【インタビュー】車が通り過ぎるだけの場所を、人が繋がり賑わう場所へ/2021 原町田大通り 滞留空間創出社会実験ーもしも原町田大通りー

 2021年11月20日~12月20日までの1ヵ月間、東京都町田市にて行われた「2021 原町田大通り 滞留空間創出社会実験ーもしも原町田大通りー」。JR町田駅の目の前にある原町田大通りの1車線、約50mの範囲に、人工芝、ウッドデッキ、トレーラーハウスの3つのエリアから成るパークレットを設置し、車道を「人のための空間」に転用する社会実験です。

「賑わいや交流に溢れるまちの実現」に向け、3カ年の「町田駅周辺地区都市再生整備計画」を策定した町田市。その対象地の1つである原町田大通りが、市民の方々の「やってみたい!」を実験的に実現する場「まちの実験区」として活用されました。

「繋がり」をデザインする

企画・デザイン・トータルディレクションを担当した株式会社日建設計NAD(NIKKEN ACTIVITY DESIGN lab)の上田孝明さん、設計を担当した工藤浩平建築設計事務所の宮崎侑也さんに、今回の社会実験についてお話を伺いました。

上田さん「企画にあたって、町田市の方とアイデアワークショップを行った結果、原町田大通りを公園的にしたい思いと街のシンボルにしたい思いの2つの面があることが分かりました。さらに、この場所の完成形を作るのではなく、地域の方の活動を受け止める仕組みを作ることの重要性に気付き、直接利用者さんとやり取りする仕組みを考えました。市民の思いを聞き出し受け止める場所を実験区と位置づけ、その第1弾として実施したのが、今回のパークレット型社会実験です。

ワークショップで出てきたことや地域の方にヒアリングした内容をもとに、コンテンツを用意しました。例えば、『市内のゲームセンターが主に中高生などが利用する場になっていて、低学年の児童が使いづらい』といった声があったので、この社会実験では明るい空間でゲームができて、安全に楽しめる場所を用意してみよう、などです。コンテンツは地域の方へのヒアリングから得た課題を具現化したり、既に町田市にあったものを持ってきているので、私たちはここで、街の中に点在していた資源の『繋がり』をデザインしたということになるかもしれません。」

人工芝・ウッドデッキエリアは、自由に使えるベンチ、椅子、ビーズクッション、本棚、大きな鏡などが設置され、訪れた人が誰でも自由にくつろげる空間として、トレーラーハウスはまちに関する展示会場やローカルラジオの収録場として活用されました。

宮崎さん:「通りすがりの人々が気軽に休憩したり、ふらっと立ち寄って遊んでもらえるように、道路上だけど「心地よい居場所」として感じてもらえる場所をどのように計画できるかが大きな課題でした。そこで今回パークレットで起こりうる様々な活動やふるまいを支えるための構造体として囲われた場所を作るため大きなオーニングを計画しています。また道路側には単管で壁となるフレームを組み、その隙間に滞留するきっかけを生むための多様なコンテンツを指し込むことで、利用者さんが車の存在感を出来るだけ感じない空間とし、活動と相乗し合う場づくりを心掛けています。実際には親子がビーズクッションで横になって長時間話をしていたり、学生たちが放課後の教室のようにホワイトボードに落書きして笑い合っていたりと、今まで室内で起きていた賑わいが街にあふれ出ているように感じます。また『少し休みたくても、お金を払って店に入らないとなかなか息をつける場所がない』という街の人の声があったのですが、この場所がそのような小さな欲望を満たすことができているのかなという印象です。

トレーラーハウスは主に展示会場として使っているのですが、”移動する美術館”という感じが新しさを感じました。また、歩いている人の興味を惹くので、実験区のアイコンにもなっていると思います。」

学生だけではなく、幅広い年齢層の方がふらりと利用している実験区。「子どもが騒ぐからお店に入るのを諦めたけど、パンを買ってここで食事をすることができた」、「子どもがダンスを習っているから、大きな鏡があると練習するのにちょうど良い」など、普段あまり原町田大通りに足を運ばないという小さな子ども連れの方からも、実験区を有効活用している声が多く寄せられているそうです。

道路だからできること

写真左より、宮崎侑也さん(工藤浩平建築設計事務所)、上田孝明さん(株式会社日建設計 NAD)。

最後に、今回の社会実験でお二人が得た気付きや感想をお伺いしました。

宮崎さん「ストリートというのは、ある場所を目指すためのインフラとしての役割だけでなく、”歩く”ことで何か知らないものに触れたり発見したりできる楽しさと、そこから新たな文化やふるまいが生まれる場所だと思います。今回道路に仮設建築物を計画する中で、行政との協議、風荷重等の構造検討等いくつものハードルがありました。

しかしながらそれらをクリアし、新たな道路空間を実現することで非日常な空間なんだけど、パークレットの中では寝ていたり遊んでいたりと、”室内で起きるはずの日常”が展開されていることに非常に可能性を感じました。

そして人から人へと連鎖するように様々なふるまいが生まれているというのは、道路でやっているからこそのおもしろさだと思いますし、新たな町田の顔を見ることができた気がします。」

上田さん「『もしも原町田大通りが〇〇だったらうれしい』というステッカーを置いて、地域の方々が自由に思いを書けるようにしたのですが、本当に色々な声をもらえたので、どう活かしていくかをよく考えなければいけないなと思っています。

また、法規の面では道路であるが故の難しさもあるので、来年、再来年と理解を深めながらチャレンジし、原町田大通りのもっと奥まで、色々な活用方法を試していきたいと思っています。道路だからこそできるコンテンツもあると思うので、車が通る意味と滞留空間である意味をかけ合わせて、新しい何かを生み出せたらと思います。」

地域のプレイヤー、そして地域の人々の思いを繋げることで、車が通るための場所に賑わいを生み出した今回の社会実験。芝生で遊び、ベンチでくつろぎ、トレーラーハウスで知らなかった街の魅力と出会う。こうして生まれた繋がりが渦を巻くように街へと広がり、道路発の賑わいで街が盛り上がっていく未来が楽しみです。