『 大企業務めの同級生5人が、一斉に独立、起業、移住したわけ 』 合同会社こっから | 未来働き方会議イベントレポート
YADOKARIが立ち上げた“これからの働き方”を考え、実践するためのメディア『未来働き方会議』。そのオフラインコミュニティの議長として株式会社ファイアープレイス代表の渡邉知さんが就任し、日本各地でワークスタイルについて議論するオフラインイベントを展開する。2016年7月24日、そのキックオフを告げるイベントが川崎の「ロックヒルズガーデン」で行われた。
渡邉 知
株式会社ファイアープレイス 代表取締役
1975年仙台市生まれ。電通グループの人事部採用マネージャ〜経営計画室勤務を経て、2008年、リクルートへ中途入社。2010年、全社トップガンアワード受賞(トップオブトップ営業表彰)。2011年よりじゃらんリサーチセンターの研究員/プロデューサーとして、交流人口増加による地域活性に携わる。 2015年ファイアープレイス設立。現在はオフラインコミュニティを起点とした人と人が繋がる場づくり事業のプロデュース&運営事業に挑戦中。東京都観光まちづくりアドバイザー、静岡県地域づくりアドバイザー、(株)さとゆめプロデューサー。
渡邉さんは電通グループの人事部採用マネージャー経営計画室勤務を経てリクルートへ中途入社。じゃらんリサーチセンターの研究員/プロデューサーとして、交流人口増加による地域活性に携わった経験を持つ人。今後は彼を中心に、会社や職種の枠組みを取り払った交流をはかり、それぞれの働き方を“外開き”していくことを志している。キックオフイベントの第1部は、渡邉議長とYADOKARの対談を通して、『未来働き方会議』オフラインコミュニティの目標や抱負を語った。
どう働きたいかを考えることは、どう生きたいのかを考えることにつながる
YADOKARI:「僕らは今までの枠にとらわれない住まい方を探求する『未来住まい方会議』という媒体を運営しています。加えてこの2016年の4月より、世界中の働き方の興味深い事例を発信するメディア『未来働き方会議』をオープンしました。最近は雇用や拠点にしばられず働いたり、サラリーマンでありながら週末地域の活動に参加してみたりなど、ひとつの会社にそのまま勤めるのではない社会との繋がり方が、増えてきたと思うんです。
また高齢者人口の増加に伴い、60歳以降の働き方も大きなマーケットや“生きがい”となってきます。人生の大半を占める“働く時間”の内容次第で、ライフスタイルや人間関係など、人生の幸福度は大きく変わってくるはずですよね。」
渡邉知さん(以下渡邉):「生き方と働き方ってほとんど1セットなので、どんなふうに働きたいかを考えると、どう生きていきたいのかを考えることはイコールです。そこはあわせて議論されるべきだと思うんですよね。それで僕の方から、オフラインイベントの議長に立候補しました。
たとえばサラリーマンのときの年収が600万円だったとして、別の働き方を選んだときに『今はどこからどういうふうに収入を得て、どう生計立てているのか』ということを、もっとオープンに話し合う場が必要ではないかと。その際に、自分の属する社会だけではなく、多様な人から学ぶ場があればいいと思いました。
そういった生々しい話って、なかなかメディアでは言いにくいこともあると思うので(笑)。オフラインで『大っぴらにしていこうよ、外開きしていこうよ』っていうコミュニティーを立ち上げたくて、今回のキックオフに至ります。」
オフラインのコミュニティーでは、毎回ユニークな働き方を実践しているゲストを呼んで、そのナレッジを共有していく予定。今回のキックオフイベントでも、ゲストとのトークが展開された。
大企業務めの同級生5人が、一斉に独立、起業したわけ
記念すべき第1回のゲストは「合同会社こっから」の皆さん。2016年、大学時代からの仲間がそれぞれ会社を辞め、東京から縁もゆかりもない福岡県に移住して「合同会社こっから」を設立した。第2部では渡邉議長が、5人のメンバーに現在の働き方、そして会社員から独立するまでの経緯などを聞いた。
合同会社こっから
大学時代に学生をエンパワーする活動を行っていた5人組が、社会人を経て結成した合同会社。株式会社リクルートキャリアの大谷直紀、株式会社インテリジェンスの武井伸悟、株式会社リクルート住まいカンパニーの巴山雄史、株式会社リクルートキャリアの寺平佳裕、株式会社リクルートコミュニケーションズの墨健二が、会社を辞め東京から縁もゆかりもない福岡県に、合同会社を設立。エンパワメント事業、リクルーティング事業、コミュニティデザイン事業の3つを軸に活動している。
墨健二さん:「何をしているかの前に、少しだけ前日譚をお話すると、実は『合同会社こっから』設立から約11年程前に、僕たちが大阪で学生時代に立ち上げた『学生団体こっから』という団体がありました。そのとき僕たちは、具体的なビジネスプランもないし、おもろいアイデアもないし、テクノロジーもない。でも『何かしたい、何かしたい』と、うずうずしていたんです。そこで、僕らと同じような学生たちが動き出すきっかけを作ろうとしたんです」
「学生団体こっから」は、探検家/写真家で当時は学生だった石川直樹さんなど、イキイキと活躍している人の学生時代の話を聞きに行ったり、やりたいことを持つ学生をつなげて活動をサポートしたりしていたそうだ。
墨健二さん:「学生たちが動き出していくきっかけの場を作ることがめちゃめちゃ面白くて。皆の顔がどんどんイキイキしたものに変わっていくのを見るのが楽しかった。そんな経験を持ちながら、僕たちは社会人になります」
社会人になってから10年が経ち、「学生団体こっから」のメンバーは、また自分たちの力で何かを始めようと決意した。そのとき具体的なビジネスプランは無く、根底にあったのは、「かつて学生を生き生きさせたいと願い、活動したときの記憶」。
そこで、今度は学生という枠を取払い、「すべての人の人生をPlayfulにしたい」という理想を掲げて「合同会社こっから」がスタートしたのだという。
※Playfulとは
物事に本気で向き合うからこそ生まれる、ワクワク・ドキドキする心の状態を指し、人生を楽しむためのエンジンとして考えだされた概念です。『プレイフル・シンキング』著=同志社女子大学教授 上田信行氏 より
渡邉:「最近、世の中の働き方がどんどん変わってきていると感じます。『合同会社こっから』の5人は東京に居て、そのうち4人がリクルート、1人がインテリジェンスという、大企業で働いていたわけです。それが糸島で起業するとなると、働き方が大きく変わったはずです。その辺りを、おひとりずつ話してください」
働き方のほぼ全てを、自分で選択できる生活
大谷直紀さん:「働き方については、僕はリクルートで9年間勤めていまして、そのうち人事を6年やっていて、会社のことが大好きでした。本当に命を削って採用目標に向き合い続けてきた実感がありますね。採用活動は土日も多いので週末の感覚もなく、自分の身体にムチを打って会社に行っていました。
今の働き方は、時間は基本的に全部自由で、自分が何時に起きて何曜日働くかも全部自分で決めています。誰かに何かやれと言われたり、明確な目標与えられたりということが、ほとんどないんですね。もちろん働く場所も自由で、実は5人そろうのすら久しぶりなんです。働く時間も場所も、自分で選択できるっていう状態が今です。」
転職をしようとしても、行きたい会社がなかった
巴山雄史さん:「僕はリクルートに居たとき30歳でマネージャーになったんですけど、管理職になると、会社の文脈に沿って人をジャッジなければなりません。それが、気持ち悪くなってきてしまって。営業メンバーとしてお客さんのためにまっすぐ向かっていたのが、管理職になった途端、自分の本意じゃない部分の仕事が大半になってしまった。とはいえ転職したい会社もないし、リクルートは面白い組織だし面白い人もいるし居心地もいいし……と、ウジウジしていたのです。ただ、僕の場合は、ものすごくシンプルに言うと、何かこいつらとやったら絶対面白いだろうという、言葉にならない、でも確信めいたものがありました。」
渡邉:「巴山さんのおっしゃる、『転職を考えても、ほかに行きたいところなかった』というのは、すごくシンプルな理由ですね。実は僕もそうでした。会社を移るときに『今1200万もらっているから、次も1200万円もらえる会社』という探し方もあるでしょうし、出世したいというモチベーションもあるとは思うんです。でも、そういう理由では動けない人もいるということですね」
好きな仲間と働くことが、自分の在り方につながる
寺平佳裕さん:「僕もリクルートキャリアという会社で採用のお手伝いを頑張っていました。実はそんなに意志があって採用のお手伝いをしていたわけではなくて……。たまたま近くにいた(大谷)直紀が「リクルートに入社したい」と目をキラキラさせて語っていた姿に刺激を受け、自分もリクルートに応募。そのまま入社を決めたんです。加えて『合同会社こっから』でやりたい具体的なことも、実はありません。子どもっぽいかもしれないですけど、『合同会社こっから』のメンバー5人がすごく好きで、ここで働くことが自分の在り方に繋がるなと思ったんです。
その気持ちに従って動いてみたら、結果的に働く余裕が確立できたんですね。今は、朝は海に行って畑で収穫して、気付いたら午前10時ぐらいで、そこから働いて、17時半ぐらいに帰宅する生活です。もちろん収入は減りました。でも場所も時間も問わずに余裕を持ちながら仕事できると、今後自分がやりたいことを考える時間も増えて、今となってはすごく良かったなと思っています。」
父として、自分が望むように生きる背中を見せたい
墨健二さん:「『合同会社こっから』をスタートする決意したのは、この5人の中で僕が最後でした。『学生団体こっから』を立ち上げたときは、自分から言い始めたのに、起業には一番最後まで二の足を踏んでいたんです。
単純に、勇気がありませんでした。というのも、辞めたときに携わっていたリクルートの仕事は、新規事業開発。グローバルな面もあって、月の半分は海外に行ったりしながら好きな仕事をどんどんやって、評価も給料も上がっていた頃でした。しかも僕は奥さんと2人の子どももいて、奥さんが専業主婦ということもあって、家計のこともちょっと心配でした。さらに、合同会社のスタートを検討している頃に、第3子の妊娠も発覚したんです。
ただ、あることがきっかけで、『リクルートに居て好きなことをやって楽しいけれど、本当にこれが天職で、生まれ変わっても、もう1回この仕事選ぶのかな?』と考えることがありました。その結果『いや、選ばんぞ……』と思ってしまった。期を同じくして大好きな仲間たちが、『やろうやー』と、起業で盛り上がっている。それがまぶしくて。僕はここで決断しなかったら一生後悔するだろうと思ったんです。
確かに3児の父として考えることも多くありますが、自分は子どもが大きくなった頃に後悔を背負って生きているパパでいたくない。子ども達には、『自分の望む人生を自分の思いどおりに生きろ』って言いたいし、それを体現する自分でありたいと思って、最後の最後、決意して踏み出すことにしました。」
日本人は幸せか? 働くことを楽しめる生き方とは
武井伸悟さん:「実は僕だけ、なにも変わっていません。起業前にインテリジェンスという会社で人事をやっていたんですけれども、人材開発の仕事はかなり自由だったんです。『合同会社こっから』を創業する、4年前ぐらい前に、既に僕は独立をしていて、コーチングやコミュニケーションの分野で個人事業とサラリーマンという二足の草鞋を履いていました。
途中、アメリカに留学するタイミングもあって、向こうに半年留学してみて、そのときに改めて思ったのが、やっぱり日本人の働き方がおかしいということ。
僕はカポエイラっていうブラジルの格闘技を学生時代にやっていて、アメリカでもやっていたんですけど、夜6時のクラスと7時半のクラスと両方あるんですね。僕両方に行っていたんですけど、30人の生徒がいるとしたら、25人ぐらいは6時のクラスに来て、7時半のクラスは5人ぐらいしか来ないんです。もちろん皆、普通に仕事をしている人です。日本では会社勤めをしていたら、なかなか6時からのクラスには行けませんよね。どちらが幸福かといったら、アメリカの人々の方が幸福だと思いました。
僕の所属していたインテリジェンスという会社は『はたらくを楽しもう』というビジョンを掲げていたので、僕も『自分にとって楽しい働き方は何か』を考えて、実践することにしました。具体的には、年のうちの1か月から3か月は海外で働くワークスタイルに、2年前からチャレンジしていました。
時間や場所にとらわれずに働くというと、『独立したからできるんでしょ?』と思いがちですよね。僕はサラリーマンとしてそういう働き方ができたら、いろんな人の後押しになるんじゃないかと思っているんです。結局は起業というかたちになりましたが、実はフリーランス的な働き方は、起業前から実践していました。」
渡邉:「5人に共通しているのは、みんな中年起業ということ。普通の大学を出て、会社員を経て独立した。僕やYADOKARIの2人も、もともとサラリーマンです。
僕自身の独立したきっかけはシンプルで、自分で自分の人生をコントロールできなくなりつつあったから。ご機嫌に働いているんだけれど、上司や会社の組織の方針が変われば、居場所や仕事がなくなり、培って来たものを全て変えられてしまうということが嫌でした。そこで、自分の人生をコントロールするためにはどうすればいいのだろうと考えた末に、自分でやるしかないと思ったんです。」
働き方と合わせて”稼ぎ方と暮らし方”へと議論は深まっていく
「合同会社こっから」の、5人それぞれの働き方の変遷をシェアしたあともトークは続き、具体的な”収入の稼ぎ方と暮らし方”へと議論が深まっていった。
働き方と合わせて”稼ぎ方と暮らし方”がどうなっているのかを詳しく知りたい!に応えるべく、「収入はどうなのか?」「生活コストはどのような変化があったのか?」「準備期間に貯金はどのくらいしたのか?」「家族との関係はどう変わったか?」などオフラインイベントだからこそ語り合える本音トークが飛び交い参加者にとっても有意義な時間となったことだろう。イベントレポートでは個人情報もあるので割愛するが、興味のある方は是非、次回イベントに足を運んでみてほしい。そして第3部は登壇者と参加してくれた皆さんとの懇談会へ。有意義な会話が各々交わされ閉幕となった。
もちろん世の中にはいろいろなタイプの人がいる。でもある種の人間は、サラリーマンを続けた結果どこかのポイントで、自分の働き方を自分自身でコントロールしたくなるのだろう。
それは押さえきれない性のようなものだ。僕らの周囲には、読者の方も含めて、そういった性を持つ人間が多いのかもしれない。
働き方のスタンダードは、現在急激な変化の過程で「こうすれば正解」という答えがあるわけじゃない。けれど『未来働き方会議』は、オンラインとオフラインの両方向で、未来の働き方を模索し、真剣に語り合うムーブメントをつくっていきたいと考えている。
今後も、定期的にイベントを続けていく予定です。働き方について話し合える仲間に、集っていただければ嬉しい限りです。