はじめまして、“農ある暮らし” 〜お試し農体験で始める自分なりの農〜

“農業”と“農ある暮らし”の違い

労働時間が長くて、休みが少ない。おまけに収入も不安定。
“農業”というワードから連想されるイメージは必ずしもポジティブなものばかりとは限らない。
事実“食を支える”というポジティブなイメージの裏側ではこうしたマイナスイメージ通りの現状が存在する。

日本人の平均実労働時間が7時間54分と言われる中、7割を超える一部の農家さんが8時間以上働いている現状。中には12時間を超える農家さんも1割程度もいるというから驚きだ。

農家の現状⑴:長時間労働
ポケマル調べ

また、平均108日と言われている日本の年間休日。8割以上の農家さんの年間休日は84日以下。
そのうち、65日未満は全体の6割を占めるので、1カ月あたりの休みも5-6日。想像すると、なかなかハードな日常であることが容易に想像できるだろう。

農家の現状⑵:年間休日が平均以下
ポケマル調べ

こうしたいわゆる“農業”に対して、近年広まりつつあるのが“農のある暮らし”という生き方。1990年代に塩見氏によって提唱された「半農半X」の考え方も、農ある暮らしに紐づけられる。自分や家族の食べる分の食材を自給でまかない、残りを「X」つまりは自分の心からやりたいと思える天職に時間を充てるというものだ。

ただ、農に携わると言っても、その関わり方や度合いはかなり柔軟でよいとされている。田舎で電気に極力頼らない完全自給自足生活を送るといったものから、都会のアパートのバルコニーで野菜を育てる程度まで。農部分とX部分にかける時間を自分で選ぶことが出来るため、労働時間や休日日数に対する柔軟性がある。

 

また、農部分とX部分を掛け合わせた新たな取り組みを始めることも選択肢として生まれえる。例えば、自宅のオフィスを改装したカフェで、自分の畑で育てた野菜を使ったメニューを開発する。自分でもち米を育てつつ、全国を巡る楽器奏者が各地のライブハウスでお米の販売を行うといった例も実在する。
このように“農業”と“農ある暮らし”の一番の違いは、農に充てる時間や関わり方の柔軟性。それから“農”はあくまで自給的なものであって収益をあくまで二次的な副産物と捉えるという考え方も違いと言えそうだ。

“農ある暮らし”ってどうやって始めるの?

新型コロナウイルスの流行で家庭菜園を始めた。
フルリモートが可能となったので思い切って実家のある地方に移って畑を引き継いだ。

農業に関する記事や、周囲の友人の話を聞いている中で、新型コロナウイルス流行前よりは田舎暮らしや移住を始めるハードルは確実に下がっていると実感することが多い。実際に、家庭菜園で比較的場所を問わないさつまいもの栽培を始めたことをきっかけに、農業高校に通った方も身近に存在する。自分用の野菜を育てるためにという目的で始めたものの、今では週末のマルシェで焼き芋として販売したり天職としても農を取り入れている程だ。

とはいえ、こうした例は実は極稀なこと。今日明日でいきなり今の自分がいる住環境をガラリと変えることはなかなか難しい。農ある暮らしを実践したい、憧れがあると思っても、実際に始めるまでのハードルが高そう…と思っている方もいらっしゃるのではないだろうか。

そこで今回は、そもそも“農ある暮らし”ってどうやって始めるのか。
住む場所を変え、田舎暮らしをしなくてはいけないのか、大きな畑や庭がないと出来ないのか。そんな方々に向けた“農ある暮らし”を始める第一歩となりそうな事例を今回は紹介していく。

“農ある暮らし”をお試ししてみよう:海外のWWOOFという考え

ライター作成

皆さんは海外で盛んなWWOOFという取り組みをご存じだろうか?特にオーストラリアではよく聞く取り組みである。ウーファーと呼ばれる労働者が、ホストと呼ばれる農家の元へ住み込みをする。彼らは1日平均4-6時間の労働力を提供する。そしてその代わりに、ホストは寝床と食事などの住環境を提供する。このWWOOFと呼ばれる仕組みにおいてにおいて給与は発生しない。しかし、ウーファーは農の知識や新しい人脈を獲得し、ホスト側も人手や新たな人脈を獲得するという双方にとってwin-winな関係が成立する。

ライター作成

両者がWWOOF専用のサイトに登録し、プロフィール欄に情報を入力することでマッチングするという仕組みの下で行われる。ウーファーは農家の暮らしを体験することで農をより身近に感じることが出来る。
金銭のやり取りを交えない交流の中で新たな人脈や農業での知識を獲得し、自らの生活に“農”を取り入れ心豊かな生活を送るきっかけに繋がる。

“農ある暮らし”をお試ししてみよう:日本で見つけたWWOOFに近い経験

日本にもWWOOFは存在するが、なかなか日常で単語を聞くことは少ない。
確かにお給料を頂いて、農家に住み込みをするサービスや取り組みはいくつか存在する。「おてつたび」と呼ばれ、「お手伝い」と「旅」を掛け合わせた名前で自分に合った条件で農家さんの下でお仕事をするサービスは最近テレビでもよく取り上げられている。

だが、“農ある暮らし”において収入はあくまで副産物。これまで生きるために稼ぎ、お金を使うことでのみ得ていた幸福感。それを半自給的で小規模な農に携わることで、得ることが“農ある暮らし”の本来あるべき形と言える。

島旅農園「ほとり」公式画像

そこで今回御紹介するのが香川の離島にある「島旅農園ほとり」と呼ばれる宿での農体験。

この宿では「ヘルパー」と呼ばれる制度が存在する。この制度では、WWOOFと同じく給与が発生しない。代わりに、宿での宿泊および食事の提供(ほとりでは共同調理スタイル)が約束されている。ヘルパーの主な内容は季節ごとに変化する農作業で、募集期間は1週間からの日程で行われている。

しかし、どうしても農体験を経験したかった私。オーナーの唐崎さんに無理を言って1日限定のヘルパー体験をさせていただいた。

宿のオーナー兼島唐辛子農家でもある宿主の唐崎さんが家庭菜園として使用している畑の農作業。農薬・化学肥料不使用の畑において季節に応じた農業体験をすることが出来る。私が向かった10月は、秋冬野菜の種まきと植え付けが主な作業だった。

まな板上の収穫野菜
photo by ライター
収穫野菜(ねぎ)
photo by ライター
収穫野菜夕食
photo by ライター

スーパーがないため食材を購入するにはフェリーを用いて本土へ出向く必要がある離島。
唐崎さんの畑で収穫された畑の作物は、彼普段の食事や宿でお客さんに提供する料理に使用される。

農体験と一言で言っても単なる収穫体験とは少し異なる。
まずは土をならして畝を作るところから。初めての農具の重さや力仕事に手こずる。野菜によって土の表面に植えたり、少し深い部分に植えたり。唐崎さんの解説を基に農作業を進めていく。
終わる頃にはクタクタ。だが、一筋縄ではいかない種まきや土ならしを経験し自分の心の声が聞こえたり。少し冷静になれたり。農作業に集中することでこれまで気に留めることが少なかった自然について考えているから不思議だ。
そして、夜ご飯には唐崎さんが以前畑で収穫したねぎやお味噌汁を使った料理を共同調理という形で自炊を行う。島でおじちゃんから頂いた無花果、おばちゃんが獲ってきたひじき。誰かのことを思い浮かべながら頂く食事は思いがけず感謝やそのありがたみについて気づかされる。

東京へ戻った後も逐一、唐崎さんが生育状況について連絡をくださる。実際に自分が畑を持っているわけではないが、自分が植えた種が育っているのを見聞きする。労働力の代わりに対価を頂く普段の労働とは全く異なる。第二の故郷とも言える場所や唐崎さんを通じた他の農家さんとのご縁が、今回の経験によって心の豊かさに直結していることを日々実感する。

「ほとり」野菜生育状況「ほとり」かぶ成長後
自分の畑があるわけではないが、これもまた新しい“農ある暮らし”の在り方のように思う。離島で頂いたご縁が、畑を通じてまた、離島へ向かう理由にもなりえる。

一口に“農ある暮らし”と言ってもその在り方は十人十色。田舎暮らしをして自分の畑を持つのことも、私のように自分の畑はなくとも各地の農家さんの元へ出向いて”お試し農体験”を積むのも農との関わり方の1つの形だ。このように時間的拘束や収入に囚われない新しい農との関わり方を見つけてみてはいかがだろうか?自分なりの、そして自分だけの“農ある暮らし”を楽しんでみてほしい。

(参考元)

https://www.japantimes.co.jp/life/2023/01/21/%20lifestyle/han-no-han-x-farming
https://wwoof.com.au/
https://poke-m.com/stories/621?_k_ntvsync_b=eyJhcHBfaW5mbyI6eyJtb2R1bGVfaW5mbyI6eyJjb3JlIjoiMi4xNC4wIiwidXRpbGl0aWVzIjoiMy4zLjAiLCJpbl9hcHBfbWVzc2FnaW5nIjoiMi44LjEiLCJyZW1vdGVfbm90aWZpY2F0aW9uIjoiMi40LjAiLCJ2YXJpYWJsZXMiOiIyLjEuMCJ9LCJzeXN0ZW1faW5mbyI6eyJkZXZpY2UiOiJpUGhvbmUiLCJvcyI6ImlPUyIsImJ1bmRsZV9pZCI6ImNvbS5wb2tlbS5wb2NrZXRtYXJjaGUiLCJzY3JlZW4iOnsid2lkdGgiOjQxNCwiaGVpZ2h0Ijo4OTZ9LCJtb2RlbCI6ImlQaG9uZTEyLDEiLCJvc192ZXJzaW9uIjoiMTYuMy4xIiwibGFuZ3VhZ2UiOiJqYS1KUCIsImlkZnYiOiJDMUQ0RDA3RS1GMDNFLTQ4QjAtOUMwOC1CREJGQUI2NDRBQTQifSwidmVyc2lvbl9uYW1lIjoiMi43MC4yIiwia2FydGVfc2RrX3ZlcnNpb24iOiIyLjE0LjAiLCJ2ZXJzaW9uX2NvZGUiOiIxIn0sInRzIjoxNjgyNDYxNDE2LjQzNDgzOSwidmlzaXRvcl9pZCI6IjkzM0FFOUZBLTEzNTctNDcyMi05QkQ1LUM3QzBGMkI4NTdGMSIsIl9rYXJ0ZV90cmFja2VyX2RlYWN0aXZhdGUiOmZhbHNlfQ==
https://www.asahi.com/sp/articles/ASQ6Z43TRQ62OXIE005.html
https://shimatabi-hotori.wixsite.com/official/general-3