ビルの壁に小屋!? サンフランシスコの高層ビルを開拓する「The Manifest Destiny!」
都市の人口増加に対応するため、歴史的に人間は建物を高層化してきた。けれど建物の高さは不揃いで、空中には意外とデットスペースが存在するもの。アメリカのサンフランシスコには、そんなデッドスペース活用の示唆に富んだインスタレーションが登場し、人々の注目を浴びた。しかもそのインスタレーションは、フロンティア・スピリットにも関係しているのだという。
IT事業の総本山・シリコンバレーを抱える街サンフランシスコは、ITブームや、最近のインターネットバブルにより人口が急増している。90年代に始まったその勢いはとどまるところを知らず、2000年の段階でアメリカ国内第2位の人口密度を誇る街となってしまったのだという。そんな急発展の最中の2012年夏、サンフランシスコの住民は、あるはずのないものを高層ビルの谷間に発見した。
そう、なんとビルの谷間の壁面に、昔ながらのスタイルの小屋が貼り付いているのだ。これは一体どういうことなのだろう。
実はこれは、アメリカ国内のアーティストたちが考えたインスタレーション。サンフランシスコで活動するJenny Chapmanとニューヨークに拠点を置くMark Reigelmanのコンビは、「高層ビルの間に家を作ろう!」というアイデアを思いつくや否や、サンフランシスコのダウンタウン(繁華街)の50以上のビルの所有者に協力を仰いだのだという。
そんな突拍子もないアイディアに応じてくれるビルオーナーはなかなか見つからず苦労したものの、Hotel des Artsという彼らのアイデアに強く感銘してくれるオーナーに出会えたことで、彼らのプロジェクトは一気に加速していく。
「The Manifest Destiny!」と名付けられたこのキャビンの素材となったのは、オハイオ州で1890年に建設された納屋で実際に使用されていた木材。100年以上の風雨に耐えた歴史が、その表情からうかがえる。その本物の古材を利用することで、インスタレーションである「The Manifest Destiny!」に本物のような風格を与えているのだ。そしてホテルの壁に吊るす強度が必要なので、アンティークな小屋の内側には、現代的なアルミフレームが施されている。
そうやって組みあがった「The Manifest Destiny!」は、クレーンで吊り上げられてHotel des Artsの壁面に設置された。
これはあくまでもインスタレーションで居住用スペースではないのだが、室内にはなんとLEDライトも取り付けられている。寄生木であるホテルの電気を分電することはできなかったので、アーティストたちは軽量なソーラーパネルを採用した。日射量の多いサンフランシスコでは、十分すぎる設備だろう。
そしてこんなにフォトジェニックな「The Manifest Destiny! 」だけれど、アーティストたちは歴史的な戒めをこのインスタレーションに込めたのだという。かつてサンフランシスコの沿岸部にはネイティブアメリカン部族が多数居住していたけれど、19世紀のゴールドラッシュに伴う開拓(フロンティア)でその多くが迫害された悲しい歴史を持つ。このアートは、開拓者の冒険心と共に、かつての入植者、ひいては現代社会に暮らす我々の傲慢さにをも示唆しているのだ。
けれど我々は同時に、この「The Manifest Destiny! 」のなかに、都市のデッドスペースを開拓していくフロンティア・スピリットを見ることもできるのではないだろうか。高層ビル間の隙間に、オフグリッド・エネルギーを搭載して軽やかに住まう。そんな未来を想像させてくれる存在だ。
2012年秋にインスタレーションの「The Manifest Destiny! 」は展示を終了してしまったけれど、「高層ビルの隙間は活用できる」というアイデアを我々に残していってくれた。本物の居住可能な小屋を後付けできる未来は、そう遠くないのかもしれない。
Via:
inhabitat.com