自治体と一緒に地域創生。タイニーハウスで村をブランディングし、移住者用住宅としても活用|山梨県小菅村の事例

私たちYADOKARIはさまざまな自治体と連携し、その地域の課題解決に向けて、YADOKARIならではの特徴・強みを活かしながら一緒に取り組んでいます。その一つの事例として、2017年から開始した山梨県小菅村での「タイニーハウスデザインコンテスト」についてご紹介します!

人口約730人の村を官民共同でプロモーション

秩父多摩国立公園内に位置する小菅村。清流には多くの釣り人も訪れる。広大なブナの原生林から端を発する豊かな水が首都圏を潤している。

小菅村は、山梨県にある人口約730人の小さな村です。首都圏の水源である多摩川源流部に位置し、村の総面積の約95%を森林が占め、山あいに点在する8つの集落からなります。アクセスは新宿から電車とバスを乗り継いで約2時間20分、車なら2時間弱。毎日行き来するには少し遠いですが、休日にレジャーなどで訪れるには程良い距離感です。

小菅村の舩木(ふなき)村長と温泉施設「小菅の湯」。就任以来、集客できる村の施設を整備し、先駆的な取り組みで村民の雇用を生み出し続けている。

この小菅村は、平成の大合併の際に独立独歩の道を選びました。日本中の中山間地域がそうであるように、小菅村にも人口の自然減、少子高齢化、地場産業の衰退といった課題が待ったなしに押し寄せていますが、そうした課題に対して、革新的で柔軟な考え方を持った村長のもと、新たなチャレンジを次々とスピーディーに実施し、成果を上げています。

2017年の第1回コンテストの最優秀賞は、村内で最も集客のある施設「道の駅 こすげ」の敷地内に実物が設置されている。

例えば、村内に「道の駅 こすげ」を併設した温泉施設「小菅の湯」を整備し、キャンパーやバイカーを呼び寄せる取り組みや、100年以上にも渡って大切に守られてきたブナの原生林等の豊かな自然を体験できる「源流親子留学」などの取り組みを行ってきた結果、ここ5年ほどで、小さな子どものいる20代・30代の家族が移住してくるようになりました。

こうした移住者や、村に足を運んでくれるファン=関係人口をさらに増やしていくために、小菅村とYADOKARIが官民共同で企画・展開しているのが、タイニーハウスを活用したプロジェクトです。

プロアマ問わずタイニーハウスのデザインを公募

2017年 第1回コンテスト最優秀賞 光賀博紀さん・佐藤貴樹さん
2018年 第2回コンテスト最優秀賞 蜷川結さん
2019年 第3回コンテスト最優秀賞 滝川麻友さん

プロジェクトの中核を成しているのは、2017年から年に1回開催している「タイニーハウスデザインコンテスト」です。

建物規模が約6坪ほどの「小さな家」のデザインをプロ・アマ問わず公募し、受賞作は村内に実物が建築される可能性もある(2020年は実物の建設は見合わせ)このコンテストは、初回から建築業界でも大きな注目を集めました。

審査会では、村長をはじめ、プロジェクトの現地責任者でもある建築家 和田隆男さんや、YADOKARI代表のさわだいっせい・ウエスギセイタも審査委員を務め、専門的な知識やパース図の精度などよりも、小菅村での新しいライフスタイルを想起させる夢のあるアイデアを重視して選考を行ってきました。

タイニーハウスが村の認知度を高める

回を重ねるごとにこのコンテストへの応募数は拡大。タイニーハウスに代表される小さな暮らしが全世界的なムーブメントになっていることもシナジーを生み、日本国内はもちろんのこと海外からも作品が集まるようになってきています。それに伴い「タイニーハウスの小菅村」の認知も拡大し、コンテスト応募に向けてアイデアを練るため、小菅村 を新たに訪れる人も多くなりました。

YADOKARIは、このタイニーハウスデザインコンテストの企画およびプロモーションに構想段階から伴走させていただき、専門分野であるタイニーハウスを中核に据えたプロモーションの設計、 公式サイトの制作、PR・発信、ユーザーとのコミュニケーションなどを主に担当しております。

>> 小菅村タイニーハウスデザインコンテストの公式サイトはこちら

複合的な村の課題の解決に寄与

山あいの集落の一画にはタイニーハウスが複数建設され、移住者を中心としたご近所付き合いも活発に行われている。

このタイニーハウス・プロジェクトの成果は、村の認知拡大だけではありません。

村内のあちこちに建設されたタイニーハウスは、コンテスト開始時から累計で10棟以上にもなりました。これらは村の森林から切り出した材木を使って建築されており、林業の衰退とともに人の手が入らなくなって荒れていた山の保全や森林資源の活用に寄与している他、地元の大工さんらが施工することで地域経済の循環にもつながっています。

また、これらのタイニーハウスは8つの集落に散らばって存在し、村役場に勤務する若手職員や移住者たちの住居として活用されています。各集落にタイニーハウスがあることで、訪れた人に小菅村を印象づけるユニークな景色を創出しているだけでなく、そこに住む若い世代が高齢化社会の見守り・サポート役を自然と担ってくれています。

このように小菅村のタイニーハウス・プロジェクトは、対外的なシンボルとしても、村内の複合的な課題を解決し社会・経済・環境の状態を向上させる生態系の要としても、効力を発揮しています。

デジファブとの連携でものづくり村へ進化

最新のデジタルファブリケーションを備えた「小菅つくる座」では、県外から移住してきた地位おこし協力隊の若者たちが村民と一緒にものづくりに励んでいる。

ところで、山村への移住者にとって問題となるのは、住居の他にやはり「仕事」、経済的な基盤をどうつくるかという点です。

小菅村の舩木村長は「村民全員のなりわいづくり」をモットーとし、恵まれた自然を生かした観光資源を中心に、村内での仕事を数多く生み出し続けています。その一つが、旧公民館を活用したデジタルファブリケーション工房の開設です。

村の森林資源の活用の可能性を広げようと、最新のデジタルファブリケーション機材を設置し、地域おこし協力隊の制度を用いて、この工房で講師やプロダクト開発を担う若手を募集。30代の1組の夫婦と20代の男性がこれに応募し、現在、小菅村のタイニーハウスに住みながら、村人にデジタルファブリケーションを使ったものづくりワークショップの実施や、小菅村の新たなプロダクト開発、村内にある会社や商店から受注した家具類の制作などに取り組んでいます。

小菅村はタイニーハウスと合わせて、将来的には「ものづくり村」としてのブランディングも構想しています。

村にクリエイティブな人材が流入

2018年 第2回コンテストからはYADOKARI賞も新設。サウナによるコミュニティと事業の創造を描いた大西洋さんの作品が受賞した。
2019年 第3回コンテストYADOKARI賞 三輪良恵さん、塚本奏太さん、阿部雄介さん、伊原大樹さん

こうした村内での仕事だけでなく、都心から2時間という距離であれば、都心での仕事をそのまま続けながら小菅村に住むことも可能です。実際にテレワーク等も取り入れて、時々都心のオフィスへ出社しつつ小菅村に家族で住んでいる方もいます。「2拠点生活」の拠点としても現実的な立地と言えるでしょう。

舩木村長は基本的に、移住・定住にこだわりすぎず、関係人口を増やすことを大切にしたいという方針。「地域おこし協力隊や起業する人へのサポートを惜しまず、新しいチャレンジをしたい人が夢を実現できる村でありたい。人生のステージが変わってこの村から出て行くことになっても良いんです。タイニーハウスは、移住してくる若い世代のための住居や、観光で訪れる人たちの宿泊施設として期待を寄せています」と語っています。

タイニーハウスに惹かれるクリエイティブな人材の流入によって、起業や新たな産業の誕生につながり、それが村の未来へつながれば、という考え方です。

タイニーハウスによる村の資源の活用と経済の循環

2つ目の拠点として小菅村のタイニーハウスに住みながら、タイニーハウスを用いた地域創生に取り組む建築家 和田隆男さん。主に現地の実務の責任者としてYADOKARIと一緒にプロジェクトを推進している。

また、小菅村タイニーハウス・プロジェクトの牽引役である建築家 和田さんは、この取り組みについて次のように述べています。

「やはり村特有の資源をどう活用するかは重要な課題です。森林は手をかければどんどん良くなるし、手をかけないとどんどん悪くなる。“都会の視点”で見ればコスト重視で輸入した材木になるけれど、“地域の視点”で見れば地域の木を使うのが自然なこと。しかしその視点が、地方からはなかなか出てこない。

タイニーハウスは地域の木を使う新たな供給先としての可能性があります。過疎地域でも声を上げて、1つで小さければ連携していけばいい。日本の国土の7割が山林なのに、今その資源を自らダメにしているっておかしいですよね。特にこれから山間部の集落などでインフラが維持できなくなる時代が来た時、オフグリッドのタイニーハウスが活きてくるし、その住まい方は都市そのものの有り様への疑問にもなると思うんです」

タイニーハウスが地域の新しい魅力を引き出す

デザインコンテストの審査会では膨大な応募作品を一つ一つ審査員が吟味し、ディスカッションを重ねながら選んでいく。

2020年も、このタイニーハウスデザインコンテストの第4回が開催されます。今年のテーマ「これからのタイニーハウス」のもと、世界中から780組もの応募申し込みが寄せられました。タイニーハウスデザインコンテストが始まってからの累計応募数は、すでに2000組を超えています。

今回の作品募集は3/31に締め切られ、審査会は5月以降に情勢も鑑みながら行う予定です。

>>小菅村タイニーハウスデザインコンテスト2020について

この小菅村のケースのように、タイニーハウスを使ったまちづくりや地域おこしに関心のある自治体・企業・団体さまは、ぜひ私たちYADOKARIにご連絡ください。その地域が持つ特性・課題に合わせた魅力的なプロモーションをご提案させていただき、運営までみなさまと同じ温度で協働させていただきます。