第3回:生きる芸術 ザンビア編「1円アパート、1円弁当」
1円アパート、1円弁当
これは小学生の時に言われた悪口です。僕の家族が住んでいたアパートは古くて、壁にはヒビがありました。友達の多くは、一戸建てかマンションに住んでいたので、そう言われるのも納得でした。
でも、いま改めてこの言葉を見ると、よくできた宣伝文句にも聞こえてきます。1円の家賃だったらいいな、と。まあ、そんな風に思うのは、ぼくが1円アパート出身だからなのでしょうか。
僕らがホームステイした家のホストが、土地を買った2006年、彼らが現在暮らすンデケ・ビレッジはまだなかったそうです。
そこはサバンナで、どうして、そんな場所に家を建てるかのと、笑われたそうです。ところが今では5000人ほど住んでいる、ちょっとした新興住宅地になっているのです。
そんな村のずっと奥地には、新たに移り住んできた人たちが、自分で建てた家が軒を連ねる地区がありました。泥の壁にトタン屋根。言い方は悪いですが、こんな粗末な家は、漫画や映画のなかだけでした。
しかし、この泥の家が、どういう訳かとても魅力的に見えました。
土産ではなく、もっと他の生活に密着したモチーフを作品にしたい、生きている芸術、生活のなかにあるアート、リビング・アートを表現するための題材を探し求めているうちに、出会ったのが、この泥の家でした。
泥の家の傍を通るたびに観察を続けました。バケツに入れた泥を積み重ね壁をつくっていました。
屋根はトタンか茅葺。究極なシンプルさ。見ているうちに、自分も建ててみたいと考え、企画案をつくりました。
家を建てるための土地を手に入れるには、相応の企画意図が必要だと考えたからです。
インディペンデンス・ハウス
独立した家。ザンビアはイギリスの植民地支配から1964年に独立した。
これからは、個人が社会の束縛から独立する時代になる。この家はそのモニュメントだ。
例えば、住宅戦線からの解放。東京に家を買えば数千万円はかかる。土地に縛られ銀行に利息を支払い続ける。その因習から解放されたらどれだけ楽になるだろうか。
このシンプルな家を建てる技術は、天災などの緊急時にシュエルターとして有効活用できるかもしれない。
自分で家を建てる技術は、生きるうえできっと役に立つ。その技術を学んで、日本にザンビアの家を建てたい。
この企画をホストに伝えると、
「いいね。やろう。」と即答してくれました。想いは伝えてみるものです。もともとないもの、駄目でも何も失いはしません。
ホストは、家族と暮らすスタジオのほかに、アート・ムナンディ・ビレッジというアート村の構想をカタチにしていました。
そこに洞窟を掘った家をつくっているから、そのシリーズでノリオとチフミの家も建てよう、と場所を提供してくれることになりました。
大地のアート村
ムナンディ・アート・ビレッジは、ンデケ・ビレッジからバスで約1時間、チョンゴエの街に着き、そこからタクシーに乗りさらに30分ほど、道なき森を抜けた先に広がっていました。
ンデケ・ビレッジが50年前なら、ここは100年以上もっと昔にタイム・スリップしました。茅葺の小屋にニワトリが放し飼い。周りは森。井戸まで歩いて5分の立地でした。
ビレッジには、ジョゼフが住んでいました。ジョゼフは1971年生まれの42歳、子供5人と妻の7人の家族、1か月間0円でも生活できると教えてくれました。それもそのはず、完全自給自足の生きる達人でした。
ジョゼフが最初に案内してくれたのが洞窟の家でした。アリが土を盛った3mを越す丘に穴を掘ったアトリエです。なんと2005年から掘り続けているというのです。
翌日から、日の出と共に目が覚め、ニワトリが鳴く生活が始まりました。
食事はザンビアの暮らしで学んだレシピです。基本材料はトマト、玉ねぎ、キャベツ、ニンジン、米と食パン。井戸に水を汲みに行き、炭で火を熾し、アフリカの大地のなかで家づくり生活がスタートしました。
後編につづく