【対談・後編】自分をメディア化し、地方でも通用する強味をつくる。ジャーナリスト・佐々木俊尚さん×YADOKARI|未来をつくるひと〈100 People〉Vol.3

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YADOKARIメンバーが未来をつくるひと100人に会いに行く対談企画「100 PEOPLE 未来をつくるひと。」VOL.003は、ジャーナリストで作家の佐々木俊尚さん。佐々木さんは2011年から東京と軽井沢の2拠点を行き来する生活を始め、今年から福井県にも新たな拠点を構えるとのこと。後編では多拠点生活を実践する佐々木さんに、各拠点でのコミュニティの作り方や、多拠点生活にフィットする生業の作り方についてお話をうかがいました。(進行・構成 蜂谷智子)
対談の前編はこちら

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佐々木俊尚さんプロフィール

1961年兵庫県生まれ。毎日新聞社で記者を務めたあと、月刊アスキー編集部を経て、フリージャーナリストとして活躍。著書に『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『家めしこそ、最高のごちそうである。』(マガジンハウス)、『自分でつくるセーフティネット』(大和書房)など。

多様なコミュニティに所属することは、人生のリスクヘッジになる。

佐々木俊尚さん(以下、佐々木) 多拠点居住で新たなコミュニティを得て行くという視点は、僕が6月に出した新しい本、『21世紀の自由論』の内容ともリンクしています。その本の中で”ネットワーク共同体”という概念を提唱しているんです。社会の中には色々な価値観の方がいるので、社会全体にとって善であることって難しいですよね。ですから現代思想的には、小さな共同体の中で、みんなが良いと思う方向について話し合っていきましょうという流れが来ています。それは一見良いことのように見えますが、共同体内の善を突き詰めすぎると外の人を排除してしまう。その最先端がオランダで、いま移民排斥がひどいんです。

こういったことを考え合わせると、これからの共同体って壁がないことが重要なんじゃないかと考えたわけです。壁をつくって内と外を分けるんじゃなくて、Facebookみたいにネットワーク化して、集まりつつ外とも繋がるコミュニティのありかた。それが”ネットワーク共同体”という概念です。

『21世紀の自由論―「優しいリアリズム」の時代へ 』(2015年6月9日発売 NHK出版新書)
21世紀の自由論―「優しいリアリズム」の時代へ 』(2015年6月9日発売 NHK出版新書)

YADOKARIさわだ(以下、さわだ) YADOKARIのサポーターさんが1700人くらいいるんですが、このコミュニティ内でアクティブな人は、他にもいろんなコミュニティに属しているんです。グリーンズやTABI LABOなど、フィーリングが合うと感じるコミュニティを横断的に行き来している。仕事もひとつの会社に縛られず、自分のやれることで生活を立てていく人が多い印象です。

佐々木 たくさんのコミュニティに属して、多くの人とつながることがセーフティネットになります。住む場所もそのひとつと考えると良いんじゃないかな。関わるコミュニティが増えれば増えるほど安心感が増えていく。人との関わりは経済に代わるセーフティネットになります。経済の中には人間関係も資本のひとつとして数えられているんです。そこが確保されれば、収入が少なくてもなんとか生きていける。

一時、ヤンキー経済という本が流行りました。プア充とかもそうだけれど、それはこれからの生き方のひとつではないかと考えています。世界の状況を分析すると、収入はもはや増える可能性はありません。ひとにぎりの人達をのぞいて、年収は200〜300万円になってくる。

経済成長しない社会ってものすごいパラダイムシフトなんです。日本で言うと、明治以降成長し続けてきたわけで、それが期待できなくなってきた。それは今までなかったフェーズです。とはいえ、そんな状況でも人は楽しく暮らせる方法を模索していく必要がある。そのために、たくさんのコミュニティに所属し、それぞれから小さな収入を得るという方法は良い手段なのではないでしょうか。

「たくさんのコミュニティに属して、多くの人とつながることがセーフティネットになる」と佐々木さん。
これからのコミュニティの理想的な在り方についても、新著で考察されている。

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自分をメディア化して、これからの強みをつくろう。

── 所属するコミュニティを増やす方法として、多拠点居住は非常に有効ですね。その土地によって経済環境や相互扶助のシステムが違いますから、ある地方では食い詰めそうになっていた人が、ある土地では全く問題なく生きる糧を見つけているということもありそうです。とはいえ年収200〜300万円の人が地方に拠点を持とうとすることは、現実的なハードルが高そうな印象があります。

佐々木 それができるのは一部の優秀な人じゃないかという考えは根強くあります。言い出すと難しい話ではあるんですが、いまは新しい価値観が生まれつつある時代だと思うんです。年収にかかわらず価値観が二局化していて、できる人はできると思うし、できない人はそんなことは不可能だと思う。不可能だと思う人を一緒に新しい価値観の方へ連れて行くには、どうすればいいかを考えなければなりません。

新たなライフスタイルの可能性をいかにハードル低く提示できるか大切ですね。ひとつ言えるのは優秀なひとという定義が変わりつつあるということ。いまの時代なら、コミュニケーション能力が高いひとは優秀になれると思います。家入さんのプロデュースされているリバ邸*1、なんかはその典型的な例ですよね。従来の優秀な人材の型にはまらない人であっても活躍する場を与える仕組みです。

さわだ その話は自分にも深く刺さりますね。インターネットの使い方次第では、何でもない僕みたいな人間でも、少しは社会にインパクトを与えられるんじゃないかと考えています。今でもよく自分がなんでこんなとこいるんだろうって考えます(笑)。なんで佐々木俊尚さんと僕がお話しているのだろうって(笑)。これってインターネットの恩恵ですよね。やりたいことで旗を立てたあと、どうPRしていくかという時に、インターネットを上手に使えば、世界に一瞬で想いを広げることができる。それもお金を掛けずに。これがないとYADOKARIはそもそも始まってさえなかっただろうと思っています。

── 多拠点居住というライフスタイルを浸透させるにあたって、インターネットはひとつのカギとなりそうですが、どのように活用すれば効果的でしょうか。

佐々木 自分をメディア化していくことを意識すると良いのだと思います。ある地域に居住して「今日こんなことがありました」と発信するだけで、こんなやり方があるんだとか、こんなことがこんな金額でできるんだとか、その土地を知らない人にとっては気づきになる。その繰り返しでムーブメントになっていくのではないでしょうか。多拠点居住というライフスタイルは、特殊な一部の人たちがやっていることじゃないと伝えていくことです。

また自分をメディア化することは、仕事をつくるのにも効果的です。たとえば靴磨きが得意な人がいたとして、それを誰にも言わなければ単なる特技でしかない。ところが、その特技をノウハウという付加価値をつけてウェブで発信すれば稼げるスキルになるかもしれない。要はそれが仕事になるよねと周囲の人が認めてくれることが大切で、そのコミュニケーションのスキルは学歴とか年収とは関係がない。そしてそういった力があれば、どこに住んでいても仕事ができるのではないでしょうか。

僕の友人に鹿児島に移住したテンダーという人がいるんですが、最初に町役場からウェブの仕事を頼まれたそうです。そこで彼はその交換条件として、地元の限界集落の人を紹介してくれと頼んだ。それからは、たまに紹介してもらった集落に行って仲良くなって、それから移住した。いきなり移住するってものすごいハードルが高いですからね。

さわだ 僕らはスモールハウスを使って、地方に移住者のコミュニティを作る構想をたてているのですが、そこで仕事を回す仕組みも作っていきたいと思っています。そのためには都市とつながって仕事を作り出すことも必要だし、その土地の人とつながることも必要ですね。

佐々木 完全移住ではなく多数の拠点で生活し、東京で金を稼いで、地方で自己表現をすることもひとつの方法です。それぞれが勝手にやることが、その分野のロールモデルになりうるのです。ブラック企業に勤めて身動きが取れない人でも、他の人のロールモデルを見て生活を変えていくことができる。ロールモデルの積み重ねって大事です。

最近は前時代に成功したロールモデルに違和感を感じて、自分のしなやかさを維持しながら新しい生き方を試行錯誤している人が少しずつ出てきていているのを感じます。それが次世代のロールモデルになっていく。それこそさわださんとかね。

さわだ 僕はいろんな人をマネして、ことごとく失敗してきたんです(笑)。だから、自分のロールモデルを自分で作るしか生きる道はないなと。そういうことにやっと3年くらい前気づいたんです。

佐々木 スモールハウスを建てて暮らすなんて、確かに今までだれもやってなかった(笑)。

「ひとりひとりの試行錯誤が、次世代のロールモデルになっていく」と佐々木さん。
「ひとりひとりの試行錯誤が、次世代のロールモデルになっていく」と佐々木さん。

与える人が得をする時代にはモノより行いが価値を生む。

YADOKARIスズキ(以下、スズキ) 新たなロールモデルを必要としている今、幸せや豊かさの概念も再定義する必要があると感じています。

佐々木 僕は1961年生まれです。あのころのマインドに、いまは貧しいけど絶対給料は多くなるっていう“期待値”という言葉があって、「期待値が高いんだからやっちゃおう」というように、消費にしても何にしても背伸びしてしまう人が多かった。そしてそれが幸せや豊かさだと思っていたんです。ところが今はそうはいかない。そういう変化した社会においての楽しい生き方を、みんなで模索している最中なのでしょう。

スズキ ミニマリズムという思想が世界各地で支持されているのも、そういった模索のひとつでしょうね。

佐々木 最終的にはシンプルに人と人のつながりが重要だということですね。それ以外の余計なものは省いちゃっていいじゃないか、ということだと思います。昔は自分を演出するために、車やブランド品を買ったわけですが、それには価値がなくなってきた。それより仲間と家呑みした方が楽しいんじゃないか、と気づく人が多くなったのでしょう。

それは非常に健全なことだと思います。人を騙す人、人を押しのけていく人が得をすると言われていましたが、SNSがコミュニケーションのプラットフォームになった最近では、そういう行いはみんな可視化されてしまう。だから与える人が得をする時代になっていると感じます。そういう世の中ではモノよりも行いが価値を生むということです。

スズキ 余計なものを持たない生活といえば、YADOKARI ではスモールハウスに暮らすクリエイティブな生き方を提案していますが、それに対してはどうお考えですか? 佐々木さんは東京の家をダウンサイジングするにあたって、徹底的な断捨離をされたとうかがっています。

佐々木 モノを減らせるのは、スモールハウスに住む大きなメリットですね。目黒の家から越した時も色々処分したんですが、減らすと意外に不必要ものが多いなと感じました。最近では書類や資料は電子化できますし、パソコン一台あればなにもいらないという状況ですね。私も普段はパソコンに、ルーターや最低限の防災具などをポーチに入れたものしか持ち歩きません。軽井沢に行くときは、これに資料の本を加えるだけ。普段からモノを持たない暮らしをしていると、身軽に移動できます。

バッテリーや、ルーター、パソコン、防災用の懐中電灯やホイッスルやラジオなど。佐々木さんがパソコンの他に常に持ち歩いているミニマムツール。
バッテリーや、ルーター、パソコン、防災用の懐中電灯やホイッスルやラジオなど。佐々木さんがパソコンの他に常に持ち歩いているミニマムツール。

さわだ ”ネットワーク共同体”という概念について先ほど説明していただきましたが、最近はシェアハウスやシェアオフィスなど人が集う仕組みが盛んにつくられていますね。外で仕事をするいわゆるノマドの人であっても、スターバックスなどのサードプレイスを持って、人と一緒に居る空間を活用していることも多いです。

またワンクリックでコミュニティに参加できるオンラインでは、所属する場所を複数作ってアクティブに活動されている人も多いと感じます。佐々木さんはLIFE MAKERS*2というオンラインコミュニティを立ち上げられて、僕も参加させていただいていますが、こういった所属や年齢を超えて繋がりをつくれる仕組みも、これからますます必要とされていきますね。

佐々木さんがプレゼンターを務める有料会員制コミュニティ。これからの時代に何をすべきかを探るコンテンツを、オンラインとオフラインで体験できる。
佐々木さんがプレゼンターを務める有料会員制コミュニティ。これからの時代に何をすべきかを探るコンテンツを、オンラインとオフラインで体験できる。

佐々木 よりコミュニティ化したい欲求が人々に広まって来ていると思います。今話題のサードウェーブコーヒーにしても、その代表格であるブルーボトルコーヒーは日本の純喫茶をまねているそうです。僕が子どものころ、純喫茶は憧れの存在でした。渋いマスターを中心にしたコミュニティができていたんです。そういったものが見直されているということでしょう。現代の人も、一緒にいる場所を求めているんじゃないかな。シェアオフィスやシェアハウスにしても、家賃が安くなるだけじゃなく、ミーティングスペースやリビングで人と集えるメリットが大きい。

こういった傾向が見られ出したのは、ちょうど10年ぐらい前からで、朝活が流行りはじめた頃だと思います。終身雇用がなくなって社会に不安感が出て来たから集まりたいという理由もある。こういう欲求は社会が不安になればなるほど加速していくものです。中間共同体の消失、所属する場所が無くなっているのは日本の大きな問題です。仮の場所でもいいから、コワーキングスペースやシェアハウス、オンラインコミュニティなど、所属する場所は、今後も必要とされていくんじゃないでしょうか。

── 経済的な発展という“期待値”を見こめない社会では、色々なモノが削ぎ落とされるのは必然。これからモノ以外の部分を充実させていくのか、それとも持たざることに不満を抱えながら生きるのか。私たちは大きな分岐点にいるといえそうです。

厳しい時代ではありますが、新しい幸せのカタチを求めて試行錯誤するひとりひとりが次世代のロールモデルをつくっていく……という佐々木さんのメッセージはとてもポジティブ。身軽になった分、さまざまなコミュニティを行き来し、仲間とのつながりを楽しみながら、気概を持って未来を切り拓いて行きたいものです。

*1 「現代の駆け込み寺」をコンセプトに掲げて各地に展開しているシェアハウス「リバ邸」。

*2 佐々木俊尚さんが主宰する有料会員コミュニティ、「LIFE MAKERS」。

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