作家の物語から連想した、巨大な張り子の貝殻「Serpentine Pavilion 2014」

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公園に横たわる巨大な貝殻のようなこの建物は、チリの建築家、Smiljan Radic による作品だ。近づいて見ると、マスキングテープをペタペタと貼った張り子のような構造をしている。すぐに破けてしまうのではないかと心配になる。

しかし薄い張り子の素材には、グラスファイバーが使われているので案外頑丈だ。日暮れには内側の照明が壁を透けて、全体が琥珀色に発光しているようにみえる。公園を歩く人々は外灯に吸い寄せられる蛾のように、ついついこの家の傍に近寄ってみたくなる。

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ロンドンの美術館「サーペンタイン・ギャラリー」では、2000年以降、毎年この「サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン」を開催している。美術館に隣接するハイド・パークに、当代一流の建築家に依頼して夏季限定のカフェ兼休憩所を設営するのだ。ちなみに2013年は、日本人建築家の藤本壮介がこの公園でパビリオンを手掛けている。

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貝殻のようでいて、直角の部分もある外観は、地上に降り立った宇宙船のようでもある。土台となって支える岩は、ストーンヘンジのような遺跡を思わせる。未来と過去が庭園の上で錯綜する。

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建築家は、19世紀のアイルランドの作家、オスカー・ワイルドの物語「わがままな大男」(The Selfish Giant)に影響を受けてこの家を設計したそうだ。大男が留守の間、その庭を気に入って遊ぶ子どもたち。7年ぶりに帰って来た大男は腹を立て、子どもたちを自分の庭から追い出し、高い壁を張り巡らせて立入禁止の立て札を立てた。

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子どもたちを恋しく思う庭園の木や草は、悲しがって花をつけるのをやめてしまう。北風や雪は喜んで、大男の庭に一年中住み着いてしまうようになった。春を忘れた庭。しかし、ついにわがままな大男の心の壁を解く、ある出来事が起こる。

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ドーナツ状のパビリオンには、破れたように見せかける開口部がいくつもある。それは頑なだった大男の心が、解けていくさまのようでもある。
張り子のような脆い家は無事に夏季の4ヶ月間、数十万人の訪問者にも持ちこたえ、やすらぎの場を提供し続けた。

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Via: archdaily.com