【公開インタビュー】佐々木俊尚さん vol.4 進化した“ていねいな暮らし”が、“つながり”を産み、私たちの糧になる
2017年1月21日 に行われた『これからの共同体の作り方』会議(会場:BETTARA STAND 日本橋)公開インタビュー記事。最終回である第4回は、新しい時代に重要な資質や、佐々木さんの考えるこれからの時間や場所、お金の使い方についてうかがう。
vol.1 この時代に向き合うために、私たちに必要なのは“暮らし”と“共同体”
vol.2 今どきの共同体作りにフィットするのは、“ゆるゆる”したつながり方
vol.3 壁を取り払い、外に出よう! スモールな暮らしがもたらす広い世界
vol.4 進化した“ていねいな暮らし”が“つながり”を産み、私たちの糧となる
これからは、“テイカー”ではなく“ギバー”。与える資質が必要とされる時代
––生活がミニマルになって、暮らしもどんどん外に開かれていく、新しいつながり方も生まれてくるというなかで、求められる人材も変わってくると思います。
佐々木:これから強みを発揮するのは、惜しみなく与える人でしょうね。言い換えれば、好意をちゃんと他人に示せる人です。
アダムグランドの『GIVE & TAKE』という本には、世の中にはテイカー(奪う者)とギバー(与える者)がいると定義しています。かつては「正直者は馬鹿をみる」という言葉があるように、利他的なギバーは損をする。他者の手柄を奪うようなテイカーが得をすると思われていました。しかし、21世紀の現代はインターネットの普及もあり、人間関係がヒエラルキーではなくてフラットになってきている。そのため、利己的な行動はすぐに皆の知るところになってしまいます。逆に一見損しているように見えても常に他人に好意を与えている、利他的な人の評判も伝わります。
––与える人には信頼が寄せられて、つながりができてくるわけですね。
佐々木:『GIVE & TAKE』の本の中で紹介されているのは、ある投資会社をやっている人の話です。その人は相談されると、無料で親身に相談に乗ってあげていた。その甲斐あって、相談に乗った会社が成長することがあっても、そんなときに限って彼自身は出資していない……ということを繰り返している。「あの人損ばっかりしている」と言われるのですが、一方で実はすごく信頼度が高まっているのです。「あの人ならなんでも相談できる」という話になり、結果的に人もお金も集まってくる。そういうことが起きるのが現代だと思います。
困難な時代だからこそ、自分の暮らしは自分で守る努力が必要
––人が評価される軸が変わると、働き方そのものも変わってくるのでしょうか。佐々木さんは、終身雇用の崩壊や、AIの発達によって仕事が減ってくるという背景についても指摘されていましたが。
佐々木:一気には変わらないし、変えてしまえば、人々が生きていけなくなってしまいます。大手新聞ですら、しばしば「もはや経済成長などいらない」と書いたりするのですが、それは誤解です。確かに、経済成長が続いたのはわずかこの200年ぐらいのことで、それ以前はGDPのグラフ見てもずっとほとんど平坦でした。だからといって昔に戻ればいいということではないのです。今の社会は、日本でもアメリカでもヨーロッパでも、経済成長があることを前提として国家予算が組まれ、年金や保険などの社会制度が作られている。だから経済成長しないと年金も払えないし、給料ももらえなくなるし、失業率もどんどん増えて、社会は崩壊してしまいます。
––経済成長が難しい背景があるにしても、急激に社会が崩壊することは避けなければならないですね。
佐々木:だから政府に対しては経済成長を求め、個人としてはそれに甘んじずに自分自身で守れることを守っていくという、両面の構えが必要なのです。
進化した“ていねいな暮らし”が、“つながり”を産み、私たちの糧になる
自分自身を守るために必要なのが、生活であり、共同体。佐々木さんが食べることや着ることなどの、毎日の暮らしや、“ゆるゆる”な人とのつながりを大切にされている背景には、深い危機感があることがわかる。
“ていねいな暮らし”は2000年代から注目されていたが、経済状況の変化や、東日本大震災などを経た今は、“つながり”への希求と結びついて、さらに強い必然性を持っているのかもしれない。