ダンボールハウス「Wikkel House」の工場見学に行ってみた!

(c)Naoko Kurata

数年前に颯爽と世界に現れ、タイニーハウス関係者や愛好者たちから注目を浴びたオランダ発の「Wikkel House」。「未来住まい方会議」でも、そのデビュー以降、強く注目をしていました。今回、その企画製作を行っている「Fiction Factory」にお邪魔して、製造現場を見学させてもらいました。実際の使い心地なども体感してきたので、その様子をレポートしたいと思います。

エコフレンドリーな「Wikkel House」の製作現場

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「Fiction Factory」があるのは、アムステルダム中央駅からフェリーで対岸に渡った北地区。かつてはオランダの造船会社(NDSM)があった場所ですが、1984年のNDSM倒産を契機に一度さびれてしまった歴史があります。けれど2000年以降は、クリエイターやスタートアップがこの地域に集まるようになり、近年急発展を遂げているのです。

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「Fiction Factory」は元々、1989年に創業した家具やインテリアを手掛ける会社。そして「Wikkel House」は、2000年頃に製紙業界に携わる全く別の人物が思いついたアイディアだったのだとか。けれどその当時は予算やアイディアの実現化に苦労し、プロジェクトは一度とん挫してしまいます。10年ほどアイディアが塩漬け状態になっていたそうなのですが、その10年の間に、世界では映画「不都合な真実」などによる環境意識の目覚めが起こります。更にiPod TouchやiPhoneの発売により、「Wikkel House」のような角の丸いフォルムが好まれる風潮が起こり、すべてが追い風となっていったのです。

最初の発案者から「Wikkel House」プロジェクトを受け継いだ「Fiction Factory」は、研究を重ね、ついにデザインを完成することに成功。オランダ国内で2016年に開催された「BouwExpo」というタイニーハウス・デザインコンテストで入賞し、話題を呼びました。

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その「Wikkel House」は、とても大胆な作り方をしていることでも知られています。今回筆者は、「Wikkel House」の製作現場を見学させてもらいました。案内してくれたのは、「Fiction Factory」のエンジニアOepさんです。
工場には製作中のユニットが並んでいて、テンションが上がります!

(c)Naoko Kurata
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「Wikkel House」といえばダンボールを使用している家ということで有名ですが、この機械で家のパーツをぐるぐると回転させ、ダンボールの紙を巻き付けていくのです。大胆!
ちなみに、「Wikkel House」のWikkel(wikkelen)とは、オランダ語で「包む」「ラップする」を意味する単語。なるほど、「くるくる巻いた家」ということなのですね。

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そのダンボールはもともとこのようなロールで準備されています。「Wikkel House」のひとつのユニットの奥行は1,2mなのですが、その数字の根拠はこのダンボールの規格からきています。このダンボールのロールの紙幅が1,2mであることから、このサイズになったのだとか。

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ダンボール紙を巻き付けた状態が、この画像の右側になります。左側は、最終的に家としてセットアップする時に出入り口の部分に使われるパーツ。

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ダンボールを巻き付けた状態の断面図は、このようになっています。ダンボールを12層に巻き付け、それを2回繰り返すので、計24層。断熱材としても優秀ですが、緩衝材としての強度もばっちりです。

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ちなみに、前述の出入り口に使われるユニットには、亜麻(Flax)の繊維が断熱材として用いられています。亜麻は、通気性や吸湿性に優れているので、湿気に強い家になりそうですね。「Wikkel House」は環境フレンドリーな素材しか使わないというモットーがあるので、こういう緩衝材にも人工的なプラパーツなどは使用しないのです。

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製作工程も興味深いですが、せっかくなら完成形も見たいですよね?実はFiction Factoryの敷地内には、「Wikkel House」のモデルルームも設置されているのです。そちらも見学させていただきましたので、シェアします!

あなたのための家!カスタマイズできる「Wikkel House」

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こちらが、8ユニットを組み合わせた状態の「Wikkel House」。実は「Wikkel House」に決まった使い方は無く、ユニットをいくつ組み合わせるかは利用者次第。こちらの8個使いはリビングルームやセカンド・ベッドルームもあるなかなか贅沢な使い方をしています。

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屋根部分には、太陽光発電パネルの取り付けもOK。

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生活排水は、下水パイプにつないで。実は、「Wikkel House」の水回りはすべてひとつのユニットに集約される構造になっています。キッチン、トイレ、シャワー(すべて後程紹介)はこのユニットに付随しているので、すべての排水がここから出るのです。そういう理由もあって、通常のユニットはひとつ500kgですが、この水回りユニットだけは、倍の1tの重さがあるのだとか。
ちなみに、上の画像にちらりと写っているコンクリートの支えは、ひとつ800kgあるそう。縁の下の力持ちですね。

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さて、いよいよ室内のご紹介です。内側もウッドパネルで覆われているので、ダンボールは見えません。本当に、この家の内部がダンボールでできているなんて不思議ですね。

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このモデルハウスでは、しっかりリビング&ダイニングスペースも確保されています。入り口も兼用の前面は、すべてガラス張りなので開放感もばっちりです。日当たりの良い日は、ここで優雅なティータイムが楽しめそうですね。

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そして、小さいながらも必要なものはすべて揃ったキッチン。電熱調理台の上には換気扇も設置されているので、換気も安心です。

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こんなバタフライテーブルも取り付けられるんです。しかも、羽板の下にはミニワインセラーも。なんて機能的なんでしょう。

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先ほど水回りはすべてひとつのユニットに集約されていると書きましたが、配電盤などの機能もこのユニットに納められています。「Wikkel House」の心臓部です。

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キッチンと配電盤の奥の扉の中には、バスルームが。「Wikkel House」のロゴ入りのシャワーブースがキュートですね。

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トイレと、洗濯機置き場もここに。洗濯機の上には湯沸かし器もあり、引き戸で覆い隠すこともできるんです。生活感を隠せるところが、気が利いてます。

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その隣のパーツは、オプションのストックルーム。作り付けのベッドを倒せば、ゲストルームに早変わり。幅1,2mの底力を見せつけられました!これは個人的な見解ですが、床にマットレスを敷けば、もう一人寝られそうです。これなら気兼ねなく友人を招待できますね。

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そして、一番奥には寝室スペースが。1,2mのユニットを2つ組み合わせているので、普通のベッドが問題なく置けます。
明確な間仕切りはないのですが、バスルームやゲストルームが上手に目隠ししてくれるので、LDKスペースからの視線は遮ることができています。プライバシー確保にも配慮がなされた構造ですね。

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入り口側同様、こちらにも勝手口兼用の窓があります。ただし、正面側がすべてガラス張りだったのに対し、こちらはベッド前は板張りにされていました。こんなカスタマイズもできることに驚きです!

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そう、まさに「Wikkel House」は「あなたのための家」(A House For You)。自然に還る、環境に良いパーツを使ったエコフレンドリーな家であるばかりでなく、住む人のニーズやわがままに応えてくれるポテンシャルがあるのです。ユニットの数、配置、組み合わせ。無限の組み合わせが楽しめそうじゃありませんか?

実は輸送などの関係から、今現在この「Wikkel House」が設置できるのは欧州大陸のオランダとその周辺国、およびイギリスやスカンジナビア半島の国に限られています。うーん、残念! けれどもっと販路を広げたいという野望もあるそうなので、今後の展開に期待したいです。いつか、日本でも「Wikkel House」での暮らしを体験できる日が来て欲しいですね。

Via: wikkelhouse.com