橋守たちが快適に過ごせる、景観にマッチしたオランダの橋守小屋「Melkhuisje」
写真左端に建つ、茶色い小さな2階建ての建物は「橋守小屋」だ。
橋守小屋と聞いて、あなたはどんなものを想像するだろうか。橋の横に簡易的に設置された粗末な建物を想像されてしまうかもしれないが、オランダ西部に位置するハーレム(Haarlem)という街の橋守小屋はひと味もふた味も違う仕上がりになっている。
この建物が建てられたそもそもの発端は、数年前にハーレムのメルクブルク橋(Melkbrug)横の橋守小屋が火災で焼失してしまったことにある。生活と運河が密接に結びついているオランダでは、橋守(brugwachter)は大事な仕事だ。かつては橋の通行料徴収係のような役割だったが、近年は稼働式の橋も多く、高さのある船でも通過できるようなものも増えているため、船の運航などに応じて橋を操作する重要な役割を果たしているのだ。
そんな橋守たちの仕事場兼待機場所である建物を再建するため、ハーレム市は小屋の新デザインをコンペ式に募り、65の応募デザインの中から選考委員たちが2つのデザインを選んだ。そして最後には、住民投票により最優秀作が選ばれたのだ。
これが、その住民により選ばれたデザインの「メルクハウシェ」(Melkhuisje)。橋のMelkを一部とって「ミルク小屋」という意味の可愛いネーミングに決まった。デザインしたのは、マリョレイン・バンエイク(Marjolein van Eig)という女性建築家だ。そんなメルクハウシェは2014年の住民投票から待つこと1年、2015年9月に完成した。
外壁の凹凸のあるタイルは、路上アーティストたちの落書きを防ぐための仕様。さすが景観に厳しいオランダならではの工夫だ。そして見る角度によって全くイメージの変わる形状は、屋根の張り出しなどで過剰な直射日光を防いでくれる。仕事柄、橋と川を見渡せる大きな窓は欠かせないが、夏場の日差しを緩和することで橋守たちも快適に過ごすことができる。
橋は緑色が基調のデザイン、周囲の建物はブラウンなので、小屋も同じ系統の色遣いをされている。小屋が、橋にも周囲にも、しっくりと馴染んでいるのがわかる。屋根にはさりげなくソーラーパネルも埋め込まれていて、電気を自給できる工夫も。
外装が緑とブラウンなので、内装も同じように統一感を持たせてある。総床面積19㎡となかなかのスモールハウスだが、大きな窓とすっきりとしたデザインのお陰で窮屈さは感じられない。
合理的なオランダ人は、この素敵なメルクハウシェをただの橋守小屋で終わらせるつもりは無いそうだ。将来は更なるオートメーション化が進み、橋守という仕事も無くなるかもしれない。そうなったときは、川沿いのプチホテルとして再利用する構想まであるらしい。その際はぜひ宿泊して、川を眺めながらリラックスしたいものだ。