若手日本人クリエイターを皆で育てるプロジェクト。「bud brand」in MILANOブランディング戦略報告会2019

横浜市日ノ出町の京急電鉄高架下にあるタイニーハウスを用いた複合施設「Tinys Yokohama Hinodecho」にて、2019年のbud brandブランディング戦略報告会が開催され、全国各地からこのプロジェクトに注目する、デザイン・ものづくり関係者が集まった。

今年で4年目の実施となる「bud brand(バッドブランド)」in ミラノ。

bud brandとは、才能あふれる次世代の日本人クリエイターが、世界でひと花咲かせるためのプロジェクトです。毎年、日本の若手クリエイター達の作品をbud brandの傘下に束ねて、世界最大級のインテリアデザイン見本市である「ミラノサローネ・ミラノデザインウィーク」に出展しており、一般社団法人 日本デザインバンクがこのプロジェクトを運営しています。

2019年4月の出展を経て、今年の成果を振り返る「bud brandブランディング戦略報告会」が、昨年に引き続き横浜市日ノ出町のTinysにて6/19に行われました。その様子をレポートします!

日本のデザインを世界に発信し、世界のデザインを肌で感じる

今年のミラノデザインウィークのbud brandブースを飾った作品「ai-fuji」は、“日本への入り口”をイメージした暖簾。和紙の製法で作られた特殊な紙を天然の藍で染めてあり、時を経て生まれるシワや色の変化さえ味わいになる。日本の美意識から生まれた技法や素材を用いた作品。(デザイナー:木谷勇也/FANFARE、ナオロン:株式会社大直、藍染:藍の館)

「bud(つぼみ)+brand(綺麗に咲かせる)」という名のこのプロジェクトには、2つの目的があります。

1つは、インターネットの普及によって大量の情報を簡単に入手できるようになった現代において、逆に埋もれがちな、若く優れたクリエイターのデザインやアイデアを、リアルな場で世界にダイレクトに発信すること。

そしてもう1つは、世界のデザインを肌で感じる機会をつくり、次なるクリエイティブに生かしていくこと。

その舞台が、世界中からデザインを求めて人々が集まる「ミラノデザインウィーク」というわけです。

若手クリエイター達の制作・出展を企業が支援

ミラノデザインウィークとなると、どんなに才能があっても若いクリエイターが独力で出展するのは非常に困難です。そこで彼らのデザインやアイデアを、素材・技術を持った企業や職人、資金面の支援をしてくれるスポンサーとつないで、皆で出展させようというのがbud brandの取り組みです。

つくり手として関わる企業や職人にとっては、若いクリエイター達から刺激を受けて進化するチャンスが得られ、また、スポンサーとなる企業にとっても、bud brandは「デザイン志向と若い才能への理解」を示すアイコンとなり、自社の付加価値づくりや人材獲得にも役に立ちます。

このように、関わる皆にプラスの効果を発揮するのが、bud brandプロジェクトです。

今年は初のbud brand単独ブースで出展

bud brandプロジェクトの創始者である梶原清悟さん(一般社団法人 日本デザインバンク代表理事、FANFARE代表)

今年のミラノデザインウィークでは、bud brandは初めて、単独ブースでの出展を果たしました。報告戦略会の初めに、このプロジェクトの創始者であり、運営元の一般社団法人 日本デザインバンクの代表理事でもある梶原清悟さん(FANFARE代表)からご挨拶がありました。

bud brandが始まって今年で4年目になりますが、いろんな方々のご協力があって毎年出展できていると深く感謝しています。今年は今まででいちばん成功した回ではないかと思っていて、ミラノでの展示期間中は毎日1000名前後、のべ約1万人もの人が訪れてくださる場になりました。

デザイン分野での活躍を目指す学生さんにとっては就職活動の材料として、また、企業にとってはデザインを大切にしている会社であることのアピールとして、このbud brandをぜひ活用していただければと思います。この取り組みが、来年も、その先も続いて行くようにしたいと思っています」

日本のデザインや技法への注目度が増している

木谷勇也さんは、今年のbud brandの単独ブースに展示した暖簾「ai-fuji」を作品としてデザインした。

続いてFANFAREのデザイナーであり、bud brandでディレクターも務める木谷さんから、今年のミラノサローネで見られたインテリアデザインの傾向についてお話がありました。

「今年もアウトドア用の家具が目立ちました。アウトドア用家具と言っても、屋外でも室内でも使えるようにブラッシュアップされ、室内外の家具の境目が無くなっているのを感じました。提案はオフィス空間にも及び、ベンチにコンセントやUSBポートがついているとか。働き方のスタイルが広がっていることにも影響を受けた変化だと思います。

アウトドア用家具であっても、今までのような耐候性・耐久性といった機能性だけでなく、インテリアとしても使える細やかなデザイン性や座り心地などが重要視されています。各社、素材やテクスチャーにこだわっている傾向も伺えました。天板は石で、脚は木で作ったテーブルなど、異素材の質感にフォーカスし組み合わせているプロダクトが多かった印象です。

また、ヨーロッパでは、改めて『職人』に目が向いているのを感じました。仕上げは機械ではなく職人の手で行うなど、“人”に光が当たっているなと。

日本的なものも注目されていて、『moooi』というブランドでは“Tokyo Blue”という、デニムとコラボレーションし、張り地にデニムを使用したソファや、ニホンザルの刺繍がされたクッション・壁材がありました。ミラノサローネへの日本企業の出展も、年々増えている状況です」

今年のテーマは「旅」を100倍楽しませるデザイン

ミラノデザインウィークで本会場の次に多くの人が集まる「SUPER DESIGN SHOW」の会場内にbud brandの単独ブースを設置。期間中、このブースに約1万人を超える人々が世界中から来場した。

このように「日本」のデザインや素材・技法などへの注目度が増している中、bud brandが掲げた今年のテーマは“「旅」を100倍楽しませるデザイン”。

このテーマの下、ミラノデザインウィークの会場に展示された13作品の関係者が、プロダクトに込めた想いや出展によって得られた成果などを報告会で発表しました。その一部をご紹介します。

Case 01:Tabisuru Kakuzai/家具

Tabisuru Kakuzai|家具(デザイナー:小林哲治/人の力設計室、制作:入木隆悟、上野晃宏/TIMBER DESiGN 他)

日本人には敷物として昔から馴染み深い「ゴザ」を、より携帯しやすい形にアップデートしました。ゴザを敷いて、靴を脱いで座るだけで、どこでも我が家のようにリラックスできる居場所になり、いつもより低くなる目線が新しい景色を見せてくれます。そんなゴザをラップのように無垢の角材から引き出せる作品です。

制作陣を代表して、鹿児島の家具工房TIMBER DESiGNの入木隆悟さんがプレゼン。

この作品の制作は、福岡市の設計事務所 人の力設計室と、鹿児島県日置市の家具工房 TIMBER DESiGNが共同で行いました。報告会ではTIMBER DESiGN代表の入木隆悟さんがプロジェクトを通して得たことを語りました。

「ふだん私達は主に家具を作っているので、こういう小さい物を今まで作ったことがなかったんです。今回は細かい作業に取り組めたことが職人としての勉強になりました。ミラノでもゴザを角材から引き出すデモンストレーションを行い、“畳”というものに興味を持っていただき、好評価を得ることができました」

日本人には見慣れたゴザや畳も、海外の人の目には「自然素材でできた贅沢なシート、マット」と映るかもしれませんね。

この作品の制作・出展をサポートした鹿児島県霧島市のビルダー 株式会社Life plus homeの代表取締役 藏屋 誠さん

この作品の制作・出展をサポートしたのは、鹿児島県霧島市のビルダー 株式会社Life plus homeです。代表取締役の藏屋 誠さんが想いをお話しくださいました。

「鹿児島は日本の端っこにあって、そこから『世界へ』なんて言うと人は笑う。でも、鹿児島にも世界で活躍したい若い子はいますし、私達も世界のデザインを感じたいが、なかなか行く機会が無い。それがbud brandならトライできる。実際、今回取り組んだことで地元のTV局や新聞などメディアにも取り上げていただき、反響がありました。地域にいろんな事情で残らなきゃいけない若い子に『世界に行ける夢』を与える、地方創生や地域とつながる取り組みだと思います」

Case 02:Moire see/グラス

Moire see|グラス(デザイナー:清水大輔、制作: 椎名隆行/GRASS-LAB )

伝統的な江戸切子の「平切子」という技法と、砂などを吹き付けて表面に装飾を施す「サンドブラスト」という技法を組み合わせた「砂切子」の作品です。細微な意匠まで再現できる職人の高い技術を、デザイナーが生かした好例。グラスを覗き込めば、そこには「海」が広がり、ここにいながらにして旅に出かけたような感覚になります。

プレゼンターは制作を担当したガラス加工の専門家、GLASS-LAB株式会社の椎名隆行さん。1950年創業 椎名硝子加工所の流れを汲む会社だ。

制作を担当したGLASS-LAB株式会社の椎名隆行さんが、今回のチャレンジの反響を教えてくださいました。

「ガラスメーカーから『ミラノに出たんですか?』と問い合わせが来たり、とある大使館から大統領への贈り物にというお話があったり、ミラノへの出展後、予想以上の反応がありました」

長い時間をかけて積み重ねた高い技術を持っていることに加え、ミラノデザインウィークにも通用するデザイン性の高さが認められると、日本の職人やものづくりの可能性は大きく広がりそうです。

制作・出展をサポートした神奈川島県川崎市のビルダー 高山マテリアル株式会社の代表取締役高山正憲さん。

この作品の制作・出展をサポートした、神奈川県川崎市のビルダー 高山マテリアル株式会社 代表取締役の高山正憲さんは、デザイン領域に関する自社のブランディングにおいて、bud brandへの期待を寄せています。

「日頃お客様と接していて、普通の住宅では物足りないお客様が多くなって来ているのを感じています。そんな中で、自社単独ではなかなかミラノや世界のデザインにリーチするのは難しい。bud brandがあるのはありがたいですね」

Case 03:包美/酒器

包美|酒器(スチューデントデザイナー:後藤和樹/専門学校 桑沢デザイン研究所)

この作品は、世界で活躍する優秀なデザイナーを数多く輩出してきた東京の桑沢デザイン研究所の学生だった後藤和樹さんが、卒業制作としてつくったものです。bud brandが、デザインを志す学生達に、チャレンジしがいのあるコンペの一つとして浸透してきた兆しが感じられます。

「包美」は、山梨県(甲州)に400年以上も伝わる皮工芸「印伝」に、山梨の豊かさを象徴する地酒「七賢」を入れたお土産物としてデザインされました。鹿皮に漆で模様付けした印伝になみなみと酒が入り、豊穣を感じさせるたぷんとしたルックスや手触りがチャーミングな作品です。中身の酒を飲んでいくうちに、飲む人も、この酒器もクタッとしていくという経時変化までがデザインされています。

この作品を卒業制作としてデザインした後藤和樹さんは、現在、社会人になり空間デザインの仕事をしている。

作品のデザイナーである後藤和樹さんは、ミラノに自分の作品が出店されるのを、日本からSNSで見守りました。

「周りの友人達から『ミラノに出したの? すごいね!』と反響がありました。展開のスピードが早すぎて、自分の作品が本当にミラノに出たのかと実感がなかなか湧きませんでしたが、自分にとって良い経験になったと思います」

卒業後、空間デザイナーとして社会人になった後藤さん。bud brandから飛び立った若い才能が、世の中のデザインにプロとして携わって行くことは、このプロジェクトとしても意義深いことですね。

支援した東京のウェブ制作会社である株式会社テクト 代表取締役 中谷茂樹さん。

また、この作品の制作・出店を支援したのは、東京のウェブ制作会社である株式会社テクト。昨年まではビルダーや工務店がサポーターになることがほとんどでしたが、bud brandは、理念に共感してくれる企業であれば業種は問わず支援・参加を求めています。

代表取締役の中谷茂樹さんは、ウェブ制作というデジタルな業界に身をおきつつも、全国で聞かれる地場産業の衰退に対して何かできることがあれば嬉しいと語りました。

Case 04:TV cable/靴紐

TV cable|靴紐(スチューデントデザイナー:岩崎由輝/静岡デザイン専門学校)

さまざまな交通手段が発達した現代の旅は、とかく短時間で目的地に着くことが優先されがちですが、自分の足で歩くからこそ見える、かけがえのない旅の風景があるはずです。靴紐が擦り切れるまで歩いた時、劣化した靴紐の中からカラフルな紐が現れることで、旅は新たに蘇生し、さらなる出会いが広がる。「旅」のシーンを哲学的に捉え、表現した作品です。

この作品をデザインした静岡デザイン専門学校の岩崎由輝さん。京都の古本屋で手に取った本の一節からアイデアを着想したそう。

この作品は、静岡デザイン専門学校の岩崎由輝さんがデザインしました。靴紐の劣化というネガティブさを、カラフルな紐が現れることでポジティブに転換するという点にこの作品の面白さがあります。

「今回のことで、ミラノにも出せる物が自分にも作れるんだと自信になりました。今は自分のいちばん好きなものづくりを見たくて、京都に住み、染物の工房に通っています。伝統的なものをどうデザインできるかにチャレンジしていきたい」と岩崎さんは語りました。

「デザイナーの卵に、世界に出られるチャンスを与えてくれる素晴らしいプロジェクト」と、静岡デザイン専門学校 デザイン科 科長の大森仁先生がコメント。

昨年からbud brandを3年生のカリキュラムに取り入れていた静岡デザイン専門学校では、生徒の就職活動の材料としてさらに有効に活用するため、今年から2年生のカリキュラムへと変更したそうです。

昨年も静岡デザイン専門学校のスチューデントデザイナーを支援した、ウィングホーム株式会社の代表取締役 斎藤元志さん。

また、2年目の支援となる静岡のビルダー ウィングホーム株式会社の代表取締役 斎藤元志さんは、「静岡デザイン専門学校出身の優秀な社員に非常に助けられているので、bud brandを支援することでこの学校に恩返しをしつつ、これからもトップクラスの人材に入社してもらえるように、一緒にやっていきたい」とお話しくださいました。

地元の専門学校と企業が一緒に人材を育て、採用し、デザインとビジネスで地域に貢献していくという良い循環が生まれています。

今回の報告会に出席した株式会社LIXIL住宅研究所 常務取締役・マーケティング本部長の山中哲也さん(写真左)から、スチューデントデザイナーの岩崎さん(写真中)にLIXIL賞が手渡された。

報告会には、今年のbud brandのメインスポンサーである株式会社LIXIL住宅研究所 常務取締役・マーケティング本部長の山中哲也さんも参加し、LIXIL賞として、岩崎さんの作品「TV cable」を表彰、次のようにコメントしました。

「岩崎さんの発想に感動しています。旅で長い時間を過ごした時の洞察が良かった。パッと見て派手なものではないけれど、その思想に和む。例えば新しいブランドを立ち上げる時に、こういうふうにやらなきゃダメだと気づかされました」

今回のbud brandの出展でも、次世代を担う学生や若手クリエイター、職人、そして支援した企業にとっても、それぞれ手応えがあったことが伺えます。昨年よりも確実にこのプロジェクトの輪が広がり、良い循環を生み出しつつあるのが感じられました。

2020年のテーマは「日本をアップデート」、9月末まで応募受付中

さて、bud brandの2020年のテーマは「日本をアップデート −体感と共有−」です。新元号やミレニアル世代の成人、東京オリンピックなど、2020年は日本の今までとこれからを考える機会になりそうな1年。来日する外国人も一層多くなる見込みです。たくさんの人が日本を訪れ、モノやコトを“体感”し、母国に帰って「日本はこんな国だったよ」と“共有”するはずです。

この“体感”と“共有”をつなぐプロダクトのアイデアを、2019年7月〜9月まで募集しています。
同時に、クリエイターたちの制作活動や出展をサポートする企業側にも、学生支援、クリエイター支援、地域支援といった支援方法や、もっと気軽に参加できるサポーター制度が用意されています。

また、企業自らプロダクトを開発し、一般公募枠で応募することも可能です。

▼bud brandへの作品応募や支援の詳細は公式サイトから
https://www.bud-brand.com/

ブランディング戦略報告会に参加した方の声

戦略報告会の後は、Tinysで参加者同士の交流会が行われた。普段は直接触れ合う機会が少ない若手クリエイターや学生さんと企業との貴重な接点に。

戦略報告会の後、参加者の方々に感想を伺いました。
2019年のスポンサー企業のスタッフの方は、

「デザイナーや他の企業の方と知り合える良い取り組みだと思いました。日頃、特に学生と企業が直接つながれる機会はなかなかないので貴重です」

bud brand立ち上げの頃から協賛しているという企業の方は、

「若いクリエイターや学生さんたちの夢が叶えられるというのは本当に良いことだと思います。ミラノサローネ出展となると一社ではなかなかできることではないので、こうして皆で日本の才能を伸ばしていけるというのが良いですね」

戦略報告会の会場となったTinysのある地元横浜の工務店のご経営者は、

「こういうことはやっていかなきゃいけないと思いますが、私たちは新進のデザイナーと出会う機会がない。でも会社としては、そういう子たちと出会っていかなきゃいけないし、変化していかなきゃいけないと思っています。自分の所の職人たちもだんだんと歳をとって固まっていくので、新しいことを感じ取っていかないとと思います」

bud brandは日本のデザインと若い才能を、皆で育てる試み

今年で4年目を迎えたbud brandは、運営元として一般社団法人 日本デザインバンクを設立。自治体や学校法人との取り組みが次第に増える中で、より公共性・普遍性の高いプロジェクトとして存続させていくため、このような運営形態へと進化しました。

“世界に通用する、日本の若い才能を育てる。”

夢のある話であると共に、人口が減少していく日本の未来にとって実は非常に重要な話でありながら、個人や一企業ではなかなか成し得ないこのミッションを、皆で取り組むことで実現させるbud brand。今後もたくさんの若い才能の花が咲くことを願い、大切に守り育てて行きたいプロジェクトではないでしょうか。

bud brand 公式サイト
https://www.bud-brand.com/

(取材執筆:角舞子)