ツリーハウスつくろう(5) ~小林 崇さんに学ぶ、ツリーハウスはじめの一歩~

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今回は、僕が出会い影響を受けた『人』ツリーハウスクリエーター 小林 崇さんと、その世界について、体験レポートを綴っています。

ツリーハウスビルダー養成講座。今回からは、いよいよツリーハウスの制作に入ります。

ビルダー見習い達は、これまでの講義やフィールドワークで、自然環境やアーボリカルチャー(樹木管理技術・樹木学の総称)についての知識を習得し、ツリークライミングや木工などの実技経験を経て、いよいよ初めてのツリーハウス制作現場へと踏み出します。

ホストツリー


先ず始めに決める事であり、最も重要な事。それは、ホストツリー(ハウスを造る樹木)の選択。どこへ、どの樹木へ、ハウスを造るかだ。

造りたい木と、造れる木は必ずしも一致しない。選択の目安としては、その一帯で出来るだけ大きく強い樹木を選ぶ。生存競争を勝ち抜き、強く健康な可能性が高いからだ。また、完成のイメージも重要。落葉樹であれば、葉が枯れ落ちる季節の外形も考慮が必要だ。その他、樹木の周辺環境など、確認するべき事は多い。一般の建物で言えば、良い土地を探すのと同じだ。
ホストツリーの選択は、とても難しい作業だ。樹木医など専門家の意見を伺いながら、慎重に選択を進める。

今回コバさんが選んだホストツリーは、鋸山・登山道の脇にある広場、その谷際にあるタブノキ(クスノキ科の常緑樹で照葉樹林の代表樹)。この木は高層部の樹冠が力強く広がる、本当に美しい木だ。

“はじめまして、僕らのホストツリー”
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樹木と対話する


樹木へ御神酒を捧げ、森や自然へ礼意を伝え、作業の安全を祈願する。
いよいよ僕らはホストツリーと対話を始める。

前途のように樹木の状態を見極めるのは、非常に専門性の高い知識と、何より経験が必要だ。
今回の講座で樹木診断をして頂くのは、株式会社 葉守の深沢賢史・尚樹さんご兄弟。深沢兄弟は、樹木調査・治療、高木剪定・伐採のスペシャリストであり、あの屋久杉の調査も担当された方々だ。

診断によると、根元で大きく二つに分かれた谷側(写真奥側)の幹は、中間部分がやや弱く、その中間部へハウスを設置するには不向きとの診断。
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ハウスをイメージする


樹木と対話しながら造り上げる、設計図のない建物、それがツリーハウス。そのイメージや骨格は現場で決めていく。
その有効な手段のひとつ。垂木(たるき)を仮止めし、目安を付けて行く方法を今回の講座では使う。
垂木は屋根板を支えるなどの、比較的細い角材だが、寸法を計ったりイメージを付けるための、仮置きなどにも活用もする。

実は当初、コバさんのイメージでは、垂木が組み上がった位置(写真右:中央部分)にハウスを置くイメージだったようだが、前途の樹木診断の結果を受け、この部分はデッキのみとなった。
その為、ハウスは更に高い位置へと造る事に。なんと当初予定の倍近い高さ、樹上7m付近にハウスを設置する事となった。通常建物の3階屋上にハウスを乗せるといったところ。制作時は、その更に上部で作業を行う為、樹上10m付近でのクライミングが必要となる。

正直、この垂木のイメージ段階では、デッキの仕上りなど僕には全く想像出来ていなかった。これもまた、現場経験を重ねなければ難しい事なのかもしれない。
ツリーハウスの制作現場、いきなりその面白味を目の当たりにする事となった。
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ツリーハウスの要


樹木に土台を造るツリーハウス。その土台の“支え”を設置する作業は、制作の中でも重要なポイントのひとつだ。

【TAB(ツリーアタッチメントボルト)】
ツリーハウスを固定する専用金具。1本でおよそ1.5トンを支える事が出来る(但し、樹木側のコンディションが最良の場合)

樹木は樹皮に近い部分で生命活動を行っている。その為、樹皮を覆ってしまうような支えは、実は樹木へのストレスやダメージが大きい。人間でいうと成長期の身体を、帯で締め上げてしまうような感覚だろうか。
その為、コバさん達THC(ツリーハウスクリエーション)では、極少の狙い目で樹木に最も負担の少ないTABを使う。この専用金具は扱いが非常に難しい為、ツリーハウスビルダー養成講座を卒業した者のみ購入と扱いが許されている。
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TABを打ち込むには、特殊な刃を持ったドリルを含め、数本の電動工具を使用する。土台の要となる為、水平に正確に打ち込む必要がある。この豪快で繊細な作業を、ツリークライミングをしながら行う。テンションが掛かったクライミングロープに刃が当たれば、自身の落下に繋がる。
僕らビルダー見習い達は、地上の枯れ木でひたすら練習を繰り返した。

ドリルを打つ事は、樹木に対し外科手術でメスを使用するようなもの。素早く、正確に。全て一発勝負。この作業だけは失敗は許されない。
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練習を終えたら、いよいよTAB打ち込みの本番。
ビルダー見習い達は次々にツリークライミングし、ドリルを手に作業を開始する。

やはり、練習とは感覚が全く違う。
重量のあるドリルを手にすると、樹上で身体を固定する事自体が難しい。左右に振られる身体を両脇から支えてもらい、ドリルを回し始める。生きた樹木は、枯れ木とは違い抵抗感が強い。思うようにドリルが入らず、焦れば焦る程、手元がぶれる。点滴の針がなかなか入らない新人看護師さんの気持ちが、少しだけ理解出来た…。ゴメンねホストツリー。
コバさんに付き切りでご指導頂き、ようやく1組目のTABを打ち込み完了。今回の作業はここまでだ。
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ツリーハウスは、樹木の負担は確かに皆無ではない。しかし、その極めて象徴的な活動を通して、多くの方々が樹木や自然、地球環境と真剣に向き合い考察するきっかけになるのであれば、それはむしろ良いのではないか。
講座にお越しなった樹木医を始め、多くの先生方が、そんな風にお話してくださった。無関心ほど悲しい事はない。

事実、コバさんの周りには、一線で活躍する樹木医やナチュラリスト、アーティストやクリエイターが多く集い共に活動しながら、国内外問わず、その活動の裾野を拡げている。
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動き出したツリーハウス制作。これからどんな風に仕上がっていくのか。イメージは、まだコバさんの頭の中。
ビルダー見習い達は、これからその制作を通し、知識・技術と流儀を学んで行く。

ツリーハウスクリエーター 小林 崇 さんと、その世界についての体験レポート。
次回、第1デッキの制作へ、つづく。