ツリーハウスつくろう(8) ~小林 崇さんに学ぶ、ツリーハウスはじめの一歩~
今回は、僕が出会い影響を受けた『人』ツリーハウスクリエーター 小林 崇 さんと、その世界について、体験レポートを綴っています。
ツリーハウスビルダー養成講座は、トップデッキの制作へ。ビルダー見習い達は、ホストツリーの樹冠に抱かれながら作業を進行していきます。
樹冠にデッキをイメージする
コバさんがトップデッキのイメージを始めたのはホストツリーが決まってからすぐの頃。樹木のスペシャリスト「株式会社 葉守」の深沢さんに樹木診断をして頂いていた頃にさかのぼる。まだこれから地上デッキ(第1デッキ)制作を始めようという時期だった。
樹木診断の結果、ハウスは予定外にプロが設置するような高さの樹上7m付近に設置することになった。
トップデッキは、ホストツリーの負担を最小限に抑えるよう考慮し、畳3枚半程の大きさでイメージされた。
樹上の第2デッキが組み上がる頃になると、トップデッキの制作が本格的に始まる。
ビルダー見習い達により、垂木での詳細な位置決めが始まり、トップデッキは主幹(山側)と、やや細い奥の幹(谷側)に設置したTAB(ツリー アタッチメント ボルト)でビームを支える構造で制作を進めることになった。
大きなハの字形に設置されるビーム。やや細い奥の幹(谷側)の負担を減らす為に、ハウスなどの構造物は主幹側(山側)へ構築する。ツリーハウス制作は、どの段階の作業でも樹木との対話が欠かせない。

樹冠デッキを組み上げる
トップデッキの組み上げは、樹冠付近での作業となった。
ホストツリーは常緑樹のタブの樹。樹木の枝葉が最も活き活きと茂る樹冠部分は、年間を通して緑に包容される心地よい空間だ。しかし、その樹冠付近は太い幹が放射状に広がり、その幹から更に枝葉が広がる。それらをかき分けながらの樹上作業は難易度が高い。
ツリークライミング班も、枝葉をかき分けながら作業することが多くなってきた。
空中作業をする上で最も重要で難しいのは、身体をどの位置に固定するかだ。この位置取りが上手くいくと、作業の段取りが円滑に進むのだが、一旦誤った位置に固定してしまうと、途端に材に手が回らない、身体をあらぬ方向へ曲げないとビス(木ネジ)が打ち込めない、ドリルを回したら反動で自分が回転してしまう……などなど、一気に疲労がたまる結果となる。樹上からガサゴソと動き回る音が現場に響く。
地上班の材の引き上げ、ツリークライミング班の樹上空中作業も息が合い始め、作業は少しずつだが確実に前に進み出した。
トップデッキのビームは第2デッキの倍近い、地上7~8m、ビルの3階程まで引き上げ、ようやく設置が完了した。続いて、根太を数本ずつまとめて樹冠へと引き上げていく。太い角材が次々に飛んでいく。地上班の作業は、さながら筋力トレーニングのようだ……。
幅の違う床板を組み合わせて、ここにも遊び心を入れていく。不足の事態と最後のデザインに備え、外形のカットは最後までの残し、根太の幅いっぱいにデッキを制作していく。

こうして、ようやく地上7mにトップデッキが姿を現した。
眼下には樹々の緑が谷一面に広がる。頭上にはホストツリーの樹冠が広がり、樹木に抱かれる温かさと安心感を堪能できる。幹と枝が、ちょうど窓のようになり、向こう側には鋸山の稜線が見える。思いがけず、借景(しゃっけい)のような趣きに。まさに自然の造形美だ。
ようこそ、樹上の世界へ。ここは、樹の温もりと、森の凛とした空気が流れる、非日常空間。僕らの秘密基地だ。

制作は創作へ
樹上の作業と並行し、地上の第1デッキ付近から順に、柵や手すりなどの制作も進んできている。
コバさんの見習いビルダー達らしく、流木や現場周辺の森で見つけた倒木を加工し、自然の曲線を生かした独創的な仕上りを目指す。

全てのデッキが組み上がり、ついにツリーハウスの基礎ができ上がった。樹木と対話しながら進めてきた制作作業を振り返る。
樹上へのエントランスとなる地上の第1デッキは2段構成。葉っぱの葉脈を模した床板と外形が特徴で、ホストツリーの根元から約1m程の高さにある。空へ伸びる階段を上ると、樹上の第2デッキ。高さは地上約4m。TABと頬杖のような柱で空中に固定されている。
そして、今回レポートしたトップデッキが、地上約7m。ここにハウスを制作していく。
コバさんは、見上げた視線の先にいったいどんなハウスをイメージしているのだろう。そして、ツリーハウスビルダー見習いの僕らは、そのイメージを共有し形にすることができるのだろうか。期待で胸がワクワクする。

ツリーハウスを通して
コバさんは、この講座を通してツリーハウスの制作技術だけでなく、その制作を通して感じる事を大切にして欲しいとお話してくれた。
ツリーハウス制作の現場は、ありがたい事に毎回天候に恵まれ、穏やかな森の中で作業を進めている。しかし、現場への山道は、来る度に枝葉が降り積もっている。地元の方々の定期的な整備が追いつかない程の異状な荒天にしばしば襲われているようだ。
このツリーハウスビルダー養成講座の講師としてお越し頂いた、アファンの森財団理事であり、人と自然の研究所代表の野口理佐子さんのお話を、いま実感している。
地球が誕生しておおよそ46億年。現在に至るまで、何億年もの時間を掛けて形成されてきた生態系や環境を、人間は、近現代の僅か百数十年で一気に破壊し使い切ろうとしている。
よく聞く環境問題のスローガンにしか聞こえないだろうか?
こうして自然相手の現場にいると、気候変動や異常気象といったことに気を配るようになる。これは本来、人間が動物として持っていた感覚のはず。

このところ、数十年、数百年に一度の異常気象に、毎年のように襲われている。もはや異常が常態化し始めている事は、誰もが薄々わかっているはず。都市や街で暮らしていると、そんなことへの関心は、ひどく疎くなってしまう。過敏である必要は全くないけれど、無関心であってはならないと思う。難しく考えず、子供や孫に、せめて今より少しでも良い環境を残してあげたい。そんな風に考えれば、自ずとやれることも見つかる気がする。
ツリーハウスは自由や冒険の象徴であると共に、自然を考察するきっかけにもなって欲しい。そんな願いを込めながら、制作を進めています。
全てのデッキが完成し、ついに樹上でのハウス制作が始まる。ツリーハウスつくろう、ここからが正念場だ。
ツリーハウスクリエーター 小林 崇 さんと、その世界についての体験レポート。次回へつづく。