【インタビュー】東野唯史さん vol.2 古材屋のハードルを下げるカフェの役割

全国各地の現場へ赴き施工を行い、また次の現場へ。東野唯史さんはデザインチーム「medicala(以下、メヂカラ)」として2012年から奥さんの華南子さんと共にゲストハウスを始め数多くの物件の施工に携わった。2016年8月にはクラウドファンディングを活用し、資金の一部を調達。長野県諏訪市で解体現場から引き取った(レスキューした)古材や古道具を販売する「ReBuilding Center JAPAN(以下、リビセン)」を設立した。

リビセンの掲げる理念「ReBuild New Culture」は、世の中に見捨てられたものに価値を見出し、ふたたび世の中に送り出すこと、そしてその価値を次の世代につなげていくこと。

解体現場から古材のレスキューを行う東野氏。レスキューへ向かうのは、基本的に車で一時間圏内。月に一件遠方に伺うこともあるそう。

前回のお話は、東野さんがリビセン設立前から活動をしているメヂカラで感じた周りの人を巻き込む楽しさ、古材の持つストーリー性について。
今回は、モデルとなったアメリカオレゴン州・ポートランドの「ReBuilding Center」が持たないカフェの役割について、そして無事設立を迎えたリビセンを支えるスタッフについてうかがう。

リビセンにおいて、カフェの役割のひとつは古材と潜在的な古材のユーザーとをつなぐこと。
カフェは人が集まる場づくりだけでなく、マグネットとしての役割も果たすのだ。

インタビュー①:古材を通してつくり出したい「ReBuild New Culture」という理念
インタビュー②:古材屋のハードルを下げるカフェの役割
インタビュー③:守るべき場所に拠点を置くこと
インタビュー④:忘れられていた「ものを大切にする暮らし」

東野唯史(あずのただふみ TADAFUMI AZUNO)
ReBuilding Center JAPAN 代表
1984年生まれ。名古屋市立大学芸術工学部卒。2014年より空間デザインユニットmedicalaとして妻の華南子と活動開始。全国で数ヶ月ごとに仮暮らしをしながら「いい空間」をつくりつづけてきました。2016年秋、建築建材のリサイクルショップReBuilding Center JAPANを長野県諏訪市に設立。ReBuild New Cultureを理念に掲げ、「世の中に見捨てられたものに価値を見出し、もう一度世の中に送りだし、次の世代につないでいく」ことを目的に活動しています。

新婚旅行で訪れたポートランドでの気付き

所狭しと並ぶ古道具の数々。まるで宝探しをしている感覚だ。

ーー本国の「ReBuilding Center」へは新婚旅行の際に訪れたんですよね?

東野:メヂカラの活動でゲストハウスをつくったりコミュニティーのハブ(つなぐ存在)となるような飲食店をつくったりする中で、知り合ったみなさんと話していると、まちづくりの文脈でポートランドの話題がよくあがっていたんです。名前はよく聞くけど、行ったことがないからひとまず行ってみようということで、新婚旅行でポートランドを訪れました。
「ReBuilding Center」へ足を運んだとき、店構えから地域に愛されていると感じましたね。ビジネスライクな雰囲気を感じさせず、だけどしっかり売上を確保して事業として自立している雰囲気。スタッフは30名ほど雇用して、年間2000名のボランティアを受け入れていて、ちゃんと経済が回っている印象も受けました。いいなと感じ、帰国して数ヶ月後に問い合わせフォームから連絡をし、エグゼクティブディレクターから返事をいただきました。

カフェが古材と触れ合うきっかけに

カフェの窓から見える古材。東野唯史氏(左)とYADOKARI代表ウエスギ(右)

ーー「ReBuilding Center」にはなかったカフェを併設したのはなぜでしょうか。

東野唯史氏(以下、東野):カフェを併設することで、一般の方にも足を運んでもらいやすくしたいと思ったからです。文化として受け入れてもらうためには専門的に古材を使用する方だけに受け入れられる施設ではなく、誰でも訪れやすい場所がいいですよね。普段古材に触れたり、古材を使用する機会が少ない一般の方がリビセンへ足を運んでいただくことが、「ReBuild New Culture」の理念を果たすために必要だと感じました。

ーー確かにカフェがあることで、古材を買う買わない関わらず、立ち寄る人が多そうです。窓には、カフェの風景とは思えない景色が広がっていますね(笑)。

東野:カフェの窓から古材が見えるのがいいんですよね。八ヶ岳や諏訪湖じゃなくて、古材を見ながらお茶をする場です(笑)。

ーーこうやって古材が並んでいると、最初はカフェを目的としてこの場を利用したお客さんも「ちょっとなにかつくろうかな」という気持ちになりそうです。

東野:それを狙っているんです。基本的にこのお店の椅子や机もレスキューしてきたものばかり。「あ、これだったら自分でも簡単につくれそうだな」って思ったら、うちで古材を買ってつくってもらってもいいし、自分ちの近所で解体があったら、声をかけて自分で材料をもらってつくっちゃってもいい。きっかけになったらいいなと思っています。

食卓を囲み、生まれるコミュニケーション


ーーリビセンのスタッフは今何名くらいで活動されているんですか?

東野:僕も含めて7名、全員県外出身のよそ者ですね(笑)。創業時のメンバー2名に加え、年末にSNSを通して3名のスタッフを迎えました。今はみんなで一緒に住んでいます。

ーーみんなで一緒に?

東野:リビセン近くの空き家をお向かいさんに紹介していただき、僕ら夫婦以外はみんな一緒に住んでいます。

ーーみなさんで一緒に生活することってどうですか? 寝食ともにすることで、仲良くなりそうな気がしますが。

東野:ご飯は基本的に華南子がみんなの分をつくって、ここで食べていますね。今日の朝も昨日出した残り物のカレーを食べて。まかない費を1万円払ったらなんとなく三食食べられるような仕組みにしています。お昼は誰か手が空いた人がみんな分の食事をつくったりもしていますね。

ーー食卓をみんなで囲むのっていいですよね。昔の家内制手工業で、住み込みの職人さんと一緒に食事をするような感覚に近いのかな。

東野:食事は意識しますね。みんな忙しく動いていて、なかなかコミュニケーションがとれないんです。ミーティングをしないとコミュニケーションがとれないっていうのは変だなと思っています。みんなで食卓を囲むことで自然と「今日こんなお客さんが来てくれて嬉しかった」とか「こんなレスキューにいってこんなことがよかった」ってその日あった出来事や感情を共有できるからいいですね。


ポートランドの「ReBuilding Center」になかったカフェの導入に、現地のディレクターは「カフェはマグネットになる」と歓迎してくれたという。

「古材」と聞くと、どこか専門的で日常に取り入れるにはなかなか取っ付きにくい印象を受ける方も多いだろう。
「ちょっとコーヒーを飲みに」
「お腹が空いたからカレーを食べに」

ふらりと立ち寄れるカフェには人々の制作欲をくすぐる工夫がちりばめられていた。

次回、拠点として選んだ信州・諏訪の地域の人との関わり方、地域になじむことについて東野さんにうかがう。

インタビュー③:守るべき場所に拠点を置くこと