【動画&レポート】編集する「泊まれる雑誌」から広がるものとは?(ゲスト:岩崎達也)/未来トラベルクリエイターズfile #2

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新しい「旅」と「宿泊」を提供するクリエイターの方々をゲストにお招きし、トラベル業界が進む方向を見出すきっかけをつくるトークイベント「未来トラベルクリエイターズfile」。今回のゲストは、京都で「泊まれる雑誌 MAGASINN KYOTO(マガザンキョウト)」を運営する岩崎達也さんです。

日本が誇る文化都市 京都において、どのような宿を開くのか。答えは無数にあるでしょうし、普遍の正解はあり得ないのかもしれません。その中でひときわ異彩を放つ「泊まれる雑誌」とはどんなものか? なぜ岩崎さんがそれをつくり、運営する中で何が見えてきたのか、お話ししていただきました。

雑誌への強い憧れと、新規事業立ち上げのキャリア

岩崎達也さんは1985年生まれ、兵庫県三木市出身。2016年、泊まれる雑誌「マガザンキョウト」をクラウドファンディングを活用し起業、編集長を務める。

岩崎さんは、兵庫県の小さな村の、山田錦農家の長男に生まれました。インターネットがなかった幼い頃は情報に飢えて暇でしょうがなく、気づくと雑誌への強い憧れが育まれていたそうです。

大学を卒業してリクルートコミュニケーションズに入社。マーケティングやクリエイティブの部門で経験を積み、転職した楽天ではソーシャルメディア戦略を担当。結婚を機に奥様のご実家のある京都へと移り、株式会社ロフトワークの社員として、ドロップイン型のクリエイティブラウンジ「MTRL KYOTO(マテリアル京都)」を立ち上げた経験があります。2016年に、クラウドファンディングを活用して、泊まれる雑誌「マガザンキョウト」を起業しました。

「新規事業を何でもやる。それが僕のキャリアです。今までの経験からあえて今、肩書きを名乗るとしたら『プロジェクトエディター』。背景と状況を課題・要件定義に落とし込み、戦略立案から成果物納品まで、一気通貫で実現するプロジェクトチーム×マネジメントを編集する。様々な立場で多様な領域や業界の仕事をしてきたことから、強みは、だいたいどんな案件が来ても何となく勘所が分かって、事業を立ち上げ推進までもっていける所です」

今だからこそ、「編集」が価値化する

岩崎さんの言う「豊かなグレーゾーン」とは、例えば公道に置かれた住民の植木のようなもの。住民は日々生きがいを持って育て、通る人はそれを景観として楽しむ。四角四面のルールからははみ出すが、その曖昧さがみんなを幸せにしている。via: pearldistrict.org

そんな岩崎さんは、この時代だからこそ「編集」が価値化する、と言います。インターネットやSNSの普及で情報量が飛躍的に増え続け、把握と整理ができなくなっている今だから、広義の編集がビジネスになっていく。

泊まれる雑誌マガザンキョウトと同時期に設立した岩崎さんの会社 EDIIT Inc.のメッセージは「Edit GRAY. Edit FUTURE」。白黒つけることが正しいわけじゃなく、曖昧なグレーゾーンをどう豊かに育てられるかが今の世の中に大事な考え方じゃないか。これまでいろんな立場や当事者を経験して来た岩崎さんが、自分のアイデンティティや、マガザンキョウトにもつながる考え方だとして、会社のビジョンに据えています。

ホテルをやっている理由

Willはやりたいこと。Canはできること。Mustは求められること。この3つが重なって大きいほどその人の幸福度が大きいという1つの指標。

「ホテルをつくった時に、僕が強烈に思っていたのは、『好きな人と、好きな場所で、好きなことをやりたい。』ということでした。この言葉を辿って京都に行き着いています。

創業前、会社員だった僕はMustとCanでほぼ生きていた。会社から達成すべきことが来て、できないことがあれば自分を鍛えてできるようにして。そうするとまた会社からMustが来て、またCanを鍛えるということをしていたら、いつの間にかWillが置き去りになっていることに気がついたんです。これは日本の会社員によくあるパターンかもしれません。

自分のWillを取り戻すぞ、の先にホテルが来ました」

マガザンキョウトとは何か?

元は牛乳屋さんだった京都の町家を「雑誌」に見立て、さまざまなコンテンツが楽しめる空間に「編集」。1日1組限定の宿泊スペース、ギャラリー、イベントスペース、雑貨の販売スペースがある。

「コンセプトは、もし雑誌が空間になったら、という所です。雑誌は紙で、見る・読むというのが主に提供できる体験価値ですが、もしこれが空間になったら、触るとか、匂いを嗅ぐとか、喋るとか、買うとか、もっと立体的な体験にできるんじゃないかと思い至りました」

ネーミングは、雑誌=マガジンの語源であるフランス語の「マガザン」から。

「マガザンには、お店とか空間という意味もあって、それにINN(宿)を足したらそのままユニークな名前になるなぁと。これはうまくいくぞと思った瞬間でした」

目指すのは、Stay Time Valueの最大化

マガザンキョウトには京都のカルチャーコンテンツが山盛り。「京都に詳しくなりたい、友人知人が欲しいというお客様が多く、そこに応えるサービスとして成立させていきたい」と岩崎さん。

ウェブメディアの運営もして来た岩崎さんの目線で宿泊やホテルを見た時、お客さんの滞在時間が極めて長いサービスだという点が面白かったそうです。

ウェブの世界では数秒〜数分、カフェや本屋でも長くて数時間。ところが宿は1人当たり平均10時間ほど滞在し、タッチポイントも格段に多いのが魅力。岩崎さんは、多店舗展開よりも今は、建物面積77㎡のマガザンキョウトの限られた空間で「Stay Time Valueの最大化」にチャレンジしたいと言います。

「ライフタイムバリューという言葉がありますよね、事業やサービスを考える指標に。それをステイに置き換えてみたんですけど。このたくさんのタッチポイントの中で、いかにお客さんに楽しんでもらいながら、ちゃんとマネタイズするかという所を、もう一度見直せるんじゃないかと思いました」

雑誌をメタファーにホテルを経営

ホテルオープン時に行った特集「本を体験する」は、岩崎さんが好きな東京都駒沢の本屋「SNOW SHOVELING」とのコラボレーション。

雑誌好きの岩崎さんは、そのビジネスモデルを思いきり参考にしてマガザンキョウトの運営を行なっています。例えば「特集」と言う仕組み。2016年5月にオープンして初めて行ったのは、「本を体験する」という特集でした。

「僕が好きな本屋さんと一緒に、共同編集という位置付けで、テーマ別に本や雑貨をセレクトして販売するというのがこの特集のベース。同時に、この本屋さんゆかりの作家 村上春樹の本に登場するおいしそうな食べ物(仕立てのいいハムサンド、ホットケーキのコカコーラがけなど)をシェフにレシピ化してもらい、参加者と本の一節を朗読しながらコース仕立てで召し上がっていただくというイベントも行いました。これが『読む』を超えた本の体験、場所があるからできることかなぁと」

HOTEL SHE龍崎翔子さんや、れもんらいふ千原徹也さんとも「共同編集」

龍崎翔子さんとは「ミレニアル世代の思考回路と表現プロセスを間近で見たくて」HOTEL IN HOTELの特集を。

お客さんの反応から手応えを感じ、その後も次々と特集を実施。渋谷のデザイン事務所「れもんらいふ」の千原徹也さんや、「HOTEL SHE」のプロデューサー龍崎翔子さん、同じ京都市内で「泊まれる展覧会」をコンセプトにしている宿「KYOTO ART HOSTEL Kumagusuku」、関西のメンズファッション誌「カジカジ」とも共同編集で特集を行いました。

「面白かったのが、『宿に小説家がいる』という試み。京都の小説家の方に来ていただいて、マガザンで日々起こることをリアルタイムで小説にしていくんです。マガザンに来たら小説に登場できるかもしれないという体験をお客さんにしていただいて。これ、出版できたらいいんですけど」

ホテルは好きな人に出会うための装置

龍崎翔子さんとコラボレーションした企画「夜遊びパジャマ」は、寝る直前まで外を出歩いて夜遊びできるデザインがコンセプト。

特集は岩崎さんにとって、多様性と創造性にあふれたコミュニティを育むためのエンジンだそうです。

「僕のやっているディレクターとかプロデューサーの立ち回りをする仕事は、どれだけ面白い人と繋がっているかが大事なので、このホテルのコミュニティが自分のプロジェクトワークに直結してくるという位置付けでやっています。言い換えると、好きな人に出会うための装置としてホテルをつくったということですね」

タイアップ広告や純広告、袋綴、グッズ販売も

雑誌の広告の仕組みも経営に取り入れている。壁にスポンサーの名前を掲示する「純広告」は、5万円10枠限定。告知後30分で埋まったという。

雑誌にはタイアップ広告(商品やサービスを紹介するためにクライアント企業とメディアが提携して制作する広告)や純広告(企業がメディアの枠を買い取り掲載する広告)がありますが、マガザンキョウトではその仕組みも取り入れています。

「タイアップでは、パナソニックの開発中の商品の試作品を宿泊者にモニターしてもらい、チェックアウト時にヒアリングしてレポートする取り組みを行いました。純広告では、施設内の壁の一部に看板広告の枠を設ける試みを。看板に興味を持ってくださったお客さんに対して、そのお店や場所に足を運んでみたくなるようなプレゼンテーションをするというのが付加価値です」

もとは牛乳屋の冷蔵庫だった1.5畳ほどの小さなギャラリースペースが「袋綴」。開けてみたくなる衝動を誘う。

「あと、袋綴ありますよね。メインコンテンツじゃないけど、ちょっと見てみたくなるやつ。もともとマガザンは牛乳屋さんだった建物で、冷蔵庫だった1.5畳程のスペースを白く塗って、そのまま『ギャラリー袋綴』として生かしています。ここで特集・トレンドをすることもあれば、レンタルスペースとしてギャラリー貸しすることもあります」

その他、グッズの販売は施設内でもEC(https://magasinn.thebase.in/)でも行なっています。扱っている商品は、旅の便利グッズと、京都のローカルプロダクト、ないしはアーティストの作品など。「泊まれる雑誌」のコンセプトを余すところなくリアルに表現しているんですね。

「つまるところ、泊まれる雑誌はミーハーで飽き性な自分の好奇心と美意識を好き勝手に発散できる場所でもある。今のマガザンは僕にとってそういう存在だと思います」

宿泊業におけるマガザンキョウトのポジショニング

縦軸が価格、横軸がコンテンツの量。マガザンキョウトは、ビジネスホテルよりやや高めの価格帯でコンテンツが充実している。予約システムはAirbnbのみ。

宿泊の目的や気分が細分化している今、無数にある宿泊施設の中で、どのポジションに自らを位置付けるかも重要です。コミュニティの創出を図るなら、なおさらのこと。

「高級ホテルは高くて、ノイジーじゃないくらいの程良いコンテンツやおもてなしの量・質がある。ビジネスホテルは1万円強ぐらいの出張決済が通りやすい価格で、シンプルなサービス。ゲストハウスやエアビーはいろいろありますが、ドミトリーに限っては超シンプルで安い。エアビーはユニークな体験ができるので、コンテンツやや充実で相場より安いことが多いかなと。

マガザンはこの右側ですね。ビジネスホテルより少しお金出しても、京町家1棟貸し切って1組5人まで泊まれる。その中にローカルコンテンツが山盛りあって、いろいろ体験できたり買える、みたいなポジションを目指しています」

マガザンキョウトの予約方法はAirbnbのみ。これも、出会いたいお客さんに的確にリーチし、チャットのコミュニケーションで十分に相互理解・信頼関係を深めて利用していただくための戦略だそうです。

ローカルコミュニティとの関わり

町内会の運動会で大活躍し、今や町内会長を務めている岩崎さん。地域のみんなに認知され、ホテルに対して理解や応援をもらうことができる。

宿泊施設を開く際に気を遣う必要があるのは、やはり地元のコミュニティとの関係性です。住民にとっては、いろんな宿泊客が出入りするとなると不安に思うのは当たり前。それを払拭する信頼関係を築く必要があります。岩崎さんはその課題を、なんと「町内会の運動会でリレーを走る」という方法で解決しました。

「うちの町内会は平均年齢70才オーバーで、日頃ぜんぜん運動していない30才そこそこの僕が行っても大活躍できるんです。リレーはみんなが見てる所を走るので、町内どころかその地区全体の人が知ってくれるんですよ。終わって街を歩いてたら『リレー走ってた人やねぇ』って話しかけてくれたり。ホテルやってるのね、みたいな話になって味方が増える。町内会活動をコストや手間と捉えがちですが、1年目はやり切った方がいいと個人的には思いました」

空き家情報をいち早く把握して街を編集

地蔵盆の会場として町内会でマガザンを使ってもらった際に、アメリカからの宿泊客を地元の人に紹介した所、うち解けて一緒に飲み始めたことも。「こういうことを丁寧にやって行く場所にし続けたい」

リレーを走って町内会にコミットしていたら、町内会長になってしまった岩崎さん。町内会長のいちばんの仕事は、各住戸に紙の配布物を間違いなく届けることですが、量が多く一人では無理なので、会社のスタッフに業務として振り分けているそうです。

「スマホ保有者が少数派なので、もうLINEとか言ってらんないんですよ、一軒一軒訪ねて配る。そうしたら良いこともあって、空き家情報をいち早く把握できるんです。そうすると街の編集ができちゃう。やりたいことがあると言っていた人に、市場に物件が出る前に教えてあげられる。

それでマガザンの裏にクマグスク代表の矢津さんが引っ越してきてアトリエも構えることが最近決まり、これが今年1年、町内会長をやったご褒美かなぁと。繁華街にあるようなものは何もない古い京町家の住宅街なんですが、そこにクリエイションをやっている人たちを呼び込めるのが、良い副作用です」

今後の展望、B(マガザン)to C(ゲスト)to B(クライアント)

事業を始める前に予測していた通り、現在の売上の90%はコンサルティング事業、10%がマガザンキョウトの事業(宿泊・物販・イベント)から成るという。

岩崎さんが会社を始めてからいちばん成長したのは「コンサルティング事業」だそうです。「泊まれる雑誌」の編集長に、自分の宿泊施設の編集について相談したいと思う気持ち、分かりますね。

「ホテルでゲストをお迎えしてコミュニティをつくり、クライアントワークに臨むという、これはホテルの中では新しいモデルかもしれません。

もちろん人材要件とか、さまざまな前提条件が紐付くので、どのホテルでもできるとは思っていませんが、今取り組んでいるホテルのプロデュースやコンサルティングでは、この仕組みを横展開してやってみようというプロジェクトがあります」

小さく始める業務提携

ミレニアル世代に刺さる世界観をHOTEL SHEで表現する龍崎さん、現代美術作家でもあるクマグスクの矢野さん、そして岩崎さんの3人は、泊まるを広める宿泊レーベル「泊博(はくはく)」で業務提携。
Via : https://www.hotelsheosaka.com/ , http://kumagusuku.info/

「ホテルのアライアンスって、買収やM&A以外は滅多に話題にならないと思うんですけど、小さな事業者の中で業務提携をしています。なぜやったかと言うと、3人のバックグラウンドは全く違うんですが、『宿泊をもっと面白くできるんじゃないか』という点は強烈に共有できているから。業務提携の鉄則の一つ、同じビジョンを持った人たちが、違う強みを生かしあって価値を大きくしていく。ビジョンカルチャードリブンの業務提携ですね」

具体的には、京都駅から徒歩1分の東九条というエリアを、京都市と共にアートの力で復興させて行く動きが始まっています。シアターE9という大きな舞台芸術施設と、クマグスクの2号店をつくるという2つのプロジェクトを「泊博」で取り組んでいます。その他、佐賀県の唐津に計画されている宿泊を起点とした複合施設のプロデュース、サービス設計、コンサルティングを、運営主体である第3セクターに対して行っているそうです。

面白い宿を見つけやすくするOTA

面白い企画からホテルを探せるOTAの発想は、龍崎さんが、経営不振だった湯河原のホテルを引き継ぎ、「原稿執筆」に着目した宿泊プランで復活させたことがきっかけとなっている。

今後の展望の一つとして、マガザンキョウトのような特徴のある面白い宿を見つけやすくする新しいOTA(オンライン・トラベル・エージェント)も開発中だそうです。

「今は価格や場所のソートでホテルを探すというのがいちばん手短なルートですけど、企画に尖ったホテルをOTAという仕組みで見つけやすくすることができるんじゃないかと。

龍崎さんが、湯河原のホテルで『卒論執筆パック』や『締め切り前原稿執筆パック』をつくって稼働率を一気に改善した時に、どこでみんなに知れ渡ったかというとツイッターなんです。OTAではないんですよ。じゃあ尖った宿泊プランをSNSの海の中に放り込みやすいOTAをつくったら、最初ニッチかもしれないけど喜ぶ人たちがいるんじゃないか、誰より自分たちが使いやすいぞと。かつそれを情報一極集中ではなく、みんなでデータをシェアしていく形にできたらいいなと思って進めています」

次に描くのはクラフトジン蒸留所

岩崎さんの思い描く、クラフトジン蒸留所。まずはビジュアルから入り、テキストに落とし込んで行くのが岩崎さん流。理論より実践、右脳→左脳、Will→Must→Canの順番で実現に近づけていく。規模拡大よりも自由(選択肢×身動きの取りやすさ)が大切にしていることだそう。

岩崎さんが今後の展望の最後にお話しして下さったのは、将来的に実現したい夢のこと。マガザンキョウトで出会い、面白いと思ってくれた人たちと、さらにいろいろなことを試みて行きたいそうです。

「絵から入るの自分の典型なんですけど、これクラフトジンの蒸留所なんです。その原材料となる畑があって、鴨川の源流みたいな川があって、そこでクラフトジンを作りたい。なぜこんなことを思ってるかというと、山田錦を作っている実家を、僕は長男なので引き継がなきゃいけないんです、そんなに遠くない将来。ど田舎すぎて売ることもできないし、貸すこともできない。ただ寝かせてたら固定資産税を払い続けて負債になってしまうのが淋しいなと。

それをなんとか自分が面白いとか、ワクワクする形に捉え直したいと思った時に、クラフトジンは様々な食材を使って個性を出していけると聞いたんです。山田錦を使ったジンもある。だったらこの山田錦を、農協じゃなくて集落から直接、適正価格で買い取って、京都でクラフトジンを作ってみたいというのが次に考えている所です。そして、旧来の農業を次に繋げていく形として育てていけたらと思っています。

これはまだ絵しかないんですが、もしかしたら今年何か発表できることがあるかもしれませんし、まだ妄想かもしれません。興味を持っていただける方がいたら嬉しいです。

館内にはバーがあって交流できて、裏にオーベルジュがあって泊まれるようになっている。そこで京都の料理やこのお酒を、宿泊滞在でゆっくり体験しながらブランドと共に知ってもらう。そこでマガザンの宿泊をやった経験や人との繋がりが生きてくるかなぁと」

参加者から質問「岩崎さんにこれを聞きたい」

これから宿を始めたいと思っている方や、何か新しいことをやりたいと思っている方からの質問が相次いだ。

イベントの最後は、参加者のみなさんや応募段階で寄せられた岩崎さんへの質問にお答えいただきました。そのいくつかをご紹介します。

Q:「空間において自分らしさが表れるポイント、こだわりは何ですか?」

A:「美意識を感じるものでしょうかね。西陣織の10万円のカバンなどもある中で、芸大性が作った謎の作品もある。でも両方すごいリアリティを感じるし、『こだわって妥協なく作ったんだろうな×京都』みたいな所は選ぶ時に気にするかもしれないですね」

Q:「雑誌というコンセプトを選ぶ前に、他にどんなアイデアがありましたか?」

A:「もともとアイデアの原型は『泊まれる雑貨屋さん』だったんですよね。マガザンをやる前に小さな雑貨屋さんをやっていて。やってみて分かったのが、物は好きだけど、その場所に来てくれる人たちともっとワクワクする、物に捉われない何かが生まれたときに、めっちゃ楽しいなと思ったんです。

じゃあいろんな人と出会う仕組みをどうつくるか。東京の友人が、なかなか京都の雑貨屋めがけて来れないので、泊まれる仕組みをつくったら、遠くから京都へ来るハードルが一つ下がるんじゃないかと。でも雑貨屋って言ってる限りは物が主役なんで、それをなんとか人を主役に変えられないかと考えた時に、雑誌に行き当たった感じですね」

Q:「ヴィジョンをテキストにするにはどうすればいいのか、テキスト化したものをさらに形にするにはどうすればいいのか?」

A:「僕の経験で言うと、コピーライターの仕事をしてたことが非常に大きくて。言語化できる汎用的なテクニックがあるんですよね。例えば2つの言葉を組み合わせる。形容詞と名詞とか、形容動詞と動詞とか。あるいは、いろんな言葉を書き出して、全然関係なさそうなものを組み合わせてみるんですよ。

マガザンで言うと『泊まれる』は普通の言葉で、『雑誌』もみんな知ってる言葉ですが、この2つが組み合わさると『泊まれる雑誌』。日々全然運用されない言葉なので新しく感じる。1つのテクニックとしては使えるんじゃないかなと思います。それを誰かに見てもらう、ですかね。これって面白い?分かる?という感じで。

テキスト化したものをさらに形にするアウトプットでは、何かみんなが見える物質をつくるとか見つけることが一つあるかもしれません。プロジェクトの立ち上げ方で、これは鉄板だなと思うのは、ロゴデザインをまずつくることですね。そこにはつくり手、創業者の想いが確実に込められている。出来上がったシンボルは北極星みたいなもので、そのロゴが輝くシーンをつくれば良い。それってみんなも見れるものなので。

そして有効なのがプロトタイピング。小さくでもいいし、絵にするとか、紙で工作してみるとか。みんなで見えるようにすると、これってこういうこと?って言ってくれたりするんで、そうじゃなくて、とか言語化が育って行く。壁打ちみたいなことですけどね」

Life is Editorial.

「Life is Editorial.」とは、マガザンキョウトの壁に岩崎さんが書いた言葉。

自分の人生を、自分の「好き」を起点に編集していくことで、それは俄然面白いものになります。マガザンキョウト立ち上げのためのクラウドファンディングを告知する時、怖くて体が震えたという岩崎さん。自分主語で、新しいものを面白いと言って世の中に出すことのプレッシャーを乗り越えた先には、想像以上の共感やつながりが広がっていました。

これからの宿泊業にも、「何かやりたい」と思っている人にも、岩崎さんから多くの具体的な示唆をいただいたトークイベントとなりました。

(取材・執筆/角舞子)

◎今回のゲストスピーカー

岩崎達也氏

MAGASINN KYOTO(マガザンキョウト) 編集長/EDIIT Inc. 共同創業者


1985年生、兵庫県三木市出身、山田錦農家の長男。京都市在住。
上京しリクルートコミュニケーションズ、楽天を経て2014年京都へ移住し、ロフトワーク京都に勤務。いずれも新規事業ディレクターとして従事。
2016年、泊まれる雑誌マガザンキョウトをクラウドファンディングを活用し起業、編集長を勤める。雑誌の特集のようにシーズン毎に空間で様々な企画を展開。様々なプロジェクトの受け皿として、2017年EDIIT Inc. を創業。