第8回:サヨナラは言わない。国内最大級のお見送り文化とは?|スゴイ!が日常!小笠原

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みなさんのお知り合いの中に、小笠原に行ったことがある人はいますか?
そのような人は、かなり少ないのではないでしょうか。そうして、「我こそが開拓者!」という気持ちで小笠原に行ってみると、そのリピーターの多さに驚かされます。2回や3回ではありません。毎年来ている人の多さたるや、里帰りのごとし。

それでも、小笠原の旅が終わるころ、自分もまたリピーターになることを確信してしまうのです。
それほどまでに惹きつけられる理由は、「見送り」にあるのではないかと思います。それは、島ならではのセレモニー。今回は、多種多様な見送り文化についてご紹介したいと思います。

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STEP1:船着場からの見送り

帰りの船の出航時間が近づくと、宿のオーナーさんやスタッフのみなさん、島に残る旅人たち、飲み屋で出会った人たちまで。島中の人々が港まで見送りに来てくれます。
まずは、太鼓隊による盛大なライブ。あちこちで別れを惜しむ記念撮影がはじまったかと思うと、「レイ」と呼ばれる花飾りを首にかけてくれます。それは小さな“おまじない”。出航したら海に投げ込んで、そのレイが波で岸に戻ってきたらまた再会できる。そんな想いが込められているのです。

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そうして迫る乗船時間。重い荷物を背負って「帰りたくない」なんて思っていると、「行ってらっしゃい!」そう声をかけられます。“帰る”のではなく“行く”。小笠原が、帰ってくる場所、戻ってくる場所になる魔法の言葉。「さよなら」なんて、誰も言わないのです。

船に乗り込むと、乗客はみんな甲板に出ます。船が傾かないのが不思議なくらい、船の片側がびっしりと人で埋まります。乗客はそこからお世話になった人たちの姿を探して手を振ります。島の人たちもそう。ずっと、ずーっと。何十分でも、船が出航するまで、その姿が見えなくなるまで、手を振り続けてくれるのです。

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STEP2:青灯台からの見送り

ここからは、見送る側の視点からご紹介します。僕は2週間の滞在だったため、たくさんの旅仲間を見送りました。青灯台での見送りはかなり忙しくなります。STEP1の船着場で船に乗り込むのを見届けて、船が動きはじめたら青灯台までダッシュ!息を切らして辿り着くと、船が目の前を通り過ぎていくところ。

それを迎え撃つように、青灯台の堤防にはズラリと列ができています。その最後尾に加わると、先頭の人から順に海へとダイブしていきます。前飛込、後飛込、捻り飛込。みんなスゴイ!でもコワイ!それなりに高さはあります。でも、船の乗客みんながこっちを見ているので、ぐずぐずしている暇はありません。「えいや!」と飛び込んで、体が海面に浮かび上ったら、そこからなおも手を振り続けます。

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STEP3:見送り船からの見送り

最後は、見送り船からのダイブ。これに挑戦する場合は、船着場の見送りも、青灯台の見送りも諦めなくてはいけません。その代わり、いちばん長く見送ることができる上級コースです。

フェリー「おが丸」の出航時間に青灯台に行くと、誰でもタダで見送り船に乗せてくれます。乗り込むと、港を出て島が見えなくなるくらい遥か先まで、おが丸を追いかけることができます。僕が見送り船に乗ったときは、10艇ぐらいは、いたでしょうか。漁師さんの船からダイビング船まで、様々な船がおが丸を取り囲み、併走しながら手を振る姿は感動的。そして、1艇、また1艇と、おが丸に最接近して船からダイブ。あとは任せたと言わんばかりに、最後の1艇まで見送りのバトンをつなぐのです。
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EXTRA:ウェザーステーションからの見送り

おまけに、もうひとつ。
小笠原ユースホステル特有の文化らしいのですが、STEP2の青灯台の見送りのあと、さらにウェザーステーションに登って行う見送りがあります。そのとき、忘れてはいけない持ち物が「鏡」です。

ウェザーステーションに着くと、遠くに船が小さく見えます。そこで、太陽光を鏡に反射させて、船に光を送るのです。ちゃんと届いているのか、なかなかわかりません。ケータイで確認するのはヤボというもの。届いていることを信じて、光を送り続けます。

すると、“キラッ!キラッ!”と船が輝くではありませんか。実はそのころ、船の上でも同じく鏡を持って光を送っているのです。船からはウェザーステーションが目視できないので、ウェザーステーションから届く“キラッ!キラッ!”という光りを頼りに、その発信源に向かって、光を返しています。つまり、光が帰って来たということは、ちゃんと届いているという証拠。なんともロマンチックな見送りですよね。

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スゴイ!が日常!小笠原の「文化」
こんなに色々な種類の見送りがあるのは、離島の中でも小笠原だけかもしれません。見送る側にいるうちはずっと笑っていたけれど、見送られる側になるとやっぱり涙がこぼれました。それでも。持って変えれる記憶も、また少ない。だからまた旅に出る。それもまた小笠原の魅力なのでした。