樽石暮らしを楽しむ〈反町家の結婚式編〉

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YADOKARIをご覧の皆様、こんにちは。フォト・ライターの粟野智晴です。

まずは少しだけ自己紹介。

山形県生まれ。大学時代は人並みに大学進学のため上京。学生時代には2年間の海外留学も経験し、帰国したものの就職難民。フリーでの翻訳を数年したのちにUターン。タウン情報誌で編集長兼カメラマンを経て独立しました。

現在は山形と東京を行き来しながら、撮影やライティング、印刷物ディレクションなどのお仕事をしています。

僕が住んでいる山形は、東京を頂点にした場合の都市というヒエラルキーの中では下から数番目になるかも知れない、いわゆる田舎の地方都市です。どこを見回しても、楽しい暮らしなんてないんじゃないの?  Uターン組のほとんどが思うように、生意気にも帰省したばかりの頃は僕は、まだ若かったこともありそう思ったこともありました。

でもね、僕は見つけたのです。その暮らしはとてもゆっくりに見えるし、今流行の「地域を盛り上げよう」とかって全然謳ってないけれど、「おもしろいことがないのだから、自分たちで楽しもう」って感じに、とてもシンプルに楽しく田舎を満喫している村の人々を。

地域の風土に逆らうことなく、とけ込みながら今一番楽しい田舎暮らしをする人々を。

そんな樽石に住むみなさんと、その縁者のみなさんの暮らしを通じて、田舎の良さを肌で感じてほしいと僕は思うのです。

樽石暮らしを楽しむ:反町家の結婚式編

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僕が今一番素敵な田舎と呼んでいるのは、山形県村山市の中にあるとても小さな樽石という地域です。都会をまねるでもなく、若者だけで群れるでもなく。二十歳そこそこの女の子だって、80歳過ぎの爺ちゃんだって、みんな輪になってみんなで楽しむこの地域は、僕の目に田舎暮らしの桃源郷として映ります。

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この樽石という地域に引っ越してきたのが反町舞さん。群馬出身、農業がしたいという夢のため山形県内でも有数な田舎へとIターンでやってきた。僕は仕事を通じて舞さんと知り合ったのだが、その彼女が目出たくも地元の男性との結婚が決まり、結婚式を挙げることになったというのだ。会場となるのは、村のご好意で新婚のふたりが住まわせていただくことになったという、樽石の庄屋さんのお家。車で20分も飛ばせばある程度のセレモニーホールもある。それでもこの家で『むがさり(結婚式:村山地方の方言)』を、村の全員でやるとのことでした。三十半ばともなれば関東、ヨーロッパ、そして山形と、いろんなところで結婚式を見てきたけれど、この樽石の結婚式は僕史上最高に感動する式となったのです。

料理は婆ちゃん達、飾り付けは爺ちゃん達、皆で作る反町家のむがさり

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仏壇のある居間を繋げた大広間に、シンプルだけど心にあったかい手づくりの飾り付け。

段取りを聞けば、飾り付けは民間大学である樽石大学の学長をはじめ学生さんこと爺ちゃんチーム。また式で出す芋煮や煮物、漬物は近所の婆ちゃんチームが担当とのこと。

自宅用の鏡台なども駆使してサロンへと変貌した奥の間で、反町夫婦もいそいそと変身中でした。

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同地域に住まう新郎のご親戚や、遠く群馬からはるばる娘の晴れ姿を見にきたご両親にご兄弟、そして全国から集まったお友達たちが、次々とふたりを祝福しに奥の間へと詰めかけます。

そろそろ、樽石地区で十数年ぶりというむがさりのスタートです。

 

むがさりには本来、BGMはいらないのですね

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オープニングセレモニーとして、樽石大学の校歌をみんなで斉唱。伴奏は新郎貴浩さんの妹さんが、ピアノを弾けるということでほぼぶっつけ本番。指揮を担当するのは、新婦舞さんのお姉さんです。

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祝言譜の高砂だって、ちゃんと生歌です。地域のみんながそれぞれできることを出し合って、精一杯ふたりの門出をお祝いしてくれています。

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始終わいわいがやがや、食べる音、携帯電話のシャッター音、トクトクトクッというビールの美味しい音、そして赤ちゃんの泣き声に、いい気分で今日のハレの日のことを大声で話す幸せな声。色んな音や声が、屋敷の中にこだまして、それは例えるならオーケストラの生演奏のように心地よく、僕もいい加減に酔っぱらってしまいました。

男衆、若い衆がむがさりに夢中になっている頃、裏ではもうひとつのお祝いの準備がなされていました。

婆ちゃんがつくる芋煮は、どんな料理屋にも負けてない

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勝手口の土間に急遽こしらえた即席の厨房で、手際よく調理を進めてたのがチーム婆ちゃん。そしてみんな気持ちが若々しくて、芋煮を炊いている間の休息しているところにレンズを向けると、「はずがすい(はずかしい)」って言いながらも満面の笑みとピース。

もちろん芋煮の材料も、さすがに牛肉は町のスーパーで買ったとのことだが、里芋、葱、キノコなど、野菜類はすべてもちより。昔ガラスの引き戸から射し込む光に、ただ芋煮を椀によそう風景がとても幻想的に映りました。

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ふたりの若い村人が樽石に、きっと新しい風を運んでくる

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大いに笑い、大いに泣き、大いに食べて、大いに飲んで村人たちとみんなで一緒に祝った反町家のむがさりは、およそ3時間で閉会を迎えました。会場となった反町邸全体におおらかな空気が満ちていて、僕としては都市部の会場を借りての式も素敵だけど、こんなあったかくて思い出に残る式は他で味わえないなって素直に感じました。村人や参列したひとりひとりがプランナーであり、料理長であり、会場スタッフであり、そしてふたりを祝う最高の友人でもありました。

若いも年寄りもなく、みなそれぞれに手を取り合って喜ぶ光景はとてもじゃないがなかなか見られないというか、誰もが地域にとけ込んでいる気がしました。若い子も高齢の方も、互いに互いを仲間と認め合っているというか。そしてもうひとつ感動したのは、隣の席の爺ちゃんに年齢を聞いたら「やっと88になりました」って(笑)。台所にいた婆ちゃんも「まだまだ78になったばり」って言うのだから、あぁ、本当に樽石って素敵な地域だ。

肩肘張ったって田舎は田舎、だったら田舎を200%楽しんじゃえっ

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樽石には何にも無い。あるとするなら反町邸の数軒隣にあるそば屋さんくらいだろうか。後は新旧の住宅が十数棟と、遠くまで広がる畑や田んぼ。それなら住人みんなが協力して、仕事をしたり楽しんだりしようって。そんなオーラがこの地域には溢れてました。

村人の心の豊かさと毎日に感謝しながら生きている姿を見ていると、雑誌を飾るきらびやかな洋服も、素敵なカフェもくすんでしまう。仕事に追われてストレスいっぱい抱えながら毎日を送るのもひとつの選択かも知れないけど、この地で花嫁となり、村人となって農業を志す舞さん、そして貴浩さんの生き方の方が何倍もおおらかで、そして幸せそうに思えました。

田舎の暮らし方を受け入れて、とっても楽しそうに生きている樽石地域の住人達。彼らの暮らしぶり、考え方を伝えることで皆さんの中に「たまに故郷に帰ってみようかな」なんて気持ちが生まれてくれればいいな。

(樽石暮らしを楽しむ:反町家の結婚式編おわり)

追記

ところで、一次会が終わった後は、主だって手伝ってくれた爺ちゃん婆ちゃん方や、裏方の美容室の皆さん。また親戚と新郎新婦でのアフターパーティ(なおらい)がありました。あんなに飲み食いしたのに? ってほど、みんなで楽しく宴会をされたそうです。村民の元気の元は、北国なのにめずらしく(?)どんどん食べて飲んで歌ってという文化が、この地に根付いているからかも知れませんね。

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