読むだけじゃつまらない。生涯に1冊は本を出版する国アイスランド
長い冬の間、あまりにも暇だから本を読む。読みつくしてしまうから、自分たちも本を書く。そんな面白い国が、アイスランドだ。国民全員、生涯に一度は本を出版すると言われており、書いては読み、書いては読み…なんてサイクルを回している。
本離れが叫ばれる今の世の中で、なぜアイスランドの読書熱は保たれているのか。アイスランドのアツい読書文化の歴史をご紹介していこう。
読むのが当たり前、だから書くのも当たり前。
1人当たりの年間の読書量が平均で11.5冊、クリスマスには平均2.1冊の本を贈り、1.1冊の本を貰うアイスランド人。この勢いで行けば、本を読みつくしてしまうこともありえるのでは…そんな心配をかき消すのが、アイスランド人の出版意欲の高さだ。
アイスランドの書籍の多くは、プロの小説家やライターが執筆する。一方で、サラリーマンや自営業者などの「フツウの人々」が筆を取り、自伝を出版することも往々にしてあるのだという。生きているうちに1冊は本を出すと言われるアイスランドの執筆熱は、どうやら深い読書文化にあるようだ。
暖炉そばの物語「サガ」が生んだ読み聞かせ文化
アイスランドの文化のひとつに、サガがある。サガとは、12~13世紀ごろに北欧地方で起きたことを記した伝記や物語の総称で、当時の北欧情勢を物語る貴重な歴史資料としても知られているものだ。
歴史資料というと少し敬遠してしまうかもしれないが、アイスランド人にとってサガとはより身近なもの。暖炉のそばで、親や祖父母がサガを語るのを聞いて育った人も多いのだという。日本でいうむかし話のようなもの、と捉えるとわかりやすいだろう。このようなサガに小さなころから慣れ親しんできた子どもたちが、次第に物語を求め、自分たちで本を読み始めるようになるのだ。
寒い冬は家に籠って読書・執筆するのがアイスランド流
さらに、アイスランドの読書熱、執筆熱を加速させるのが、北欧特有の長い長い冬のシーズンだ。真冬だと日照時間が4時間にも満たないことのあるアイスランドでは、冬の一大アトラクションとして読書が挙げられる。
幼いころ、クリスマスシーズンに向けて、大手おもちゃ会社の「おもちゃ冊子」が家に届いたことを覚えている人は多いだろう。アイスランドでは、その本バージョンである「ブック・カタログ」がクリスマスシーズンに発行される。アイスランドで出版される本の約60%が冬に出版されるのは、まさに「シーズンアイテム」として本が受け入れられている証拠だといえるだろう。
思いがけない形でつながる:日本のマンガ文化とアイスランドのサガ
アイスランドのサガと、日本のマンガ文化との、偶然のつながりをご存じだろうか?実は、「サガ」が書かれた12~13世紀ごろ、日本では「鳥獣戯画」が描かれていた。動物をアイコン化して描いた絵巻は、現代のマンガの祖先とも言われている。のらくろや鉄腕アトムに始まり、さまざまな技法を凝らした漫画文化は、web漫画なども加わり、今もなお日本人に愛されている…と言えば、なんだか、アイスランドの読書文化が近く感じられるのではないだろうか。
2019年にアニメ化された作品「ヴィンラント・サガ」は、アイスランドのサガをベースにした漫画だ。こんな形で、日本のマンガ文化とアイスランドのサガが出会うのもおもしろい。
本好きが本を読み、本を生み出す好循環
どうにかして本を読むようにする、読ませるようにする。その前に、楽しんで語ったり、読んだり、書いたりすることが当たり前にできるような環境があればいいのかもしれない。アイスランドの場合は、それがたまたま、自国に語り継がれた歴史「サガ」であり、外出を阻む厳しい冬の寒さだった。
心の底から湧き上がる「読みたい欲」を満たすための読書や、あまりにも暇すぎてやることがないときに手に取るものが本である、という習慣に、どこかきゅんとするのは私だけではないはずだ。
参考サイト:
在アイスランド日本国大使館.”サガとマンガ”.
https://www.is.emb-japan.go.jp/itpr_ja/taishi10.html
在アイスランド日本国大使館.”アイスランド人の読書熱と出版熱”.
https://www.is.emb-japan.go.jp/itpr_ja/taishi11.html
Courrier Japon.”誰もが本を「読み」「書く」国、アイスランド”.