なだらかなフォルムが波を彷彿させる、イギリスの憩いのカフェ「East Beach Café」
イギリス ロンドンから、電車で南に2時間ほど行ったところにLittlehamptonという町がある。 海岸沿いのLittlehamptonは、イギリス人にとって、短い夏を満喫するための貴重なリゾート地なので、夏になると多くの観光客で賑わう場所でもある。中でも、ビーチ沿いに建っている「East Beach Café」は人気のスポットだ。East Beach Caféは、観光客の憩いの場所というだけではなく、その建物のユニークさも集客に一役買っていると言えるだろう。
カフェの建物は細長く、流木のような質感に見える。しかし、よく見てみると木材ではなくメタル材でできている。波打ったようなそのデザインは、ビーチの景観を壊すことなく上手く馴染んでいる上に、一風変わったその外観から、立ち止まって見入ってしまう人も少なくないだろう。今ではたくさんの観光客で賑わうLittlehamptonだが、East Beach Caféが出来る前は閑散としたものだった。
ビーチを売りにする場所はどこも同じように、訪れる観光客だけで店の売り上げを維持するのは難しい。Littlehamptonもその一つで、1970年代にさしかかると訪れる人はだんだん減り、廃れた場所になりつつあった。
そんな中、もっと多くの客を呼び込もうと、ビーチ前のキオスク(小売店)のオーナーは大きなレストランに建て替えを計画した。しかし、立地条件は悪く、キオスクの目の前には歩道、後ろには下水道が通った、タバコのような細長い形をしていた。そのせいで、新しいレストランに建て替えたとしても、店舗を広げることができないのだった。
町の再生に共感したLittlehampton在住のJane WoodさんとSophie Murrayさんは、話を聞いて「もしかしたら、自分達ならその場所に店を建てられるかもしれない」と考え、その古いキオスクを購入した。そして、2012年のロンドン五輪オリンピックの聖火台をデザイン建築したThomas Heatherwick氏に、新しいカフェの建築を依頼したのだ。
新しく建設するカフェは、ビーチの目の前なので、強い海風に耐えられるような建物にしなければいけない。その上、ビーチの景観を壊さないようにもしなければいけない。課題は山積みではあったが、Heatherwick氏は問題を一つ一つ見事に解決していったのだ。
外壁には、海風に強いコルテン鋼を使用した。驚くことにその外壁は、全部の工程をLittlehamptonの溶接会社の社員2人で仕上げたそうだ。外観は、アートのオブジェのようにして、人目を引くようにデザインした。なだらかなウェーブ状のコルテン鋼が波のようにも見えるので、奇抜すぎずに景観に溶け込んでいる。
East Beach Caféが出来てからというもの、Littlehamptonは以前のような賑わいを取り戻した。それはカフェのユニークさもさることながら、扱うメニュー全てに地元の農産物を使用するこだわりもあるからだろう。そのお陰で、観光客だけではなく地元の人々にも愛される場所になっている。JaneさんとSophieさんの地元愛から始まったEast Beach Caféは、今ではLittlehamptonの象徴として、多くの人々に憩いの場所を提供しているのだ。