自動運転がもたらす社会とは?コンセプトカーに託されたビジョンをひも解く
自動車会社が発表するコンセプトカーには、現在の社会が抱える課題へのソリューションと、革新された未来社会のビジョンが表現されています。
「シェアリングエコノミー」「物流」「高齢者」「過疎」「走行妨害」「所有」といったキーワードから、個人のライフスタイルまでも変えうる、自動運転のコンセプトカーのビジョンについて見ていきたいとおもいます。
シェアリングエコノミー(ライドシェア)への対応
ライドシェアリングとは、自家用車で他人にタクシーのような送迎サービスを提供するもので、グローバル展開しているUberや世界最大手の中国の滴滴出行(ディディチューシン)などがあります。
ライドシェアとは相乗りサービスという意味ですが、自家用車を他人のライドにシェアするカーシェアリング全般にも用いられ、Uberでも個別送迎プランがスタンダードとなっています。
Uberの場合は、海外においてUberPOOLというプランで、行き先マッチングをおこなって相乗りサービスを安価に提供しています。日本では道路運送法の規制があり、Uberはライドシェアではなく、タクシー配車サービスを提供するにとどまっています。
ルノーが2018年3月に発表した「EZ-GO」は、パプリックとプライベートの乗り合いサービスのために設計された都市型・電気ロボ自動車のコンセプトカーです。運転席のないレベル4の自動運転車で、アプリからオンデマンドで送迎をおこないます。バスなどの公共交通を補完する位置づけとして開発されました。
EZ-GOは、ワイドなサイドウィンドウでオープンビューが楽しめる非常に美しいデザインとなっています。フロントハッチが大きく跳ね上がり、スロープを通して車いすやベビーカーのユーザーが楽に搭乗できるバリアフリーな構造も素晴らしいです。
ホンダのコンセプトカーNeuV (ヌーヴィー)も、ライドシェアに特化した2人乗りの電動自動運転車です。車の所有者が使ってない時間にライドシェアの送迎をおこない、余った電力は電力会社に買い取ってもらうことで省エネルギーに貢献します。
ヌーヴィーにはハンドルが付いていて、手動運転にも自動運転にも対応できます。ソフトバンクの開発したAIによる「エモーショナル・エンジン」でドライバーの反応や癖を学び、運転のアドバイスや音楽のレコメンデーションをおこなってくれます。
コンパートメントには電動スケートボードが収められており、ライドシェア企業の相乗りの場合に、メインロードから自宅までの「ラストマイル」の足として想定しているのがユニークです。
完全自動運転のライドシェアに、障害者や高齢者が利用しやすいシステムが組み込まれれば、公共交通網のない過疎地や僻地だけでなく、都市部の交通弱者にとっても非常に大きな恩恵となるでしょう。アプリの替わりに音声認識スピーカーなどをレンタルすることで、スマートフォンが使えない高齢者や視覚障害者にも対応できそうです。
物流や遠隔サービスを大きく変えるソリューション
2018年1月のCESで、トヨタの豊田章男社長が自ら登壇して「これまでの車やトラックの概念を超え、消費者への新しいモビリティサービスの価値を拡大する」と発表したのが、全長4~7mの自動運転車「e-Palette」。ライドシェア用から、モバイルショップやモバイルオフィスにカスタマイズ可能な多目的自動運転車です。
エリア限定でドライバー要らずのレベル4の自動運転機能を搭載するe-Paletteが、もっともインパクトを与えるのは国内の人手不足に苦しむ物流業界でしょう。
トヨタは、Amazon、Mazda、Pizza Hut、Uber、滴滴出行などと提携し、e-Paletteを2020年の東京オリンピックで大会関係者の移動で試験、その後アメリカでの実証実験を行うとしています。
e-Paletteのようなカスタマイズ可能な構造は、色々な遠隔サービスにも活用できるでしょう。目的に応じて内部スペースとなるコンテナを積み替えたり、コンテナ自体もユニット式のモジュール構造にすれば、1台の車で様々な用途に対応できます。
障害者や孤立した高齢者のもとに、介護者とともに移動入浴車を差し向けたり、一人ひとりを自宅からピックアップしてコミュニティスペースとして活用したり、飲食ユニットやカラオケユニットなどで楽しむこともできそうです。
走行妨害されないようなデザインも重要?
The Vergeで「ムカつくトースターのような外観」としてデザインに酷評を浴びたのがフォルクスワーゲン・グループのコンセプトカー「Sedric」。「こんな運転中のイラつきを増すような車はいらない」と散々な書かれよう。
SedricにはVWのロゴの替わりに、フォルクスワーゲン・グループのロゴが付けられています。単体のブランドではなく、グループ直下の2つのシンクタンクによりデザインされたものとのことです。
SONYの初代AIBOを彷彿とさせて愛嬌を感じますが、そのロボット的なデザインにThe Vergeは反発したのかもしれません。
一方、フォルクスワーゲンのマイクロバスのコンセプトカー「Buzz」は、レトロな外観の自動運転車らしくないデザイン。このキュートなスタイルを見て、運転中にムカつく人は少ないんじゃないでしょうか。
後ろ姿もなごみ系です。
悲惨な事故にもつながった、走行妨害についてのニュースを最近よく目にします。自動運転が実現した際の社会のマインドセットも考慮に入れて、手動運転車に走行妨害を受けにくい温かみのあるデザインを採用するなどの対策も必要かもしれません。
サード・プレイスとしての自動運転車
法律をクリアして完全自動運転が実現すれば、ドライバーは運転から解放され「車の中の自由人」へと変化します。走行中にも停車中のように、飲食、読書、仕事、昼寝などが可能となり、車はカフェやクラブ、公園などのような居心地良く過ごせる第3の居場所(サード・プレイス)になります。
居住空間へと変わった自動運転車に求められる設備や機能、インテリアのビジョンを、コンセプトに盛り込んでいる例も現れています。
ヒュンダイの発表した「モビリティ・ビジョン」は、スマートハウスに自動運転車がドッキングし、シームレスなリビングスペースに変わるというコンセプト。
「Oasis」と名付けられたスイスの自動車メーカーRinspeedのコンセプトカーでは、フロントのダッシュボードの上にミニガーデンが設置できます。ラディッシュやハーブを水耕栽培で育てて、そのフレッシュな空気を車内に循環させるというなんとも斬新なアイデア。こちらもライドシェアを想定したモデルです。
自動運転車は「所有」されるか?
オンデマンドの自動運転車によるライドシェアが実現した場合、人々は高いお金と維持費を払ってまで自家用車を所有したいと考えるでしょうか?
手動運転を楽しめる車は生き残るかもしれませんが、果たして自動車メーカーに手動運転車を製造する体力がその時に残っているかどうかわかりません。人々が移動手段としての車はライドシェアで充分と考えるなら、自家用車の製造販売数は大きく減少するからです。
自動運転車がサード・プレイスとして「居住ボックス化」したとき、所有欲をくすぐるリビングスペースとしての機能とデザインがなければ売れはしないでしょう。所有欲を刺激するプロダクトデザインという点に注目したとき、あるIT企業の名前が思い浮かびます。そう、Appleがひっそりと取り組んでいるのは、そのような自動運転車ではないでしょうか。
日本でも安倍晋三首相を議長とした「未来投資会議」で、2017年から完全自動運転車の実用化に向けた議論が本格化しました。
わたしたち個人も、自動運転が実現する社会のビジョンについて考えておく必要があるかもしれません。