ヨーロッパの川で1年。2人の芸術家による2隻のボートの旅
ドイツのハンブルグ出身のclaudius schulze(クラウディス・シュルズ)と、ベルリン出身のmaciej markowicz(マシエジュ・マーコウィック)という2人の写真家兼アーティストが、一人一隻の船をデザインした。その2隻の船で運河を通じて、ハンブルクからアムステルダム、パリ、そしてベルリンに戻り、そこからまたスタートポイントであるハンブルクに戻る4つの街を旅した。この2人の芸術家による旅の期間は、2017年から1年間にも及んだ。
旅の一つの目的としては、それぞれの旅で環境と都会の暮らしについて、自分たちが考える、または人々に考えてもらう場所を提供するためだ。
来場者が船内に腰掛けられるベンチがあるのだが、一つ一つに区切られているわけではなく、隣同士の人がぴったりとくっつくような作りになっている。またベンチの間隔も狭く、向かい合って座っている人の膝がお互いにくっつくほどだ。
近年、地下鉄の車内で知らない人同士が話すなどの光景は見られることはないが、このような状況では自然と人々が話しやすくなる。
もう一つの目的は、それぞれのボートがスタジオとなって、今までにないような写真展を開くためでもある。
二つのボートにはそれぞれの写真が飾られていて、そこでも彼らの作品を鑑賞できる。さらに「実際に移動できる」という性質から、到着したその国で開かれていた写真展にも参加した。アムステルダムについた際には「AMSTERDAM’S UNSEEN PHOTO FAIR」、パリについた際には「PARIS PHOTO」という写真展にも参加した。
claudius schulzeが担当した船は木造りのアンティーク調。温かみがあり、こじんまりとした感じで手作り感が満載だ。カジュアルな作りの中に落ち着いた雰囲気があり、ワークショップやディスカッションをするのに完璧な場所だ。
玄関にはハンモックがかかっていて、くつろぐのには最適のスペースだ。この船の屋上に上がれば、ちょっとした椅子やテーブルがあり、少し気分転換するには最高。外の風にあたりながら、美しいヨーロッパの古都を優雅にクルージングしている気分になれる場所だ。
一方、 maciej markowiczの船はキュービックで無駄な装飾がなく、船の外装は光沢のある銀色一色でコーティングされており、まるで宇宙船のような印象を受ける船だ。
その船の側面の壁には、水面の様子がまるでスクリーンのように反射される。船が進むにつれ風景が変わり、船が映し出す画も刻一刻と変わっていく。
つまりこの船自体が「OBSCURABUS(オブスキュラ・バス)」と名付けられている通り、ある種、写真の原点であり究極のライブカメラでもある「カメラ・オブスキュラ」となっているということもできるのだ。
写真の原始の形態をモンタージュしているこの船の中に入った鑑賞者は、maciej markowiczの写真はもちろん、普段見ることのできない「船の上からの景色」というライブな写真を楽しむこともできる。
この船自体は近未来的であるのにもかかわらず、ヨーロッパの街並みをその船体にそのまま取り入れ同化しているため、街の景観を崩さず、特に違和感は感じない。いわばステルス戦闘機のような、カモフラージュ効果も生み出しているとも考えることができるだろう。
現代芸術的な視点からみて、「写真展」というのは決して写真のみに注目すべきものではなくなってきたといえるだろう。
つまり「撮る対象」はさることながら「どのように見せるか」ということまで、気を払わなくてはならなくなってきている。
この観点で考えると、今回のこの取り組みはインスタレーションとして、非常に良くできたものであるといえるのかもしれない。
via:
https://www.designboom.com/art/2boats-floating-photographic-platforms-01-31-2018/