「クィア映画」の歴史と名作|“クィア”に生きていくということ

クィア映画の歴史と“クィア”

「クィア映画」とは、LGBTQ+を登場人物にした作品や、当事者たちが制作した映画のジャンルを指します。

元々“クィア(Queer)”という言葉は、「奇妙な」「風変わりな」といった意味合いを持ち、ゲイやトランスジェンダーに対する蔑称でもありました。しかし、そんな“クィア”という言葉を性的マイノリティを包括する呼称として当事者たちがあえて名乗ることで、差別に打ち勝とうとしてきた歴史があります。そのため今回もLGBTQ+映画を、あえて「クィア映画」と呼ぶことにしましょう。

20世紀初頭の映画には、性的マイノリティな人物はほとんど登場しませんでした。その後LGBTQ+が映画内で描かれることはあっても、引き立て役のような役割が多く、主人公となることはほぼありませんでした。またアメリカ映画界では、1934年から68年まで「ヘイズ・コード」によって同性愛描写が禁止されていたように、映画界ではヘテロセクシュアルな物語が長く受け入れられてきました。

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しかし1990年代に入り、LGBTQ+を描いた作品が「ニュー・クィア・シネマ」と呼ばれるなど、クィア映画が人々に評価されるように。カンヌ国際映画祭の独立賞の一つとして、“クィア・パルム”賞が生まれるなど、映画界においてクィア映画が一定の地位を築くように変化してきたのです。

クィア映画の名作を紹介

LGBTQ+を描いた作品には、様々なものがあります。今回はその中でも、特に「映画史に影響を与えた」と言える、2000年代以降のクィア映画をご紹介しましょう。

『ブロークバック・マウンテン』(2005)

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2006年のアカデミー賞で監督賞を含む3つの賞を受賞した作品。
監督はアジア系のアン・リーで、ジェイク・ギレンホールと今は亡きヒース・レジャーが主演を務めました。

アメリカ西部、出稼ぎ労働先の牧場で出会った、カウボーイ同士の恋愛と人生を描くストーリー。60年代アメリカの封建的な社会の中、受け入れられない葛藤や想い、その行き先が描かれています。

本作品は同年のアカデミー最作品賞の最有力候補と言われていたものの、結果は敗退。当時言われていた「同性愛を扱った映画は作品賞を獲れない」というジンクスを破ることはできませんでした。

アン・リー監督/134分/アメリカ
原題:Brokeback Mountain

『わたしはロランス』(2012)

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2012年度のカンヌ国際映画祭 クィア・パルム賞を受賞した作品。カナダ・モントリオールに住む国語教師ロランスが、恋人フレッドに「これまでの自分は偽りだった。女になりたい。」と打ち明けてから10年間にわたる、2人の姿を描いた物語です。

本作品は、生まれた時に割り当てられた性別と、自身で認識する性が異なるトランスジェンダー女性を描いた一作と言えます。公開当時23歳だった、若き奇才グザヴィエ・ドラン監督独自の映像表現が素晴らしい映画です。

グザヴィエ・ドラン監督/168分/カナダ・フランス
原題:Laurence Anyways

『アデル、ブルーは熱い色』(2013)

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カンヌ国際映画祭で審査委員長のスティーヴン・スピルバーグが称賛した作品。青い髪をした美大生・エマと強烈な恋に落ちた高校生・アデルを描いた物語で、当時はベッドシーンも話題になりました。

本作品は、カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞。監督だけでなく主演を務めたアデル・エグザルコプロスとレア・セドゥの2人にも賞が授与され、賞賛を浴びました。

アブデラティフ・ケシシュ監督/179分/フランス
原題:La vie d’Adele : Chapitres 1 et 2

『キャロル』(2015)

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ミステリー作家 パトリシア・ハイスミスが、彼女自身の体験を基に書き、1952年に大ベストセラーとなった原作を元に作られた一本。1950年代のNYを舞台に、高級百貨店でアルバイトをする若い女性と、娘を持つ女性の間に芽生えた恋情を描いています。

本作品は、第88回アカデミー賞 作品賞・監督賞の最有力候補と言われたものの、ノミネートされることはなく、各所から惜しまれる声が上がりました。

トッド・ヘインズ監督/118分/アメリカ・イギリス
原題:Carol

『ムーンライト』(2016)

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第89回アカデミー賞で、クィア映画としてはじめて作品賞を受賞した一本。「同性愛を扱った映画は作品賞を獲れない」というジンクスを打破し、まさに歴史を変えた作品となりました。

物語はマイアミの貧困地域で育った主人公シャロンが、黒人としてのアイデンティティやセクシュアリティを模索しながら、人生を歩んでいく…というもの。幼少期・青年期・成人期の3つの時期にわたって、家族や友人との関係や成長が描かれています。

キャスト全員が黒人であることでも話題になった本作品は、アカデミー賞で8部門にノミネートされ、作品賞だけでなく脚色賞・助演男優賞の3部門を受賞しました。

バリー・ジェンキンス監督/111分/アメリカ
原題:Moonlight

@via:https://www.austinchronicle.com/

今回はクィア映画の歴史と、映画史に残る名作を紹介しました。

これらの作品では、各時代において“クィア”に生きていくということがいかに難しかったのか、そんな中で生き抜いてきた彼ら/彼女らの強さ……また、時には未来への希望が描かれています。

あなたも、是非これらの名作たちに触れてみてはいかがでしょうか。