馬と共に循環する暮らしへの挑戦
機械がなかった頃、山では伐採した木を運び出す時には馬の力を借りていました。馬の力は、山のみならず畑や田んぼの代掻きなどでも出番があり、馬と協働していた人々は、馬と同じ屋根の下で、家族同様に暮らしていました。岩手県遠野市では、馬と暮らしていた時代の民家(曲り家)も残されており、今でも馬の里として知られています。
馬の里・遠野で馬と共に生きる里山での暮らし
そんな遠野でも、機械化などの影響で、人と馬との協働作業は減り、馬でモノを運ぶ馬搬(ばはん)をする馬方(うまかた)と呼ばれる人も、現在では数人ほど。そのほとんどが60〜70代の中、馬搬の技術を継承し、発展していくことに取り組んでいる若者の方々がいらっしゃいます。今回はその現場にお邪魔してきました。
道がいらない馬搬の森
今回初めて馬搬の現場にお邪魔して印象的だったことは、「道がない」ということでした。今まで私がお邪魔した林業の現場では、大型機械が通るための作業道が整備されていました。馬で材木を運び出す馬搬では、その作業道を作る必要がありません。大型機械や重機が入っていけない森林ですと、間伐した木を運び出すことに手間やコストがかかるため、間伐材を切ったまま山に残す「伐り捨て間伐」になっていることが多く見受けられます。しかし間伐材もせっかくの資源。馬搬の森ではその間伐材も運び出し、地元で薪として使ったり、木工用品を作ったりして有効活用をされています。
里山の水源の森を自ら守る
今回お邪魔した馬搬の森は、馬搬を継承・普及活動をしている地域のグループの方々の住まいや畑に流れてくる水の水源の森でもあります。森の手入れは、里山の森林や景観を保全するだけでなく、水の保全にも繋がっています。森の手入れの方法を、重機や化石燃料を使わず、生態系への環境負荷が少ない馬搬で行うことは、川下への配慮にもなります。
山で使われる高性能機械や重機は、畑や田んぼでは使えません。その逆もしかりですが、馬なら馬具や道具の一部をアタッチメントのように付け替えれば、山でも里でも活躍をしてくれます。岩間さんは「なにをもって高性能とするか、ですよ」とおっしゃっていました。それに馬なら化石燃料も必要としません。馬の燃料(食事)となる牧草も、自分たちで生産することも可能です。
馬力も再生可能エネルギーの一つ
馬搬を継承されている岩間さん達のグループには、Uターンで遠野に戻ってきた方以外に、東京からIターンで移住をされた方もいます。東京から移住されてきた菊地さんは、青森から遠野にやってきた6頭の馬(寒立馬)との暮らしをこの冬から始められました。
「馬は持続可能な社会や地域に必要なさまざまな機能を提供してくれます。馬搬で搬出した木材だけでなく、例えば馬糞は堆肥として有機農業に活かせるだけでなく、エネルギーとして給湯や暖房にも活かせます。馬を活かした林業や農業は化石燃料への依存も減らせます。そして何より、馬のいる風景や馬と人の協働作業そのものが芸術的で美しい。これらの馬の可能性を“言葉”ではなく “生き方そのものを通じて”追求したいと思います」と菊地さん。
馬と共に循環する暮らしへの挑戦『馬人』プロジェクト
2050年までに地球1個分の暮らし。その暮らしを馬と共に豊かに。その実現のために、地元の方々のご協力を得ながら、馬と一緒に確実な一歩を踏み出した『馬人』プロジェクト。メンバーの方々の信念を持った生き方が反映されています。現地では、馬搬の見学や馬耕イベントなどを定期的に開催されています。今後はホースセラピーなども提供されていく予定です。馬搬はもちろん、馬や馬との暮らしにご興味ある方は、ぜひ一度遠野に足を運んでみて、“馬と暮らす持続可能な生き方”に触れてみてはいかがでしょうか?
関連リンク
・馬人 / 馬人 Facebookページ
・馬力舎 / 遠野馬搬振興会
・風土農園ブログ「フウドの日々暮らし」
TV放送のお知らせ
震災後に馬搬が漁師小屋再建に関わったお話と、現在取り組んでいる馬搬の森で菊地辰徳さんが馬搬トレーニングしている様子が「BS日テレ 森人」(2014年3月16日(日)、3月30日(日)18時~)で放送されます。是非ご覧下さい!