NYの地下鉄車両が大西洋にダイブするというパラダイムシフト

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人間には、死んだら海に葬られたいと思う人もいる。鼓動音をなくしたニューヨークの地下鉄にとっても、それは同じのようだ。長年にわたって人々を乗せ、運び、その役目を終えた車両たちが、船の上から次々と大西洋にダイブする瞬間。それはまさにロックンロール。しかも、この埋葬法は結果的に地球環境に良いことだというから驚きだ。

廃棄処分の裏側

すべての建造物は工事によってつくられ、また解体されることで終焉を迎える。しかし、僕らがその光景を実際に目にできる機会は限られている。今回のような産業物の廃棄場所や建設・補修工事の現場など、たいていの場合は立ち入れないのがお決まりだ。写真家であり映像作家のスティーヴン・マロンは、これまでにそうした場にたびたび赴き、普段は関係者しか見ることのできないシーンの数々を記録してきた。

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ちなみにこの地下鉄のプロジェクトは、リサイクル業界がしているとても大胆な試みの一つ。塗装をはがして環境的に害のない状態にした車両を海中に沈めることで、そこに魚の新たな生息環境、いわゆる人工岩礁をつくるのが目的だ。この試みは10年以上にもわたって続けられており、海底は水中生物たちの住処になっているという。実際にダイビングして、どうなっているかのぞいてみたいものだ。

無機物のサークル・オブ・ライフ

今回の地下鉄のほか、建造途中の橋や客船、ジェットコースターなど、マロンが捉えてきた対象の多くは、ただ機能するために存在し、やがては壊れ、錆びて使えなくなるものばかりだ。こうした無機的な物は、生み出すのも、維持するのも、処分するのも、最初から最後まですべて人間が責任を負うわけであり、それが人の役目だということになる。有機物と違って勝手に成長することもないし、自然に命がつきるわけでもない。

だから僕らは、当然のことながら、こうした類の物は自分の意思では動かないものだと思いこんでいる。しかしマロンの作品を見ると、どうやらそうでもないらしいと考えさせられる。たとえば彼が、老朽化を迎えた橋の掛け替え作業の様子を撮影すると、こんな感じに仕上がる。

橋はまるで氷上をスケーティングするかのように、滑るように移動していく。彼が撮ると不思議なことに、地下鉄は自分の意思で海に身投げしているように見えるし、ジェットコースターはまるで人を手中に収めた、ちょっとイカれた大きな怪物だ。

建造・稼動・廃棄のどの段階に関わらず、それらは人が動かす情熱によって、新たな動きを覚え、命あるものとして頭角を現し得るものなのだろう。僕らはもはや無機物を無機的なものとして扱ってはならないような気がする。実際、この地下鉄の例のように、それを命あるものとして扱い、心をこめて埋葬すれば、それは単なる環境負荷で終わるどころか、次世代への血肉として蘇っていくのだ。ワイルドライフに直に貢献している車両の姿は、僕らにとってまったく新しいサークル・オブ・ライフの形なのである。

Via: https://vimeo.com/mallon
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