【インタビュー】「greenz.jp」編集長 鈴木菜央さん vol.2 | 新しい価値を生み出す、豊かな生態系としてのコミュニティ

「greenz.jp」編集長 鈴木菜央さん

ほしい未来をつくるためのヒントを共有する「greenz.jp http://greenz.jp/ (以下greenz.jp)」の創立者にして編集長の、鈴木菜央さんのインタビュー後編は、鈴木さんが大切にしている“コミュニティ”についてきく。

長い試行錯誤の結果株式上場を廃止。グリーンズの組織変更を経て新たに走り出そうとした矢先、鈴木さんは体を壊してしまったそう。過労から鬱病を患い、慢性の腰痛に悩まされることに……。実は病からの再生の鍵となったのも、コミュニティだった。トレーラーハウスに住み、小屋をDIYするなかで培った関係性とは、どのようなものなのだろうか。

<プロフィール>鈴木菜央(すずき なお)
NPOグリーンズ代表/greenz.jp編集長 76年生まれ。月刊ソトコトを経て06年「ほしい未来は、つくろう」をテーマにしたWebマガジン「greenz.jp」創刊。千葉県いすみ市に家族4人で35㎡のタイニーハウス(車輪付き)に住む。著作に『「ほしい未来」は自分の手でつくる』。

vol.1 お金から自由になるためのメディアの、お金じゃない原動力
vol.2 新しい価値を生み出す、豊かな生態系としてのコミュニティ

️何もない場所のポテンシャルを発掘するための、移住という選択

いすみ市の鈴木菜央さんの家

ー2010年に鈴木さんは東京都世田谷区から千葉県いすみ市に移住されています。どういった想いがあったのでしょうか。

鈴木:世田谷も嫌いではなかったんですけど、ずっとそこでやっていくというイメージがどうしても持てなくて。じゃあどこに住んで、どんなことをしたいんだろうというふうに考えたときに、フロンティアを求める気持ちがあったんです。自分がしたことの結果が表れるような場所、何もないと言ったら失礼なんですけれども、ポテンシャルが高い。マグマが溜まっているような感じの場所が、千葉県いすみ市だったんです。

でも引っ越してしばらくは、ただ場所を移しただけという感じでした。いろんなことがつながり始めたのは、ここ2、3年です。

ーいすみ市に住み始めてからも、心境の変化があったのですね。

鈴木:移住してから4年ぐらい、実はずっとグズグズしていたんですよ。勢いでいすみ市に引っ越してみたものの、仕事が上手くいっている手応えも無かったですし。引っ越した当初、グリーンズは株式会社形式でやっていて、行き詰まりを感じていたんです。

株式会社形式に決定的に疑問を感じたのは移住後間もなく起こった2011年の東日本大震災のときです。僕らはしょっちゅうボランティアを募集していろんなことを一緒にやっているんですね。そんな場合にも集まった人に頑張ってもらっても、極論すれば利益は株主のものになってしまう。それは違うだろう、と思ったんです。

僕らがつくりたい新しいかたちというのは、本質的に株式会社という体制にはそぐわないと思ったんですよね。そこで株式会社をたたみNPO法人にし、資本金がゼロに戻ったところから、名実ともにみんなの力をもらって再出発することにしました。

移住したころはそんな渦中にいたので、心身共にハードな時期でした。グリーンズを前向きにリセットした一方、僕は鬱になったり、腰を悪くしたり、喘息が再発したりといった心身の不調に立て続けに見舞われたんです。

️暮らしをつくるコミュニティをつくり、それをメディア化する

ーそんな状態から、この2、3年で土地とのつながりを感じるまでに、どんな変化があったのですか。

鈴木:鬱病と腰痛で3年ぐらい苦しんでから「もうこんなつまんない人生嫌だ!」と思って全部イチから考え直そうと思ったのが2014年。そこで、自分の暮らしをダウンサイジングすることにしました。

小さな家に住んで支出を減らして、周囲とコミュニティをつくりながらやっていくことにしたんです。そこでチャレンジする新しい生き方や、それを成り立たせるプロセス、その過程で学んだことを、みんなで共有するために「greenz.jp」のコンテンツにしようと思いました。つまり、コミュニティをつくり、それをメディア化するというということです。

小さなトレーラーハウスを買って住み始めて。 スモールハウスを広める活動をしているYADOKARIのさわだ君、ウエスギ君に相談して、同じ敷地に小屋もDIYしました。YADOKARI小屋部のメンバー と一緒に建てる“コミュニティ・ビルド”という方法で建てたのですが、結果的に120人程の人が手伝ってくれて。そのことで、暮らしをコミュニティでやることの大きな可能性に気づきましたね。

DIYは、コミュニティの力を体感するのに最適なアクティビティ

菜央さんの小屋は、虎ノ門株式会社SuMiKa主催の小屋展示場に出品する作品として作られた

ーみんなでDIYする“コミュニティ・ビルド”の、どんな点に可能性を感じたのでしょう。

鈴木:DIYをやったことがない人が、恐る恐る金づちで釘を打つ、次はドリルで、ビスを打つ。それが3回目ぐらいになって測り方も分かってきて、「その辺の5人のボランティアをまとめてよ」とかいわれて。自分に自信がついて「俺ももうちょっとこんなふうにやってみたい」とか言いだして。そのうち設計士の友達もできちゃうから、最後はみんなを呼んで、自分の家のデッキをつくる……。

そうやって、最初の第1歩から、つくり手側にまわり、さらに次の人を育てるといったサイクルが、ナチュラルにできるのが、コミュニティ・ビルドの意義ではないでしょうか。

ーDIYはコミュニティで物事を進めることの意義を体感しやすいアクティビティなんですね。

鈴木: グリーンズが2010年ごろからやっている「グリーンズの学校」という“場”があって、その大きなテーマの1つが、「暮らしをつくる」ということなんですね。そこではDIYという話が当然出てくるわけで、断熱のクラスとか、オフグリットのクラスとかもあります。

そういったクラスを続けて行くうちに、あちこちで、自分の家を住み開きならぬ、DIY開きする人が現れて。渡りの職人みたいに、あっちこっちでコミュニティ・ビルド楽しんで旅をする人たちが現れて。そんなムーブメントがいろんな人をつなぎ始めました。地元というよりは、緩やかなコミュニティが全国的に育って来て、それがとても面白いですよね。

️個々の頑張りの限界を突き破る、コミュニティの力

ー鈴木さんの考える地域とのつながりは、地元で完結するのではなく、そこを起点にいろんな地域とつながるという感じでしょうか。

鈴木:「greenz.jp」は、ソーシャルデザイナーの事例を取材に行って、大変だったことも含めてストーリー形式で紹介するのがメインコンテンツです。今までの10年で6,000件ぐらいの事例を記事にしています。そこで最近強く感じるのは、個別のソーシャルデザイン、個別の頑張りの限界です。

個別の頑張りが大きな壁を突破して芽を出すのは本当に一部の事例で、多くの人はもがいているんだなあと。僕はひとりで突破できるようなスーパーマンじゃなくてもうまくいきやすいオアシスというか、生態系ができないと、世の中の社会課題に解決が追いつかないのではないかと思うんです。

ー個別の頑張りの限界を突破するときに、メディアの力が頼りにできそうです。

 鈴木:例えば「グリーンズの学校」のような場に、最初の一歩で参加してみた人が、気がついたら自分も場をつくる側にまわっているみたいなことが、コミュニティのパワーだと思うんですよね。

「greenz.jp」というメディアとしては、そういう事例をどんどん紹介する。ワークショップで始めた人が1、2年後に、面白いことになっているのを、記事にするとか。

そういう泉みたいなシステムがあって、全員じゃないかもしれないけれど、噴き上げられる人がいる。で、噴き上がった人が記事になったのを見て「おお! この人2年前にワークショップで会った人だ。あのときは、全然こんなこと言っていなかったのに、今はこんなことやっているんだ。すごい!」と思う人も含めて、みんなが前に進んでいく流れをつくりたいんです。

️いろんなものをつなげ、新たな価値を生み出す生態系をつくる

ー個人寄付の会員制度「グリーンズ・ピープル」として、組織を支える人もコミュニティの一員ですね。

鈴木:エネルギー分野など、記事をつくりたい内容にお金を出してくれるパートナーがつきそうなものはそういったところにお願いしますが、パートナーが見つからなくても記事にしたい内容もあります。そこを「グリーンズ・ピープル」の支援をもらって、かたちにしているのです。組合みたいな感じですね。みんなで組合費を出しながら、使い道も一緒に考える。

「グリーンズ・ピープル」は一般的なスポンサーのようにお金を出すだけではなくて、ピープルがネタだしをして、手伝ったりもしているんですね。コミュニティの中に入ってもらってつながってもらう。

「この人とこの人が手を合わせたら、もっと豊かになるんじゃないか」とか「この人とこの人を、こういう仕組みで、こういうふうにつなげたら、いろんなことが起きるんじゃないか」と、コミュニティのつながりをデザインすることは、農園をデザインするのに似ています。ここにリンゴの木を植えると、こうなって、ああなってみたいな。すると、そこにミツバチがくるよねと、じゃあ飼った方がいいんじゃないかと。ミツバチを飼ったら、蜜もできるし子どもも喜ぶよねと、そんな感じなんですよね。

ーそれがひとつの生態系なのですね。

 鈴木:そう。お金がないのが出発点で、そんな僕たちが社会的に影響力を持つ存在であるために、誇れる点は何かといえば「つながらないと価値にならない資源をつなげていく」ことなんです。そうやって価値を生み出すことが、「greenz.jp」で起き始めて、何年目か……というところ。

2006年「greenz.jp」を創業したときの価値観を示すタグラインが「コミュニティ・メディア」だったんですよ。当時は単にエコビレッジとか、そういうものをイメージしていて、自分たちがコミュミティをつくれるとは思っていなかったんです。でも図らずも、僕たちがコミュニティに戻ってきたのだと思います。


鈴木さんは、「個別の頑張りには限界がある」という。それは「greenz.jp」で地域のコミュニティデザインに誠実にかかわってきたからこそ、実感していることでもあるだろう。

今地方創生の流れもあって、各地方のコミュニティで様々な取り組みが行われているけれど、地域のコミュニティづくりは打ち上げ花火のように一瞬輝けばよいものではなく、農園のように持続して果実が得られなければ続かない。

グリーンズが実践する人と人をつなげ、コミュニティをメディア化するやり方は、持続するコミュニティをつくりたい人みんなの、お手本にできそうだ。コミュニティが発信源となって地域と地域がつながること、小さな頑張りを起点に輪を大きくしていくこと……。

各地の頑張りが発芽し、つながりあい、豊かな生態系ができる未来を思い描くとワクワクする。きっと「greenz.jp」はその生態系の中心にあって、のびのびと葉を茂らせているのだろう。

鈴木菜央さんにとってリノベーションとは

 

鈴木:何十年も使われてなかった場所を空けて、掃除して、皆が「いいね、ここ」って言って、お茶を飲んだりご飯を食べたりする。もったいなかった状況から、活かされている状況へと変わることが、楽しいですよね。

リノベーションは場所を活かすということですよね。それは「greenz.jp」が目指している「活かし合う関係性」に通じるところがあります。

業者の人が3人来て一気に施工するのもリノベーションだけれど、それが更に豊かになるのは、何十人も来て一緒にペンキをぬるような活動ではないでしょうか。

ペンキを塗りながら人生相談をしたり、新しい友達ができたり、将来の進路として大工仕事を考え始める高校生がいたりとか……そういうありとあらゆる収穫がそこから得られるんです。

そういう意味でリノベーションは、すごくワクワクすることだなと思っています。

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(提供:ハロー! RENOVATION