【動画&レポート】志摩市×YADOKARI 新タイニーハウスリリースイベント 8/28開催

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移動する暮らしや小さな住まいによる新しいライフスタイルを発信し続けているYADOKARIが、この度、三重県志摩市とコラボレーションし、志摩市のオートキャンプ場に新型のオフグリッドタイニーハウス「Tinys.mobi」を設置することになりました。

志摩市は2016年に「G7伊勢志摩サミット」の開催地となり、2018年には「SDGs未来都市」にも選定され、2019年秋からは次世代移動サービス「MaaS」の先行モデル都市としての取り組みも始まる、先進的な自治体です。

全域が伊勢志摩国立公園に含まれている志摩市。島々が紺碧の海に点在し、真珠の養殖や漁業、さまざまなアクティビティも行われている。

一方で、志摩は古代より朝廷に海産物などを納める「御食国(みけつくに)」の一つとされた海の幸の宝庫。市の全域が伊勢志摩国立公園に含まれ、約60もの小さな島々が点在する独特の景観など、日本屈指の自然豊かな地域でもあります。

そんな志摩市でのワーケーションや2拠点居住といった、「モビリティ×まちづくり」推進の一環として行われているのが今回のプロジェクト。自然資源あふれる志摩に、タイニーハウスが入り込むことで広がる可能性とは、どんなものでしょうか?

2019年8月、志摩市長ならびに今回のタイニーハウスの設計を手掛けた建築家の加藤匡毅さん(Paddle)を横浜市日ノ出町のTinysにお招きし、志摩の魅力と新オフグリッドタイニーハウスを紹介するトークセッションを開催しました。その様子をレポートします!

志摩市の課題と未来の模索

志摩市長 竹内千尋さん(写真右)。早稲田大学卒業後、志摩観光ホテル勤務、阿児町議会議員・阿児町長を経て志摩市の市長に。“住んでよし、訪れてよし”の志摩市の実現に向け先進的な取り組みにチャレンジしている。

第1部では、志摩市長 竹内千尋さんが、志摩の現状と魅力をたっぷりと語ってくださいました。志摩市がSDGsやMaaSなどに積極的に取り組んでいる背景には、やはり人口減少という、日本の地方都市が抱える現実があります。

「志摩市は、平成16(2004)年に5つの町が合併し誕生してから15周年を迎えました。その間に人口は約1万人減っており、現在の人口は約5万人。志摩の未来を考えた時、持続可能な地域をどうつくっていくかが重要です。そのためには、移住はもちろんですが、交流人口・関係人口を増やしたいという思いがあります。

そう思って改めて志摩を見ると、志摩のライフスタイルには魅力がたくさんあるんですね。ワーケーション、テレワーク、グランピングや、トレーラーハウスで暮らすように旅をするスタイルが似合う、素晴らしい環境に恵まれています」

その一端を、竹内市長が紹介してくださいました。

御食国の豊かな食

志摩の特産物であるアワビや海藻類は、ご神事の際に神様に捧げられてきた重要な食材。

まずは何と言っても志摩の食の豊かさは群を抜いています。市の魚である伊勢海老をはじめ、アワビ・サザエ・的矢かきなどの貝類、ひじき・アラメ・アカモクなどの海藻類、とらふぐ、カツオ…季節ごとに新鮮な海の幸をいただくことができる志摩は、世界中の食通を魅了しています。

受け継がれる海女と漁師の文化

本来の海女小屋を模した「海女小屋体験施設 さとうみ庵」では、獲れたての魚介類をいただきながら、海女さんから海女漁や海の話を聞くことができる。

これらの海産物を獲る海女や漁師の技術・文化も、古くから大切に受け継がれてきました。

『万葉集』に記載があるほど昔から行われてきた海女漁は、平成26(2014)年には「鳥羽・志摩の海女による伝統的素潜り漁技術」として国の無形民俗文化財に指定されました。海女文化の体験ができる施設も人気で、国内外からの観光客が年間8000人以上訪れます。

近年では漁業管理や稚魚の放流などによる海洋資源の管理を徹底し、漁獲高も増加。漁業の新規就業希望者の半分以上は大卒者だという。

また、志摩の漁師達は、普通なら競争する所を5~6人の船頭が1つの船で一緒にエビ網漁をするという、世界でも珍しい漁業スタイル。仲間と協力して海の恵みを分け合う精神が息づいています。漁業への新規就業支援も行っており、県内外から漁師になりたくて移住してくる人も増えているそうです。

大自然を楽しむ豊富なアクティビティ

志摩市内の至る所に、遊べる場所や大自然を体感できる機会が用意されている。温暖な気候のため、一年を通して好きな観光スタイルを選んで楽しむことができるのが大きな魅力だ。

海の魅力は食だけではありません。志摩には、波の穏やかな湾もあれば、外海もあります。外海は、素晴らしい波が立つ関西有数のサーフスポット。湾ではSUPやシーカヤック、ダイビングなどが楽しめます。

また、陸ではマラソン、サイクリングなども愛好されており、トライアスロンの大会も催されています。2020年の東京五輪に向けては、スペインのトライアスロン代表チームの事前キャンプを受け入れることが決定しました。それほどまでに、陸海共にスポーツやアクティビティに適した環境だと言えるでしょう。

志摩の恵みを、もっと多くの人にどう近づけていくか

少子高齢化によって利用者が減った離れ島の施設をワーケーションの拠点として整備し、同時に交通の導線を整えることで、新たな人の流れをつくろうとしている。

このような志摩の魅力を、観光はもとよりワーケーション、テレワークといった仕事の場面でも利用することができるようにと、高齢化・過疎化が進んで使われなくなったスポーツセンターや小学校の校舎をワーケーションの拠点として整備する動きも始まっています。

また、次世代移動サービス「MaaS」を導入することにより、一つのアプリで目的地までの交通手段が陸海空すべてにおいて一瞬でコーディネートされ、画面にタッチするだけで予約・決済まで行うことができるようになります。関西はもとより世界各地からのアクセスがぐっと容易になることでしょう。

モビリティの進化が叶える、志摩との新たな関わり方

志摩の豊かな自然を全身で味わうことができるオートキャンプ場。ここにYADOKARIの新型オフグリッドタイニーハウスが設置される予定だ。

こうした環境の整備と並行して行う新しいタイニーハウスの試みは、どんなビジョンへつながっていくのでしょうか。

近い将来、自動運転のオフグリッドタイニーハウスが実現できたなら、今まで地方都市で課題になりがちだった2次交通の問題(主要な駅や空港から最終目的地までの交通の不便さ)が解消されます。モビリティが進化し、自動運転が可能になった未来について、竹内市長はこのように語りました。

「例えば金曜の夜に京都でワインを1杯引っ掛けて車に乗り、寝ていると自動的に志摩のビーチに到着する。朝起きたら目の前には良い波が立つ志摩の海が広がっていて、そのままサーフィンができる。

あるいは、ワーケーションやテレワークも、こうした移動できるタイニーハウスがあれば、より実現しやすい。例えば名古屋支社の社員と大阪支社の社員が、あのタイニーハウスでミーティングや仕事しつつ、一緒にBBQをしてコミュニケーションを図る、なんていうこともできるわけです」

リアス式海岸の海と山々の豊かな緑が、極めて近い位置で一体となっているのが志摩の特徴だ。

「サスティナブルな町をどうつくっていこうかと考えた時、地域内の資源・経済の循環は当然重要ですが、それに加えて『志摩に関わってくれる人』を増やす必要があります。観光客が増えるのはもちろんうれしい。そしてそれ以上に、今後は観光と移住の中間くらいの、『暮らすように旅をする人』にもたくさん来てほしいと思っています。都市部との良い関係をつくって行きたいですね。その手段としてのMaaSであり、ワーケーションだと考えています」

また、竹内市長は阪神淡路大震災の際のボランティア経験から、オフグリッドタイニーハウスは災害時には避難所としての活用もできると考えています。全国の自治体が数台ずつこれを保持することで、いざという時の備えにもなりうると語りました。

どこにいても仕事ができる時代となった今、志摩の海や山に包まれながら仕事ができるアウトドア・オフィスは、十分に実現可能なものになりつつあります。暮らすように旅をしながら、クリエイティビティを上げていく。志摩に設置されるこのタイニーハウスが、そんな働き方・住まい方を始めるきっかけになると良いですね。

志摩のストーリーを感じる料理を味わいながら

まるで絵画のような夢あるコーディネイトで志摩の幸が並んだこの日のメニューは、真珠豚のローストポーク、豆腐とアカモクと温泉卵、トマトのマリネと鰹節のジュレ、ひじきと三つ葉のおむすび、伊勢海老のビスク、アオサの自家製パンとアオサバター、アッパ貝のアヒージョ風オイル漬け、豆乳パンナコッタと南張(なんばり)メロン。

この日のイベントでは「志摩プレミアムダイニング」と銘打ち、フードディレクターのさわのめぐみさん(ものがたり食堂)の料理で、志摩の食材を参加者にお楽しみいただきました。

五感を刺激する物語・ストーリーを料理で表現する「ものがたり食堂」のさわのめぐみさん。このイベントのために志摩へ食材探しの旅に赴いた。

この日の料理のテーマは「神様のいる暮らし」。さわのさんは志摩を訪れ、御食国の歴史や、今なお残る多くのお祭りのことを知り、「志摩は神様を通じて食のありがたみを現在も感じている地域」だと思ったそうです。海藻類や貝類などの食材を取り入れて、見た目にも志摩の美しい自然を想起させる、アートのような料理を作ってくださいました。

第2部 新オフグリッドタイニーハウス「Tinys.mobi」リリースセッション

普通自動車で牽引できる規格の新タイニーハウス「Tinys.mobi」。内部にはシャワー、トイレ等の水回りと、大人4人が寝ることもできるインテリアや設備が備えられている。

続いて第2部は、YADOKARIが開発した新型のオフグリッドタイニーハウス「Tinys.mobi」について、設計を担当した建築家の加藤匡毅さん(Puddle)とYADOKARIさわだいっせい・ウエスギセイタが、デザインに込めた想いや苦心した点、タイニーハウスが実現する未来のライフスタイルなどについてセッションを行いました。

加藤匡毅さんは建築、インテリアの企画・設計からプロダクトの企画、空間デザインも手がける会社Puddleの共同代表であり一級建築士、デザイナー。隈研吾建築都市設計事務所、IDEEなどを経て、2012年にPuddle設立。今回のプロジェクトでオフグリッドタイニーハウスの設計を手掛けた

加藤さんは、隈研吾建築都市設計事務所で建築のキャリアをスタートし、家具や日用品を扱うIDEEに移ってリノベーションに取り組んだ後、ご自身の会社Puddleを立ち上げました。現在は、日本国内はもちろん世界各地に活躍の場を広げています。

加藤さんは、建築という大きく長いスパンで外側から物事を考えることと、朝起きて1杯の水を飲むコップとテーブルから1日のタイムラインに寄り添ってデザインを考えていくこととの、両面を学べたことが自分の強みになっていると言います。表層的なデザインというよりも、その場所や空間で人がどう暮らしていくか、どう過ごしていくかということをなるべく丁寧に読み解いていくことを大事にしているそうです。

暮らしたい場所を本当に1つに決め切れるのか?

各社が小屋を販売し始めたり、雑誌が『小屋』を特集したり、タイニーハウスや小さな住まいはある程度は浸透してきている。しかし買う人が増えて、皆の暮らしが変わるまでには至っていない。

さわだ:今回、加藤さんにお願いするにあたって「一家に1台持てるようなタイニーハウスを一緒に作りたい」という思いを最初にお伝えしたんでしたね。僕達は7年間、タイニーハウスをメディアでも実物でも作り続けて来たんですすが、なかなか思うようなものには達してないと感じていて。

加藤さん:久しぶりに「想いとお金を貯めてきたんでやりましょう」と言っていただいて。僕も実際にタイニーハウス生活の経験はないんですが、常に頭の中で考えてはいたんです。建築では、根付いた空間を考えているのと同時に、やはりそこから自由になりたいという考え方も常にあります。

自分の足元のライフスタイルがどこに根付くべきかというのは、今も自分の中で決定できていない問いですね。仕事でいろんなエリアを訪れながら、自分にいちばん合う場所ってどこだろう?って。本当に1つの場所で決め切れる人がどれだけいるのかなと考えたりしていました。そんなタイミングでこのお話をいただいたような気がします。

現実的に移動できるタイニーハウスを目指して

「どれだけ良いデザインのものを作っても、牽引に多額のお金が掛かると移動はしない。それだと結局今までと変わらない」と、さわだいっせい。

さわだ:その時、僕らの課題としても、この施設(Tinys)は出来上がっていて、5棟全部車輪が付いていて動かせる状況ではあったんですが、やはり8tトラックとか専用の牽引車が必要なんですよ。ちょっと動かすのでも大きな費用が掛かる。上下水道や電気なども一般的なインフラに接続されていますし。それはタイニーハウスを建築の代替案として使っているだけであって、基本的にはここに固定してるものじゃないの?という課題がいちばん大きくあったんです。そんな中で、やはり僕達が次に目指したいのは「オフグリッド」「移動することがメイン」のタイニーハウスだった。

一般の人でも、普通自動車でも動かせるようなモデルを作らないと、移動する暮らしが多くの人に広まっていくことは難しいだろうと思った時に、躯体を750kg以下に収めると普通自動車で牽引できることを知ったんですね。

「働く」と「暮らす」を内包し、外ともつながる

今回の新タイニーハウスの原案。片面にバスルーム(シャワーとトイレ)を寄せ、残りを活動スペースに。内側を向いて皆で時間と空間を共有しながらも、ハッチバックを開ければ外ともつながれるデザイン/Puddle

ウエスギ:こうしたことをお話しして、加藤さんにタイニーハウスのコンセプトを作っていただいたという形ですね。

加藤さん:そうですね。「志摩バージョン」ということで、A・Bという2種類のターゲットをイメージしながら考えていったんですが、Aの方は4人の大人が移動しながらその中で寝ることができるという考え方。Bは夫婦と子どもがいて、家族という最小の単位で移動することができる暮らし。どちらかというとAは「働く」ことがメインで、Bは「暮らす」ことがメイン。どちらにも対応できるものが考えられないか?ということで、最終的にはBを意識しつつAも叶えられるという、良いとこ取りをしたものになったと思います。

我々は普段はどんな時間でも電気が取れて、夜でも昼間のように活動できる。でも移動して自然に近い所にいるんだったら、タイニーハウスに電気がないわけじゃないですが、太陽が出て沈むまでの間どう暮らすかを考えてもいいんじゃないかと。例えば、日中移動して夕方に泊まりたい景色の場所に着き、夕飯を食べて寝て、朝起きた時にその場所でしか味わえない朝を味わって、そこで定住したり、また移動していくというような暮らし方をイメージしてみました。

その中で、3つのデザインのポイントを考えてみましたが、小さな空間でも人々が集まって話せるような場所は作りたい。そして750kgの筐体(きょうたい)で維持しなければいけないので、素材が軽い、もしくは脱着できるということもテーマになりました。3つ目に大事なのは、行った先で外部とつながれること。自分で景色や環境とのつながり方を決められるという、この3つを軸にデザインを開始しました。

「動く空間」モビリティがもたらす可能性

内部の家具は全て取り外せる。それらをハイエースなどに積んでタイニーハウスを牽引する仕組み。750kgの重量制限は加藤さんがかなり苦心した点。「時間的にもコスト的にも制限があったので、既存の素材を使うという選択肢からスタートしてしまったんですが、材料の開発などからもっと深掘りして行くと、動かない建築に対しての新しいテーマも作れるんじゃないと思いました」

ウエスギ:「モビリティ」という言葉は建築の中でも聞くようになってきたと思うんですが、加藤さんがモビリティに対して何か考えていることがあったら聞いてみたいです。

加藤さん:僕は自分の職業での可能性と、「暮らす」ということの可能性、両方があるなと思っています。

職業の可能性で言うと、設計事務所として今は東京で活動しているんですが、いちばん遠い現場だとアフリカなど、いろんな場所でプロジェクトをやらせていただいています。現場はすごく遠くにあって、皆で作業する事務所は東京にあることが本当にベストなのかなって。移動しながら仕事をしていくというのは設計事務所としても課題であり、挑戦したいなと思っています。

もう1つパーソナルで言うと、子どもが4才、5才なんですけど、あと1、2年すると小学校を考えなければいけなくて。今まで人よりも自由に場所を移動してきて、仕事を旅のように思ってやってきた自分からすると、根を張るべきなのか、それとも子どもと過ごす10年ほどの場所をどう捉えるのかが2つの道だと思っています。

まずは2拠点居住を考えてしまうんですが、移動する空間というのも大切に思っていて、僕たち建築家がそれを実践していくことで、皆さんに「そういうこともやれるかもしれない」と感じていただくことも1つの道だと思います。

「タイニーハウスのこれからの展開としては、キッチンカー仕様やオフィス仕様などの多様な需要があるので、それに応えていけるような開発をして行けたら」とさわだいっせい。また、1台だけでなく、複数台のタイニーハウスが集まったヴィレッジのような形態もありうる。

加藤さん:一方で、今回の志摩のプロジェクトのように、我々が普段暮らしている所とは違う環境でこういう移動する空間を体験していただいて、実際にいくらだったら買えるかもという具体的な部分まで、我々がしっかりと落とし込んでいく必要があるんじゃないかと。志摩のいろんな景色の中で今日はここに泊まれる、明日はここに泊まれる、みたいなことまで企画ができていたり。その初号機にしていただけると嬉しいなと思います。

さわだ:そうですね。日本各地に絶景のポイントはあって、でもなかなかそんな所には建物は建てられないという問題もあります。そこにこういう空間がぽんと置かれて、宿泊施設になったり、気持ちのいいオフィスになったりすることでイノベーションが起きてくる。そんな場所にタイニーハウスを置いていって、ネットワーク化していくみたいなことは大いにありそうだと思っています。

47都道府県に1ヶ所ずつそういう場所があって季節ごとに転々としていく、みたいな暮らし方の選択肢があると自由でいいかもしれないし、タイニーハウスの可能性を含めてそういう新たなライフスタイルを提案できると面白いんじゃないかと思っているんです。

志摩のタイニーハウスを通して「豊かな暮らし」を考えてみる

志摩に設置される新タイニーハウスの外側には銅が塗られており、次第に腐食し緑青が吹いていく。「一般的に車や建築はできた時が最新で目減りするものだと考えられていますが、表情が変わることを通して、変わらないものはないということや、美しさの価値観は人それぞれだということを感じていただけたら」と加藤さん。

最後に、加藤さんから参加者の皆さんにメッセージをいただきました。

加藤さん:やはり人間は寝て起きて暮らしているので、起きていちばん最初の行動と、自分がいちばん大切にしているものとのつながりを感じられるような1日1日を送れたらなと思っています。

僕の自宅の寝室は、目の前に、今回のタイニーハウスの外側に塗ったのと同じ銅の粉を塗っている壁があるんですね。自分の部屋は、たまたま東側から日の光が入るんですが、銅の壁が部屋に光を反射して、朝、黄金色の中で目覚めることができるんです。たった1枚の壁の色を変えるだけで、真っ白な空間とは全然違う1日を迎えることができる。

小さなことかもしれませんが、自分にとって大切な朝のスタートのアクションを変えてみることで生活が豊かになるかもしれません。朝を自分の場所でどういうふうに迎えるかってことを考えながら過ごしたい。そういう価値観が人それぞれ違うということを、建築として形にして行けたらいいなと思っています。

会場となったTinys Yokohama Hinodechoには、建築関係の方はもちろん、ワーケーションやテレワークに取り組んでいる大手企業、移動するライフスタイルに関心を寄せる方々など多くの参加者が集まった。

今日のトークセッションで話されたことは、「これが未来の暮らし方の正解」というものではなく、現実味を増してきた1つの選択肢の提示だったと言えます。

交通サービスやモビリティの発達という世の中の流れがある中で、外界と空間内での過ごし方の両面から建築を考える加藤さんがデザインしたタイニーハウスと、志摩という素晴らしい場所が用意された時、私達はどんな暮らしを選ぶのでしょうか?

改めて、一人一人が「自分がほしい豊かな暮らし」を考えるきっかけになったのではないかと思われるイベントでした。

◎ゲストプロフィール

志摩市長/志摩オートキャンプ場(阿津里浜リゾート開発株式会社 代表取締役)
竹内千尋

早稲田大学卒業後、志摩観光ホテル勤務。阿児町議会議員・阿児町長を経て志摩市長に。持続可能なまちを目指した「SDGs未来都市」や次世代移動サービス「MaaS」の先進的な取り組みに、豊かな自然・恵まれた食・日本遺産に選ばれた海女文化などの地域資源を掛け合わせ、”住んでよし、訪れてよし”の志摩市の実現に向け全力でまちづくりを進めている。

Puddle株式会社
共同代表/一級建築士
加藤匡毅

幼少期に横浜市金沢区で幼少期を過ごし、新造された都市計画に影響を受ける。隈研吾建築都市設計事務所、IDEEなどを経て、2012年Puddle株式会社設立。これまで15カ国を超える国と地域でデザインを行い、各土地に育まれた素材を用い人の手によって作られた美しく変化していく空間設計を通し、そこで過ごす人の心地良さを探求し続ける。2019年9月学芸出版より「カフェの空間学 世界のデザイン手法」を出版。
http://www.puddle.co.jp/

9/9発売「カフェの空間学」加藤匡毅 著(学芸出版)
加藤さん自らカフェのオーナーや建築家と話し、それぞれのカフェが町とどうつながりたいか、エリアとどんな関係を築きたいか、人とどう接点を持ちたいかということを主軸に考えられたカフェ39軒を取材して掲載している。Amazonで詳細を確認。