暮らしは陸の上だけじゃない。船の上で生きることに決めた人たち
「新しい家を見つけたんだ」友人たちからそう聞くと、わたしたちが想像するのは、一戸建ての家や、アパートの1室などだ。まさか、海の上に浮かんでいるとは考えない。
近年、ライフスタイルの変化に伴い、住宅は画一化されたものから、個々人の好みに沿ったものに変化しつつある。家のデザインや大きさ、誰と住むか、どれくらいの期間住むのかといったことが話題になる一方で、「陸に住むか、海に住むか」はあまり話題にのぼらない。実をいうと、世界には「海の上に住居を構える」人たちがたくさんいるのだ。
船の上に住むというと、なんだか不便そうな気がするが、実のところそうでもない。むしろ、船上で暮らすことは「持たないこと」につながり、ちょっとしたミニマリスト的な考えに近いと捉えれば、意外と受け入れやすいアイデアだと言える。
パッと見普通の家、だけど浮いてる。ハウスボートの暮らし
シアトルに住まう夫婦のハウスボートを見てみよう。広々としたリビングに、大きなテレビとソファ。とても暮らしやすそうで、言われないと、船の上にある家だとはわからないほどだ。
気になる揺れや排水はどうなっているのだろう?まず揺れに関しては、嵐が来て初めて感じる程度だという。排水は、トイレこそタンクに溜まるが、シャワーや水道の先は全て湖につながっているため、シャンプーや洗剤はすべて生分解性の環境にやさしいものを使うことが義務付けられているのだそう。
ハウスボートに暮らすには、手持ちの荷物を減らし、排水の都合によっては、洗剤やシャンプーについては環境負荷の低いものを選ぶ必要がある。制約が多いように感じるが、「持たない暮らし」「環境にやさしい暮らし」と捉えなおせば、そこまで縛られている感覚はなさそうだ。
都心の家探しをやめて「倹約目的のボート暮らし」の人も
自らボートハウスに住むと決めた人がいる一方で、他に選択肢がないためボート暮らしをする人もいる。ワンルームの家賃でも月20万円ほどかかるロンドンでは、高すぎる家賃と見つからない空室の結果、横幅が2メートルほどの大きさのナロウボート(narrow boat:狭いボート)に住まう人が出てきている。
家を空けることの多いカップルがシェアハウス以外で住める場所として、医者の卵、弁護士志望の学生など、お金がなくてもロンドンに住まう方法として、ナロウボートは年々人気になってきている。これまでは「ロンドンに住まうお金がない」と、夢をあきらめたり我慢したりしてきた人々がナロウボートを手に入れることで、ロンドンでチャンスをつかむことができるようになった、ともいえるだろう。
インフラやサービスが整ったクルーズ船に1日5,600円で住まう人たち
ナロウボートやハウスボートは、自分たちで船を掃除したり、メンテナンスしたりと手間がかかることもある。しかし、そのようなリスクのない、インフラやサービスが整ったクルーズ船に住まうという選択肢もあるのだ。
シアトルに住んでいたとある夫婦は、自宅を売却し、1日35ポンド日本円にすると5,600円(註:2022年当時のレート)でクルーズ船に住まうほうが経済的だと判断した。実際に、クルーズ船の家具付住居を売り出す企業も出てきており、入居者は「世界中を旅する住居」に住まいながら、船内のシアターや20店のレストラン、プールなどを利用できるのだという。
船の上の暮らしというと、ある程度の不便を乗り越えながら自分たちでやっていく、というイメージがある一方で、クルーズ船での暮らしはそういった手間を省いてくれそうだ。
「暮らすのは陸の上でなくてもいい」船の上に暮らすという選択肢
いざ船の上で暮らすとなれば、楽しいことばかりではないかもしれない。とはいえ、暮らすのは陸の上だけではない、海の上でだって楽しく暮らせる。そんな事例を知ることで、ひとつの「こうあるべき」という境界を無くし、新たなワクワクにつながることもあるだろう。
パノラマビューが楽しめ、プライベートな空間を生み出すハウスボートは、コロナ渦でのレジャーとして、ドイツなどの西欧諸国で人気のレジャーアクティビティになっている。船の上で暮らしてみたい!と感じた方は、レジャーを通して、一度船の上の暮らしを体験してみるといいかもしれない。
参考URL:
LIFE LIST.”水上に浮かぶ住宅「ハウスボート」とは?その魅力と実際の暮らしぶりをご紹介”.
https://www.homes.co.jp/life/cl-column/cm-culture/33547/
lIFE INSIDER.”クルーズ船で暮らす人が急増中…飲食代含めて1日5600円、早期リタイアした夫婦がそれを選んだ理由”.
https://www.businessinsider.jp/post-254257
WWD.”ロンドンの高学歴なミレニアルズが選択する“ハウスボート”生活の実態”.
https://www.wwdjapan.com/articles/712328
パパンめいのロンドンの暮らし方.”ロンドンの生活費がすごく高いので運河暮らしをすることにした話!イギリスでナローボート暮らし。夫と運河で新婚生活 【1】”.