【トークイベント・後編】自由大学 First Wednesday vol.2『BOOKナイト』トークイベント「本の未来はどうなる?」(2016年2月3日開催)

トークイベントの様子(右から深井次郎、南木隆助、小柴美保、清田直博、黒崎輝男)
トークイベントの様子(右から深井次郎、南木隆助、小柴美保、清田直博、黒崎輝男)

前編では「変化しつつある本の作り方・手法、そして出版の意味とは?」「資金集めが目的ではない?クラウドファンディングを行ってみて感じたこと」というテーマのもと、クラウドファンディングで実際に本を出版した、もしくは出版に関わった5名が議論した様子をお伝えした。

後編では文字で表現することの意味や「BOOK TRUST」について、引き続き、黒崎輝男氏(自由大学ファウンダー)、清田直博氏・小柴美保氏(『WE WORK HERE』企画/編集チーム)、南木隆助氏(『IKKOAN』企画/編集/クリエイティブディレクション)らをゲストに、深井次郎氏(自由大学「自分の本をつくる方法」教授)の司会で進行したトークライブの様子をお伝えする。(以下、敬称略)

前編はこちら ⇒ 【トークイベント・前編】自由大学 First Wednesday vol.2『BOOKナイト』トークイベント「本の未来はどうなる?」(2016年2月3日開催)

<登壇者プロフィール>

黒崎
黒崎輝男:「IDEE」創始者。新しい学びの場『スクーリング・パッド/自由大学』を創立し、「Farmers Market @UNU」「みどり荘」「COMMUNE 246」などの「場」を手がけ、新しい価値観で次の来るべき社会を模索しながら起業し続けている。

清田

清田直博:新卒で戦車等を扱う大企業に入社。退社後、美大でデザインを学ぶ。その後様々な仕事を経験し、現在の主な生業は執筆業。みどり荘のメンバー。

小柴

小柴美保:大学時代放浪の末、外資系投資銀行時代にリーマンショックを経験。”未来を見据えるビジョンが必要”と感じ、2011年に退社。インデペンデントシンクタンクMirai Instituteを立ち上げ「みどり荘」をオーガナイズしている。

南木

南木隆助:慶應義塾大学卒。卒業後はコミュニケーション、ブランディング、空間設計のプロジェクトを行なう。最近の仕事にパリ魯山人展(DSA Design Award Gold受賞)

深井

深井次郎:文筆家/エッセイスト/『ORDINARY』発行人。大卒後、上場企業子会社立ち上げを経て2005年オレンジ有限会社設立。26歳で『ハッピーリセット』(大和書房)を出版し、2013年、自由に生きる 人のための出版社「ORDINARY」スタート。

 

活字で表現することの意味、本が持つ力

思いを伝える手段は映像、写真、文字、スピーチなどたくさんある中、活字を使い表現することを選んでいるゲストたち。活字に込める思いや活字が持つ力、本の存在意義について、表現者としてどう捉えているのか?

深井次郎:文字を使うことでフェアに伝えることができると思います。例えば、写真や映像で伝えることは早いし衝撃的に伝わるが、相手は目の前に突きつけられたものを避けることができない。しかし、本というものは読み手の意志がないと読み進められないし、つまらなければそこで閉じられてしまう。そういう意味で相手に対して一番フェアで、相手の能動性に委ねる表現方法ではないかと感じています。

南木隆助:本というメディアは他の表現方法と違いとても濃いもので、ほぼほぼ人間と等しいとまで思います。その内容は他者にも伝播していく強い力を持つもので、逆にその力を持たないものは本になる資格がないのかもしれません。

『IKKOAN』は主題となった一幸庵店主・水上力氏そのものであると語る南木
『IKKOAN』は主題となった一幸庵店主・水上力氏そのものであると語る南木

黒崎輝男(以下、黒崎):インターネット上に情報が溢れている現代では、「持っておきたい」「ありがたい」と思える本しか残っていかない。つまり、何冊出されたかという発行部数ではなく影響力なのだと思いますね。

小柴美保:活字とは自分で目にして頭で考えるプロセスを読者に与えてくれるもの。それが活字ならではの面白さではないかと、自分が本を読むなかで感じます。

清田直博:本を作ることでその人の人生は変わるし、読む本も変わってくる。人の人生を動かす力がある、それが本だと思う。インターネットやSNSだとワンクッション入って薄まりがちだが、本という物質としてのメディアは思いや情熱がダイレクトに伝わりやすいと思います。

『WE WORK HERE』の製作現場
『WE WORK HERE』の製作現場

インターネット上に羅列された文字はなかなか心に残らず、右から左へと抜けていってしまう印象を持つ人は少なくないはず。だからこそ本が必要なのだと語るゲストたち。確かな物体が目の前に存在することで、作者の熱意を質感をもって伝えて読者の脳に働きかけることができる。本はそれを可能にする唯一の表現方法なのかもしれない。

 

本当に良い本を残す取り組み「BOOK TRUST」

日本を含め世界中が出版不況に苦しむ現代。地道に丁寧に作られた良い本を残したい、どこかへ出掛けるときに「この本だけは持って行く」と選ばれる本を作りたい。そんな一冊になり得る書籍だけを出版することを目的に掲げ、新しい出版・流通の形を模索する動きが進んでいる。

自由大学では様々な講義やイベントを通じ、新しい仕組みを世に送り出す活動をしている
自由大学では様々な講義やイベントを通じ、新しい仕組みを世に送り出す活動をしている

黒崎:今の大手出版社は情熱の火を心に灯しながら本を出すのではなく、すぐ損得に結びつけてしまう風潮がある。だから『本が好きな人』が喜ぶ本を作るため、熱意だけで後先考えずに出版しようとする人がこれからどんどん出てきてほしいと思います。これは現代の消費社会・経済社会では簡単ではないが、そこにはビジネスチャンスがきっとある。だからこそ自分自身が出版社になって、出したい本、必然的に求められる本を出してみよう。そのためのプラットフォームとして『BOOK TRUST』を考えています。

本が好きな人は間違いなく存在し、彼らが満足する一冊はミリオンセラーではないことが多い。そんな本好きをターゲットに、彼らが求める書籍を作るためには大手出版社に頼るのではなく、自分たちで道を切り拓いていくしかないのだろう。

自由大学で受講生を相手に熱弁をふるう黒崎輝男
自由大学で受講生を相手に熱弁をふるう黒崎輝男

黒崎:アメリカのポートランドには全米一大きい書店があり、ワンブロック全部が本屋。そこには古本、新刊本、洋書など、ありとあらゆる本が売られています。しかし日本は出版業界や本の流通の発展によって細分化され、かえって本当の本好きが本を買うのに不便な状況。だからこそ『WE WORK HERE』では新しい売り方も模索していて、バーチャルな本屋を作ろうと考えています。通販大手の本屋では今や書籍のみならず何でも売っていて本もモノという感覚だが、本の内容やストーリーをキチンと説明したサイトを作って、本好きの元へ最良の一冊を届けられる流通システムを構築していきたいですね。

出版不況で流通も傾きかけている今の流れは、インターネットの普及により避けることはできない。そんななかで書店も工夫して、じっくり本を選ぶことができる居心地の良いスペース作りや書店員による賞も出てきてはいるが、人と本が出会うためには新たな枠組みも必要なのかもしれない。

『WE WORK HERE』は製作から流通まで周囲を巻き込んだ新しい形の出版が注目されている
『WE WORK HERE』は製作から流通まで周囲を巻き込んだ新しい形の出版が注目されている

黒崎:すべてのモノは需要があって目処がついてから作られます。でも個人の熱意で本を出版すると、需要があるかどうかは分からない。だから儲けたいと思う人もいれば、儲けなくてもいいと思う人もいる。それは覚悟の問題であり、目的の初期設定だと思いますね。でも忘れてほしくないのは自分の信念や情熱の先に出版があり、『良い本を作る』『残る本を作る』ということに損得は存在しないということ。結果、たくさん売れて儲けることができても、最終的な目的は作っていて気持ちの良い本を作り、そこに面白さや豊かさがあるべきだし、その初期設定を大切にしていきたいです。

満員御礼の会場。第2部では自分の好きな1冊を紹介する「ブックエクスチェンジ」も開催
満員御礼の会場。第2部では自分の好きな1冊を紹介する「ブックエクスチェンジ」も開催

本が大好きな人やいつか自分で本を出版したいという参加者で会場は満員だった。

「クラウドファンディング」や「個人出版」という言葉を見ると、どうしても「出版費用をいくら集められるのか?」「本を出して果たして売れるのだろうか?」という金銭の話に目が行きがちだが、本を作りたいという熱意に着目したゲストたちの議論に改めて出版の意味を問いかけられた気がする。自分が持つ信念・情熱・偏愛。その先に本という表現方法があること。本の未来はその原点に立ち返ることで見えてくるのかもしれない。

写真提供:自由大学、清田直博、小柴美保、南木隆助

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