小屋×都市 #13 小さな暮らしをする小屋|都市を科学する〜小屋編〜 – オンデザインパートナーズ×YADOKARI
ミニマルライフ、断捨離、シェアリング。
家や物を、あまり持たない生き方がある。
小屋にも通ずる“小さな暮らし”に、都市の人は経済性や、身軽さに加え、
「つながり」を求めているのかもしれない。
“小さな暮らし”を楽しむ
大きな家や、たくさんの物を持たずに、暮らしたい。
そんな思いを持つ人が増え、小屋が人気を集めているようだ。
暮らしには、眠る、働く、食べる、遊ぶ、休む、などの時間があり、そのための物や場所が必要だ。
どうすれば、“小さな暮らし”は実現できるのだろう?
物や場所を「盛り込む」と「諦める」と「所有しない」
物理的なスペースの小ささは、必要な物や場所を「なるべく多く盛り込む」工夫で実現できる。
小さな居場所をたくさんつくっても良いし、時間によって意味合いが変わる居場所をつくっても良い。
ふたつ目の考え方は、そもそも「多くのものを求めない」。
「私はもうこれ以上、家を持つということに興味を持てないんだ。このちいさな建物で充分なのさ。ポートランドに住んでいたこともあるけれど、今のほうが幸せだよ」
こういう姿勢を、良い意味で「諦める」というのかもしれない。
そして、もう一つ。「物や場所は必要だけど、所有をしない」という考え方もある。
海や山を楽しむ小屋なら、「遊ぶ」ための場所は所有せずともいくらでもある。
オフィスやレストラン、娯楽施設がある都市では、働く、食べる、遊ぶ場所を必ずしも所有しなくて良い。
極端な例として、眠る場所を含めた一切の空間を所有しない実験的な暮らしだってあった。
「宿泊する比率はカプセルホテルが7割、2割がAirbnbなどのホームステイで、残りの1割は友達の家などに泊めさせてもらいます。土日は彼女の家に行って過ごします。暮らしは意外と快適です」
「盛り込む」、「諦める」、そして「所有せずに使う」。
それを組み合わせることで、“小さな暮らし”は実現されていく。
ワンルームマンションや寮=小屋の集合?
さて、都市に小屋を持った生活は、どんなものだろう?
小屋で目覚めたら、カフェで朝食を摂り、電車やバスで出社。
昼食は近くの定食屋で済ませ、午後の外回りの空き時間には図書館で読書。
シャワー付きのスポーツジムで汗を流して、居酒屋でビールを飲んで、小屋に帰る。
カフェや図書館や居酒屋がリビングの代わりになり、ジムがバスルームだ。
そしてこれは、忙しい社会人の“寝るために帰る”生活と大差ない。
ワンルームマンションは外観こそ大きいが、“小屋”の集合体と見ることもできる。
近年は、大型で共用部を充実させたシェアハウスや寮も増えている。
たくさんの“小屋”に多様な機能を近接させた、“小さな都市”に見えてくる。
なぜ、所有を手放したい?
では、小屋にせよワンルームマンションにせよ、“小さな暮らし”をしたいのはなぜだろうか?
「所有が少ないほど経済的だから」
「消費的な社会から、“足るを知る”にシフトしたいから」
「家や物に縛られず、身軽でいたいから」
土地を資本に生産する農耕的な人が減り、都市への集中と発展が加速しつづける現代社会。
現実的に「持てない」事情も、「持ちたくない」理由もあるだろう。
さらに、人や社会との関係が生じ、深まるということもある。
「小さな部屋に住んでみたら、家族との喧嘩が減った。逃げ場がないから、自然と関係を大切にするようになって」
「うちは小さな部屋に引っ越して、妻との喧嘩が増えたけど、以前はコミュニケーション自体が少なかったから」
空間を分け合うから、他人との距離が近づく。
必要な物を所有しないから、都市に出て他人と関わるきっかけができる。
所有を手放す“小さな暮らし”は、「つながりたい」時にも良いのかもしれない。
(了)
<文:谷明洋、イラスト:千代田彩華>
【都市科学メモ】 | |
小屋の魅力 |
所有する空間や物を最小限にすることができる |
生きる特性 |
小ささ、物理的な制約 |
結果(得られるもの) |
経済性、効率性、欲望への諦め、身軽さ、家族との距離の近さ、社会とのつながり |
手段、方法、プロセスなど |
盛り込む 生活に必要な機能を維持しながら、“小さな暮らし”を実現する。空間をうまく切り分けてもよいし、時間で使い分けても良い。設計の技術によって、コンパクト化で経済性を高めることができるが、多少窮屈になることもある。 |
諦める ものを求めない、「足るを知る」路線。「悟り」や「諦め」の境地とも言える。技術というより、精神の要素が大きい。ある程度の人生経験や勇気は必要かもしれない。 |
|
所有せずに使う 技術や精神よりも、環境や関係性が大切だ。自然や公共物を活かしても、人間関係やお金で解決しても良いし、あらたな仕組みを考えることもできる。人や社会との「つながり」は、目的にも手段にもなるし、結果として得られる、ということもあるだろう。 |
|
組み合わせと、現実化 現実的には、上記の3要素を組み合わせていくことになる。暮らしのために、何を盛り込み、何を諦め、何をシェアするのか。バランスよく機能的に考えよう。実現方法は、小屋という形にこだわっても良いが、「所有を手放す」だけなら、ワンルームマンションやシェアハウスでも十分に達成できる。 |
【Theory and Feeling(研究後記)】 |
東京に出てきてからの6年間で、2軒のシェアハウス暮らしを体験しています。いずれも、一軒家に何人かで住むというより、社員寮をリノベーションした形です。 今の物件も、狭いながらも個室はちゃんとあって、広いキッチンや浴場が共用になってます。シアタールームやちょっとしたワークスペースもあって、コストパフォーマンスもなかなか。「経済性」と、家具家電を持たなくて良い「身軽さ」、居住者間の適度な「つながり」があります。(たに) |
「都市を科学する」の「小屋編」は、横浜市の建築設計事務所「オンデザイン」内で都市を科学する「アーバン・サイエンス・ラボ」と、「住」の視点から新たな豊かさを考え、実践し、発信するメディア「YADOKARI」の共同企画です。下記の4人で調査、研究、連載いたします。
谷 明洋(Akihiro Tani) アーバン・サイエンス・ラボ主任研究員/科学コミュニケーター/星空と宇宙の案内人 1980年静岡市生まれ。天文少年→農学部→新聞記者→科学コミュニケーター(日本科学未来館)を経て、2018年からオンデザイン内の「アーバン・サイエンス・ラボ」主任研究員。「科学」して「伝える」活動を、「都市」をテーマに実践中。新たな「問い」や「視点」との出合いが楽しみ。個人活動で「星空と宇宙の案内人」などもやっています。 |
|
小泉 瑛一(Yoichi Koizumi) 建築家/ワークショップデザイナー/アーバン・サイエンス・ラボ研究員 1985年群馬県生まれ愛知県育ち、2010年横浜国立大学工学部卒業。2011年からオンデザイン。2011年ISHINOMAKI 2.0、2015年-2016年首都大学東京特任助教。参加型まちづくりやタクティカルアーバニズム、自転車交通を始めとしたモビリティといったキーワードを軸に、都市の未来を科学していきたいと考えています。 |
|
さわだいっせい / ウエスギセイタ YADOKARI株式会社 共同代表取締役 住まいと暮らし・働き方の原点を問い直し、これからを考えるソーシャルデザインカンパニー「YADOKARI」。住まいや暮らしに関わる企画プロデュース、空き家・空き地の再活用、まちづくり支援、イベント・ワークショップなどを主に手がける。 また、世界中の小さな家やミニマルライフ事例を紹介する「YADOKARI(旧:未来住まい方会議)」、小さな暮らしを知る・体験する・実践するための「TINYHOUSE ORCHESTRA」を運営。250万円の移動式スモールハウス「INSPIRATION」や小屋型スモールハウス「THE SKELETON HUT」を発表。全国の遊休不動産・空き家のリユース情報を扱う「休日不動産」などを企画・運営。黒川紀章設計「中銀カプセルタワー」などの名建築の保全・再生や、可動産を活用した「TInys Yokohama Hinodecho」、「BETTARA STAND 日本橋(閉店)」などの施設を企画・運営。著書に「ニッポンの新しい小屋暮らし」「アイム・ミニマリスト」「未来住まい方会議」「月極本」などがある。 |