これが本当のリノベーション?! 築100年の教会がコミュニティスペースに変身「Absalons Kirke」
自由で豊かなライフスタイルの最前線として、都会的で刺激的な試みを発信し続けるデンマークの首都コペンハーゲンは人口がたったの112万人。東京や大阪などの大都市と比べものにならないコンパクトさだが、そんなコペンハーゲンでも深刻化している問題がある。そう、土地不足だ。人口の増加でアパートの家賃は高騰し、オフィスは増えているにも関わらず、住民のためのコミュニティスペースは少なくなっている。そんな問題に華麗に対応したコペンハーゲンの真髄を紹介する。
郊外化を図るのではなく、あくまで都心に住民のためのコミュニティスペースを確保する。そんな意図で注目され始めたのが、教会である。デンマークでは、小さな教会は街中にたくさんあるものの、日常的にはほぼ使われていない。市内の「Absalons Kirke」は、同じ理由からリノベーションに踏み切った教会のひとつだ。もともとは白い簡素な内装に宗教的なフラスコ画が飾られた、特に代わり映えのない教会だった。
100年あまりの教会としての役目を終えた「Absalons Kirke」は売りに出され、ポップな雑貨を扱うデンマークブランド「Flying Tiger Copenhagen」の経営者に購入された。その後、民間の様々なアイデアを元に工夫を凝らしてリノベーションされ、コミュニティセンターとしてカラフルに生まれ変わった。
教会らしい縦長の窓や美しい照明、アーチ型の出入り口など教会としての面影はそのままに、壁やインテリアはすべてポップカラーをあしらった。もともと祭壇があった場所の隣にはなんとカフェバーも完備。安価で美味しい料理が楽しめるほか、映画上映会などを開いて酒を楽しむこともできる。
階段を上ると、もともとはオルガンなどが置かれていた半二階スペースがある。現在は子供のためのプレイルームとして新しい役目を果たしている。ワークショップ、フリーマーケット、ヨガ教室など、朝から晩までひっぱりだこの「Absalons Kirke」は、久しぶりのにぎわいを楽しんでいる。
ひとたび足を踏み入れれば、古い建物の構造とクラシックな家具に、ポップでモダンな要素が非常に絶妙な具合で融合していることに驚くだろう。使われていなかったとはいえ、かつては教会。すべてを破壊してしまうのではなく、歴史性を大切にしながら新しい息吹を吹き込んだリノベーションはさすがコペンハーゲンと言いたくなる。様々な年代の住民が自由に無料で行き来のできるコミュニティのための場を、使われていない既存の建物から生まれ変わらせた例は、ぜひ日本も見習いたいものである。
(文=杉田真理子)