一本の長いテーブルの野外ディナー。「Outstanding in the Field」が示す食のつながり

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一面の緑のなか延々と伸びる白いテーブルの道。ちょっとシュールでフォトジェニックな風景は、イタリア映画の1シーンではなく、アメリカ発の旅するレストラン「Outstanding in the Field」の食事イベントのセットです。食の生産者と土地を消費者と結びつけるための野外パーティーは、毎年世界中をツアーして人気を博し、2015年には日本の富士山の麓にも上陸しました。

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北米のInstagramで見かける、長いテーブルを一列に並べた野外パーティーの写真。いまでは一般に普及した見知らぬ人たちとのアウトドアの食事会ですが、アイデアの発祥は1999年にカリフォルニアで始まったOutstanding in the Field (アウトスタンディング・イン・ザフィールド) がその発端です。

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農家とシェフと消費者の距離をリセットするために、Farm to Table (農場から食卓まで) の代わりにテーブルを農場に持ち込むというコンセプト。消費者が滋味をもたらしてくれる食料の産地に直接つながることで、作り手である地方の農家や食品生産者を讃えることをミッションにしています。

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Outstanding in the Fieldは発足以来20年近くに渡り、全米の50州と15カ国以上で野外ディナーを主催しています。長いエレガントなテーブルは世界中を旅して、農場や果樹園、牧場のほか、山頂や川や洞窟、ビーチや島に設置され、天候によっては納屋や温室の中に並べられました。

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年間100回ほど開催される旅するレストランでは、長い1つのテーブルに100〜150名ほどが並んで食事をします。選ばれた地元のシェフが地産の素材を使い、イベント限定メニューをオープンキッチンで料理して振るまいます。

シェフと農家が協力して提供されるすべての料理には様々なストーリーがあり、人々の会話のきっかけを生み出します。参加者は、産地の歴史や背景、生産者の想いを知ることで、食のありがたみを実感しながらフレッシュな料理を楽しむのです。200ドル以上という価格にもかかわらず、チケットは毎回ほぼ完売する人気となっています。

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シェフでアーティストでもある創立者のジム・デネバン (Jim Denevan} は、夕日の角度に合わせたテーブルのセッティングや、雨が降った場合の対処の方法に多くの時間を費やしています。サンタクルーズ近くのプライベートビーチでは、満潮に合わせた時間にスタートさせて、さざ波がゲストたちの足元をくすぐるようにセッティングしました。

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Outstanding in the Fieldのパーティーでは、参加者たちは自分のお皿を持参するように求められます。オランドのイベントでは、人々が自主的にプレートを交換して、参加の記念として持ち帰ったことが印象的だったとデネバンは思い出します。「大皿から取り分ける習慣のない海外の地域では、異なる食文化にとまどうケースも目にしましたが、結果的に人々は私たちのカルチャーを快く受け入れてくれました」。

2015年9月には日本にも初上陸。富士山麓の朝霧高原にある「富士山ワイナリー」で、国際レベルの甲州ワインや地元の日本酒とともに、手打ち蕎麦を使った一品も供されました。

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この年のイベントのシェフは、山梨県忍野村の日本料理店「忍野八洲(おしのやしま)」の天野洋喜さんと、ニューヨークのレストラン「Crimson Sparrow」のオーナーシェフ、ジョン・マカーシー (John McCarthy) さん。

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富士山麓でのアメリカ人シェフと日本人シェフのコラボレーションは、デネバンにとってもっとも印象的なイベントの一つになったそうです。デネバンは前日に、2メートル近くの生い茂る草を刈り、テーブルを見晴らしのよい場所に設置して、シンメトリーな火山の斜面に合わせて並べました。季節がら雨の多い時期だったので、地元の人々からは、山の景色が数週間に渡って遮られるかもしれないと伝えられていたとのこと。

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ゲストが到着するとすぐに富士山を見せようとしたのですが、残念ながら視界は閉ざされていました。すると全員が着席した10分後に、雲がすっと晴れて雄大な富士山の姿が浮かび上がり、テーブルは拍手喝采に。「すべてのことが思うようになると、体験は簡単に忘れ去られがちです。しかし驚きに備えているなら、魔法は起きるものなのです」とデネバン。好評を博した富士山ワイナリーでの開催は、その後2年に渡って続いています。

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Outstanding in the Fieldが発案した、農家や生産地と消費者を結びつける野外ディナーやイベントは、フォローする団体やレストラン・農園が増えていき、今では北米においては珍しいものではなくなりました。

オレゴン州の「Secret Suppers」では、数週間前に晩餐が開かれる場所のヒントが、近くのお薦め宿泊施設という形で参加者に知らされます。正確な住所は、開催24時間前までは一切わからないというサスペンスに満ちた演出を行っています。

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コネチカット州の「Dinners at the Farm」シリーズでは、ニューイングランドの伝統的な農家の食事が提供されています。また、アリゾナ州の「Cloth and Flame」は、砂漠の中で開催されるディナーイベントが有名。ウェディングや少人数のプライベートパーティーにも利用され、人気を集めています。

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「アウトドアでの食事は、人のすべての感覚を伴う官能的な体験です。大空の下で土の香りを嗅ぎ、肌に触れる風を感じ、鳥の歌声に耳を傾けながら、テーブルに運ばれた産地の食材を味わう喜びです」と、デネバンは語ります。

彼は最近、スマートフォンの浸透によって、人々の他人や周囲とつながる能力が危険にさらされていると感じています。「雨粒が落ちてきて避難したり、農家の実際の声に耳を傾けることは、自然の中でのカルチャーの表現として得がたい経験なのです」。

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Outstanding in the Fieldのコンセプトは、日本の都会や地方のコミュニティ創りに大変有効だと思います。若者はもとより、お年寄りや子供たちが一緒に集い、自然の中で会話をはずませながら食事を楽しむ。そんな素敵な風景を想像してしまいます。

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