み込んだところまで関わるんですね。

東野:「銀行から融資をもらえないんだったら、クラウドファンディングで200万円調達しよう!」と資金調達に関してアドバイスしたり、クラウドファンディン立ち上げにあたって文章や構成、リターン、運営方法を一緒に考えたり、FacebookなどSNSを使用した情報発信のサポートも行いました。そうやってデザイン面以外の部分、事業の立ち上げに関しての知識を得たり、古材を使ったノウハウやデザインのバリエーションも自分のなかでどんどん増えてきて。リビセンを立ち上げたいと思ったときには、ふと足元を見てみるとベースが積み上がっているような感覚でした。


東野さんは、華南子さんと共にデザインユニット「medicala(メヂカラ)」として全国各地のハブとなるスポットを多く手がけてきた。

メヂカラが手がける空間は、施工に携わる方の思いの重なり合い、ストーリーを持つ古材を使うことによってより魅力的に感じまれ、人々に愛されているのだろう。

次回は、モデルとなったアメリカオレゴン州・ポートランドの「ReBuilding Center」が持たないカフェの役割について、そして無事設立を迎えたリビセンを支えるスタッフについてうかがう。

インタビュー②:古材屋のハードルを下げるカフェの役割