
©Daan Roosegaarde
オランダに暮らしていると、国の「独自性」「創造性」に驚くことが多々あります。
代表的な例を挙げると、まず「2001年に世界ではじめて同性婚を合法化」したこと。その他にも、「娯楽大麻への寛容政策」(違法ではありつつも、一定の条件下なら逮捕はされない)や、「安楽死の合法化」などがあります。国の法律そのものが他国と全く異なるのです。産業面でも、世界的に使用されているコンピュータ言語「Python」もオランダ人が開発しました。
オランダ人は、どうしてこんなに独自性・創造性があるんだろう? 育つ環境に秘密があるのだろうか?
そう考え、オランダ人クリエイターにインタビューを敢行しました。
今回は、世界的に有名なダーン・ローズガールデ氏のお話を聞くことができました。そこには、オランダ人自身が分析する意外な「創造性の秘密」があったので、ぜひシェアさせて下さい。
ダーン・ローズガルデ氏とは

今回インタビューに回答してくれたのは、オランダのみならず世界的に注目を集める様々なインスタレーションをプロデュースするダーン・ローズガールデ(Daan Roosegaarde)氏。1979年オランダ生まれのデザイナー兼アーティストであり、オランダと上海を拠点とするソーシャルデザイン・ラボ「Studio Roosegaarde」創設者でもあります。
(インスタレーションとは、現代美術における表現手法・ジャンルのひとつ。展示空間全体を作品とし、鑑賞者の全身が作品に囲まれることで空間を五感で体験しながら作品を味わうスタイル。)
創造的になった秘密

筆者が最初にぶつけた「どうしてあなたはそんなにクリエイティブなんですか?」という身もふたもない質問に対し、ローズガールデ氏は、ご自身のスタジオではどのようなところからインスピレーションを得ているのか教えてくれました。それは主に、以下のような2つのタイミングなのだそう。
1.何かに腹を立ててイライラした時
2.何かに魅了された時
例えば窓の外を見て、「交通渋滞」「大気汚染」「海面の水位上昇」「CO2排出量増加」などのせいで社会が混乱したら、非常に困りますよね。「そんな時、人々は2つの道を選ぶことができる」とローズガールデ氏は語ります。
選択肢1:文句を言い、部屋に隠れて、他の誰かを責める
選択肢2:人間が既にこの状況を作り出してしまったので、そこから抜け出せるように、デザインや設計しようと動き出す
ローズガルデ氏は、自分自身を「アクティベーター(活性化させる人)」だととらえているのだそう。
路上で看板を持って叫ぶ活動家(アクティビスト)ではなく、持続可能な社会の美しさと可能性を示す、「選択肢2」を採るアクティベーターなのです。
何か天啓(インスピレーション)を得て作品を生み出すのではなく、社会や環境へのフラストレーションが作品を生み出すヒントやきっかけになっているのだとか。


確かに彼が手掛けた「Smog Free Project」は、大都市のスモッグ(空気中の粉塵など)に対するフラストレーションから誕生しました。韓国、中国、オランダ、ポーランドの都市にスモッグフリータワー(Smog Free Tower)を建て、そこで収集されたスモッグを固めて黒い石の指輪にするという何とも奇抜なプロジェクトだったのです。


そしてこのサステナブルなプロジェクトは多くの若者の共感を呼び、この指輪「Smog Free Ring」をプロポーズに使うカップルも続出したのだそう(現在は販売休止中)。確かに2人の愛も持続可能な気がしてきますよね。社会的フラストレーションが生んだ、素晴らしいインスピレーションです。
創造的に成長することを支えた人コト

「あなたは学校教育の影響を受けたと感じますか?」という筆者の問いかけに対し、「実は私は、美術学校から2回追い出された経験があります」と回答したローズガルデ氏。けれど彼の父親が科学教師だったので、物理学の原理には子供の頃から魅了されてきたのだそう。「これはどのように機能し、なぜそうなるの?」「代わりにこれをした場合はどうなるの?」とよく父親に尋ねていたと語ってくれました。

そうやって好奇心を持ち続け、恐れずに夢に向かって真っすぐ進み続けることで、彼は創造性を開花させたのです。けれど美術学校を2回ドロップアウトした彼がアート世界で生きていくことを、「クレイジーだ」と揶揄する人も多かったようです。
そんな経験も踏まえ、「他の誰かがあなたの夢を壊したり、変えようとすることを、甘んじて受け入れないでください。驚きをもって世界を観察し、すべてが可能であるという信念を持ってみてください」と日本の我々にアドアイスもくれました。
そして意外なことに、彼に「影響を与えたクリエーター」として日本人の名前を挙げてくれました。それは、建築家の磯崎新(いそざきあらた)氏。「彼は素晴らしい日本の建築家だと思います。彼の作品を見て、あなたの中のインスピレーションを刺激してみてください」と絶賛していました。ローズガールデ氏は他のインタビューでも「京都の庭園などにもインスパイアされた」と語っています。日本には、ローズガルデ氏の創造性を刺激したエッセンスが豊富にあるのですね。
オランダ人の国民性としての創造性
ローズガルデ氏個人の創造性とは別に、出身国である「オランダの創造性をどう考えるか」とも尋ねてみました。彼は、「オランダ人は常に創造的である必要がある」と考えているそうです。それは、オランダの歴史と地理に関係しています。実は埋め立てによって国土を拡張してきたオランダは、国土の大半が海抜以下で、水に囲まれた国。テクノロジーで水位を制御しなければ、文字通り国が水没するのです。

彼が手掛けた巡回展「Waterlicht」は、水の詩と力を示したインスタレーション。環境への配慮をなくしイノベーションを止めた場合、洪水による水位がどれほど高くなるかを光で演出しています。
このインスタレーションを観た人々は、その美しさに圧倒されると共に、環境へのケアを怠ると国が水没することを体感し、衝撃を受けたのです。
前述のように、彼は「アクティベーター(活性化させる人)」として、人々の意識を活性化させたのですね。
そして宇宙へ

©Daan Roosegaarde
そんなローズガルデ氏の活動は地上に留まらず、いまでは宇宙規模に広がっています。
彼のスタジオが「Space Waste Lab」(宇宙ごみに関するプロジェクト)に着手しているので、遅かれ早かれおそらくローズガルデ氏ご自身も宇宙へ行くことになるというのです。すごい!
しかしここで、思わぬ告白をうけました。
「実は、私は高所恐怖症なんです」
けれど、そんなことで怯むローズガルデ氏ではありません。宇宙に飛び立つ自分自身を鼓舞するために、そして、恐れとより良く共存するために、パラグライダーにチャレンジしています。

「私は恐れを取り除こうとはしません。なぜなら、恐れも良いものだからです。恐れと対峙することは自分を知るための良い方法でもあります。恐れは私のアイデンティティの一部です。恐れも自分の一部ですから」と、独自の考えも披露してくれました。
新しい世界に踏み出す時は、ついつい恐れから二の足を踏んでしましますよね。そんな時は、ぜひこのローズガルデ氏の言葉を思い出したいです。
おわりに

©Daan Roosegaarde
ローズガールデ氏はご自身の仕事のことを、以下の様にも分析してくれました。
「私は政治家ではないので、自然エネルギーに200億ユーロの予算をつけることも、長期的な都市プログラムを行うこともできません。けれどうまくいけば、多くの人々に良い影響を与えることができるものを作ることができます。私の仕事は、人々の意識を高めるのです」
これは実は、アートワーク以外でも、多くの仕事にもあてはまることなのではないでしょうか。ぜひ私たちYADOKARIも、人々の意識に働きかける「アクティベーター」でありたいと思います。
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