【インタビュー後編】プロの目で選んだ国内外の建築事例を発信するキュレーションメディア『#casa』 カーサ・プロジェクト株式会社眞木健一さん

前回のインタビューでは、住まいに関して個性を反映することの難しさと、そのソリューションとして提案された「商品住宅」という選択肢について、カーサ・プロジェクト株式会社(以下カーサ・プロジェクト)会長の眞木健一さんにお話いただいた。

個性的で住み心地の良い家を作るには、高い経験値が必要だという眞木さん。その経験値を独占するのではなく、住み手にも共有していきたいと考えているという。

そのために今までも『Pen』や『Casa Brutus』などの雑誌やテレビなどのメディア、またさまざまなイベントなどを通じて「casa」シリーズの魅力や、「商品住宅」の意義などを伝えてきた。そして2016年4月、カーサ・プロジェクトは「暮らしとデザイン」をテーマにした自社発信のウェブマガジン『#casa』をローンチした。

今回は、眞木さんに『#casa』を通して伝えたいことや、カーサ・プロジェクトが目指す未来についてうかがった。

【インタビュー前編】自分らしい暮らしをリーズナブルに楽しむ「商品住宅」という選択肢
【インタビュー後編】プロの目で選んだ国内外の建築事例を発信するキュレーションするメディア『#casa』

眞木健一

1967年福岡県生まれ。地元の高校を卒業後、アメリカの大学に留学。20代前半から工務店の仕事に取り組みつつ、世界の住宅の性能を学び。日本の匠たちの職人技を大切に守りながら、「遺す家」を作ろうと突き進んでいる。『新築を超える中古マンションリフォーム』(書肆侃侃房)、『住宅革命』(WAVE出版)など著書多数。最新刊は2016年2月出版の『More Better Life 豊かに暮らすということ』(書肆侃侃房)。

国内外の建築の実例を知ることによって、見えてくるもの

——『#casa』では、どんなコンテンツが用意されているのですか。

眞木健一さん(以下眞木):#casa』はキュレーションサイトとして、世界各地の住宅事例や、私たちカーサ・プロジェクトの活動事例を通じて、住宅に関する知識を共有する場と位置づけています。私は海外の家を多く見ていますし、カーサ・プロジェクトを通じて、全国各地の工務店と仕事をするなかで、日本の住宅事情についても知識やノウハウが蓄積されてきました。そういったナレッジを一般の方に広く紹介しているのが『#casa』です。

メキシコ人の建築家、ルイス・バラガンの最高傑作。部屋のなかにプールがある意外性と、光と色彩の調和に心打たれる
ル・コルビュジエのヴァイセンホフの家。1927年にドイツで開催された住宅展に出展された住居は、空中に浮かんでいるかのような直方体が特徴

——自社の活動だけでなく、世界の事例も紹介されるのですね。眞木さんは海外の建築から多くのインスピレーションを受けているそうですが、その体験がコンテンツ選びにも影響しているのでしょうか。

眞木:その通りです。私は地元の高校を卒業後、アメリカの大学に留学していました。この時、シカゴ、ロサンゼルス、ニューヨークなどで見た住宅が、その後の家づくりの原点になりました。海外の家は表札などもないですし、○○邸というような呼び方もしません。家は個人に属するものではなく、純粋にプロダクトとしての良さで評価される。丁寧に住んでいれば、中古住宅であっても価値が落ちることがないという事実に衝撃を受けました。日本では家の価値が年々落ち、土地だけしか資産価値にならない現状がありますので、日本の住宅事情を知っているだけでは見えてこないことがあります。

——所有者の意見を重視する日本の注文住宅業界とは、違う価値観で家が作られているということですね。前回語っていただいたカーサ・プロジェクトの商品住宅という考え方に通じている考え方です。

眞木:私が住宅の仕事を始めた後、33歳の頃に、建築家の安藤忠雄さんと世界中をまわった経験も、私の価値観に大きな影響をもたらしました。メキシコで出会った、ルイス・バラガンの建築など、世界中の偉大な建築を見るなかで、偉大な建築には個性と普遍性があることを学んだのです。

——だから「casa」シリーズには、卓越した個性と時代に左右されない普遍性があるのですね。

眞木:「casa cube」などはこれ以上そぎ落としようがないくらいまでそぎ落としているので、普遍的なデザインとして残っていくのではないかと思っていますね。また、メンテナンスに配慮しているのも、当時世界の名建築を見て「遺す」ことの重要性を強く感じたからです。『#casa』では、私が影響を受けた世界の建築や、現在進行形で起こっている世界各地の建築トレンド、そして我々の取り組みなどを伝えていきたいと思っています。

カーサ・プロジェクトの家づくりの“今”を伝える

世界の建築を知ることで受けたインスピレーションを、次々とカーサ・プロジェクトで形にしていく眞木さん。その探究心は留まることを知らない。

眞木:私が個人的に手掛けたプロジェクトなのですが、福岡県糸島にある350坪ほどの醤油蔵をリノベーションしました。周りの農家さんに自然農法の野菜を作ってもらいながら、そこで販売したり、レストランをやったりしています。農業も農薬を使うと、その土地は繰り返し使えなくなってしまうので、自然農法の方が理にかなっているのです。そういうところからも、持続可能性について考えますね。こういった経験もまた、カーサ・プロジェクトの家づくりに反映されています。

福岡県糸島で古くから醤油や焼酎、酒づくりに携わっていた「旧福寿醤油」をリノベーションし、「伊都安蔵里(いとあぐり)」を設立
地元生産者の手づくり野菜を直売しているショップが併設している
歴史ある素朴な建物と洗練された内装が調和している
レストランは地元の特産品を豊富に用いた彩り美しい御膳料理が人気だ

——リノベーションの事例は象徴的です。普遍的であるには常に進化しなければならないということですね。

眞木:お客さまの声や、世の中の出来事を敏感に取り入れて、常にバージョンアップすることを志しています。『#casa』では実際に「casa」シリーズに住んでいる方のインタビューや、経済評論家の上念司さんのような識者の対談も掲載していきます。『#casa』を通じて、これから家を買おうとする人に発信するだけでなく、我々も多くを学んでいきたいですね。


よりよい住まいを提供するために、常に全力のチャレンジをしているプロフェッショナル集団、カーサ・プロジェクト。そこから発信される情報は、未来の住まい方を考える全ての人に、多くの刺激を与えてくれそうだ。『#casa』を通じて、作り手のアイデアソースや問題意識に触れることで、家に対するイメージがクリアになっていくのではないだろうか。

 

【インタビュー前編】自分らしい暮らしをリーズナブルに楽しむ「商品住宅」という選択肢

(提供:#casa