元刑務所がホテルに変身。負の歴史をもつ建物を美しくリノベーションした「The Liberty Hotel」

Via: libertyhotel.com

長い人間の歴史の中には、目をそむけたくなる残酷な出来事も存在します。そんな事件の舞台となった場所は忌み嫌われて、地域そのものがスラム化する危険性すらあるのでは。人々に非人間的な扱いをした負の歴史を持つ場所をリノベーションして作られたホテルが、アメリカにあります。意外な変貌を遂げたそのホテルを一緒にのぞいてみましょう。

刑務所をリノベーションした「The Liberty Hotel」

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アメリカのマサチューセッツ州ボストンにある「The Liberty Hotel」は、2007年にオープンした比較的新しいホテル。けれど、その外観は花崗岩製で歴史を感じさせる重厚なデザインです。それもそのはず、実はこのホテルの建物自体は1851年に建設された歴史的な建造物。19世紀半ばの「ボストン・グラニット・スタイル」(Boston Granite Style)の最高の例として「当時のボストン人の強さと尊厳を表現している」と言う歴史家も存在するほど。

実は、この建物は当時「Charles Street Jail」という名前の刑務所だったのです。

刑務所として100年以上運営され、その間にはマルコムXなど有名な受刑者たちを何人も収容してきました。1973年に連邦地方裁判所は、「刑務所の人口密度は過密であり、収容された囚人の憲法上の権利に違反する」という判断を下します。囚人に対する非人道的な環境から、この刑務所は閉鎖を余儀なくされたのです。正式閉鎖までには数年がかかったものの、1990年には最後の受刑者も別の新しい刑務所に移され、その刑務所としての歴史に幕が下りました。

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1991年に「マサチューセッツ総合病院」によってこの元刑務所は買収され、デベロッパーの手を経て全く新しく「The Liberty Hotel」として生まれ変わりました。直訳すると「自由のホテル」。何とも意味深な名前ですね。

歴史と新しさの絶妙なバランスをもつデザイン

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「The Liberty Hotel」アトリウムホールの華やかな吹き抜けからは、そこがかつて劣悪な環境の刑務所であったとは全く想像できません。

歴史的建造物でもあった刑務所をホテルへ生まれ変わらせたリノベーションは、やみくもに行われたわけではなく、さまざまな有識者が監修に携わりました。マサチューセッツ歴史委員会、ボストン・ランドマーク委員会、国立公園サービス、ボストン再開発当局などの組織に属する歴史家や環境保護家などの人々が、それぞれの観点からデザイナーや建築家チームと「歴史的価値を失わないよう」に共同作業を行ったのです。

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露出したレンガの壁と錬鉄のシャンデリアは、彼らの共同作業の賜物。「旧来の建物の保全」と「ホテルとしてのシャープな機能美」が融合した象徴ということができるでしょう。

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簡素な内装だった囚人室も、今ではこんなにラグジュアリーなゲストルームに生まれ変わりました。窓からボストンの繁華街が一望でき、夜には、宝石をちりばめたような夜景を楽しむこともできるのです。

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インテリアには、歴史を感じさせるアクセサリーが用いられています。額に鍵が飾られているのは、刑務所ジョークとでもいうようなご愛敬でしょうか。

刑務所の雰囲気をあえて残したダイニングスペース

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ゲストルームには刑務所の名残はありませんでしたが、ダイニングスペースには「あえて」刑務所の雰囲気が残されています。

上の画像は、カクテルバー「Alibi」(アリバイ)。ここはなんと、酔っ払い専門の留置所を再利用したスペース。清潔にリノベーションされているので恐ろしい雰囲気はないものの、窓や通路に鉄格子がふんだんに使われています。壁にセレブたちのマグショット(逮捕時に撮影される人物写真)も陳列され、「刑務所的なムード」を盛り上げます。

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イタリアン・シーフードレストラン「Scampo」(イタリア語で「逃亡」の意味)は、刑務所時代の壁をそのまま利用。打ち抜いた跡が生々しく残る古いレンガの壁が往時を偲ばせます。

負の遺産をリノベーションして再活用

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かつて刑務所だった建物の再利用は、この「The Liberty Hotel」に限らず世界中に見受けられるムーブメント。オランダの首都アムステルダムでは難民たちの滞在シェルターとして旧刑務所が活用されており、日本の奈良でも2017年3月に閉鎖した「奈良少年刑務所」がホテルとして2020年に生まれ変わる計画があります。

マイナスイメージに拘泥することなく建物に新たな息吹をふきこむ流れが、より広く広がっていってほしいですね。

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(提供:ハロー! RENOVATION