小屋×都市 #07「キャンパーフェス2018 in 安曇野」レポート前編|都市を科学する〜小屋編〜 – オンデザインパートナーズ×YADOKARI

夕暮れ空の下に並ぶモバイルハウス

安曇野の星空の下で、モバイルハウスでキャンプをする人たちと語り合った。
2018年11月に長野県松本市で開かれた「キャンパーフェス2018 in 安曇野」。
レポート前編は、”移動できる寝床”で得られる自由を、
モバイルハウスを満喫している人たちの話から考えた。

30台以上のモバイルハウスが大集合

秋空の下に、30台以上のモバイルハウスが並んでいた。
軽トラックを改造したものが多いが、バンやキャンピングカーもある。
電車と送迎バスを乗り継ぎ、会場に着いたのは夕暮れ時。
どんなフェスに、なるのだろうか。

安曇野での「キャンパーフェス」は、2018年で2回目。
「いま話題のDIYモバイルハウスが日本全国から大集結」
「時代の最先端を走る“不動産ならぬ可動産“の新しい遊び方、住まい方の祭典」
という趣旨で、北アルプスのふもとにあるシャロムヒュッテで開かれた。

安曇野に向かうJR大糸線から見た北アルプス

1泊2日のフェスは、「素敵な出会いにキャンパーイ」という乾杯の音頭でスタートした。
真ん中に焚き火があり、各々が好きなようにキャンプしながら語り合う。
なんというか、ゆるくて、心地よい雰囲気だ。

焚き火を囲んでフェスがスタート

なぜモバイルハウス? そりゃ「自由」だよ

会場をフラフラ歩いていると、年配の男性の酒宴に声を掛けられた。
1人が1台ずつ、モバイルハウスに乗ってきたようだ。
熱燗と鍋料理を分けてもらいながら、「どうして、モバイルハウスを持とうと思ったのか」を訊ねてみた。

「そりゃお前、『自由』だよ」

即答だった。しかも、4人中3人が声をそろえての。

「家族と暮らしているとさ、1人になりたくなったりすること、あるじゃない」
「そういう時に、これがあればすぐに出かけられるから。一種の“隠れ家”だな」

男は家以外にも、どこか自分だけの居場所がほしい生き物なのかもしれない。

鍋を囲みながら、「そりゃお前、自由だよ」

テントいらずのキャンプを楽しむ

さらに歩くと、2人の青年が静かな宴会を楽しんでいた。
同じように訊ねてみると、1人から興味深い答えが返ってきた。

「ぼく、休みが週1日しかないんです。でも、キャンプが好きで」

仕事が終わった夜に出かけ、テントを張るのは確かに難儀だ。
でもモバイルハウスなら、キャンプ場まで運転するだけで良い。
1日の休日を、1泊1日に拡大して最大限楽しむための車だった。

設営いらずでキャンプができる

自作した着脱可能な小屋を、荷台に載せた軽トラックもあった。
車両は、大工の仕事でも使っているという。

「キャンプは好きだけど、テントは面倒で。これなら一石二鳥」

夫婦で楽しそうに、焚き火のある夜を過ごしていた。

せっかくなので、自分がいつか、モバイルハウスで「旅する星空案内人」をやろうと思っていることも話してみた。
「それだったら、この車、●●●万円くらいで譲ろうか?次のを作ろうと思ってるし」
思いのほか安い値段に、本気になればいつでも始められることを実感した。

宿の心配がない自由な旅

キャンプだけでなく、モバイルハウスを「旅行」に活用している人も多かった。

食物アレルギーがあるという女性。
「エビもカニが食べられないから、旅館に泊まるのはもったいない。でも、これなら好きなものを食べながら、好きな旅行ができるから」

自由気ままな旅が好きな男性。
「行き先を決めたり、計画を立てたりすると、行動が縛られちゃうからイヤなんだよね。この車があれば、泊まる場所の心配をしなくて良いから、とてもありがたい」

農業を営む別の男性は自然が相手だけに、事前に休みを決めてホテルを取るのが難しいという。
「モバイルハウスを持ってから、急な休みでも出かけられるようになって、人生が変わった」

夜更けまで語り合う

寝床の心配がなくなるだけで、「旅」はこんなにも自由になるのだ。

車の滞在場所という問題も

モバイルハウスで自由を手にした彼らも、車を停める場所には悩んでいるようだった。

キャンプ場のほか、駐車場に余裕がある公園や道の駅などを探して使っているという。
滞在を深夜から早朝までに限ったり、連泊をなるべく避けたりと、各自で気を使いながら滞在している様子も伝わってきた。
街中であればコインパークも活用するし、必ずしも無料でなくとも良い。

「車両が滞在できるスペースを、良い方法で増やすことはできないかなぁ」

繰り返し聞いたそんな言葉に、パーソナルモビリティや自動運転が発展して移動の形が多様化するであろう未来社会への、問いかけが含まれているように感じた。

自由をもたらす移動寝床

モバイルハウスは、移動能力と、衣食住の「住」を兼ね備える。
それによって得られる「自由の大きさ」が、旅やキャンプの様子から感じられた。
満天の星のもと、ゆったりと流れる時間に心地よく浸っていると、夜が更けていった。

(後編へ続く)
<文・写真:谷明洋>

【都市科学メモ】

小屋の魅力

旅やキャンプが自由で気軽なものになる

生きる特性

機動力、居住性

結果(得られるもの)

すぐに出かけられる自由、1泊1日でもできるキャンプ、宿の心配が要らない行き当たりばったりの旅行

手段、方法、プロセスなど

モバイルハウスを手に入れて遊ぶ
キャンプや自由な旅が好きなら、モバイルハウスの活用を考えてみてはいかがだろう。形態については、連載#06「移動する小屋」も参考にされたい。

 

「都市を科学する」の「小屋編」は、横浜市の建築設計事務所「オンデザイン」内で都市を科学する「アーバン・サイエンス・ラボ」と、「住」の視点から新たな豊かさを考え、実践し、発信するメディア「YADOKARI」の共同企画です。下記の4人で調査、研究、連載いたします。

谷 明洋(Akihiro Tani)
アーバン・サイエンス・ラボ主任研究員/科学コミュニケーター/星空と宇宙の案内人
1980年静岡市生まれ。天文少年→農学部→新聞記者→科学コミュニケーター(日本科学未来館)を経て、2018年からオンデザイン内の「アーバン・サイエンス・ラボ」主任研究員。「科学」して「伝える」活動を、「都市」をテーマに実践中。新たな「問い」や「視点」との出合いが楽しみ。個人活動で「星空と宇宙の案内人」などもやっています。

小泉 瑛一(Yoichi Koizumi)
建築家/ワークショップデザイナー/アーバン・サイエンス・ラボ研究員
1985年群馬県生まれ愛知県育ち、2010年横浜国立大学工学部卒業。2011年からオンデザイン。2011年ISHINOMAKI 2.0、2015年-2016年首都大学東京特任助教。参加型まちづくりやタクティカルアーバニズム、自転車交通を始めとしたモビリティといったキーワードを軸に、都市の未来を科学していきたいと考えています。

さわだいっせい / ウエスギセイタ
YADOKARI株式会社 共同代表取締役
住まいと暮らし・働き方の原点を問い直し、これからを考えるソーシャルデザインカンパニー「YADOKARI」。住まいや暮らしに関わる企画プロデュース、空き家・空き地の再活用、まちづくり支援、イベント・ワークショップなどを主に手がける。

また、世界中の小さな家やミニマルライフ事例を紹介する「YADOKARI(旧:未来住まい方会議)」、小さな暮らしを知る・体験する・実践するための「TINYHOUSE ORCHESTRA」を運営。250万円の移動式スモールハウス「INSPIRATION」や小屋型スモールハウス「THE SKELETON HUT」を発表。全国の遊休不動産・空き家のリユース情報を扱う「休日不動産」などを企画・運営。黒川紀章設計「中銀カプセルタワー」などの名建築の保全・再生や、可動産を活用した「TInys Yokohama Hinodecho」、「BETTARA STAND 日本橋(閉店)」などの施設を企画・運営。著書に「ニッポンの新しい小屋暮らし」「アイム・ミニマリスト」「未来住まい方会議」「月極本」などがある。