第2回:加計呂麻島のインターネット事情|女子的リアル離島暮らし

徳浜のビーチに落ちていたシーグラスや貝殻、子どものように遊んでいます。
ビーチに落ちているシーグラスや貝殻で作ったLOVE。子どものように夢中になって貝殻を集める時も。

YADOKARIをご覧の皆様、こんにちは。小説家の三谷晶子です。
 第1回では、去年まで、都内で働き、遊び、暮らしていた私が、「羽田から7時間もかかる離島に私が来たのか」を書かせていただきました。
今回は、加計呂麻島で私がどのように仕事をしているかをお話したいと思います。

 

離島専門のネット回線はADSL。崖崩れで断線するときも


打ち合わせはSkypeやメール、原稿の送付はWordファイルを送信、原稿のチェックはPDFで来た画像にipad miniで赤入れ。
私の仕事である文筆業のほとんどの作業は、ネット回線さえあればどこでもできるものです。

しかし、加計呂麻島で一番最初に苦労したのはネット回線の確保でした。
来た当初にお世話になっていた塩工房、加計呂麻島自然海塩工房は、加計呂麻島の中でも端っこの小さな集落、徳浜という場所にあります。

私が加計呂麻島で一番好きなビーチがある徳浜。このバス停の先は行き止まり。
私が加計呂麻島で一番好きなビーチがある徳浜。このバス停の先は行き止まり。

徳浜は携帯がauやsoftbankはおろかDoCoMoですら通じません。集落にお住まいの方々は自宅の回線にネットを繋いでいます。
しかし、加計呂麻島にはまだ光が来ていないのでADSL。しかも、NTTではなくオーシャンブロードバンドという離島専門の回線で、先日も崖崩れで断線してしばらく使えない時があり、普段でもPDFデータをダウンロードするのに数時間かかる遅さだったりします。

しかし、ある日、港の待合所にフリーWi-Fiがあることに気づいたんです。

 

港でSkypeで打ち合わせ後、待合所のパソコンのフリーズに対処する


加計呂麻島には瀬相港と生間港という二つの港があり、私の家から近いのは生間港。
生間港の待合所はテレビやベンチ、テーブルもあり、無料で自由に貸出ができる本棚もあります。

フリーWi-Fiがある生間港。フェリーの発着時刻にはバスや人々で賑わいます。
フリーWi-Fiがある生間港。フェリーの発着時刻にはバスや人々で賑わいます。

しかも、奄美大島に近いせいか、ネットの速度も島の他の場所に比べれば早い。私は、大きな画像のダウンロードやアップロード、Skypeでの打ち合わせなどを待合所でするようになりました。

加計呂麻島は超高齢化が進んでいる場所。お年寄りが多いので、パソコンをバックパックに背負って港に向かい、待合所でキーボードを打つ私は目立っていたようです。
「おねえちゃん、ここで何やってるの?」
とよく聞かれました。

「私、小説家なんですけどネットで原稿を送らなきゃいけないんですよ。ここなら回線が早いから使わせていただいていて」
「へぇー、いろんな仕事があるもんだね」

通りがかりの方とそんな会話をしているうちに、顔見知りになり、時には缶コーヒーや野菜を差し入れていただいたり、仕事が終わったあとに一緒に飲みに行ったりすることになりました。

Skypeで東京の取引先との打ち合わせ後、「今、テレビ電話みたいになってたけど、それってパソコンでできるの?」と聞かれて説明をしたり。

「パソコンで新聞は見れるの?」「いきなり動かなくなったんだけどどうすればいい?」
そんな風に待合所勤務の方から聞かれることもありました。

そんな風に仕事をしているだけなのに、声をかけていただけるのは私にとって新鮮な体験でした。

自宅から生間港まで行く時の風景。見とれて、ひとり道端で「きれい!」なんて叫んだり。
自宅から生間港まで行く時の風景。見とれて、ひとり道端で「きれい!」なんて叫んだり。

岡崎京子の漫画『マジックポイント』で主人公の女性編集者が、「私の仕事って降っても降ってもすぐに消えていく雪みたい」と言うシーンがあります。
その場限りのものを作っているだけ、すぐに溶けて消えてなくなるだけなのに、と。
都会では、自分がしていることが誰かに役立っている、というシンプルなことが、たくさんのものが間に挟み込まれ、わかりづらいという部分は確かにあると思います。

仕事で使用してはいるけれど、私のパソコンの知識は大したものではありません。けれど、その知識を必要としてくれる方がいる。待合所のフリーズしたパソコンをどうにかしようとしている時、私はそのことを実感しました。

 

自分の仕事が喜んでもらえるということ


白砂のビーチと寄り添うハイビスカス。いつでも花が咲き乱れている場所です。
白砂のビーチと寄り添うハイビスカス。いつでも花が咲き乱れている場所です。

そして、このYADOKARIでの記事でも、私は「自分が必要とされている」ことを実感しました。

加計呂麻島でお世話になっている方に、「今度、島暮らしのコラムをやるんです」とお話しするととても喜んでいただけました。

「島は本当にいいところだけれど、どんどん人口が減っていてこれからどうなるか不安もある。だから、こうして人に知ってもらえるのがすごく嬉しい」

私の仕事は文章を書くことで、それは都会でも田舎でも一緒です。けれど、自分の仕事が毎日会うご近所の方に喜んでいただけるということは、都会ではなかなかありません。
モチベーションって案外単純で、目の前の人が喜んでくれるというそれだけで、「頑張ろう」とシンプルに思えるものです。
これからも島がどういうところなのか上手に伝えられたらな、と素直に思いました。

 

船が行き交う港の風景、一日の終わりを実感する夕暮れ


最近、仕事が立て込んできたのでDoCoMoのWi-Fiルータを購入し、家でも仕事ができるようにしたのですが、それでも時折、私は生間港の待合所で仕事をします。

生間港の待合所からは、海にぽっかり浮かぶ小さな浮島に松が一本だけ生えている景色が見えます。
生間港の待合所からは、海にぽっかり浮かぶ小さな浮島に松が一本だけ生えている景色が見えます。

港の海の色は浜辺とはまた違う深いグリーンやブルーのグラデーションで、奄美大島も近くに見えます。
見知った人を乗せて行き交う船が時折発着し、お年寄りが船を降りる時は誰もが手を差し出す。

重い荷物はその場にいる人が持ち、雨が降っていたら「送っていこうか?」と誰かが言ってくれる。
待合所の方に「お疲れ様」と声をかけて帰路につくと、見えるのは海を照らす夕日。

夕暮れ時によくビーチで出会う犬、コロちゃん。人懐っこく、足元によってきてくれます。
夕暮れ時によくビーチで出会う犬、コロちゃん。人懐っこく、足元によってきてくれます。
視界の全てが輝きで埋め尽くされる加計呂麻島の夕日。
視界の全てが輝きで埋め尽くされる夕日。

浜辺を走る犬に大きく手を振り、夕飯をどうするか考える時、一日の終わりがぐんと濃く、そして嬉しく感じられます。

次回は、加計呂麻島での仕事事情や生活費のお話をしようと思います。