第7回:生活面でも精神面でもコストパフォーマンスのいい島|女子的リアル離島暮らし
YADOKARIをご覧の皆様、こんにちは。小説家の三谷晶子です。 長旅を終えて、ようやく加計呂麻島についた現在。島の冬は東京に比べれば格段に暖かいですが、私が島の気温に慣れたのかやはり少し肌寒く、けれど、晴れた日の海は冬のせいか透明度が高く、夏とは違った美しさを見せてくれます。
さて、今回は第6回で書いた長旅から帰ってきて、感じていることをお話しようと思います。
「島に住んで何が楽しいの?」
旅の間、東京時代の友人とも合流する機会があり、言われたのがこの一言。
「景色もきれいだし、人もあたたかくて最高だよ」
私はいつもそんな一言しか返せません。
その答えを聞くと、質問を発した人は大体首を傾げます。
「だったら、たまに旅行で行けばよくない?」
きれいな景色を見たいだけならば、確かにそう。 けれど、私は旅行で行くのではなく、ここに住むことに確かな利点を感じています。
生活面でも、精神面でも、コストパフォーマンスがいい島
第3回でも書いたように、島ではお金を使う場所がほとんどなく、家賃も5000~数万円程度。また、第1回で書いたように島にいる人は見知った方ばかり。夜道を歩いていても警戒をする必要がありません。
美しい景色がすぐ近くの家の家賃が数万円。夜道を歩いていても警戒をする必要がない。 これは、生活面でも精神面でも、ものすごくコストパフォーマンスがいいことだと思います。
島に来て、肩こりが格段に減る
東京にいたときの私は、慢性的な肩こりに悩まされていました。時には肩こりが悪化して頭痛がし、週に一度マッサージに行っても追いつかないほど。仕事柄、パソコンに向かう時間が多く、体が凝り固まりがちだというのも理由でしょう。
しかし、島に来て、驚くほどに肩こりが減ったんです。
島に来ても私の仕事内容は変わりません。暖かい気候の場所に来たから体の冷えが減ったというのも一因でしょう。けれど、私は肩こりが減ったのは、「警戒心の必要がない島に来たから」というのが大きな理由だと思います。
島に来て半年が過ぎたころ、一度、東京に用事があり一週間ほど帰省しました。その時、東京滞在3日目にして、私はひどい肩こりを覚えました。
季節は梅雨。どこに行っても湿気をとるためか冷房が効いていて、体を冷やしたというのも理由かもしれません。
ただ、気づいたのは体の右半分だけが明らかにガチガチになっているんです。
右利きの私は、バッグをいつも右肩にかけています。 しかし、島にいる時は同じくバッグを右側にかけていても、そこまで体がガチガチにはならない。
何故だろう、と考え、気づきました。
東京にいる間、ぎゅっと右肩と右腕を緊張させてバッグを持っていたことに。
道に「ひったくりに注意」という看板があったり、満員電車でスリに気を付けなければならないのが東京では普通だと思います。私も、実際にスリの被害にあったことも。
都会のほうが犯罪が多いとは一概には言えないものですが、少なくとも、東京より加計呂麻島の方が犯罪がないと思います。
東京で、自然がある場所に住もうとした場合
東京にいる間も、私はなるべく自然があるところに住むようにしていました。 しかし、そこでも、痴漢や強盗などの被害にあわないように気を付けなければならないものです。
たとえば、大きな公園の近く。昼間は緑がたくさんある素敵な場所でも、夜になると途端に人気がなくなります。何かあった時に叫んでも、民家がなければ助けなど来ない。
となると、大通りから近く、街灯がたくさんあり、なおかつ静かな場所を探さなければなりません。そういう物件はたいてい人気があるもの。家賃も当然高くなります。
また、気に入った物件が見つかっても、一階の部屋しか空き部屋がない場合。塀を乗り越えればすぐに敷地内に入れる作りの家は、やはり危険。気に入った物件でも、諦めざるを得ないこともありました。
ストレスが少ない生活をすることでの金銭面でのメリット
肩こりを何とかするために、毎週、マッサージや鍼に通っていたころ。最低でも施術一回に約5000円かかり、それが週に一度となると毎月2~2万5000円は消えていきます。
そして、前述のように、家の近くに自然のある場所を求めるなら、家選びも難航し、家賃もさらに跳ね上がる。
しかし、それらは私の場合、島に住むことであっさりと解決しました。
徒歩3分の場所に広がる、青い青い海。郵便局に行けば、局員の方とちょっとした立ち話をし、帰り道には足元に駆け寄ってくる犬。 畑の手入れをしている方に挨拶をすれば「これ、今日、とれたばっかりなんだけど持ってく?」と言われて野菜を手渡される。
新しいお店も、有名なスポットも、華やかなショーウィンドウも加計呂麻島にはありません。いわゆる都会で考える「特別な楽しさ」は何もない場所です。
けれど、私はここにいて、毎日が楽しいです。
ガチガチに縮こまっていた肩も心も、今ははるか遠い場所にいる。
肩を少し回して「明日は海にでも入ろうかな」と思うとき、この美しい景色がいつでも誰にでも開かれていることに、ただ「ありがとう」と言いたくなります。