【イベントレポート】未来サンカク会議 vol.4 ~「動かす」と、「動きだす」もの…!?~〈仕事終わり、飲み会前 誰もがサンカクできる実験場〉

6月28日(金)、横浜にあるYADOKARIの共同オフィス・qlaytion galleryにて、「未来サンカク会議 」が開催されました。

未来サンカク会議は、「暮らし」、「住まい」、「コミュニティ」、「まちづくり」といった分野で新しい価値を探求してきたYADOKARIと、様々な分野の第一線で活躍されているゲストスピーカー、そして当日集まったみなさまと領域を超えて未来を創っていく、誰もが “サンカク” できるオープンな実験場です。

未来サンカク会議では、”ネオ残業”という言葉を掲げており、めまぐるしく変化していく社会の中で、普段はなかなか話をする機会のない人たちが集まり、未来サンカク会議は、肩書きを飛び越えて共に時間を過ごすことで、参加者の皆さんが新しいアイディアの着想を得たり、新しい事業やプロジェクトを共創するきっかけとなる場を目指しています。

四度目の開催となった今回は、可動産で地域を巡る旅「DOSAN NRT」というプロジェクトでYADOKARIと事業共創を行った、成田国際空港株式会社 地域共生部の木川直樹さんをゲストにお迎えしました。「動かす」と、「動きだす」もの…!?をテーマに、トークとワークショップの二部構成で行われたイベントの様子をお伝えします。

アイスブレイク

イベントは近くの方と簡単な自己紹介を行うアイスブレイクからスタート。今日呼ばれたい名前、サンカク会議参画のきっかけ、移動していきたいなと思っている場所の3つをおしゃべりし、空気が和やかになったところでトークセッションがスタートしました。

可動産を活用した新しい価値の創出

川口 直人(YADOKARI株式会社 事業推進室 / チーフオブスタッフ): 1996年生まれ。長野県出身で大学卒業後に、YADOKARIへ新卒入社。以来、自社で企画・プロデュースの高架下複合施設「Tinys Yokohama Hinodecho」の運営統括マネージャー、100均空き家物件のctocマッチングプラットフォーム「空き家ゲートウェイ」のプロジェクトマネージャーを歴任し、暮らしに関わる企画プロデュース、遊休不動産と可動産の活用企画、まちづくり支援イベントなどを主に手がける。現在は自社タイニーハウス / ヴィンテージバンなどの新規プロダクトのセールス担当や可動産を活かした企画のプロデュースを担当。

まずはDOSAN NRTでプロジェクトリーダーを務めたYADOKARIの川口が、創業時から会社の主軸として取り組んできた可動産事業についてお話しさせていただきました。近年は、固定資産である不動産に対して、トレーラーハウスやタイニーハウスなど、動かすことのできる資産が「可動産」と呼ばれています。

2011年の震災をきっかけに、お金、場所、時間に囚われないライフスタイルの実現を目指して創業したYADOKARI。長期ローンを組んで戸建住宅を購入し、返済のために忙しなく働き続ける、といったような既存の住まい方や生き方を問い直そうと、可動産に着目して事業を展開してきました。

可動産を活用した新しいライフスタイルや新しい豊かさをメディアとして発信する一方、メーカーとして自社でトレーラーハウスやタイニーハウスのプロダクト開発・販売も行っています。さらに近年は、可動産を活用した地域の賑わいづくりや魅力発信といった企画プロデュース事業にも力を入れています。イベントでは、可動産を活用した企画プロデュース事業の一部をご紹介しました。

タイニーハウスとカスタムバンを活用したDOSAN真鶴の実証実験の様子

《イベント内で紹介した事業》
・bettara stand日本橋(2016年~2017年/東京・日本橋)
・Tinys Yokohama Hinodecho(2018年~2024年/神奈川・横浜市)
・DOSAN真鶴(2022年~/神奈川・真鶴町)
・かわさきミーツ(2024年/神奈川・川崎市)
・DOSAN NRT(2024年/千葉県・成田国際空港と周辺4市町村)

暫定遊休地、負の歴史を背負ったまちの高架下、絶景スポットとして名高い無人駅の遊休地、市役所前の屋外公共空間など、それぞれの特色から活用が難しい土地、課題を抱えた土地に可動産を設置することで、人々が滞在・滞留する空間づくりを実現してきました。

DOSAN NRT実証実験中の様子@ひこうきの丘

成田国際空港株式会社と共創したDOSAN NRTでは、滑走路からの距離がわずか600mほどのところにある「ひこうきの丘」にYADOKARIのトレーラーハウスを2台設置し、トレーラーハウスに滞在する1泊2日の実証実験を行いました。

絶景スポットに設置されたトレーラーハウスに滞在するだけでなく、空港とその周辺エリアの皆様のご協力のもと、「魅力的なローカルキーマンに会いに行く旅」という付加価値を付けることで、四組の参加枠に対して全国から300人近いご応募をいただくことができました。

川口「DOSAN NRTは、「Narita Airport OPEN INNOVATION PROGRAM 2023」の一環として、成田国際空港株式会社さんと共創という形でコラボレーションさせていただきました。広大な敷地や地域プレイヤーさんとの繋がりなど、成田空港とその周辺エリアだからこそできるツアーになりました。皆様にご協力いただき、成田空港の職員さんが空港内を案内して魅力を伝えるという体験コンテンツを提供することができ、現地の”人”と出会い、時間を共にすることで、単に地域を訪れるだけでは味わうことのできない心が動く旅を作ることができたと思っています」

▼2024年5月に行われたDOSAN NRT実証実験のレポートはこちら
https://yadokari.net/event/86270/

成田空港を世界一の空港にする

木川 直樹さん(成田国際空港株式会社 地域共生部 マネージャー):  大学卒業後、2000年に成田空港会社へ新卒入社。国内LCCの就航地拡大の航空会社営業、人事室での新卒・社会人採用、社費での国内MBA留学(日本ビジネススクールケースコンペティション:通称MBA甲子園で全国優勝)等、社内ジョブローテーション制度を活用し多種多様な9部署を経験。現在は、空港周辺のまちづくりや観光事業開発を担当し、昨年実施した社外企業とのオープンイノベーションプログラムで、YADOKARI株式会社との共同事業を実現。成田空港を社員・空港スタッフみんなの力で、世界一の空港にすることが夢。

続いては、成田国際空港株式会社の木川直樹さんへバトンタッチ。まずは、あまり聞くことのできない「空港会社」の仕事についてお話が。

2024年現在、日本には97の空港がありますが、民間が管理する空港、国が管理する空港、自治体が管理する空港と様々なのだそう。成田空港は、滑走路を作るところから、航空機の給油、免税店の運営など、成田空港にまつわることの多くを民間企業である成田国際空港株式会社がマネジメントしています。

4万人近い従業員を抱え、年間約4000万人が利用する成田空港。木川さん曰く、空港自体が一つのまちのような存在で、成田国際空港株式会社は「空港の大家さん」的な立ち位置なのだとか。


木川さん「我々が入社して一番最初の研修で言われるのが、『地域と空港が共存共栄していく。これなくして成田空港の成長はありえない』ということです。千葉県の内陸に位置する成田空港では、飛行機の騒音で地域の皆様にご迷惑をおかけしている事実がございます。そういった環境の中で、地域のためにできることをしていくというのが弊社の一番大切なミッションです。

成田空港は今後、更に1000ヘクタールほどの土地を買収させていただき、3本目の滑走路を建設しています。新たな滑走路の運用が始まると空港で働く従業員が現在の4万人から7万人まで拡大していく予定です。こういった変化が起きていくなかで、我々も責任を持って空港周辺のまち作りに参画しなければならない、という課題意識を持っています。

では、どうやってまち作りに参画していくのか。そのアプローチを自分たちだけで考えるのではなく、他社との事業共創を行おうと、今回社として初めてオープンイノベーションプログラムを実施しました。ありがたいことに160件以上の応募があり、その中でYADOKARIさん含め数社の企業を採択をさせていただいたというのが、DOSAN NRTの背景です」

成田国際空港(株)とYADOKARI(株)の集合写真@ひこうきの丘

さらに木川さんは、YADOKARIとの事業共創を通して得た三つの気付きについてお話ししてくださいました。

➀「変」ーいつもの場所が特別な場所に変わる
「騒音の問題もあるので、我々の発想では空港の近隣を滞在拠点にするなんてありえないと思っていました。しかし実際に滑走路のすぐそばに滞在拠点を設けてみたら、飛行機が離発着する風景、空港の夜景、そして飛行機の音すらも一つの観光コンテンツとして楽しんでいただくことができ、マイナスだと思っていたことがプラスに変わる発想の転換を体感しました」

➁「動」ー行動こそが新たな価値を生む
「我々は空港内の管理が本業のため、これまでまちづくりという文脈で地域に対して働きかけていく機会は多くありませんでした。今回DOSAN NRTのプロジェクトをスタートするにあたり、成田空港職員、YADOKARI、そして地域の皆様と共にワークショップを行ったのですが、そこで出た『管制塔横のランプタワーで地上40mのチェックインをする』という案を実際のツアーで採用しました。自分たちが動くことによって、思いも付かないような価値が生まれる、”No Action No Future”だなと感じました」

➂「人」ー人の魅力が滞在価値を2倍3倍に
「空港の周辺は、成田山新勝寺の他に有名な観光コンテンツがそれほどなく、実証実験を行う前は来ていただいた方にどれほど楽しんでいただけるだろうかと不安もありました。ただその不安は本当に杞憂に終わって、今回一緒に事業をしていただいた地域プレイヤーさんたちの魅力が、滞在価値を2倍にも3倍にもするんだということをまじまじと感じました。

人の魅力がすべてなのは空港も同じで、我々成田空港は地理的に不利な場所にありますが、人の魅力では世界トップレベルの空港になりたいと思っています。人の魅力を最大化させて、空港職員、地域の皆さんと共に、成田空港を世界一の空港にする。この思いを伝播させる重要性を、DOSAN NRTを通して再認識しました」

もっと深堀り!クロストーク

ファシリテーターを務めたYADOKARIの山下里緒奈

お2人のお話の後は、会場にお越しいただいた方からの質問も受付ながら、ざっくばらんにクロストークが行われました。クロストークの一部をご紹介します。

Q.事業共創をするなかで心が動いた瞬間は?

木川さん「成田空港の周辺は自然豊かな地域ですが、その一方で『自分たちのまちには何もない』という方も多いんです。ですが今回のプロジェクトによって、魅力的な”人”が多いことが証明されたことはとても嬉しく、感動しました。

また、空港職員は裏方で表に出ることは少ないのですが、YADOKARIさんから『空港スタッフさんも今回は表に出てみるのはどうですか』とご提案いただきました。少し躊躇する部分もありましたが、いざやってみたらスタッフは皆活き活きとお客様に空港を案内し、喜んでいただくことができました。自分たちが何もない、できないと思っていたことも、そんなことはないんだなと感じられたのが、心が動かされた瞬間でした」

Q.事業共創をしたうえで感じた、「共創」のポイントとは?

木川さん「私は共創という言葉を難しく考えすぎる必要はないと思っています。『イノベーション=新しいものを生み出す』と大きく捉えられがちですが、私は、イノベーションというのは既存の価値と既存の価値の組み合わせから生まれるものだと思うんです。

前提として自分たちの強みを正しく把握して、それを掛け算をする相手を探すことが共創なのではないでしょうか。我々は年間4000万人が利用する空港自体が強みであるし、それに対してフックとなるタイニーハウスの企画プロデュースや、たくさんの人を集めれれるメディアを持っているYADOKARIさんの価値。これが上手く掛け算されたことによって、今回は新しい価値が生まれたのだと思います」

複数の参加者さんが手を挙げ、木川さんに質問する場面も。

Q.今回の実証実験を経て、今、どんな未来を思い描いていますか?

川口「今回の実証実験では、自信を持って良いものができたと言うことができます。成田空港さんと我々の共創という立て付けではありますが、実証実験を行うにあたって、自治体の方々や地域プレイヤーの方々とも密接に関係を築いてきました。成田空港の周辺地域には本当に魅力的な方々が多いので、トレーラーハウスという強みを活かしながら、ただ飛行機を乗り降りする場所ではなく、主体的に動くことでしか得られない価値に気付いてもらえる未来を、成田空港さんと我々が中心となって描いていきたいと思っています。

僕はYADOKARIに入社して7年目になりますが、こんなに楽しく前進できた地域プロジェクトは初めてです。事業を勧めていくなかで今後もいろいろな壁に直面するかもしれませんが、成田空港の皆さんとであれば、それを乗り越えていくのは苦ではなく、楽しく前進できるだろうという期待感を抱いています」

当たり前を「動かす」ワークショップ

トークセッションの後は、3グループに分かれてワークショップを行いました。凝り固まった固定概念をほぐしながら、これまで眠っていた地域資源や、変わらないと思っていていた”当たり前”を「動かす」ことで、どんな新しい可能性が見えてくるのかアイデアを出し合います。

サンカク会議は”ネオ残業”を掲げているため、仕事のときの肩書きを脱ぎ捨て、いつもと違う自分になれるよう、前向きなギャル、小学1年生、リアクション芸人など、くじ引きで引き当てた役割になりきるロールプレイング形式でワークショップを進めていきました。

お菓子や飲みものも用意され、和気あいあいとした雰囲気で始まったロールプレイングゲーム。「前向きなギャル」役の参加者さんが「みんな何か飲み物いる?」、「そこのテーブルでやろー♪」と早速なりきって進めている場面も見られました。

➀”今”のアタリマエ

3段階に分けて行われたワークショップ。まずは成田国際空港周辺にあるモノ・コトや課題など、”今”のイメージをポストイットに書き出し、可視化する作業を行いました。

トークセッションでのお話を思い起こしたり、AIも活用したりしながら、思い思いに書き出していきます。迷ったときにはワークシートに書かれている下記の質問を参考にしながら、ワークを進めました。

どんな人・場所がある?/オノマトペで表すと?/どんな過ごし方・暮らし方ができる?/エリアが抱えている課題は?/ポジティブイメージとネガティブイメージ

➁ひらめきリレー

続いて行ったのは、ひらめきリレー。一度成田空港から頭を切り離し、「いつか移り住むまちにあったらいいなと思うモノ・コト」を30秒で1アイデア記入し、隣の人に紙を回すという作業を行いました。

前の人からひらめきを得てアイデアを重ねていくことで、徐々に既成概念に囚われない自由なアイデアが広がっていく様子が印象的でした。

➂動かしてみる

最後は、➁ひらめきリレーで出てきたアイデアで、➀のポストイットに記したような”今”のアタリマエを壊してみたら、どんなぶっとび施策・ニュースが生まれるかを考えました。

「わざわざ来たくなる場所にするにはどうしたら良いんだろう?」と話し合ったり、「滑走路を使ってどんなスポーツができそう?」とそれぞれのキャラクターになりきって自由に発想を広げてみたりと、各チームそれぞれのやり方でアイデアを掛け合わせていました。

そのなかから特におもしろかったぶっとび施策を選び、「20××年の未来に名誉ある賞を受賞した、成田空港周辺エリアのビッグニュース」という設定で、架空の「サンカク新聞」を作りました。

サンカクアワード

最後は各グループのサンカク新聞を発表!個性的で自由なぶっとびアイデアが飛び出しました。例えば、、、

<眠らないまち・成田>
騒音問題を逆手にとり、夜の滑走路で歌って踊るイベントを開催。うるさいまち・眠らないまちとして成田をおもしろがろう!

<天に旅立つ地域・成田>
多様な人がいる成田で人生最期の時間を過ごしたい!「旅に出ること」と「この世を去ること」のダブルミーニングで、「旅立つまち」として成田をアピール。多様な国の人と交流したり、多国籍のご飯を食べたりして、最期の時間を楽しむ。旅立った後は、成田発の飛行機で散骨をする。

<滑走路で大運動会>
広大な敷地を使って運動会を開催しよう!飛行機同士で綱引きをしたりと、空港ならではのの競技をやってみたい!

各グループの個性的な発表のなかから、木川さんが最も良いと感じたアイデアが「サンカクアワード」として表彰されました!選ばれたアイデアは……

<ナリコレ~成田コレクション~>
滑走路をランウェイに見立てて、パリコレの次を行く「ナリコレ」を開催。
成田は宇宙旅行の出発地にもなっていくだろうという未来予想図から、「空港から宇宙へ」というコンセプトのもと、人間のモデルだけでなく、宇宙から来た全生命体が滑走路を歩くコレクションを行う。

木川さんは、「どの案も非常に面白かったですが、きっと近い未来は、我々は世界だけでなく宇宙も目指しているはずなので」とサンカクアワード選考の理由をお話してくれました。

交流会

イベントが終わった後は、木川さんやYADOKARI社員も含めた交流会を開催。なかには「新入社員で、先日マナー研修で名刺交換を習ったばかりなんです」という方が木川さんに名刺を渡してお話する場面も。

「なんで参加したんですか?」、「お仕事は何されてるんですか?」など皆さん積極的に言葉を交わし、年齢や職業が異なる人々が集まる「ネオ残業」を楽しんでいました。

肩書きを飛び越えて、自由にアイデアを羽ばたかせた第3回目の未来サンカク会議。この時間をきっかけに新たな「共創」が生まれるかもしれない。そんな期待と共に、ネオ残業の幕が降りました。

取材・文/橋本彩香