第28回:伝統を美しく伝えるということ|女子的リアル離島暮らし

YADOKARIをご覧の皆さま、こんにちは。作家の三谷晶子です。さて、本日は先日6月末に私の住む加計呂麻島・諸鈍(しょどん)集落にオープンした宿泊施設、伝泊・奄美『リリーの家』についてお話しをしようと思います。

「伝泊・奄美」とは「奄美の伝統的/伝説的な建物を次の時代につなげる」ために、奄美設計集団が島内の空き家をリノベーションし、宿泊施設及び地域のコミュニティスペースとして活用する取り組みのこと。

出来る限り奄美の伝統的な建物の外観・内観を変えずに作られた伝泊「リリーの家」

増え続ける空き家問題


昨今、さまざまなメディアで取り上げられるとおり、地方にはどんどん空き家が増えています。空き家が増えると、倒壊の可能性や治安の悪化、街並みの美観を損ねるなど、さまざまな問題が起こるもの。しかし、老朽化した建物をもう一度人が住める状態にするには、かなりの手間と費用が必要です。

「リリーの家」があり、私が住む加計呂麻島・諸鈍集落の海。

加計呂麻島という離島ともなると、修理に必要な資材を島外から運ぶ必要もあり、さらに修繕は難しいもの。また、修理をしたとしても、その後の管理をする人がいなければすぐに家は傷んでしまいます。

今回オープンした伝泊『リリーの家』は、加計呂麻島を舞台にした、寅さんシリーズの第48作目『男はつらいよ 寅次郎紅の花』で、浅岡ルリ子さん演じるリリーさんが住んでいた家として撮影に使われた場所でした。
住民から、そして、訪れる観光の方々から「リリーの家」として親しまれていたところで、持ち主の方が亡くなられてから加計呂麻島が属する瀬戸内町に寄付されていた物件。ですが、老朽化が進み、床は抜け、畳は腐りかけていて、大規模な修繕をしないと入ることも難しい状態でした。

「リリーの家」の前のでいご並木のアイドル犬、コロちゃん。

しかし、町には、その修繕をする費用がなく、このままだと「リリーの家」は取り壊されるしかありません。そこで、奄美大島出身の建築家、山下保博さんが代表を務める奄美設計集団が、家を町から借り受け、修繕費用を持ち、宿泊施設として運営することになったのです。

諸鈍の名所、でいご並木。5月末から6月頃、赤い花を咲かせます。

建築物を残したくても残せないジレンマを解消する仕組み


工事が始まる前には集落住民に向けての説明会が開かれ、「伝泊」がどのような取り組みかが説明されました。このままだと壊されるばかりだった建物が修理され、宿としての他、学童保育などの地域のコミュニティスペースとしても使用可能だということが伝えられ、建物が残ることを歓迎する声が多かったようです。

抜け落ちていた床もしっかり補修され、きれいに。

修繕する費用がなく、管理する人がいない空き家をどうすればいいのかは、離島のみならず、全国の問題です。残しておきたい気持ちはあるけれど、自分たちの手だけでは金銭面でも管理面でも対応しきれない。そういったジレンマを解消し、街並みを保存しながら次世代に継承していく。『伝泊・奄美』はそういった試みだと私は思っています。

宿がオープンする前に行われた住民向けのオープニングパーティでは集落の人々が歌や踊りを披露しました。

現在の住民も、ゆかりの人々にも大切にし続けられる場所に


「リリーの家」の近くにある諸鈍長浜公園には『男はつらいよ 寅次郎紅の花』の山田洋次監督が寅さんに寄せた文章の碑があります。
『男はつらいよ 寅次郎紅の花』は寅さんを演じた渥美清さんの遺作となったシリーズ最後の作品。監督や、リリーを演じた浅丘ルリ子さんもその後、この「リリーの家」にお線香をあげに来ているのだとか。

山田洋次監督の文章がつづられた碑。

“我等が寅さんは、今も加計呂麻島のあの美しい海岸で、リリーさんと愛を語らいながらのんびり暮らしているのだろう――きっとそのはずだ、とぼくたちは信じている”

こちらが、碑に記された山田洋次監督の言葉。

現在、諸鈍に住む私は、Instagramなどで集落での新年会や豊年祭の様子を上げると、お会いしたことのない諸鈍ご出身の方から、「親戚の顔が見られてうれしい」「諸鈍の人達が元気でやっていてよかった」とコメントをいただくことがあります。この「リリーの家」が宿泊施設としてオープンしたことをアップしたら、諸鈍にルーツを持つ方から「懐かしい場所が新しく生まれ変わってうれしい」「素晴らしい取り組みだ」とご連絡をいただきました。

新しく作られた星見台。ここで夕涼みがてらお酒を飲むと最高に気持ちいい!
先日の諸鈍長浜の夕暮れ。

山田洋次監督が、寅さんとリリーさんがこの島で愛を語らいながら暮らしていると信じているように、島ご出身の方も、島の人々がおだやかに美しく暮らしていくことを願っているのだと思います。

この取り組みが、今、島に住む人に、これから島に訪れる人に、そしてさまざまな場所で島を思う人にとって、島の美しさと同じように大切なものとなるよう、私も願っています。

取材協力╱伝泊・奄美