人生を豊かにするこれからの働き方・生き方、「共同体」と「コミュニティビルド」とは? 未来働き方会議 vol.2 イベントレポート
“これからの働き方”を考え、実践するためのメディア『未来働き方会議』。そのオフラインイベントの2回目が2017年1月15日、「BETTARA STAND 日本橋」で行われた。
今回のテーマは、『人生を豊かにするこれからの働き方、生き方、「共同体」と「コミュニティビルド」とは? 』。NPO法人日本橋フレンド代表/三井不動産の川路武さん、ねぶくろシネマ代表・YADOKARI小屋部部長 唐品知浩さんの2名をゲストに迎え、『未来働き方会議』議長の渡邉知さんとともに、それぞれの共同体実践者からみた幸せとは何か、そこに繋がる働き方について、会場参加者の質問や意見も交えながら深堀したトークをレポートする。
“何のために働くのか”その問いを様々な角度から話し合おう
渡邉知さん(以下渡邉): 最近、働き方と暮らし方をセットで考える人が増えてきたように思います。未来の働き方を考えることと、生き方を考えることは2つで1つ。「未来働き方会議」2回目の今日は、会場参加型で、皆さんと一緒に「どうしたら人生をより楽しめるか」について、ワイガヤで考えていきたいなと思っています。
まず、一つの会社にずっといるという時代じゃなくなりました。私たちの祖父母や両親が生きてきた時代とは違う。会社が吸収統合されたり、自分のやりたいことが変わったり、副業で二足の草鞋を履く、という選択肢もある。SNSで人脈が見える化されているから、目的を達成するためなら中の人だけでなく外も含めてみんなで力を合わせることも可能になった今、なおさら同じ会社で働く意味って何?と。
残業で夜中に帰ってくる親父が格好良かった時代から、IT、AIの進化もあって、人が6時間かけてやる仕事を1時間でやるのが格好いいっていう時代になってきました。LCCが出てきて移動コストも安くなってきた。「福岡に友人と4人で2万円ずつ出し合ってアパートを借りて、二拠点居住を実現しよう」といったことも選択肢に入ってくるようになっています。
何のために働くのかーー。その問いを考えるべく、多拠点居住、共同体・コミュニティ、副業・稼ぎ方といった、会場の皆さんから要望が多かった切り口で議論していきたいと思います。
多拠点居住の高まり、AirBnBとの違いは“自分事”と“場創りへの参加”
唐品知浩さん(以下唐品):空き家が増えている今、どこであろうと買わずにもう一つの拠点を持てる多拠点居住の時代が来ると思います。その場所で何をしたいのか、例えばそこに行ったら自分は魚屋さんになってるとか、働き方と紐付いた場であってもいいと思います。
川路 武さん(以下川路):千葉に住んでいるので、山に登りたいと思ったときに筑波山・鋸山以外の山が遠いんですよ。東京・武蔵野、例えば青梅のほうに住めるところがあったら山が近くていいなって思ったんですけど、逆転の発想で、都心に小さな家を持って本当の家は青梅のほうとか、そういうのもこれからはありえますね。
渡邊:僕は拠点を三つほしくて。一つ目は、生産性高く、限られた時間を使ってできるだけ効率的にお金を稼ぐ場所。二つ目は人の繋がりを意識できるふるさと。三つ目は何もしないでぼーっとできるリゾート。
まず一つ目は東京です。今年から日本橋に自宅を移しました。徒歩通勤になるので、もう電車に乗らなくていい。家賃は多少高くなっちゃうんですけど、これまで住んでいた購入済のマンションは人に貸して、日本橋の賃貸マンションは会社で経費処理します(笑)。
二つ目のふるさとについては、秋田県の五城目という町に祖父母の家があって、昔は毎年、いとこ全員集合っていうのがすごい楽しくて。でも、祖父母が亡くなってから秋田に帰ることがなくなったんですよね。田舎って今まで血縁で作ってきてましたけど、これからは自分が帰りたい場所は自分で決めていける時代。人の縁で繋がった、大分県竹田に、有志と一緒に自分たちのふるさとを作るつもりです。
三つ目のリゾートは、沖縄県の宮古島に土地を買って別荘を建てようと思っています。個人購入はキツイです。だから、共同出資者を集めたい、1カ月1万円位の管理費を払ってくれれば1年間使い放題、仲間と一緒に共同保有するイメージ。3つの場所を行き来する生活に挑戦してみたいと本気で思ってます。
会場参加者1:台湾に留学していて、友だち何人かで台北に拠点を置こうと思ってて。人のつながりを物理的に全然違う場所に持っていけるようなことをすごくやりたいなと思っています。
唐品:海外いいですね。多拠点って、どれぐらいその場所にコミットできるかっていうのがポイントだと思うんですが、AirBnB(以下、エアビー)と何が違うんだっていう話もあって。
例えば、YADOKARI小屋部ではコミュニティビルドという手法で街との接点を作っています。BETTARA STAND 日本橋も6日間で100人以上が参加してくれて、「俺釘一本打ったぜ」「私打ったよ」と一枚一枚外壁の板が釘で打たれていく。自分が釘一本でもコミット場所は紹介したくなる。それがプロモーションになり、繋がっていく。そんな地縁のない場所でも外部と繋がるための仕掛けはなんらか必要かなという気はしますね。
川路:ユーザーとホストの意識の違いって、トイレに掛ける絵一つ、自分で作り込むみたいな、そういうことですかね。年10回エアビーで行くのと、年3回しか行かないけどやっぱり自分がホストであるっていう違いなのかなと。
新たなコミュニティ(共同体)との関わり、“ポジショニング”と“プライシング”の重要性
会場参加者2:今日本各地でムラ作りが盛んに行われているように感じています。ムラに特徴や差をつけていかないとコミュニティとしてやっていけないんじゃないかって。
渡邊:すごくいいテーマだと思います。働き方が自由になり、どこでも仕事ができるようになったらどこに住みたいと思うのか。好きな場所で、好きな人と一緒に住むのが理想。そのときに大事なのは、仕事と一緒で、自分の「ポジショニング」と「プライシング」だと思うんです。
ポジショニングは、自分が好きなこと、得意なことでチームや組織、共同体に貢献できるという立ち位置。逆に言えば、それぞれポジショニングを確立できないと、みんなで一緒にやる意味があまりないんですよね。
もう一つは、プライシング。自分が提供できる価値を自覚できているか。ムラづくり、コミュニティ形成の際には、この2つが大事になってくると思います。唐品さんはどう思いますか?
唐品:ムラをスムーズに選べるように情報を整理しておかないと「実はこんな人だったんだね」みたいな面倒くさい話が逆に出てくる可能性がある。ムラの選択方法も増えてこないとちょっと危険かなって思うところもあります。
渡邊:この流れで共同体・コミュニティにテーマを移すと、例えばドイツのベルリンでは、住人同士、価値交換が盛んになっているそうです。同じ価値観の人々が集まり、お互いの得意なこと、人脈も可視化された結果、得意なことを交換する経済が盛んになった。
結果的にこの3年でベルリンに何が起こったのかっていうと平均年収が下がった。つまりお金でサービスを買わずに自分の得意技で自分が不得意なものと価値交換できるようになると、金融経済に変わるモデルが産まれるっていう、面白い実験場になっているらしくて。
川路:ベンチャーに詳しい友からの受け売りなんですけど、限界費用を下げるイノベーションが今最もホットであるっていう話があって。月収20万円でも結構高給!っていう世界を作り上げるために、水道光熱費や携帯電話代などを下げて、毎週山や海に行ったらそれだけで楽しい!といった方向にどんどん世の中の流れてきているように感じます。共同体の価値交換のギフト経済が自分の経済活動の3分の1くらいになってくると、年収がすごく低くても生きていけるっていう話を最近いろんなところで聞きますね。
渡邊:共同体やコミュニティというのは、基本的に価値観が一緒の人たちが手を取り合うことだと僕は解釈しています。どこにいてもどこに所属していても自分の価値観をわかってくれる人と仕事ができるというときに、そのつながりをこれからどう発信し作るのかというのが今ちばん面白いところのような気がします。
唐品:例えばYADOKARI小屋部では、部員の登録はしてないんですよね。YADOKARIサポーターズっていう3,000人ぐらいのFacebookグループに僕が「次こんな案件あるよ」と投稿して来てくれたらもう部員。囲われたくない、好きなタイミングで行きたいっていうニーズが増えてくるんじゃないかなという気はしてますね。
川路:確かに。例えば僕も、「とんかつを研究するだけの会」だと面倒くさいけど、「とんかつのすごいおいしいとこ見つけたっていうぐらいの会」ならアリだなって思いました。
渡邊:僕の人生が最近変わってきたのは常に発信したからですね。今の時代って自分が興味・関心があることをいかにして人に拾っていただくかがめちゃくちゃ大事なような気がします。
唐品:僕はつぶやくっていうことを結構真剣にやっていて、Facebookは要点を簡潔に言うべきだと思う。2行3行超えるとドキドキするっていう感じになるんですね(笑)。例えば、ねぶくろシネマは、僕がずっと個人的につぶやいていたことに共感してくれてたハレットさんが最初のスポンサー。だからちゃんと自分で発信していくことによってちゃんと経済としてなり得るっていうことはあるのかなと思っていて。ブログとかは長すぎて、Facebookでつぶやいてるのがちょうどいい。仕事にも何となくつながってますね。
会場参加者3:これからの時代のコミュニティというのは理念がないといけないものなのか、それとも理念はどんどんなくなっていって好きなものに関心がある人がそこに集まっていくようになるのか、どちらだと思われますか。
川路:日本橋フレンドのボランティアは、アクティブな中心メンバーで30〜35人くらい、なんとなく通り過ぎていった人が100人くらい。時々理念やビジョンと違う方が入ってきてしまうことがあります。僕らはそれを妖精さんって呼んでるんですけど、コミュニティをやっていると必ず妖精さんが飛び込んでくる(笑)。
でもその妖精さんを排除していいことはありません。排除の基準を作ったら結局その一つの基準から多様性が次第になくなっていって、結果最後は自分の首を絞めるんですよね。回答になってないかもしれないですけど、どっちもアリです。
唐品:理念があったほうが一緒にやる人からはわかりやすいっていうのはあると思いますね。芯が緩いと、場も本当に緩くなるので。
渡邊:コミュニティにとって継続・持続は最上位にくると考えているのですが、活動が来年も再来年も、次世代にも続くような仕組み作りや仲間集めには、柱はぶれない方が良いかもしれません。
副業 = お金稼ぎ は必ずしもハッピーではない。“好き” と “誰のためにやるのか” 動機が大事。
渡邊:さて、ここからは、参加者の関心が高い、副業について話しましょうか。
川路:僕自身はとても副業したいんですけど、会社から認められていないので兼業申請を出しています。「NPOの代表やってるけどお金をもらうという立場じゃないので許してください」ということにしてあります。
僕が社長だったらやっぱり副業って嫌だと思うんですよね。「うちの会社の仕事に集中してくれよ」って思うじゃないですか。ところがまた別の立場でいうと、NPOをやっているからこそ知り合える人や信用があって、そこでもらう情報はもうすごい数で非常に貴重なわけですよ。僕はそれを本業に生かしています。
だから会社の人事には言ってます、副業は全員にやらしたほうがいいって。これからの企業は兼業規定をOKにしてかないと、人材の多様性は出てこないと思っています。
唐品:僕でいうと、お金を稼ぐ経路は4種類ぐらいかな。本業(別荘専門の不動産サイトの運営)がいちばん稼ぎのシェアが高いです。
ねぶくろシネマは、元々仲間で2万円づつ出し合って合同会社を作ってはじめました。最近は高価なプロジェクターを買えるようにはなってきています。最初は調布市の補助金を使って運営をしたんですけど、今は企画に共感してくれるスポンサーさんがつくようにもなっています。
○○を面白がる会も参加費をいただいて少しだけ収入にもなってるし、最近は小屋や遊休地活用のコンサルっぽいこともしています。
会場参加者4:副業をやったらお金は確かにプラスになったんですけど、土日がつぶれちゃったんですよ。すごくそれがつらくて。
渡邊:副業は、今やってる仕事を超圧縮して時短にするなり高生産性にして、残りの10時間で何やろうかなっていうふうになったら面白くなるかなって思います。好きだから始めた副業が自分の人生の足かせになるというのは今どきっぽくないと思っていて。
唐品:僕はねぶくろシネマに関しては、当然収益を伴わせたいと思っているんです。元々のきっかけは嫁の「子供を連れては映画を観には行けない」という文句(笑)。なるべく最初のコストをかけずうまく儲かる仕組みを考えながら、誰かの課題となってることを解決していくっていうのが僕としてはやりたいことです。
いちばん上の子どもが小学1年生なんですけど、子供が自分の好きなものを売っていい「いっぴん市」っていうのを12月から始めたんです。恐竜の絵みたいなのを100円とかで販売するんが、お金の流れや、何が売れて何が売れないというのを学べる。このイベントもちゃんとマネタイズしたいですね。
渡邊:昨年(2016年)のスイス連邦のベーシックインカム制度の是非を問う国民投票に関心があった方ってどれくらいいらっしゃいますか。働かなくても月収30万円近くを政府が支給するっていう制度です。結果は否決されましたが。識者の論文を読んだんですけど、「ベーシックインカムとは、要は、”生産性が低い人にお金を出してでも退場してもらう制度”」って書いてあった。すごい衝撃的じゃないですか。
川路:もう一つの観点でいうと、それは過渡期の話であって。ほぼすべての人が働かなくてもいいっていう世界がくるかもしれない。そうなったときに仕事は趣味になるんですね。趣味の仕事は何かっていうと課題解決なんですよ。つまりほぼすべてNPO化するっていう。
効率人間かどうかで価値をはかられるのは金融の枠組みではそうなんだけど、「あなたのバイオリンの音色は美しい」みたいな、なかなか世間的に広く流通する価値を生まないことにこそ価値が出てくる。つまり効率人間市場から退場させられることに、ウェルカムな人もいると僕は思うんですけどね。ただやっぱりハングリーな人はそこに残るべきだし、むしろそれが課題解決、社会貢献だからという気がしましたね。
“やりたいこと”を頭で考えるより、“やれること”を全力でやろう
渡邊:若い方で「やりたいことがありません」という人もいると思います。おふたりから最後にメッセージをお願いします。
川路:「何してるときが好きですか」って聞かれて、答えられるのってすごいことだなとおもっています。でも、実は、好きなことや興味・関心があることって具体的なことじゃなくていいと思っています。だから、いろんなことを知るためにもまずは仕事せぇと(笑)。
唐品:大学に入って自分がすごく平凡だなと思ったとき、何をしたかというと、誘われたものを全部やった。スノーボードをやろうとか、トライアスロンに挑戦してみようとか。そのうち時間が足りなくなって優先順位をつけざるを得ない。それで追いつめられるとなんとなく、好きなものがわかってくるんですよね。
例えばいろいろなNPOに参加したとしても、ここには行かなくなるとかきっと出てくるじゃないですか。でも僕はそれでいいんじゃないかなと思っていて。副業もいくつかやってみて、儲かるところに偏るとか儲からないけどここはやっていくという感じになると思うので、そんな感じを続けていったら、自分が見ようとしなくても見えてくる気はします。
「これが困ってます」「じゃあ、こんなことを」。「こんなことがやりたい」「のった」。今の社会では、人と人が情報や思いを受発信し合う機会が増え、その範囲を広げたり濃くしたりということを個人レベルでできるようになってきた。逆に、狭めたり薄くしたりもできる。そうしてできてきたコミュニティ内で自らの立ち位置を定め、異端を排せず、マネタイズに持っていく。
多拠点居住、共同体・コミュニティ、副業を含め、これからの人生を豊かにする生き方・働き方とは、この「発信」と「受信」の両方に感度を上げ、自分が心地よく響く場所に一旦腰を下ろしてみることなのかもしれない。
次回の未来働き方会議オフラインイベントは、春頃を予定。働き方・生き方について多様な仲間とラフに話し合える場ですので、お気軽にご参加下さい。