【動画&レポート】東急沿線の未来の働き方を考える ~地域と緩やかにつながりながら、働き方や暮らし方を見つめ直す~ 未来働き方会議 vol.4


新しい働き方を探求し、これからのライフスタイルを一緒に創造して行く試み「未来働き方会議」。「働く」に関わる活動家やオピニオンリーダーの方々をお招きし、参加者と共にディスカッションしながら、未来の働き方のヒントを探っていきます。

今回のゲストは、不動産開発事業や生活サービス事業など、人々の暮らしに寄与するような街づくりを展開している東急株式会社の田中翔太さん。企業に所属し不動産開発業務に携わる傍ら、個人的な活動として、街の工務店の方々と共にイベント「青葉区を面白がる会」などを共同開催(主催:◯◯を面白がる会)したり、青葉区で生産されているあおば小麦の活用プロジェクトに参画するなど、積極的に地域と関わるアクションを行っています。

スウェーデンの、自宅をコワーキングスペースとして使うHoffice(HomeとOfficeを合わせた造語)プロジェクト。(C)REDIT AMRIT DANIEL FORSS

コロナ禍の発生によりリモートワークや在宅勤務が急速に普及し、自分が暮らす地域で過ごす時間が長くなった時、私たちは何を求め始めるのでしょうか? その問いは、これまで主に都心に出社する人々を運ぶためのインフラだった電鉄やその沿線の街に、どのような進化が求められるのかというイシューと表裏一体です。

会社員でありながらすでに先進的な働き方や地域とつながる活動を行っている先駆者 田中さんと、可動産や地域の遊休資産を活用した街づくり事業のパイオニアでもあり、新しい暮らしの創造をビジョンに掲げるYADOKARI株式会社の共同代表 ウエスギセイタ、そして国内はもとよりアメリカやドイツからも120名以上集まった参加者のみなさんが活発に意見を交わし合ったオンラインイベントの様子をレポートします。

田中翔太(たなかしょうた)さん(写真後列右から2番目)は愛知県出身で大学卒業後、2012年に東京急行電鉄株式会社(現・東急株式会社)に入社。一般オーナーが所有する旧耐震ビルにおける耐震補強・建替えのコンサルティングを担当し、その後、東急沿線における街づくり構想の策定、駅周辺再開発や大規模団地再生の企画、商業施設の開発に携わる。現在は沿線開発事業部住宅開発グループに所属し分譲マンションの事業推進を担当しながら、個人として、居住地である横浜市青葉区を中心に地域に関わる活動を積極的に展開している。

田中さん自身は以前からすでに、午前中は自宅近くの自社のサテライトオフィスで仕事をしてオフピークに時差通勤をするなど、かなり柔軟な働き方をしており、今回のコロナ禍における働き方の変化にもスムーズに対応できたそうです。

そんな田中さんから、イベントのはじめに次の3つについてプレゼンテーションがありました。

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1. 社会環境の変化
2. 東急株式会社のビジョン
3. 東急沿線における未来の働き方
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資料提供:田中翔太さん

1.社会環境の変化/家族、社会とのつながり、仕事以外のことの重要性が高まる

2020年5〜6月に内閣府が行なった調査結果を引用しながら、コロナ禍による働き方・暮らし方の変化が人々にどんな意識をもたらしたのかについて田中さんが考察してくださいました。

田中さん:「私も在宅勤務になったことで平日でも家族と過ごす時間が増えたのを実感していますが、みんなが半ば強制的にテレワークをせざるを得ない状況になって、かつてないほど自宅で過ごす時間が増えたことにより、それが作用しているのか、家族や社会とのつながり、仕事以外のことを意識する人が増えてきているのではないかと考えられます」

資料提供:田中翔太さん

テレワーク経験者はワーク・ライフ・バランス、地方移住、副業に関する意識変化が大きい

また、テレワーク経験者には特に、ワーク・ライフ・バランス、地方移住、職業選択や副業への意識の変化が顕著に見られました。

田中さん:「今まで子どもが寝ている顔しか見られない時間に帰宅していた人が、家族で共存している環境で仕事をするようになり、全然違う世界観が見えてきたんでしょうね。仕事に支配されてきた生活からテレワークで時間が生まれ、リモートでもある程度業務が行える事実にも気がついてきた。仕事と生活という境界線が良い意味で曖昧になり、より自分自身の生活を意識するようになってきたんじゃないかと思います」

資料提供:田中翔太さん

会社員の「副業」への期待

一方で、会社員の副業に対する意識調査によると、現在の働き方や仕事の問題を解消する、あるいは満足度を高めるための解決方法の一つが「副業」なのではないかと考えている人が7割近くを占めています。

田中さん:「今までの、1社に勤めたらそのまま定年まで…みたいな形ではなく、複数の選択肢を持って働いていきたいというニーズがあるんでしょうね」

資料提供:田中翔太さん

ウィズ・コロナ、ポスト・コロナの働き方の方向性は?

上位を占めているのは、

●時間・空間の制約からの解放(81.6%)
●企業内外を自在に移動する働き方の増加(60.7%)
●副業・兼業の一般化(60.1%)

田中さん:「おそらく従来の『転職』とは異なる系統の働き方なのではないでしょうか。『越境』という言葉の方が合っているかもしれません。そういう自由な働き方を望んでいる声が多いのではないかと読み取れます。こうした自由な働き方が増えれば増えるほど、今まで会社員の方はあまり関わってこなかった、自分自身が住む地域との関わり方・そこでの在り方について見直すきっかけになるのではないでしょうか」

資料提供:田中翔太さん

人材確保の観点からも、企業は副業解禁の方向へ

また、上記の日経ニュースのトピックにもあるように、視点を変えて企業の立場から見た場合にも、多様な人材を受け入れていくことでオープンイノベーションを誘発していきたいという意向が伺えます。

田中さん:「ヤフーさんやユニリーバ・ジャパンさんなどの大手企業で副業人材の受け入れが始まったというのは大きなインパクト。成功事例ができてくれば追随する企業も増えていくのでは。働き手だけではなく雇用側・企業側も変わっていく潮目かもしれませんね」

資料提供:田中翔太さん

働く場所と時間を「個人」が選択し、自由に活躍する時代へ

今後の「働き方」の変化の方向性を、田中さんがまとめてくださいました。

【今までの働き方】
・会社に奉仕、一生を捧げる(終身雇用、守られている立場)
・会社に決められた時間と場所に出社
・仕事は時間で管理

【これからの働き方】
・個人のスキルを用いて幅広く活動(会社は個人が活躍する一つの舞台)
・時間と場所は個人が選択できる
・仕事は成果(タスク)で管理

明らかに、従来の「会社に行く=仕事」ではなくなって行きそうです。また、その「働く」や「仕事」の動機も、地域との関わりも含め、ますます「労働の対価(お金)を得ること」だけではなくなって行きそうです。働く場所や時間、組織の制約から解放された時、会社員であるか、フリーランスや自営業であるかの境界線も消え、多様な人々が互いに越境し合いながらフラットな立場で関わり合い、「個人」の強みを生かし合って地域や社会に貢献して行く働き方が「新しい当たり前」になるのかもしれません。

2 東急株式会社のビジョン

こうした社会変化を受け、今までは働く人を住んでいる地域から都心へ運ぶことに主眼を置いていた鉄道とその沿線の街づくりの考え方も、大きく変化して行くことになりそうです。

田中さんの所属する東急株式会社では、コロナ禍が発生する前からいち早く、これから訪れる社会変化を予期した中長期のビジョンを掲げています。沿線の街やそこに住む人々と共に、どのような未来をつくって行きたいのか。目指すビジョンについて田中さんが紹介してくださいました。(*詳細は東急株式会社のウェブサイトでもご覧いただけます。https://www.tokyu.co.jp/tokyu/ebtkk-2019-20/html5.html#page=1 )

資料提供:田中翔太さん

中期的には、住む・働く・遊ぶが揃った「サステナブルな街づくり」

田中さん:「今までは都心に向かって人を運んでいたので、それ以外の場所は『住む』機能に特化した、いわゆる郊外住宅地と呼ばれるエリアでした。しかし今後はそうしたエリアに対しても、『住む』だけではなくさまざまな都市機能を複合させていき、沿線に住んでいる方々にとってより暮らしやすい街づくりを進めていく必要があります。コロナ禍で移動が制限される状況にも合致する方向性ですね。その中で事業機会を獲得しながらサステナブルな街づくりを推進していくことを目指しています」

郊外都市の高齢化や空き家増加の問題、消滅可能性都市などという言葉も聞かれる中で、未来にもイキイキとした暮らしが続いて行く街づくりは、東急株式会社にとっても、沿線の住民にとっても大切な取り組みですね。

資料提供:田中翔太さん

2050年を見据え、長期的には「個人の幸せ」と「社会・自然との調和」の両立を目指す

また、東急株式会社では30年後の社会を見据えた長期の構想も発表しています。

田中さん:「会社の歴史を振り返ると、僕たちはインフラの会社として、街、鉄道、生活サービスなど社会生活の基盤となる部分の価値を提供し、『新しい暮らし』をお届けしてきました。例えば住宅がなかったエリアに田園都市線をつくり、そこでのライフスタイルを創造し、お客様に価値として提供させていただいた、というようなことです。

そして現在、急激に社会環境が変化する中で、今後どのような価値や暮らしを創造し、お届けできるのかが問われていると思います。

2050年に向けては、ミクロの視点では個人、マクロの視点では社会そのものの課題を今まで培ってきた東急のノウハウで解決していき、『世界が憧れる街づくり』の実現を目指していこうと考えています」

資料提供:田中翔太さん
資料提供:田中翔太さん

3. 東急沿線における未来の働き方

プレゼンテーションの最後に田中さんは、「個人的な考えとして」と前置きしながらも、これからの東急沿線における「働き方」や「豊かな暮らし」について、ご自身の経験や実践している活動を元に語りました。

田中さん:「これからの東急沿線の在り方として、地域社会とのつながりの中で働き方の選択肢を増やし、豊かな暮らしを送ることができる沿線環境をつくることが重要なのではないかと思います。

ここでいう『豊かさ』が何かと言うと、他者から制限されずに自分で決めることができる選択肢が多様にある状況のこと。働き方で言えば、自分も含め現状の会社員だと、その組織の範疇の中でしか相手や仕事などの選択肢がなかったところが、自分の身近な場所(地域)で過ごす時間が圧倒的に多くなるなら、そこに働ける場所、仕事内容、活動、立場、コミュニケーションを取る相手の選択肢が増えることが豊かさにつながるのではないでしょうか。それが本業へのモチベーションや生産性にも波及していくと思います。多様な選択肢の中で自分らしい働き方を設計できていく状況に、未来があるのではないかと思います。

会社は個人のビジョンややりたいことを全て叶えることは困難で、必ずズレは出てくるものです。だからこそ個人が外部とのつながりを求めて積極的に動くべきなんですが、そのつながり方が分からないという点が課題。地域の人・活動の見える化や、街中の資産を活用して自由に働くことのできる場所を増やして行くことが今後必要になってくると思います」

田中さんが地元の工務店4社による一般社団法人「青葉台工務店」さんと一緒に開催した「横浜青葉区を面白がる会」の様子。資料提供:田中翔太さん

地域とつながるきっかけをつくってくれた「面白がる会」

こうした沿線における街の新しい在り方や、住民の新しい働き方の糸口になるような活動を、田中さんは業務外の時間に個人としてすでに実践しています。

2017年から3回に渡り、地元の工務店4社による一般社団法人「青葉台工務店」さんと一緒に開催した「横浜青葉区を面白がる会」では、のべ120名もの多様な参加者と、街の課題や遊休資産を使う方法などについて立場を超えたディスカッションを行い、大いに盛り上がりました。田中さんはこのイベントをきっかけに、地域のさまざまな人と出会い、イベント後も声をかけてもらえるような関係をつくることができたそうです。

東急東横線の「妙蓮寺」駅にある、元は賃貸住宅だったスペースをコワーキングへリノベーションした「本ホニャノニカイ」でも面白がる会を企画中。資料提供:田中翔太さん

街に点在する「働く場所」が地域のハブになる

また、東急東横線の「妙蓮寺」駅で、まちの不動産屋である「住まいの松栄」さんが手掛けた、元は賃貸住宅だったスペースをコワーキングへリノベーションした「本ホニャノニカイ」という場所や、まちの古民家の使い方を題材とした「妙蓮寺を面白がる会」も企画しています。(*現在コロナ禍の影響でリアルイベントは見合わせ)

田中さん:「こういうワークスペースが街に点在していることが大事だと思います。1ヶ所というよりはいろいろある中から選べるという状況。『働く』という機能をエリアにどんどん浸透させていくような活動を、妙蓮寺で仕掛けたいと思っています。意外と『働く』ことが、街の中のハブになりそうな気がするんです。日中、僕らは働くことにかなり時間を費やしているので、そこで気軽に話ができたり、緩やかに外(地域)とつながっているような状況だとコミュニケーションの取り方が変わる気がします」

資料提供:田中翔太さん
資料提供:田中翔太さん

地域経済の循環を生み出すための「横浜あおば小麦プロジェクト」

田中さんが住む青葉区は、豊かな自然や農地も広がっています。田中さんはここで地域に関わる活動として、地元のパン屋「ベイクハウス・コペ」さんが始めた青葉区産の小麦を活用する「横浜あおば小麦プロジェクト」にも携わっています。

青葉区で栽培された小麦を小麦粉にして、地域の飲食店で使ってもらうことで地産地消を促していくプロジェクトで、このプロジェクトでは、これを地域の特産品づくりにつなげ消費を生む所までやろうと検討しています。需要が確保できると供給が安定し、つくり手にお金が落ちるようにもなります。青葉区の農家もやはり担い手がいないという課題に直面しており、耕作放棄地、遊休土地などが今後必ず問題になって行くと予想されます。田中さんは、つくり手が稼げるモデルを確立し、担い手育成や土地の活用につなげ、地域の経済循環を促すことを目指してこのプロジェクトに取り組んでいます。

資料提供:田中翔太さん

自分らしく自由な働き方ができる沿線へ

最後に田中さんは自分自身の働き方・暮らし方を振り返りながら、「東急沿線におけるこれからの働き方・暮らし」についてコメントしました。

田中さん:「私自身も住まいの近くで実験的に本業とは異なる選択肢を持ちながら暮らし働いているという状況で、これがいいかどうかはまだ正直よく分かりません。業務外で活動するのはけっこう時間を取るので、家庭にしわ寄せが来たりもします。生活も大事にしたいのでバランスの取り方は大事ですが、個人で考えていることを体現して見せて行かないと始まらないなと思っています。

僕たち東急株式会社は沿線を舞台としながら、そこに住む人や関わっていただける人が、自分らしく自由な働き方ができるようにすることが、これからの豊かな暮らしにとって必要なんだと思います」

第2部:パネルディスカッション

イベントの第2部は、田中さんとYADOKARIのウエスギ、ファシリテーターのくまがいも加わり、参加者がチャットで投げかけた質問に応える形でパネルディスカッションを行いました。そのハイライトをご紹介します。

参加者のチャットより①:今までの働き方→これからの働き方に変わるのは今の日本の企業では難しいのでは?

田中さん:「僕たちの会社は、まず働く場所からフレキシブルになって行ったところがあります。また、東急グループ内でのプロジェクトチームというか、人材シェアは起きるかもしれないですね」

ウエスギ:「僕は前職もITやWebの業界で、新卒の2007年から出社義務がなかったので、場所や時間に縛られない自由な働き方をしてきているんですが、もともと拠点が東京のど真ん中にあるような大きな企業は、その拠点を少し外に置いてみたり、分散させることで、働き方も少しずつ変わっていくような気がします」

田中さん:「今日は大学生の方も参加してくださっていますが、どんな会社に就職したいかという視点で見ていくと、給料が目当てというより、社会的意義などの別の価値観に変わってきた時に、人材を確保する上でも企業は変わって行かなきゃいけないと思います。どういう企業が選ばれていくのかを深掘りする必要があるのかもしれないですね」

ウエスギ:「以前、無印良品さんと一緒に、約2万人を対象に2地域居住や地方移住など、これからの暮らし方に関するアンケートを取ったんですが、都心部にお住まいの方に『その前に働き方を変えないと、住まい方は変えられないんだ』みたいなご意見をいただいてハッとしました。今回のコロナをきっかけに働き方を変えられると、暮らし方も考えられるようになるのかなと思いました」

参加者のチャットからは「これからは必要な時に、必要な人と、必要な場所で交流する。そんな生活ができる地域インフラづくりをみんなで考えて、実現していくことが大事じゃないかな」とのコメントが寄せられた。写真は、サンフランシスコにある100年以上前の建物をリノベーションしたオフィス。Via: officesnapshots.com

参加者のチャットより②:東急さんには他社さんの「ロマンスカー」みたいなものがないことが、「東急沿線での働き方・暮らし方」を考える上での鍵になってくるように思います。

ウエスギ:「確かに今の東急沿線に、お座敷列車みたいな楽しむための電車が走ったら風景が変わるかもしれないですね。僕は昔、お座敷列車に乗ってごはんを食べたり景色を見ながら海に行ったのがすごく良い思い出で。そんな電車が土日に1本走っていて、ふだんは急行で通過しちゃう街の景色を見ながら地元のごはんが出てきたりしたら、僕は乗りたいなと思っちゃいます(笑)。沿線や地域との最初の接点、街を知るって所が変わってきそうですよね」

田中さん:「やはり住宅街が多いと目的地以外では降りないんですよね。今までは混雑の問題もあり、電車に乗っているだけで疲れちゃうというご意見もいただいていました。妙蓮寺みたいに意外と行ってみたら良かったとか、人に会いに行くのが面白いとか、通勤で使うという目的よりも、次の電車の使われ方・移動があるのかもしれないですね」

ウエスギ:「電車の中に地域の人の顔が見える状況をつくれたりするんですかね? デジタル含めて。田中さんが、地域とのつながり方が不明瞭だから情報発信や地域のメディアが必要だとおっしゃっていましたが、電車の中の広告枠にあおば小麦の話が流れてきたりすると、個人的にはけっこう見たいと思ったりします。最初の接点がお座敷列車みたいな居心地の良い電車で、かつ街の最初を知るメディアになっていたりしたら、それが全部の電車ではなくてもいいけれど、『乗りたい電車』になってくるんじゃないかな」

「新しくビルドするよりも、街の眠る資産を働く場所として生まれ変わらせるのがいいと思う」と田中さん。写真はサンフランシスコの埠頭にある100年前の建物をリノベーションしたオフィス。Via: officesnapshots.com

参加者のチャットより③:大学生です。副業人材の概念が広がっていった時に、個人のスキルが重視されると思いますが、どんな能力があると活躍できるとお考えですか。

くまがい:「僕は『越境』という言葉をよく使っているんですが、自分の快適なコミュニティをどんどん越境して行かないとダメだという考えですよね。ずっと1社にいて定年退職するとなった時に、生きるための手段の持ち札が20年、30年変わらない状態だと今の時代はちょっと難しいかなと。複雑で変化が当たり前という時代に、コミュニティを越境することによって、常に自分は『こういう生き方がしたい、ああいう生き方がしたい』という手札をどんどん変えていく動きが必要だと思ってます。だからコミュニティを所有するとか、心地の良い一つのコミュニティにいすぎることなく、越境することが一つのスキルになってくると考えています」

ウエスギ:「田中さんみたいに自ら極的に活動している人は良いと思うんですが、例えば全然街との接点のない会社員の方が街と関わる最初の1歩として、まず何をしたら良いですか?」

くまがい:「地域だけにこだわる必要もないかもしれません。例えば自分の場合だとサウナが好きなので、サウナコミュニティに入ってみるとか」

田中さん:「僕の実体験からすると、ピンと来た所にまずコンタクトを取ることですかね。青葉台工務店もそうなんですが、ウェブサイトのコンタクトから突然連絡して会いに行って話をして、そこから始まった。YADOKARIさんとのご縁もそうですよね。とりあえず飛び込む。ふだん話さない相手と話すことに発見や刺激がある。例えば店長さんやお店のマスターに話しかけてみるとめちゃくちゃ面白いし、行きつけにもなります。僕もそれでファンになっているお店がいくつかあり、顔出したいなと思いますよね。話をするまではめちゃくちゃドキドキするんですけどね」

田中さんは、横浜市寺家町の古民家を改装したワーキングプレイスにも注目しているという。豊かな自然環境の中にあり、ピザ窯でピザを焼いて食べることもできる。「暮らす」と「働く」がボーダレスにつながる環境は、これからの居場所の本流になりそうだ。写真はいち早くサテライトオフィスが発達した徳島の例。via:Tokushima Working Style

働き方を変えると、暮らし、街、地域も変わる

コロナ禍をきっかけに、私たちは身近な地域で過ごす時間を経験し、働き方・暮らし方、街・地域との関わりや仕事に対する価値観の変化を、以前よりもいっそう強く感じ始めています。「会社員だから」「通勤があるから」「簡単には変えられない」という制約は、本当は自分の固定観念に過ぎないのかもしれません。

これからいかに働き、どこで、どのように、誰と暮らしたいのか。

私たち一人ひとりが新しい「働き方」を創造することは、個人の「暮らし方」を変えるだけでなく、街や地域との接点を変え、ひいては世の中の構造や景色までも変えて行く、「未来への起点」になりそうです。

◎今回のスペシャルゲスト


東急株式会社
田中翔太(たなかしょうた)さん

1989年生まれ。愛知県出身。大学を卒業後、東京急行電鉄株式会社(2012年当時)に入社。入社後、一般オーナーが所有する旧耐震ビルにおける耐震補強or建替えのコンサルティングを担当し、その後、東急沿線におけるまちづくり構想の検討・策定、駅周辺再開発や大規模団地再生の企画・立案、商業施設の開発を担当。現在は、マンション開発・販売に携わっている。業務に従事する一方で、「都市経営プロフェッショナルスクール」への参加や「横浜・青葉区を面白がる会」の開催、「横浜あおば小麦プロジェクト」への参画等幅広く活動。5歳の娘と2歳の息子との4人家族。

▼東急株式会社
https://www.tokyu.co.jp/