日本人の夫婦とアメリカの学生が建てる、ネイティブアメリカンの家「DesignBuild BLUFF」|Re:世界の小さな住まい方

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Via:designbuildbluff.org 建物の名前は「ROSIE JOE」

蝶が羽を開いたような逆開きの屋根が印象的な荒野の家。この家は以前「未来住まい方会議」でご紹介したものです。
アメリカで建築を学ぶ学生の、実習プログラムの中で建てられたこの家。遠くアメリカのユタ州に建つこの家に関わっていたのは、日本人のご夫婦でした。

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プログラムのスタッフとしてアメリカ・ユタ州の村に住むご夫婦。昨年女の子が生まれたそうです

ご夫婦の名前は、山本篤志さんと、小木曽ひろこ(おぎん)さん。
3人家族が住まうのは、警察や病院もなく、スーパーまで車で30分という、ユタ州の砂漠の中にある人口100人の村。ご夫婦は2年前からこの土地に移住し、プログラムのサポートスタッフとして活動されています。
元々は別の仕事をされていたお二人がアメリカに移住したのは2006年のこと。このプログラムのメンバーとして参加していた篤志さんとおぎんさんは、プログラム運営者の誘いにより、スタッフとして活動を始めるようになりました。

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VIa:dwell.com 写真左から2番目が篤志さん。真っ黒に日に焼けた姿は現地に住まうネイティブのようです

「DesignBuild BLUFF(デザインビルドブラフ)」とは?

お二人が関わる「DesignBuild BLUFF」というプログラムは「自分たちでデザインしたものを、自分たちの手によって施工する」ことを実現する教育プログラム。
2000年にアメリカのソルトレイクシティではじまり、建築家のハンク・ルイス(Hank Louis)氏がプログラムの立ち上げを行いました。

このプログラムは
1. 学生が設計し、施工すること
2. クライアントに住宅を無償で提供すること
3. NPO法人が寄付を活用しプログラムを運営すること
4. Bluff(ブラフ)という場所に建てること
などいくつかのルールがあり、NPO法人によって運営されています。

現在では、アメリカ・ユタ州だけでなく、日本の福岡などでプログラムが開催されており、「自分で設計して建てる」場を人々に提供しています。
DesignBuildFUKUOKA ホームページ

ブラフのネイティブアメリカンに家を、変化するプログラムの形

Via:dwell.com
Via:dwell.com ブラフは開けた荒野の村、家は地平線に溶け込むように建っています

プログラムが大きく変わったのは2004年、ユタ州のブラフというネイティブアメリカン(アメリカ原住民)の居住地域で家を建てることが決まった時です。
アメリカという国の中で、ネイティブアメリカンの人達は険しい土地で貧しい生活を送っている人達がほとんど。ユタ州のブラフも、そのようなネイティブアメリカンが集まる村でした。

それまでのプログラムは、都市部で行われるものがほとんどでした。しかしながら、都市部では建築基準法により建物のデザインに制約があることや、学生が施工終了後に各々の家に帰ってしまい、チームワークが育めないことなど、様々な制約がありました。
プログラムがブラフに移動することで、学生とスタッフが泊まり込みで活動を進める形になりました。また、建築基準法の規制が厳しくない土地なので、問題が改善され、以前にも増してプログラムは活気づいたそうです。

70日間の共同生活

現在、プログラムは学生が主体になって進められており、半年を設計に充て、半年を現地での施工に充てています。年に2軒のペースで建築が行われ、プロジェクトの立ち上げから現在までの間に17棟を完成させました。
学生の主体性を伸ばすため、おぎんさんとあつしさんは学生をサポートはしますが、積極的にはリードしません。このプログラムでは建材や工具の確保も学生の仕事のひとつ、スポンサードの確保のために、企業に片っ端から電話をかけ、終日机に張り付いている学生もいるそうです。

柱を立ち上げる学生達。重機は使わず、作業はほぼ人力で行われることが多いそうです Via:designbuildbluff.org
Via:designbuildbluff.org 柱を立ち上げる学生達。重機は使わず、作業はほぼ人力で行われることが多いそうです

施工が行われる70日間は、学生が共同生活を行い、家の施工を進めます。
周りには遊びに行く場所も何もないため、必然的に学生同士が顔を合わせることが多く、ケンカや衝突もままあるそうですが、それは真剣さの裏返し。
最終的には力を合わせ、ひとつの家を作り上げてしまいます。

約3000米ドルで建てる、荒野の家

スポンサードによる費用軽減の努力もあり、毎回多数の企業や個人から木材や工具、建具が提供され、ひとつの家にかかる費用は約3000米ドルと格安です。
ユタ州のブラフにあるナバホ族の居住区には電気・ガス・水道などのインフラが豊富にありません。インフラは基本的に家が建ってから敷かれるため、電気は3年待たないと通らないことも……。

そのため、冒頭でご紹介した家はオフグリッドの機能を持ちます。特徴的なバタフライルーフの屋根は雨水を貯めるための工夫で、集めた雨は、家に設置されたタンクに貯められ、生活用水として活用されるそうです。
また、現地の気温は日中40度、夜は寒く、寒暖の差が激しいため結露が発生します。その水を家に備え付けられたタンクに集めるシステムも組み込まれているそうです。

建物を別の角度から、雨水を貯める黒いタンクが見える Via:designbuildbluff.org
Via:designbuildbluff.org 建物を別の角度から、雨水を貯める黒いタンクが見えます

驚くべきことに家の施工には重機が使われておらず、大きな電気工具はテーブルソーのみ。乏しい工具の中で、学生達は創意工夫によって家を建ててしまいます。
施工の現場で作業を行う学生は、年齢も様々です。日本の大学と違い、アメリカでは定年後に学校に通いだすアクティブな方も多いそう。参加者の半分はネジや釘の種類も知らない女の子ですが、彼らは70日間の施工の中でめきめきと腕を上げてゆくそうです。

学生の成長していく様子を見るのはスタッフのやりがいのひとつ。篤志さんとおぎんさんのご夫婦も、日に日にたくましくなっていく学生を感じるのが楽しみだそうです。

ブラフに建てられたのは「」だけではありません、プログラムで建てられたいくつかの家をご紹介します Via:designbuildbluff.org
Via:designbuildbluff.org ブラフに建てられたのは「ROSIE JOE」だけではありません、プログラムで建てられたいくつかの家をご紹介します
2009年に建てられた「WHITEHORSE」 Via:designbuildbluff.org
Via:designbuildbluff.org 2009年に建てられた「WHITEHORSE」
Via:designbuildbluff.org こちらは2011年に建てられた「WESTWATER」
Via:designbuildbluff.org こちらは2011年に建てられた「WESTWATER」

土地から生まれ、土地に還元するプログラム

家のオーナーとコミュニケーションを行い、家や間取り、機能をどのようなものにするかは、設計者の仕事の大半を占めていると言ってもよいでしょう。
このプログラムで家のオーナーとなるナバホ族の人々は、自分たちの要望をあまり伝えない人々が多いそうです。ナバホ語しか話すことのできない人も多いため、コミュニケーションは難航することも多いそう。

今後は、地元の建材を使って家を建てたり、施工にナバホ族の人材を雇うことで、プログラムを通してローカルエコノミーを作り出したいと篤志さんは言います。
また、ナバホ族の作る「ホーガン」という砂の家をデザインに取り込み、家を建てる土地の知恵や歴史に学ぶ家づくりも目指しているそうです。

Via:another sky ナバホ族の伝統的な住居、ホーガンは、木の構造に砂を塗り固めて作られています
Via:another sky ナバホ族の伝統的な住居、ホーガンは、木の構造に砂を塗り固めて作られています

10年を越えるプログラムの中で様々な家を生み出して来たDesignBuild BLUFFは「家」というキーワードを通して、住む場所も国籍も異なる人々を繋いできました。
暮らしの機転となる家には、「住まう」という機能だけでなく、そこに人が集まる「場」としての機能も持ち合わせています。
人と人が交わり生まれるアイデアや物は、時に大きく世の中を動かすことがあります。
10年以上の活動期間を経て、次のステップに向かおうとする、このプログラムは、どのような変化を人々にもたらすのでしょうか?

(文=ライター・スズキガク)
(取材協力:山本篤志、小木曽ひろこ)

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