すこしずつ、発酵。 -大量廃棄なんて勿体無い!生まれ変わる酒粕-

そもそも酒粕って何?

熱燗の季節が終わり、少しずつ温かくなってきた今日この頃。ビールもいいけれど、季節によって味わいを楽しめる日本酒も最高。ぬる燗や冷酒なんかも美味しい季節に…。おっといけない。

そんな季節によって楽しみ方を変える“日本酒”。今回は、そんな日本酒を造る過程で生まれる副産物“酒粕”がテーマだ。日本酒を醸造させる為に必要な酒母と呼ばれる酵母。酒母に蒸米・麹・仕込み水を加えて発酵させる“醪(もろみ)”を搾る段階で、液体の日本酒と固体の酒粕が発生する。

参考:https://jp.sake-times.com/knowledge/word/sake_sakekasuを基に作成

酒粕を取り入れるメリット

酒粕は健康食品としての価値だけでなく美容効果も高いことから、多くのメリットが期待される。

参考:https://magazine.asahi-shuzo.co.jp/know/166を基に作成

美容面ではシミの元となるメラニン生成を抑制するコウジ酸が含まれている他、肌の調子を整えるビタミンB群や腸内環境を整えお通じ改善に効果的なオリゴ糖も含まれる。また、健康面では、酒粕に含まれる必須アミノ酸はたんぱく質の元となり栄養補給に効果的であるため、高血圧や肥満防止に効果的である。他にも、100種以上の酵素の働きによって消化吸収率が上がり、新陳代謝が活性化される働きがある。

摂取するメリット以外にも、料理の旨みを向上させる効果のあるとされる酒粕。一例として、酒粕を手軽に取り入れられる粕汁は、料理面・美容/健康面での効果を享受できる点で一石二鳥だ。

photo by writer

このように健康食として有用なだけでなく、美容効果も期待される酒粕だが現在”大量廃棄”されているという現実に直面している。

酒粕が大量廃棄されている現状

農林水産省の資料を基に作成

日本酒造りにおいて使用される日本酒好適米(酒米)のうち、酒粕となるのは全体の3-40%と言われている。
昨年の令和4年度は79.000tであるから、年間およそ20,000tの酒粕が生産されている。

かつてはキロあたり260円以上で取引をされていたとされる酒粕だが、現在はおよそ0円〜70円、中央値は30円程にしか満たないそうだ。つまり、酒粕の価値は90%以上も減少しているという事になる。

農林水産省の資料を基に作成

伝統的に“粕汁”や粕漬け等の食品として食べられたり、畜産農家の飼料として活用されてきた。しかし、取引価格低下による価値低下に伴って活用方法の拡大も限られている。こうして酒粕は、その優れた機能面とは裏腹に産業廃棄物として大量廃棄されてしまうことが少なくない。確認されているだけでも少なくとも年間約1800tは廃棄されているそうだ。

そこで今回は、捨ててしまうのはあまりにも勿体無い酒粕を、食の観点から暮らしに取り入れるヒントを探ってみようと思う。いくつかの企業で取り組みまれている、酒粕に付加価値を付けて生まれ変わらせるアップサイクル。実際に作られた商品を試してみた。

他にも、酒粕・甘酒など冬料理のイメージが強い酒粕を初夏の今美味しく食べられるようなレシピを考えてみた。スーパーで棚の隅で派手な主張もなく静かにその場に収まっていた酒粕。私が手にするとあまりにも嬉しそうに目を輝かせていた彼を、今日は主役にして差し上げたいと思う。

酒粕を暮らしに取り入れるという発想

 

①【飲料】クラフトジンという選択

「循環経済を可能にする蒸留プラットフォーム」をモットーに、酒粕からクラフトジン等の蒸留酒を生産するエシカル・スピリッツ株式会社。全国の酒蔵から本来であれば廃棄されていたはずの酒粕を購入し蒸留酒にアップサイクルさせる取り組みを行っている。

参考:https://shop.ethicalspirits.jp/pages/about-usを基に作成

蒸留酒の販売代金で米農家から購入した新米を今度は、酒蔵に納品することで酒粕が廃棄されることのない循環経済を生み出しているという。

こちらの企業によって販売されている、LAST GIN EPISODE 0シリーズと呼ばれるクラフトジンはMODESTとELEGANTの2種類のフレーバーから成る。ラベンダーやハイビスカスを中心とした香りのMODEST、生姜やシナモンの風味と味わいを取り入れたELEGANT。エレガントという自分とは程遠い表現へのないものねだりに惹かれ、早速購入してみた。

photo by writer

アルコール度数47%という数値に驚きつつも早速試してみる。

photo by writer

生姜だろうか。少しピリッとする香りが鼻を抜け、キリッとした味わいが舌に残る。夏のこの時期にピッタリな香りと味わいを感じさせてくれた。そしてほのかに酒粕が香るのが何とも言えない。とはいえ、甘酒のようにガツンと来る香りではないので酒粕が苦手な方でも飲めそうな気がする。

初夏の毎日の晩酌に持ってこいの一杯になった。こうなるとMODESTも気になってくるところ。至福の一杯を味わえて、しかもそれが酒粕の廃棄対策に繋がるならば喜んで酒豪になりたい。そんなことを思った。

②【食】酒粕由来の植物性発酵マヨネーズという選択

世界的にも注目度の高い“植物性由来のマヨネーズ”。アメリカでも市場規模の拡大は顕著だ。そんな植物由来のマヨネーズの主原料は一般的に豆乳・若しくは亜麻仁油やオリーブ油等植物由来の油脂であることが多い。そんな中、”酒粕由来”という新たな植物由来のマヨネーズが開発された。

photo by writer

無肥料無農薬の自然栽培米を使った「田んぼから醸造まで無添加」のコンセプトでお酒を醸造する「稲とアガベ株式会社」は秋田県の企業。日本酒の製造技術に長けた企業によって開発されたのが酒粕を使った植物性のマヨネーズ風調味料「発酵マヨ」だ。味や使い道は、一般的なマヨネーズと同じでありながら原料は全て植物性。田んぼから醸造まで一切の添加物を使用していない「酒粕」を主原料としている。

今回は、農家さんから購入したじゃがいも(ポム・デ・ラットと呼ばれるモッチリとした品種)と共に家庭菜園で摂れた大葉とシンプルに和えてみた。

photo by writer
photo by writer

しっかりとコクがありながら、酒粕の特有の風味がそこまで強くない。優しい甘みと酸味がじゃがいもとよく絡んで非常に美味しかった。

マヨネーズという、汎用性の高い調味料であることでより一層、料理の幅が広がりそうだ。こちらの発酵マヨネーズはからしや青のり、トリュフ風味などユニークな風味も同時に発売されており、食べ比べることで二度三度、いやそれ以上に酒粕ライフを楽しめそうだ。

③自宅で出来る簡単酒粕アレンジレシピ【酒粕プリン】

より身近に酒粕を暮らしに取り入れられるヒントとして、今回紹介するのは「酒粕プリン」である。
粕汁や甘酒など、どうしても“冬の料理”としてのイメージが強い酒粕。だが、初夏の今の時期に楽しめるメニューも沢山ある。酒粕味噌ディップや、酒粕チーズテリーヌなどなど様々あるが、今回は簡単に出来る酒粕プリンを紹介する。

材料もたった4つ。粕汁のように沢山具材を用意する必要も、煮込む必要もない。
【材料】仲良く2人分
①酒粕…20g
②豆乳…300ml
③砂糖…お好みだが大さじ2程度
④粉ゼラチン…5g
(お好みでトッピング用フルーツソースやきな粉、フルーツ)

ゼラチンを水で戻す。豆乳に酒粕と砂糖を加えて程よくレンジで温めて溶かす。ゼラチンを加えて冷蔵庫で冷やし固めたら完成だ。今回はココアパウダーと桃缶をトッピングした。

photo by writer
photo by writer

ツルッと食べやすい食感に、優しい酒粕がふんわりと香る逸品。味も、酒粕の主張はそこまで強くなく、豆乳のコクがまろやかにしてくれる。初夏のおやつにいかがだろうか?しかも、ズボラに食べるのであれば、ボウル1つで完結してしまう手軽さ。

このように、お肌の調子を整える美容効果に加えて、たんぱく質やアミノ酸を豊富に含み健康にも非常に良いとされる酒粕。料理の旨みすらもアップさせるとはあまりにも出来すぎているように聞こえるが、暮らしに取り入れることで新たな味わいや健康意識向上に繋がりそうだ。

料理だけでなく、飲料、そしておつまみやスイーツにも大活躍する酒粕。もはや、今すぐスーパーに駆け込んで今晩の夕食に取り入れてみてはいかがだろうか?

(参考文献)
栄養満点な「酒粕」を取り入れよう。効果と使い方を解説 – KUBOTAYA
日本酒造りで必ず生まれる副産物「酒粕」は栄養たっぷり!【専門用語を知って日本酒をもっと楽しく!】
「酒母(しゅぼ)」とは? 日本酒造りで重要な酒母について解説【日本酒用語集】
スーパーフード酒粕はすごい、体に期待できる健康美容効果6つを紹介 | syuumeilife
酒粕を活用してジンを造るエシカル・スピリッツ─捨てられてしまうものから新たな価値を見出す【日本酒とサステナビリティ】 | 日本酒専門WEBメディア「SAKETIMES」
「酒粕リユース・クラフトジン」好評につき、革新的フレーバーの新作発売決定!
「酒粕リユース蒸溜所」産業廃棄物として処分される酒粕をリユースし、ジンを創ると共に循環経済を実現する世界初のプロジェクトが始動
酒粕など廃棄される食材を活用する食品加工場「SANABURI FACTORY」オープンに向けて本日4月26日(火)11:30よりCAMPFIREにてクラウドファンディングを開始
マヨラーも知らない!酒粕をアップサイクルすると「発酵マヨ」になる! | Planet M
Vegan Mayonnaise Market Share and Demand Analysis with Size, Growth Drivers and Forecast to 2028
Why You Shouldn’t Waste Sake Kasu | Hakko Hub
What to do With Sake Kasu – Alternative Uses | Hakko Hub
chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.maff.go.jp/j/seisaku_tokatu/kikaku/attach/pdf/sake_r4seisan-6.pdf
簡単!もちプル酒粕豆乳プリン レシピ・作り方 by とんcoock 【クックパッド】 簡単おいしいみんなのレシピが384万品