「愛してるから別居しよう」パートナーと距離を置く「別居婚」で幸せな人たち
言葉に対するイメージは、過去に見聞きした内容や主観にもとづいている。
例えば、「太陽」という誰もが知っている言葉でも、それをオレンジだという人がいれば、赤だという人もいる。イラストにおこすときには、太陽は丸だという人もいれば、丸の周囲に放射線状の線を引くべきという人もいるだろう。
同じことは「結婚」という言葉にもいえる。結婚というと、指輪を交換し、誓いのキスをした後に同じ家に住む。いつか子どもができて、孫たちにも恵まれる…こんな感じだ。
近頃は、結婚しても子どもを持たないことを示す新たな言葉「DINKS(Double Income No Kids:共働きの子なし夫婦)」が出来たように、従来の結婚観からさまざまなピースが取り外されている。
結婚がよりシンプルになろうとしている今、「結婚後の同居」すら必要ないのではないかという人たちがいる。それでいて幸せだというのだから驚きだ。
同じ屋根の下で暮らすためにキャリアを犠牲にする必要はない
ニューヨークタイムズ誌で取り上げられたとあるカップルは、4年間の交際と7か月の結婚を通じて、一度も同居したことがないのだという。
このカップルは互いが大好きなオペラの仕事についており、それぞれが拠点とする都市間は約400キロも離れている。
いわゆる遠距離恋愛のような2人だが、今後とも同居のために仕事を辞めることはないという。一緒に暮らすために、どちらか一方がキャリアを断念するのはフェアではないと感じているためだ。
実は、結婚と同居はイコールではない-この事実を知り、ハッとした読者もいるかもしれない。それもそのはず、少なくとも日本では「結婚」という言葉には同じソファで肩を並べたり、同じ食卓でご飯を食べる結婚=同居を示す像が強く宣伝されているからだ。
「パートナーの転勤でまた仕事探しをしなくちゃいけない」「パートナーと生活リズムが合わずしんどい」こんな結婚あるあるのお悩みには、「キャリアがあり、年収の高い方のパートナーに照準を合わせた暮らし」が暗黙の了解として透けて見える。
もし結婚後に同居することがマストでなければ、こんな悩みを持たず、うまくいったカップルがいたかもしれない。
そう思うと、結婚後に別々に暮らすという選択肢がグッと身近になるのではないだろうか。
暮らしのリズムが合わない2人の選択肢は「別居婚」だった
結婚に関して保守的といわれる日本でも、別居婚を楽しむカップルがいる。カップルのどちらも神経発達症(いわゆる発達障害)を持ち、お互いの特性上、結婚しても同居しないことを決めた2人だ。
女性はASD(Autism Spectrum Disorder:自閉スペクトラム症)の特性を持ち、なかでも細かいことに気づきやすく、こだわりが強い。男性はADHD(Attention Deficit Hyperactivity Disorder:注意欠如・多動症)の特性を持ち、行動力があるが不注意で物を無くしたり忘れたりすることがあった。
こだわりが強く、小さなことに気づけるASDと、アイデアマンのADHD。お互いにない部分を補い合う最高のパートナーにも見えるが、同居してみると「つらさ」が勝った。悪気なく散らかしてしまうADHDと、気づきと改善をやめられないASDとして、お互いがお互いにウンザリするような状況に陥ってしまったのだ。
お互いを傷つけないために、別々の家に住もう-そんな提案をしてから1年後、2人の間にある愛は変わらず、距離だけが変わった夫婦として仲良く過ごしている。
このように、その人が生まれ持った特性上どうしても一緒に暮らせないということもある。しかし、「結婚=同居」ではないことを知っていたからこそ、例に挙げた2人は一緒にいることができている。
日本では「結婚して同居する」がマジョリティだが、マイノリティである「結婚して同居していない」が幸せでない証拠はどこにもない。
みんながやっているから、そうするのが当たり前。そんな思考はいったん置いておいて、今の自分たちに必要な関係性を探ることが大切だとわかる。
言葉を制限するよりも、拡張していくことで見える「暮らしやすい関係」
結婚という言葉に縛られず、自分たちで意味を付けたし、解釈していく。このような考え方を取り入れることで、従来の結婚ではあり得なかった2人が結ばれることもあるだろう。もし結婚するにあたり、2人の間で大きな問題が置きそうならば、それは結婚をためらう理由になるかどうか、一度考えてみることが大事だ。
結婚する上での課題-お互いがお互いのキャリアを貫きたいと思うこと、生まれ持った特性上どうしても変えられないこと。これらはどちらか一方が折れる以外にも、別居という選択肢をとることで問題を解決できる可能性がある。
2人にとっての結婚とは何なのか-言葉に縛られず、自分たちなりの解釈を生みだすことで、より暮らしやすい関係を築けるかもしれない。
参考サイト:
The New York Times”Married but Living Far Apart”.
withnews”「絶対に一緒にいてはいけない」ADHD夫、決意の別居で見つけた成長”
https://withnews.jp/article/f0200910001qq000000000000000W0f110801qq000021755A