【インタビュー】ナガオカケンメイさん② 未来の利益は、きっとお金ではない

インタビューは奥沢にあるD&DEPARTMENT TOKYOにて行われた 。右がナガオカケンメイさん(手前)とプロデューサーの松添みつこさん(奥)。左手が「未来住まい方会議」編集部。

ナガオカケンメイさんは、デザイナーであり、2000年に創業したライフスタイルショップ、D&DEPARTMENTの創始者でもある。「ロングライフデザイン」をテーマとするストアスタイルの活動体、D&DEPARTMENTは、2016年現在、パートナー店も含めて国内外に12店舗を構える。

前回のお話は、D&DEPARTMENTに並べる商品のセレクトについて。その選択基準は非常に真っ当。しかし真っ当なことは、必ずしも金銭的利益にはつながらないという、ジレンマがあるという。

今回は、金銭的なリターン以外の、未来の利益の在り方について、うかがっていく。

インタビュー①:暮らしの“真っ当”を未来へと引き継ぐD&DEPARTMENTの挑戦
インタビュー②:未来の利益は、きっとお金ではない
インタビュー③:仕事、生活、旅を同時進行する、拠点としての家
インタビュー④:もしも日本各地に、スモールハウスで村を作ったら

ナガオカケンメイ
デザイン活動家・1965年北海道室蘭生まれ2000年、東京世田谷に、ロングライフデザインをテーマとしたストア「D&DEPARTMENT」を開始。2002年より「60VISION」(ロクマルビジョン)を発案し、60年代の廃番商品をリ・ブランディングするプロジェクトを進行中。2003年度グッドデザイン賞川崎和男審査委員長特別賞を受賞。日本のデザインを正しく購入できるストアインフラをイメージした「NIPPON PROJECT」を47都道府県に展開中。2009年より旅行文化誌『d design travel』を刊行。日本初の47都道府県をテーマとしたデザインミュージアム「d47 MUSEUM」館長。

幸せの実感値はお金じゃない、と分かっている人はいる

——作り手の思いを伝えながら、しかも定価で商品を販売するということは、真っ当でありながら、なかなか金銭的利益にはつながらない。実は、同じようなことを私たちも感じています。YADOKARIが作っているスモールハウスも、お金にはなりにくいのです。一方で、お金にならない部分では多くのリターンを感じていますが……。

ナガオカケンメイ氏(以下ナガオカ):それはありますね。これからは、確実にお金じゃない時代になっていくと思います。幸せの実感値はお金じゃないということを分かっている人はいますから。

——そうなんですよね。YADOKARIのプロジェクトをボランティアで手伝ってくれるサポーターの方々が楽しそうに活動していることや、コミュニティがひとつになっていく実感。そういったお金が介在しない幸せを享受しながら、必要な分だけを稼いで行く方法があるのではないかと模索しています。

ナガオカ:これから10年後には、お金でない部分で何ができるかが、評価される時代になるでしょう。でも今は、その過渡期。まだまだお金が全ての世の中で、未来の基礎をつくっているような感覚です。これは、結構大変。D&DEPARTMENTでは、売り手と買い手という立場ではなく、ユーザーも含めて、みんなでお店を作っていければ良いと考えています。

——お店というよりも、店舗を起点にしたコミュニティという感じですね。

ナガオカ:店員とお客様という、距離のある関係を壊していきたい。そのための方法として、割れ物の梱包を自分でやってもらうのもアリだと思います。自分の責任で割れないように家に持って帰る意識が芽生えれば、過剰に梱包しなくても済む。従来は、その人がどういう状況で家に持って帰るかわからないから、店側が過剰にプチプチでくるむのが、悪しき習慣になっていたわけです。その無駄な習慣を排して、気持ちよく自分でやってもらう方法を考える。

——過剰包装を排するなど、社会において必要なことを気持ちよく受け入れる人が増えてきたような気がします。

ナガオカ:それを受け入れられる人たちが増えてくるとそういった人達は、お金ではない部分でのチャレンジを店に期待するようになります。逆にお金で解決するのが古いというか、面倒くさいことをお金で解決しているだけだと考えるようになる。お金を介在させなくなると、両者に面倒も増えるけれど、それはそれでお互いに楽しめるように思いますね。

——ある意味、面倒臭さを楽しむことがコミュニティの出発点ですよね。

D&DEPARTMENTでは、他社のショッピングバッグを包装に使っている。そこにD&DEPARTMENTのロゴがあるテープを巻くだけで、オリジナル感が出る。身近なアップサイクルのアイデアだ。
D&DEPARTMENTでは、他社のショッピングバッグを包装に再利用している。そこにD&DEPARTMENTのロゴのテープを巻くとメッセージ性のあるオリジナルの包装に。身近なアップサイクルのアイデアだ

愛情を持って使い続ける人を、応援する

——D&DEPARTMENTはお店を越えた存在だと感じます。ただ、ライフスタイルショップという形態だけ見ると、最近は非常にその数が増えています。パイオニアであるナガオカさんには、現在の状況はどのように見えているのでしょうか。

ナガオカ:本当に日本のよい物を紹介する、うちと同じようなお店増えました。大きな商業施設にもたくさんそういうお店が入っていて、東京ではもう、こういった形態のライフスタイルショップは終わっていくのではないでしょうか。お客さんは、そこら中で良い物を買っているから、家のなかがパンパン。新しい素晴らしいものを買ったとしても、置き場所がない。その結果、リアルな動向としては、中古がどんどん出てきます。

——一度は気に入って手に入れたものを簡単に手放すのは、なんだか寂しい話です。

ナガオカ:それは実際に20年サイクルで起きています。たとえば90年代に椅子のブームがありました。当時トレンドに乗って購入した人が、飽きたものをどんどん中古店に出す。日本の消費行動は基本的に流行に拠っているので、流行が過ぎるとみんなリサイクル屋さんに流れて、それが溢れて、うちみたいなところに来るんです。

D&DEPARTMENTでは、ユーズドの家具も扱っている。

——中古に流れればまだよい方で、捨てられてしまうこともありそうです。「ロングライフデザイン」は、使い手の態度が伴っていないと、実際にロングライフにはならないのですね。

ナガオカ:流行は楽しいですし、新しいものは便利です。たとえばヤカンひとつとっても、10年ぐらい前には山形の南部鉄器が脚光を浴びていましたが、今はティファールなどの瞬間湯沸器が便利過ぎて、なかなかヤカンに戻れない。僕自身ですら、そうです。そんな生活ですから、誰かが「便利さも流行も良いけど、ヤカンも良いよね」と言い続けないと、みんな逃げちゃいますよね。

——「ロングライフデザイン」の良さを、発信し続ける存在がないと、どんな良いものも忘れられてしまう。

ナガオカ:使い手が本当に愛情を持って使い続けても、ひとりだと寂しくて、めげそうになる。それを1個1個の商品に対してファンクラブを作る気持ちで、ヤカン1個にしても、その良さを忘れそうになったら、僕らみたいな人たちが先導して「そうそう。このヤカン、良いよね」と言ってあげないとね。

D&DEPARTMENTで取り扱っている長文堂のなつめ鉄瓶。味わいのある表面の質感や、注ぎ口の繊細な曲線が美しい。

D&DEPARTMENTが数多あるライフスタイルショップと違うのは、作り手のみならず買い手——つまりは使い手も「応援する」スタンスにあるのだと思う。それは作り手のプロダクトをたくさん売るとか、買い手の求めやすい価格で売るといったこととは、別のベクトルのコミュニケーションだ。

ナガオカさんがやろうとしていることは、物を売ることではなく、物を介して「ロングライフデザイン」を自分達の手で育むコミュニティづくりなのかもしれない。

そこで交わされるコミュニケーションのために人が集い、にぎわいが生まれる。たくさんの消費でお金が落ちることはないかもしれないけれど、必要なものを求め合い、与え合う交換が行われるだろう。そこに大量消費型ではない世界を切り拓くための、ヒントがある。

次回は、YADOKARIのフィールドである家について、ナガオカさんの意見をうかがう。


インタビュー③:仕事、生活、旅を同時進行する、拠点としての家→