【対談】農業と経営、パラレルキャリアの作り方。 デジパ(株)代表取締役 桐谷晃司さん×YADOKARI|未来をつくるひと〈100 People〉Vol.5
YADOKARIメンバーが未来をつくるひと100人に会いに行く対談企画「未来をつくるひと〈100 People〉」VOL.005は、デジパ株式会社 代表取締役の桐谷晃司さん。
桐谷さんが経営されるweb制作会社「デジパ株式会社」は、YADOKARI代表のさわだ・ウエスギが社員として勤め、YADOKARIが生まれるきっかけとなった企業です。
桐谷さんはデジパ(株)の他に、起業家育成会社「ココロザス(株)」の代表取締役社長を兼任される一方で、食を通じたコミュニティを作るNPO法人「あわ地球村」を運営し、「半農半経営者」というパラレルなキャリアを歩まれている桐谷さんとYADOKARIの2人がお話します。(進行・構成 スズキガク)
1964年大阪生まれ 1988年関西大学卒業。1991年仲間5人で㈱ワイキューブ(新卒採用コンサルティング)を共同創業。2001年3度目の起業で デジパ㈱(インターネット関連)を創業、13年間で社員8人が起業。2009年に自己再生の旅をした後、2010年に南房総に移住。「半農半起業家」という生き方を選択。現在、デジパ㈱、NPO法人あわ地球村、㈱ココロザス、3社の代表を務める。
なぜパラレルキャリアなのか?リアルな経済と豊かな暮らし
── 株式会社ワイキューブの創業を皮切りに、様々な企業の代表を務める桐谷さんは、「半農半経営者」として働き、多拠点居住を行うなど、新しい暮らし方を実践されています。また、YADOKARI代表のさわださんはデザイナーとして、ウエスギさんはデジパ(株)の取締役として活動しながらYADOKARIを経営し、パラレルなキャリアを構築しています。
仕事の軸や生活の拠点を複数持つという暮らし方を選ぶ人が増える中、どのような経緯でそのキャリアをスタートされたのでしょうか?
YADOKARIさわだ(以下、さわだ) 僕らは2011年3月11日の東日本大震災が大きなきっかけとなり、『豊かな暮らしとはなんだろう?』と考えはじめました。
住まいの基盤となる家を手に入れるために、35年のローンを組んだり、高い賃貸の家賃を払ったりすると、家族との時間も満足に持てず、住宅のために働くという生き方になってしまいます。住宅にまつわる金銭的負荷が大きなデメリットとしてあるので、ひとつの解決法としてスモールハウスを軸に、『未来住まい方会議』としてメディア発信を始めました。
桐谷さんは会社経営の他にNPO法人”あわ地球村”で農業をされていますが、その経緯はどのようなものだったのでしょうか。
桐谷晃司氏(以下、桐谷) 僕の場合は2008年に起きたリーマンショックが大きなきっかけでした。その時に、投資や為替などの数字のみを追うバーチャル経済がはじけたと感じて。当時よく会っていた経営者仲間の会社もリーマンショックのあおりを受け、倒産する会社も出ていたんですね。そうした状況の中で、『為替や貨幣に代わるリアルな経済とは何か?』という疑問が浮かび、自給自足やパーマカルチャーを実践されている方を尋ね、日本国内を旅してまわって。その結果「食とコミュニティこそリアルな経済だ」という答えにたどり着いた。
『日本固有の食材である米と大豆を農業でつくれば、飢えることがない』。それは貨幣に代わる経済だと感じたんです。そうして活動を始めたのが、千葉県南房総の白子に拠点を置く、あわ地球村なんです。
あわ地球村では田植えや畑作を中心に、宿泊施設もセルフビルドで作って、田んぼは1区画単位でオーナーを募集したり、味噌や醤油づくりのワークショップをおこなって都内から人を集めています。
多様性を探る、半農半Xの現場
YADOKARIウエスギ(以下、ウエスギ) 社会的に大きな出来事がきっかけとなっているのですね。桐谷さんは、南房総と東京という多拠点居住と、半農半経営者というパラレルな働き方をされているわけですが、その中で生じた変化などはありますか?
桐谷 僕は自然の中で生きている方が心地よい、だから南房総で過ごす間はストレスを感じないかな。半農半Xという生き方も、いまでこそ目新しく感じる生き方だけれど、昔は漁村などでの半農半漁など、別々の職業をひとりの人間が担うことは頻繁にあった。終身雇用という制度ができて、だんだんと専業される方が増えたけれど、少し時代をさかのぼってみれば、働き方にも多様性があったんです。
さわだ いまは少しずつ職業の多様性が戻って来ていますよね。だからこその面白さもあると思っていまして、僕たちの場合、web業界出身の人間が、スモールハウスを開発して販売をしたり、みんなで小屋を建てたりしている。その面白さや、違う分野の人間がやるからこそ生まれる発想や価値もあるのではと、最近では感じています。
そういえば桐谷さんは、『農』と『経営』の切り替えはどうされているんですか?スケジュール調整なども大変だと思うのですが。
桐谷 そこは自分の中でリズムを作っているかな。月曜日は朝早くから会社に行って、だいたい水曜日までに経営の仕事が終わるようにその週のスケジュールを組み立てたり。田んぼのシーズンはそちらを優先してスケジュールを組んだりもしている。
具体的には移動時間のバスの中で『農』と『経営』のスイッチを切り替えたりとかね。あと、東京で急な用事が入った場合でも、南房総から東京までは自動車で1時間半なので問題なく対応できるよね。
さわだ それくらいの移動時間は、やってみると意外に苦にならないですよね。僕も逗子に住みながら、週に3回くらい東京へ行き来するのですが、移動の一時間は本を読んだり仕事をしたりできるので、あっという間に過ぎてしまいます。東京のギラギラ感は好きだけど、僕の場合住むと常にオンの状態になり疲れてしまうし、家賃も高いのがネックです。今はオンオフのバランスがしっかり保てているという実感はあり、こんなことならもっと早くからやっていれば良かったと思います。
桐谷 なんでもそうだと思うんだけど、実際にやってみると、思っているほど難しいことではないと思うよ。
ウエスギ 働き方に『農』を取り入れたことで、『経営』の方のお仕事に変化はありました?
桐谷 僕はずっと『自由に生きたい』と考えているところがあるんだけど、経営をしていると、それに矛盾する形で会社にがんじがらめになってしまう。そういう状況でも、会社が成長していくエクスタシーみたいなものを感じてるので、どうにか頑張ってしまうんだよね。経営者って廃人みたいな人が多いじゃない、四六時中オフィスにいたりとか。僕もそんな状態が続いていて『自分の体がこのままでは壊れるな』と感じていて、そんなことをリーマンショックまで続けていた。
それが半農という暮らし方を始めたことで、価値観の枠が壊れたんだ。経営もしながら農業もできる、自分の心や体と仕事を、うまくバランスを取りながら行動できるって気づけた。
さわだ それもやってみたから気づけたことですよね。僕たちもYADOKARIをはじめてから、出会う人も世界も大きく幅が広がっています。まだまだこれからですが、それは飛び込んでみたから得られたことで、1歩といわずとも、とにかく0.1歩でもいいからやってみるというのは重要だなと。
まずはコミュニティに入ること、地方の住まいの見つけ方
ウエスギ 多拠点居住をするときによく聞くのが、移住先をどう見つけるか?という問題です。いきなりよそ者が行っても家は貸してくれないことが多いそうで、移住者それぞれに解決方法があると思うのですが、桐谷さんはどのように居住先を見つけたのですか?
桐谷 南房総は空き家率が20%を超えていて、家自体はあるんだ。でも、そういう物件は不動産屋さんにも情報が流れていないので、地元の人が信用のおける移住者に貸し出しているのが現状。そういう物件を見つけるためには、地元の人のコミュニティに入ることが重要だったかな。
僕の場合は拠点を見つけるのに半年かかったんだけど、最初は正攻法で不動産屋さんに行ってみて、でも見つからない。だからまずは地元で開催しているワークショップへ参加するわけ。そうするとだんだんと仲良くなる人が出てきて、家を紹介してくれる人が現れてくる。
今は地方でもシェアハウスが運営されていたりするのでそこに入居してしまうとか、とにかくコミュニティに入り込んでしまうのが重要ではないかな。
さわだ どの地方でも同じことを聞きますね。地元の人は変な人が来ても困るから簡単には貸せない、だから空いている家はあるけど借り手がつかない。
桐谷 そうだね。僕の場合は田んぼを借りるのが一番苦労したな。役所の農業振興課でも農業未経験の人は相手にされない。これも地元のコミュニティに参加することで解決していったんだけど、地元の人と仲良くなって、居酒屋で飲んでいると地元の世話役みたいになっている人が現れたりする。そういうキーマンに『田んぼを探しているんです』と話すと、その人から紹介があり話がスムーズにいく。
ここは都会とは違う点なんだけど、地方では45歳ってまだまだ若手の世界なの。だからコミュニティの方から応援されて農業を始めることができた。
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ネット以上の情報は現場にしかない
── 今、若手という言葉が出ましたが、桐谷さんは「2030年までに100人の起業家を育成したい」という思いで、起業家を支援するため会社を経営されています。
YADOKARI代表のさわだ・ウエスギは桐谷さんが代表を務められる「デジパ(株)」で働き、起業を行いました。「豊かな暮らしの実現のために、人々の”暮らし方”の選択肢を増やす。」ことを目指して活動している若い経営者2人のデジパ(株)時代のお話や、新しい暮らし方を実現していこうとしている方に向けてのメッセージがあれば、お聞かせください。
桐谷 二人のデジパ時代の話ですか。
さわだくんは、デジパっていう面白い会社があるって聞いて、入社するためにデザインの学校に入ったんだよね?すごく熱意があった。
ウエスギくんは新卒で入ってもらったんですが、その当時の採用はビジネスアイデアを考えてプレゼンしてもらう方法をとっていまして、そのプレゼンを聞いて、大学3年生で面白いことを考える人がいるなって。そこで採用されたのはウエスギくんだけだったよね。
ウエスギ 懐かしいですね。いま思い出すと恥ずかしいプレゼンでしたが(笑)
桐谷 それから8年経ち、ウエスギくんはデジパの取締役になっていますし、二人をはじめ、社内から独立する人が増えてきました。自分の会社のDNAを受け継いだ人達が増えて世の中で活躍している姿を見るのは嬉しいです。
今の時代、インターネットであらゆることができます。そこそこの答えはネット上にある。でも実際に動くかどうかで、得られるものや出てくる答えに違いが出てくると思います。そこで出たものが重要で、行動することに価値がある。頑張ってもらいたいです。
(対談ここまで)
読者の方々の中には、地方移住やパラレルキャリアに憧れていてもなかなか踏み出せない人もいるのではないでしょうか。
しかしながら、「やってみないとわからない」こともたくさんあるはず。まずは小さく一歩を踏み出してみることで理想の暮らし方に近づけるかもしれません。
リンク:
桐谷晃司さんのブログ「桐谷晃司の半農半Xライフ」
デジパ株式会社
株式会社ココロザス
NPO法人あわ地球村
写真提供:NPO法人あわ地球村
桐谷さんの著書はこちら ⇒ 検索せよ。そして、動き出せ。
デジパ(株)採用募集のお知らせ
とことん自分らしく生きるために
好きな時に、好きな場所で、楽しい人と働こう
デジパのワークスタイルは、仕事はもちろん、バランスよく人生を楽しむこと。
デジパではメンバーのライフスタイルを大切にし、夢の実現を応援しています。仕事だけを考えるのではなく、夢の実現に近づき、充実したバランスのよい生活を実現してこそ、人として成長し、仕事のクオリティもあがると考えるからです。
そのために出社義務を無くすスーパーフレックス制度や、パラレルキャリアを推進し独立を支援する制度を創業当時から実現しています。その結果として創業以来14年間で9人の起業家を輩出しました。
ただし、自由な働き方を実践する責任とスキル、そして何よりその価値観を共にすることが不可欠です。デジパではそのための研修、教育のフレームワークがあります。
私たちの考え方に共感し、「とことん自分らしく生きていきたい」という方を募集しています。
取材協力
今回対談場所として使わせていただいたのは、デジパの最古参メンバー(現在はパートナー)で、未来住まい方会議でも「葉山暮らし」の連載をされている、渡部忠さんの葉山町にあるご自宅兼アトリエです。もともとオーガニックのパン屋さんだった2階建の居抜き物件を、ご夫婦ふたりだけでフルリノベーションしたご自宅兼アトリエは、7月下旬頃より、CORNER(コーナー)という名称のアトリエ兼ギャラリースペースとして公開されます。奥さまのまみさんが運営するニットブランド「short finger」のアトリエ兼ショップおよび、お客様のご要望に応じて個展や地域のワークショップなどに気軽にご活用いただくよう現在準備中です(http://corner.work/)。
short fingerのショップでは、YADOKARIが運営するAURORAの北欧ビンテージ商品なども並ぶ予定です。
上記5枚の写真撮影/沢崎友希
リンク:CORNER
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